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第一章:光属性の朝日さんの堕とし方
第17話:初デート? その2
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「ゲーミングクッション……?」
「うん、なんか人間工学がどうこうでゲームをやるのに最適なクッションなんだって。ほら……こうすると、後ろにもたれながら前も肘置きにもなる!」
さっき俺がデモを見ている間にでも試していたのか、目の前で実演してくれる。
すごく楽しそうだ。
「い、いいんじゃない? それなら家でも使えるし」
なんつー便乗商品だと思いながらも、本人が気に入ってるようなので何も言わない。
「うん、これなら影山くんの部屋でも使えるからいいかなと思って」
「……俺の部屋?」
何か認識に微妙な齟齬がありそうなので聞き返す。
「もちろん、今うちにゲーム無いし。ゲームがないのにゲーミングクッションは使えないでしょ」
何を当たり前のことを聞いているのか、と言いたげな口調で言われる。
数ヶ月後には、本当に私物だらけになってないよな……とか少し心配になってきた。
「まあ、それくらいなら置く場所もあるし大丈夫だけど……」
「じゃあ、これにしよーっと!」
クッションを後生大事そうに抱えて、レジへと向かう朝日さん。
未だ俺の部屋に入り浸る気でいるってことは、まだまだ男として見られていないらしい。
この買い物中にポイントをもっと稼ぐつもりが、全然ダメだったか……。
項垂れつつも彼女の後を追い、二人で順番に会計を済ませていく。
列を待っている最中に、ふと周囲の視線が俺たちの方に集まっているのに気がついた。
一瞬、何かやらかしたのかと悩んだが、なんてことはなかった。
男客が9割の空間に、これだけ光属性オーラに溢れた女子がいる物珍しさだ。
逆の立場なら俺もきっと、同じようにジロジロと見ていただろう。
改めて、彼女と自分は住んでいる世界が違うのだと思わされる。
会計を終え、店の出口へと向かう。
「これ使ってゲームするの楽しみ~!」
中身を袋越しに抱きしめている朝日さん。
あのクッションになりたいと思う男子は、世に星の数ほどいるんだろう。
「いつもより上手くなったりするかな? SEKIHYOノーデスクリアとか出来たりして!」
今にも跳び上がりそうなくらいの浮かれ気分で歩いている。
そんな彼女の姿を見ていると、俺まで何か楽しくなってきた。
だから、その存在を思い出すのが少し遅れてしまった。
「そういえば、この後――わっ!」
店の入口にあった段差に、朝日さんが右足を取られてバランスを崩す。
「危ない!!」
とっさに手を伸ばして、彼女の腕を掴む。
これまでの人生で最大と思えるくらいの力を込めて、その身体を支えた。
なんとか間一髪のところで間に合い、転倒は免れた。
「だ、大丈夫……?」
倒れてはいないが、安否を確かめる為に問いかける。
しかし、返答が来る前に、自分の手の内に生まれた未知の感触に気がつく。
俺は彼女の二の腕を、思い切り掴んでしまっていた。
生まれて初めて体感する女の子の柔らかさ。
自覚すると、その感触はますます生々しいものになっていく。
スポーツ選手ではあるが筋肉質というわけではなく、少し力を込めただけで潰れてしまいそうな柔らかさが芯を包んでいる。
しかもよくよく見れば、彼女は咄嗟に左足を出して自分で身体を支えていた。
流石はアスリートと関心するが、逆に言えば俺は無意味に触れてしまっただけでもある。
途端に、史上最大級の申し訳なさが襲ってきた。
どう弁明すべきかと考えようとした瞬間、異変に気がつく。
未だ問いかけに応じていない彼女の首筋には、薄っすらと汗が滲んでいた。
「……朝日さん?」
手を離して、もう一度声をかけながら顔を覗き込む。
彼女は目を見開き、これまでに見たことのない深刻な表情で自身の足元を見据えていた。
