理想のキャンパス・ライフ!?〜俺の獣人彼氏がミスターキャンパスに挑戦します〜

かすがみずほ@3/25理想の結婚単行本

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「……ウン、あいつ色々忙しいみたいだから……」
「自分から、こんなことで勝負しようなんて言ってきたくせに……。本当にごめん、岬。勝手に巻き込んで……」
「う、ううん……。でもさ、その。あの時のことは本当に、俺が悪かったんだ。青磁は青磁なりにちゃんと考えてくれてるし、本当は勝負なんてやめて欲しいんだけど……」
 大体、二人とも順当に勝ち上がって絶対どっちかが優勝出来るとは限らないし。
 と心の中で思っていたら、航が首を振った。
「これはけじめだから。岬の為にあいつがどれだけ頑張れるのか、見せてもらおうと思ってる」
 うーん、と俺は閉口してしまった。
 青磁はどう考えてもミスコンなんかに出て頑張るタイプじゃないからなあ。
 ……基本的に気まぐれだし……。
 あの時は勝負する気あったけど、今はどうでもよくなってたりする可能性も高いと思う。
「まあまあ、青磁も本気じゃ無かったかもしれないし……」  
 航をなだめようと声をかけた時、後ろでガチャリと扉の開く音がした。
 スタッフの人が入ってきて、ドアを押さえながら後ろを振り返っている。
「――じゃあ虎谷くん、控え室、こっちだから」
「どうも」
 聞き覚えのある低く甘い声にハッとした。
 航と一緒に背後を振り向き、入ってきた男に注目する。
 そこには、普段とはうって変わったシンプルな出で立ちの青磁が立っていた。
 部屋の中にいる他の候補者と同じ、黒いスラックスに白いシャツだからこそ、本人の素材がかなりレアな部類なのが凄く分かる。
 色素がほとんどないせいで、まるで全身から発光してるみたいな肌と、女性も顔負けの整った繊細な顔立ち。……ただ長いだけじゃなく、形がよく、しなやかな手足。
 銀色の髪はどの角度から見ても完璧にセットされていて、一筋の乱れすら見当たらない。
 部屋に残されていたミスター候補の男子達が、それまでふざけ合いながら気楽に話していたのに、急にシーンとなる。
 俺も、普段はほぼ家でくつろいでる青磁しか見てないから、思わず見とれてしまった。
 人間の血が一滴も入ってない、希少種の、しかも純血種の獣人――誘拐されて人身売買されることもあるっていうけど、こういうことなんだと思い知らされた気がする。
 でも、虎になった時はもっともっと美しい。
 ……俺の大事な、ホワイトタイガー。
 ……会えたのが一ヶ月ぶりだし、むしょうに抱きつきたい……今すぐ。
 でも、我慢して知らないふりをした。
 青磁はチラッと周囲を一瞥すると、特に誰に挨拶するでもなく部屋の隅を通って奥に行き、壁際の椅子に座って膝を組んでスマホを見始めた。
 相変わらず態度がでかい。
「岬……? あれ、青磁だよな? なんでこっちに来ないんだ」
 青磁がまるで他人みたいな態度をしていることを気にして、航が俺にこっそり囁く。
「……学校の人がいる前では、会ってもなるべく話さないようにしようって、俺が言い出して決めたんだ」
 俺が言うと、航は驚いたように垂れ耳をピクッと震わせて首を傾げた。
「えっ、何で……⁉︎」
「……ミスコンに出るなら、つがいが居ると不利になるだろ。邪魔したくないし、噂になるのも迷惑だろうから」
「それはそうだけど……」
 航は心配そうに眉をしかめている。
 俺は笑顔で首を振った。
「別に俺は平気だよ。後で人のいない所で、待ち合わせて普通に会おうって電話で話したし。――」
 航と内緒話をしているうちに、集合写真を撮っていたミス候補の女の子達が全員、賑やかに話しながら戻ってきた。
 航に最初に声をかけてきた豪華な美女の南野さんが、座っている青磁を一目見た途端、ビックリしたように声を上げる。
