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響京子はときめかない〜プロローグ
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「ときめく」:喜びや期待などのために、胸がどきどきする。 「期待に胸が-・く」
「結城くん。あなたときめいたことある?」
響京子は先生に頼まれた書類をまとめながら言った。
「なんだ?突然」
いきなりの質問に意味がわからず、ぼくは聞き返す。
「"ときめく"よ。あなた、ときめいたことある?」
何故わからないのだという顔をして響京子は繰り返した。
「ときめくかぁ。よくわからないな」
響の質問の意図がよめず、ぼくは言った。
「なぜ?結城くん。わからないと言うだけでは情報があまりにもないわ。何がわからないのか言ってくれないと答えられないじゃない」
ぼくにそう言うと、響はため息をついて書類の束を置いた。
顎に手を当てている。どうやらぼくの返答に関して考えているようだ。
(一体何なんだ)
相変わらず響の言い出すことはよくわからない。
ぼくと響は学級委員だった。響が学級委員長で、ぼくはやりたがらないみんなにおされてなってしまった。
いまは二人で放課後に先生に言われた書類をまとめていたところだった。
響京子と学級委員になってからというもの、こういったことが多い。
響は少し世間ずれというか、普通の人なら疑問に思わないことが不思議で仕方ないらしい。二人になることの多いぼくに質問してくる。
ある時は『誰かと思い出を共有するというのはどういう意味なのかしら』とか。街で話すカップルを見て『相手に好きなところを聞くというのはどういうこと?』などと聞いてくる。
恋愛経験皆無のぼくにとってはあまりにも難しすぎる質問だ。
最初は何かの嫌がらせか何かかと思ったが、どうやら素で聞いているらしい。
なんでぼくなんだと思う。実際、響の質問にちゃんと答えられたことなど一度もないのだ。
「ねぇ、結城くん。あなた好きな人はいないの?」
何も話さないぼくを見かねたのか、響が聞いた。
「さぁな。幼稚園の頃の先生は好きだった気がするけど、その先はなぁ」
実際好きな人などいなかったし、今までそんな色恋沙汰に関わるような機会もなかった。
「あなたずいぶんと愛のない環境で育ったのね」
「大きなお世話だよ」
「それじゃだめね。ときめけないわ」
響は大げさに手をあげて首を振った。
「そう言う響はときめいたことあるのか?」
ぼくは響に聞いた。
「あったらあなたに質問なんてしないわ。わからないから聞いているんじゃない」
ふんっと鼻を鳴らして響が言った。なぜ自信がある風なのだろうか。
前に響に恋愛経験がないと聞いた時は少し驚いた。響は顔が良いのだ。
きっと大体の人はそう思うだろうし、クラスの男子もかわいいと言っている。勉強もできるし、運動もそつなくこなす。いわゆる文武両道の美少女と言った感じだ。
しかし、そう言った経験はないそうだ。告白を受けたこともないらしい。
ぼくが思うに文武両道で近寄りがたいというのもあるが、主に少し変わった性格のせいのような気がする。
「そのうち好きなやつでもできれば、ときめけるんじゃないか?別に理解するようなことじゃないと思うけど」
ぼくはそう言いつつも、響に今後好きな人などできるのかと思った。一体こいつが好きになるやつとはどんな感じなのだろう。
「そういうものかしら。ぜひ一度ときめいてみたいのよ」
響は自分の胸を指しながら言った。
「なんで急にそんなこと考えたんだ?」
響が疑問に思ったからには何かきっかけがあったのだろう。
「天野さんいるじゃない?あの子、好きな人がいるらしいのよ」
「ほぉ、天野がねぇ」
天野は同じクラスの女子だ。ぼくは中学から一緒だが、とても活発で元気なやつだ。
ぼくのことをゆっくんおはようと呼んでいつも肩を叩いてくる。クラスで少し浮いた存在である響とも比較的仲良く話している。
しかし、天野に好きなやつがいるとは聞いてなかった。誰なのだろうか。
「それでこの間一緒に下校したらしいのだけれど、なんかすごくときめいたと言っていたのよ」
「それで気になったと?」
「そう。一緒に下校するという行為がときめくのかしら?」
響は唇に手を当て、首を傾げる。
好きな人と二人きりで下校というのはいかにも青春というやつだ。
「まぁ、ときめくんじゃないか? 好きな人と二人っきりで歩くっていうのはときめくと思うぞ」
「二人っきりというのが重要なのかしら?」
響の疑問は尽きないらしい。
「それもあるだろうな。二人だけの世界なんてよくいうだろ?」
「そういうものなのね」
ぼくにそんな経験はないのでわからないが、漫画やアニメではよくある状況だろう。漫画やアニメは色々なことを教えてくれるものだ。
響は胸の前で腕を組み、首を傾げ考えている。
そして、思いついたように目を開けると言った。
「じゃ、結城くん。この状況はどうなの?」
返答に困った。こういった場合どう答えるのがいいのだろうか。
「これは違うだろう」
