たとえば禁忌からはじまる小さな英雄譚

おくり提灯LED

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第一部・二章

エピローグ1 おめでとう

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「アレクセイ! 騎士就任おめでとう!!」

 教会の表の庭に大勢の人間が集まり、アレクセイに祝いの言葉を投げかけた。

 龍との戦いから1週間が経ち、アレクセイは聖山での活躍に続き、龍を退けた英雄として、昨日、王城謁見の間で騎士爵と勲章を授与された。

 この一週間は大変だった。龍の撃退直後から、またあの場で人命救助を再開し、四日目に叙爵が決定したと王都から連絡がきて大慌てとなった。
 その怒涛の日々も一段落となり、この祝いの席が開かれた。もちろん、この集まりは、授与式のパーティとは別で、今はアレクセイの家族や仲間達とのものだ。

 皆が本音で喜んでいる。ライヤ、シスター、孤児達、騎士達、おやっさんと冒険者、あの同期の三人もいる。そしてサーシャと家族の子供達。
 修理中の<守人人形まもりてにんぎょう>も、仲間外れにしては気の毒だ、とライヤはもってきていた。心なしか、このアレクセイを模した人形も嬉しそうに見えるから不思議だ。
 だが、一人足りない。
 案の定、あの神父だ。まだカタコンベから戻ってきていない。

 皆から祝いの言葉を受けるアレクセイの胸で雷七つ星勲章が鈍く光る。
 これを身につけていても、やはりまだ自分が貴族の仲間入りをしたなんてピンとこないままだった。なんとなく、このままずっとそのままなんじゃないかなと、そんな予感もする。

「しかし授与式は大変だったな」

 ライヤは飲み食いが始まった途端に、そうつぶやいた。
 シスターと子供達、冒険者、騎士の家族などが用意した料理をつまむアレクセイの手が止まる。

 思い出したくない……。


 あの時のアレクセイはとんでもなく緊張しただけでなく、謁見の間の空気を完全に凍りつかせたのである。

 広い謁見の間に貴族がたくさん集まっていた。アレクセイの後見人に名乗りをあげた王弟のレオニードの姿もあった。
 そして高い位置の玉座に座る国王陛下がいた。まだ20代半ば程度なのだが、なんというか、こう、怖い。ひたすらに怖い。偉い人だと思うからそう感じたのかと疑ったが、いや、ただただ素で怖い。

「アレクセイ・アチエスディミアノビク」

 フルネームで呼ばれ、国王ダニール一世の前に跪く。そのまま自らの剣を捧げた後、誓いをするわけなのだが。

 この国では騎士となるべく剣を捧げる際に、その相手以外にももう一つ、自分が大切にしているものや守りたいものにも、誓いの言葉を捧げるという決まりがある。
 この場合、当たり前だが、国と相反するようなものを決して選んではならない。

 事前にライヤから「特に誰というのがないのであれば、神にしておくといい、キミは神父の子でもあるのだしな」と言われていたのだが。
 アレクセイは“守りたいと思うものかぁ”と大真面目に考えに考え、そして考え抜いた。

 その結果、

「こ、この国で、おなかいっぱいになれない子供達に」

 と言い出したことで、その場が凍りついた。

「此度生まれた騎士は、我が治世に不満が多いようだな」

 返ってきたのはダニール一世のこの言葉である。さすがのアレクセイも自分の失言に気づいた。
 ちらりと窺うと、陛下は笑みを浮かべていた。でも、それは笑顔で不快を表現する器用なものだった。

 た、大変表現力豊かな表情筋をお持ちで……。

 怖い。本当に怖い。実験に付き合わせようとするライヤと同じくらい怖い。

 何も言えず、アレクセイは跪いたままぶるぶると震える。
 その姿を陛下は「ふっ」と鼻で笑った。ほんのわずかの時間だったが、今度は本当に笑っていた。
 その後、おとがめはなしで無事に授与式が終わったが、アレクセイはできれば二度と陛下に会いたくないと思うのだった。

