聖騎士の盾

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【続編・神々の祭日】囚われの貴公子

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 ヴィクトルも疲れていたのか、彼が天幕の下で目を覚ましたのは数時間後だった。
「大丈夫か」
 声をかけると、彼は何事もなかったようにきっちりと旅装束を着込んで座っているレオンに首を傾げ、ため息をこぼした。
「俺はなんか、凄え良い夢でも見てたんか……? さっきの壮絶にいやらしいあんたはどこいっちまったんだ」
 寝たままキョロキョロと辺りを見まわされ、酷く気まずい。
「そっ、そういうのは全部夢だから、一生忘れていろ! ところで、お前に一つ頼みがある」
「……なんだよ」
「ちゃんと敬語を使ってくれ。いや、これが頼みなんじゃなくて……お前は王都に帰れ」
 ヴィクトルが思い切り眉根を寄せて睨んでくる。
「はあ? ……あんたなあ……一人で行かせて、今度こそあんたが始末されちまうのを黙って見てろって?」
 うっと言葉に詰まる。
「そんな事にはならないようにする……っ。だから」
「ダメだ。俺が言うのもなんだがあんたはあんまり冷静じゃねえし、そんな上官命令は聞きたくない」
「……」
 何も言えなくなり、視線を逸らす。
 やはりこの男はどうにも食えない。何しろ、真面目な部下のふりをしている時でさえ自分の命令を殆ど聞いてくれた試しがないのだ。
 従っているように見える時でも、彼は彼のルールで動いている。
 これ以上説得するのも馬鹿らしくなり、レオンは溜息をついた。
「じゃあもう、勝手にしろ……」
「ああ、勝手にやるさ。俺の好きなように」
 挑発的な笑みを浮かべたヴィクトルが上半身を起こし、レオンの頬に顔を寄せてきた。
「おっ、おい……!」
 一瞬キスされるのかと思ったが、触れたのはその唇の中の紅く長い舌だった。
 ネロリと顎からこめかみを這って、舌が離れてゆく。
「ひ……っ、やめろ……!」
 くす、と琥珀の瞳が笑い、耳元で囁かれた。
「……あんたの愛人にまだなれねえって言うんなら、せめて飼い猫から始めんだよ」
 やはり、ただの夢だとは思って貰えなかったらしい。
 ぞっと身の危険を感じたが、既に大分時間をロスしていて、これ以上揉めている暇もなかった。
「またおかしな事したら本気で殺すからな……っ」
「あのトロットロのヤバい尻に一回でも入れられんなら、殺されても本望かもな……あれマジで何なんだ? 特異体質?」
「ヴィクトル~~っ!!」
 真っ赤になって立襟の胸倉を掴んだレオンに、彼はニヤッと笑みを返した。
「ほら、天幕片付けますよ、総長殿。お急ぎなんですよね?」
「そうだ! こんな事してる場合じゃないっ」
 ――結局、否応無しにレオンはこの危険な男と共に旅の続きを急ぐことになってしまった。



 二人は川沿いまで出て馬に水を飲ませ、草を食べさせてからすぐに街道へ戻り、午後いっぱいを駆け足で先に急いだ。
 少しずつ、ギレス達の残した轍の跡が濃くなってゆく。
 大分時間を失ったと思っていたが、神経質な貴族はしょっちゅう休みを取りながら東へ向かっているらしい。
 とはいえ、本当なら今夜あたりに追いつけるのが理想だったが、流石にそれは難しいように思えた。
「――ギレスはそろそろ、街道の先のモント湖に出る頃だ。昔からの避暑地で、貴族連中の別荘が寄り集まっている。生粋の貴族に野営での長旅は堪えるだろうから、ギレスは必ずそこに数日寄るだろう……」
 二日目の夜、再び設営した天幕の下で、レオンは地図を広げて表面を指で辿った。
「成る程ね。俺たちが追いつけるのはその辺りか……館に入っちまうとなると、野営を襲うより難しくなりますねえ。やっぱ諦めたほうがいいんじゃねえんっすか」
 向かいで胡座をかいたヴィクトルがやる気無さげに欠伸を漏らした。
「お前な……だから帰っていいと言ったのに」
「俺は総長殿さえ守れりゃいいんですよ。どうせ伯爵様は神の助力を得る方法なんて知らねえんだから、俺としてはギレスのオッさんが勘違いしてライバル連れ去ってくれんなら万々歳だ」
 言われてハッとした。
 彼が元々ついて来ると言い出した時、ギレスが神の助力を得ようとしている事に対して酷く憤慨していた事を思い出す。
 魔物にされ、理性を失っている間に家族を失った彼からすれば、それだけが懸念の種であったに違いない。
(これは……もしかすると、真実を話したほうが良いのかもしれない)
 レオンは意を決して、目の前の男の精悍な顔立ちを見詰めた。
「お前……オスカーの事を、やっぱり詐欺師だと思ってるか?」
 ムッとしたようにヴィクトルが片眉を上げる。
「あん? なんだよ、まだなんか怒ってんのか? 部外者が勝手な想像して悪かったよ。けどなあ……」
「オスカーの正体は、人間じゃない……お前達の……エルカーズ人の神の仮の姿だ」
 ヴィクトルの顔色が変わってゆく。
「なんだって……」
 レオンは地図を半分畳みながら、瞼を伏せて王都のある場所に視線を馳せ、言葉を続けた。
「騎士の神、アビゴール・カインはその身を持って王を倒し、この国の呪いを解いた。……その時俺は彼と共にいて、王が死ぬ所を見た……」
 その名を口にすると、焦がれるような苦しさが胸を締め付ける。
 ――逢いたくて堪らない、今すぐに。
「カインはその後に訳あって永遠の命を失い、それ以来この国で、オスカーという人間になりますまし、エルカーズの為に尽くしている……。だから、彼は神の助力を得る方法を知らない訳じゃない……彼自身が神なんだ」 
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