我ながら気の利いたことが言えない。
「なぜ? ここには私と結城くんの二人きりよ?」
「二人きりというだけではときめかないだろ? 好きな人とというのが重要だ」
「なるほど。結城くんは私のことが好きではないということね」
響はそう言って納得したように頷いている。
「だから、響もときめかないんだよ。ぼくのこと好きなわけじゃないだろ?」
「まぁそうね。特別好きという気持ちを持ったことはないわ」
別に構わないが、そうはっきりと言われるとなんだか傷つくものだ。
ぼくも恋愛経験はないが、興味がないわけではない。機会があればかわいい女の子とお近づきになりたいものだ。
あっ、と響が思いついたように声を出した。
「どうした? なにか思い出したのか?」
今度はなにを思いついたのだろうか。可能ならば、ぼくの答えられることにしてほしい。
「確かに私は結城くんに特別な感情を持ったことはないけれど、こうやって放課後に二人きりで作業しているのは嫌いじゃないわ」
どういうことだろう。また返答に困ることを言う。
響は正直だ。たぶん嫌いではないくらいの意味だろう。間違っても好きとかそう言うことではない。
「そうか。それはありがたい。ぼくも響といるのは嫌いじゃない」
「どういたしまして。私も嫌われてないようで何よりだわ」
響は腕を組み自信満々に胸を張った。
やっぱりそういう意味だよな。全く、響がときめくなんていう状況はあり得るのだろうか。
「あれ?おかしいわ」
さっきまでよりも一段と不思議そうに響は首を傾げて言った。
「どうした?」
「いま、結城くんに嫌いじゃないと言われた時少し嬉しかったのよ」
「別におかしくはないだろう。ぼくも少しは嬉しかったぞ? 誰でも嫌われてるよりはいいだろう」
「まぁそういうものね。何かちょっと違う気がしたから」
そう言って響はまた不思議そうに目をつむった。
また何かひっかかることでもあるのだろうか。まったく疑問の尽きないやつだ。
響の質問責めに慣れてきてしまっている自分が少し怖い。
「そうだわ!」
突然、響が目を開け手を叩いた。
どうやら何か思い付いたらしい。これはめんどくさい予感がした。
響はぼくに顔を近づけ、満面の笑みで言った。
「ねぇ、いまときめくことについて思いついたことがあるのだけれど、聞かない?」
聞かない?とは言ってはいるが、聞くしかないのだろう。
どうもこの笑顔には弱い。こうやっていつもいつも、ついつい、聞いてしまうのだ。
ぼくはため息をついて言った。
「一応聞くが......」
「なによ。なにか不満そうね?」
ぼくを見つめ、たぶんぼくより不満な顔をして響は言った。
その顔を見返して、僕は言った。
「響京子、お前はときめかない」
「結城くん。あなたときめいたことある?」
響京子は先生に頼まれた書類をまとめながら言った。
「なんだ?突然」
いきなりの質問に意味がわからず、ぼくは聞き返す。
「"ときめく"よ。あなた、ときめいたことある?」
何故わからないのだという顔をして響京子は繰り返した。
「ときめくかぁ。よくわからないな」
響の質問の意図がよめず、ぼくは言った。
「なぜ?結城くん。わからないと言うだけでは情報があまりにもないわ。何がわからないのか言ってくれないと答えられないじゃない」
ぼくにそう言うと、響はため息をついて書類の束を置いた。
顎に手を当てている。どうやらぼくの返答に関して考えているようだ。
(一体何なんだ)
相変わらず響の言い出すことはよくわからない。
ぼくと響は学級委員だった。響が学級委員長で、ぼくはやりたがらないみんなにおされてなってしまった。
いまは二人で放課後に先生に言われた書類をまとめていたところだった。
響京子と学級委員になってからというもの、こういったことが多い。
響は少し世間ずれというか、普通の人なら疑問に思わないことが不思議で仕方ないらしい。二人になることの多いぼくに質問してくる。
ある時は『誰かと思い出を共有するというのはどういう意味なのかしら』とか。街で話すカップルを見て『相手に好きなところを聞くというのはどういうこと?』などと聞いてくる。
恋愛経験皆無のぼくにとってはあまりにも難しすぎる質問だ。
最初は何かの嫌がらせか何かかと思ったが、どうやら素で聞いているらしい。
なんでぼくなんだと思う。実際、響の質問にちゃんと答えられたことなど一度もないのだ。
「ねぇ、結城くん。あなた好きな人はいないの?」
何も話さないぼくを見かねたのか、響が聞いた。
「さぁな。幼稚園の頃の先生は好きだった気がするけど、その先はなぁ」
実際好きな人などいなかったし、今までそんな色恋沙汰に関わるような機会もなかった。
「あなたずいぶんと愛のない環境で育ったのね」
「大きなお世話だよ」
「それじゃだめね。ときめけないわ」
響は大げさに手をあげて首を振った。
「そう言う響はときめいたことあるのか?」
ぼくは響に聞いた。
「あったらあなたに質問なんてしないわ。わからないから聞いているんじゃない」
ふんっと鼻を鳴らして響が言った。なぜ自信がある風なのだろうか。