「あれっ、青磁じゃない! ウソでしょ⁉︎ なんでアナタがこんな所いるのよ。大学、立山だったの⁉︎」
「あれ? ゆりなじゃん。久しぶりだな」
 青磁も彼女に見覚えがあるらしく、薄く微笑みを向けた。
「ちょっと、ゆりな、知り合いなの?」
「昔よく一緒にクラブ行ったよね」
 南野さんは嬉しそうに話しながら、親しげに青磁の肩に触れている。
 別の女子達も集まってきて、青磁の周りはすっかり人だかりになった。
 アルファだからかもしれないけど、やっぱり青磁は女子に人気がある気がする。
 高校時代も、俺と付き合う前は沢山セフレがいたみたいだし、修羅場も目にしたことがあった。
 南野さんも、そのうちの一人だったんだろうか。これだけの美女だから、もしかしたら、もっと親密な関係だったのかもしれない。
 ……誤解は解けたけど、俺の知らない青磁の世界が今もたくさんあることには変わりなくて、モヤモヤとしたものが胸の奥に広がった。
 ただの情緒不安定なのかもしれないけど……俺、やっぱり帰った方がいいのかもしれない。
 聞くまいと思うのに、耳には二人の会話が入ってきてしまう。
「青磁、前からイケメンだったけど、本当やばいくらいカッコよくなってない!? なんかあった!?」
「そうか? お前も美人になったよな」
「えっ、ほんとー⁉︎ 嬉しい! こんな所で会えるなんて、運命感じちゃうよ。青磁が高一の時だよねえ、一番よく遊んでたのって」
 大人っぽい印象だった南野さんは、今やすっかり恋する女の子みたいなテンションになっている。
 高校一年の時……。
 まだ俺達がつがいになってなくて、険悪なムードだった時だ。
「えーっ! もしかしてゆりなの元カレ⁉︎」
「そういうのじゃねえけど」
 否定する青磁の肩に、南野さんが華奢な腕を絡めた。
「でも、友達以上恋人未満て感じだったよね! そういえば青磁の家って、絶対血族の女の子としか結婚しちゃいけない家って言ってたけど、今もそうなの?」
「まあな」
 決定的な会話が聞こえてきて、体の芯がサーッと冷たくなっていくのが分かった。
 いやいや、何考えてる。こんな時にこんな場所で青磁の過去に嫉妬してどうするんだ。
 自重しろ、俺……!
 そうだ、場違いな俺がこんな場所に居るからいけないんだ。
 この前もそうだったけど、今の俺は青磁のそばにいること自体、危険だ。
 このままここに居たら、どっかで犬に変身して青磁にとびかかり、噛み付いて離れない狂犬になってしまう気がする。
 それはまずい、逮捕されるか保健所に連れてかれるだろ……。
 うん。……帰ろう。
「……航、俺帰るよ」
 誤魔化しようもないほど地に落ちたテンションで話しかけると、航がビクッと肩を竦めた。
「岬⁉︎ 顔が青すぎるけど大丈夫……⁉︎」
「全然平気だ……全く問題ない……。青磁と喧嘩、するなよ。撮影、頑張れ……。じゃあな……」
「みっ、岬、写真撮るのこれからなのに、俺のこと置いてくの~⁉︎」
 航は嘆いてたけど、俺に出来ることなんて何もないし、むしろ邪魔だからな……。
 それにしても頭がグラグラする……自分でも自分がどうかしてるのが分かる。
 多分これは、青磁も言っていた「つがいと離れて暮らすオメガの弊害」ってやつだ……。
 冷や汗を垂らしつつ、俺は航と別れてメイクルームを出た。
 ひっそりとスタジオを出て、雑居ビルの狭い階段を降りて行きながら、今更ながら、事態のヤバさに気が付く。
 こんな生活があと四ヶ月も続くのか。
 俺、精神が持つんだろうか。
 俺をダシにして始まったこの事態だけど、青磁も航も美女達に囲まれて、二人ともすっかり馴染んでいた。
 ごく普通の平凡な大学生のままなのは、俺だけだ。
 このまま二人とも、俺の知らない遠い世界に行ってしまうような予感がする。
 ――そんな寂しさに、この先俺は耐えられるんだろうか……。
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