 あの時、謁見の間にいたのはアレクセイや騎士達だけでなく、この龍撃退の貢献者として“龍へと至る道”もまた呼ばれていた。
 授けられたのは現金と、再び龍が現れた時には必ず依頼を出すという、陛下からの約束。イゴールにとっては、まさにこれ以上にない報酬だ。

 龍の攻撃を察知して剣で破壊したイゴールにも、騎士爵を与えようという話があったが、エヴゲーニーが「望まないでしょうね。彼のような男の望みは、ほんのわずかの名誉、いくばくかの報酬、両手にあまる自由、最高の死に場所なのだから」とその話を止めたらしい。


 授与式での話になると、アレクセイは思い出しただけでぷるぷると震えてしまう。陛下こわい。
 今となると笑い話としていいのだろうが、もはやトラウマだ。

 そんな話で笑われていると、ふと、アレクセイはあの日も今日も“龍へと至る道”のメンバーが少ないことに気づいた。
 あの二人だ。

「そういえば“龍へと至る道”にいた二人が、前に神父さんに俺のことを聞きにきたんですが、その二人って……」
「そいつらが異端審問官の手先だった」

 尋ねられたイゴールが答えた。言葉を続ける。

「敬虔な信徒なんて冒険者にだって掃いて捨てる程いるせいで、一年も気づかなかった」
「そうだったんですか。じゃあ、今その二人は?」
「すまんが分からん」

 異端審問官の手先なら、教会に保護されているのだろうか。ひとまずはアレクセイの同期の三人が、異端についての書状が府主教に届くのを阻止してくれたようだが、まだ安心はできなさそうだ。

「その二人なら豚箱にいるよ」

 突然、そう後ろから声をかけてきたのは神父だった。カタコンベでけっこう飲んでいたのだろう。もうすでに酒臭い。
 神父は意外な話に驚くアレクセイとイゴールに、

「うちにアレクセイのことを聞きにきた時に、色々と話してやったんだよ。アレクセイが黒い装丁の怪しげな本を隠れて読んでるとか読んでないとか、奇妙な香草を焚いたりしているような気がするとか、そんな儀式みたいなものに使ってるようなのがアレクセイの部屋にあるかもしれないとか」
「……俺そんな変なものもってない」
「おんやぁ? じゃあ、私の勘違いだったのかなぁ?」

 神父は実に悪そうな笑みを見せた。
 おそらく、あの二人組は神父がぼかした言い方をしたのを、自分の孤児院にそういった異端がいたのを見逃していたのはまずいと思っているためだと判断したのだろう。
 無論、神父は何か言われたら、そんな話はした覚えがないで押し通すはず。

「キミ達が龍と戦った日の夜に、教会に盗みに入った不届き者がいてねぇ。少し前になんとな~くアレクセイのいた部屋にトラばさみをしかけておいたら、驚くことにあの二人がひっかかったんだ。いやあ、偶然ってこわいねぇ」

 なんという計画的な捕り物だ。
 そのままその二人のことは警務隊を呼んで引き取ってもらったという。その際の報告は少しだけ色をつけたと話す。この神父の少しが、一般でいう少しと果たしてどれくらい違うのかは分からないが。
 その話を聞いたイゴールが神父の肩に腕を回し、

「あんたやるなぁ。神父にしておくには惜しい」
「いやいや、敬虔な神の僕として当然のことをしただけですよ」

 アレクセイの義父を自認する二人が仲良く、ジョッキを合わせて飲み始めた。

 と、そこにあの同期の冒険者三人がやってきた。
 今日何度目かのアレクセイからの礼、三人からの謝罪をまた繰り返すと、自然とあの頃と同じように笑いあえた。

「ねえ、アレクセイ。龍を撃退した時のこと話してよ」

 女戦士が代表するようにそう言うと、周りから「お?」というような声があがり、どんどんと人が集まってきた。
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