前に響に恋愛経験がないと聞いた時は少し驚いた。響は顔が良いのだ。
きっと大体の人はそう思うだろうし、クラスの男子もかわいいと言っている。勉強もできるし、運動もそつなくこなす。いわゆる文武両道の美少女と言った感じだ。
しかし、そう言った経験はないそうだ。告白を受けたこともないらしい。
ぼくが思うに文武両道で近寄りがたいというのもあるが、主に少し変わった性格のせいのような気がする。
「そのうち好きなやつでもできれば、ときめけるんじゃないか?別に理解するようなことじゃないと思うけど」
ぼくはそう言いつつも、響に今後好きな人などできるのかと思った。一体こいつが好きになるやつとはどんな感じなのだろう。
「そういうものかしら。ぜひ一度ときめいてみたいのよ」
響は自分の胸を指しながら言った。
「なんで急にそんなこと考えたんだ?」
響が疑問に思ったからには何かきっかけがあったのだろう。
「天野さんいるじゃない?あの子、好きな人がいるらしいのよ」
「ほぉ、天野がねぇ」
天野は同じクラスの女子だ。ぼくは中学から一緒だが、とても活発で元気なやつだ。
ぼくのことをゆっくんおはようと呼んでいつも肩を叩いてくる。クラスで少し浮いた存在である響とも比較的仲良く話している。
しかし、天野に好きなやつがいるとは聞いてなかった。誰なのだろうか。
「それでこの間一緒に下校したらしいのだけれど、なんかすごくときめいたと言っていたのよ」
「それで気になったと?」
「そう。一緒に下校するという行為がときめくのかしら?」
響は唇に手を当て、首を傾げる。
好きな人と二人きりで下校というのはいかにも青春というやつだ。
「まぁ、ときめくんじゃないか? 好きな人と二人っきりで歩くっていうのはときめくと思うぞ」
「二人っきりというのが重要なのかしら?」
響の疑問は尽きないらしい。
「それもあるだろうな。二人だけの世界なんてよくいうだろ?」
「そういうものなのね」
ぼくにそんな経験はないのでわからないが、漫画やアニメではよくある状況だろう。漫画やアニメは色々なことを教えてくれるものだ。
響は胸の前で腕を組み、首を傾げ考えている。
そして、思いついたように目を開けると言った。
「じゃ、結城くん。この状況はどうなの?」
返答に困った。こういった場合どう答えるのがいいのだろうか。
「これは違うだろう」
我ながら気の利いたことが言えない。
「なぜ? ここには私と結城くんの二人きりよ?」
「二人きりというだけではときめかないだろ? 好きな人とというのが重要だ」
「なるほど。結城くんは私のことが好きではないということね」
響はそう言って納得したように頷いている。
「だから、響もときめかないんだよ。ぼくのこと好きなわけじゃないだろ?」
「まぁそうね。特別好きという気持ちを持ったことはないわ」
別に構わないが、そうはっきりと言われるとなんだか傷つくものだ。
ぼくも恋愛経験はないが、興味がないわけではない。機会があればかわいい女の子とお近づきになりたいものだ。
あっ、と響が思いついたように声を出した。
「どうした? なにか思い出したのか?」
今度はなにを思いついたのだろうか。可能ならば、ぼくの答えられることにしてほしい。
「確かに私は結城くんに特別な感情を持ったことはないけれど、こうやって放課後に二人きりで作業しているのは嫌いじゃないわ」
どういうことだろう。また返答に困ることを言う。
響は正直だ。たぶん嫌いではないくらいの意味だろう。間違っても好きとかそう言うことではない。
「そうか。それはありがたい。ぼくも響といるのは嫌いじゃない」
「どういたしまして。私も嫌われてないようで何よりだわ」
響は腕を組み自信満々に胸を張った。
やっぱりそういう意味だよな。全く、響がときめくなんていう状況はあり得るのだろうか。
「あれ?おかしいわ」
さっきまでよりも一段と不思議そうに響は首を傾げて言った。
「どうした?」
「いま、結城くんに嫌いじゃないと言われた時少し嬉しかったのよ」
「別におかしくはないだろう。ぼくも少しは嬉しかったぞ? 誰でも嫌われてるよりはいいだろう」
「まぁそういうものね。何かちょっと違う気がしたから」
そう言って響はまた不思議そうに目をつむった。
また何かひっかかることでもあるのだろうか。まったく疑問の尽きないやつだ。
響の質問責めに慣れてきてしまっている自分が少し怖い。
「そうだわ!」
突然、響が目を開け手を叩いた。
どうやら何か思い付いたらしい。これはめんどくさい予感がした。
響はぼくに顔を近づけ、満面の笑みで言った。
「ねぇ、いまときめくことについて思いついたことがあるのだけれど、聞かない?」
聞かない?とは言ってはいるが、聞くしかないのだろう。
どうもこの笑顔には弱い。こうやっていつもいつも、ついつい、聞いてしまうのだ。
ぼくはため息をついて言った。
「一応聞くが......」
「なによ。なにか不満そうね?」
ぼくを見つめ、たぶんぼくより不満な顔をして響は言った。
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