「ちょっと、朝日さん……まじで大丈夫?」
三度目の問いかけで、ようやく朝日さんは俺の方を見る。
しかし、その顔には普段の明るさはなく、まるで心臓を鷲掴みされたような憂色を帯びていた。
直感的に、ただ事ではないと理解する。
「どっか痛めたんなら、肩貸すからあっちのベンチに――」
「だ、大丈夫! 全然大丈夫! ちょっとびっくりしちゃっただけだから!」
俺の言葉を遮った彼女は笑顔を作って、何もなかったかのように振る舞い出した。
「……ほんとに? 実は痛いのを我慢してるとかじゃなくて?」
「うん、ほんとほんと。ほら、全然歩けるし。なんならターンも……ほら」
そう言って、俺の前で少し大げさに健在っぷりをアピールする。
確かにどこかを痛めている様子はなさそうに見える。
「心配かけさせちゃってごめん。でも、本当に何もないから」
「なら良かったけど……」
一安心はするが、さっき見たあの顔がまだ脳裏にこべりついている。
あれは一体、何だったんだろう。
本当に何もなかった人が、あんな深刻な表情を見せるだろうか……。
「それよりさ。次はどこ行く?」
未だ残る疑念について考えていると、何事もなかったかのようにそう提案される。
「え? 次って?」
約束は買い物だけで、それが終わったら解散だと思っていた。
当然、そこから先の予定なんて何も考えていない。
「次は次でしょ。せっかくここまで来たんだから、もっと遊びたくない? 明日もまだ休みだし」
「でも、朝日さんは明日もテニスの練習があるんじゃ……?」
「大丈夫大丈夫! それはそれ、これはこれ! ということで、この近くにどっか良さげなところない?」
「あっちにゲーセンならあるけど……」
「ゲームセンター! それは良き提案! 行こ行こ!」
そう言って、今度は彼女が俺の腕を掴んで引っ張り出す。
それはまるで、さっき俺に見せてしまった自分を誤魔化すような行動にも思えた。
けれど、本人が大丈夫と言っている以上は追求も出来なかった。
自分の考えすぎだったのかもしれないと一旦、疑念に蓋をした。
「うん、なんか人間工学がどうこうでゲームをやるのに最適なクッションなんだって。ほら……こうすると、後ろにもたれながら前も肘置きにもなる!」
さっき俺がデモを見ている間にでも試していたのか、目の前で実演してくれる。
すごく楽しそうだ。
「い、いいんじゃない? それなら家でも使えるし」
なんつー便乗商品だと思いながらも、本人が気に入ってるようなので何も言わない。
「うん、これなら影山くんの部屋でも使えるからいいかなと思って」
「……俺の部屋?」
何か認識に微妙な齟齬がありそうなので聞き返す。
「もちろん、今うちにゲーム無いし。ゲームがないのにゲーミングクッションは使えないでしょ」
何を当たり前のことを聞いているのか、と言いたげな口調で言われる。
数ヶ月後には、本当に私物だらけになってないよな……とか少し心配になってきた。
「まあ、それくらいなら置く場所もあるし大丈夫だけど……」
「じゃあ、これにしよーっと!」
クッションを後生大事そうに抱えて、レジへと向かう朝日さん。
未だ俺の部屋に入り浸る気でいるってことは、まだまだ男として見られていないらしい。
この買い物中にポイントをもっと稼ぐつもりが、全然ダメだったか……。
項垂れつつも彼女の後を追い、二人で順番に会計を済ませていく。
列を待っている最中に、ふと周囲の視線が俺たちの方に集まっているのに気がついた。
一瞬、何かやらかしたのかと悩んだが、なんてことはなかった。
男客が9割の空間に、これだけ光属性オーラに溢れた女子がいる物珍しさだ。
逆の立場なら俺もきっと、同じようにジロジロと見ていただろう。
改めて、彼女と自分は住んでいる世界が違うのだと思わされる。
会計を終え、店の出口へと向かう。
「これ使ってゲームするの楽しみ~!」
中身を袋越しに抱きしめている朝日さん。
あのクッションになりたいと思う男子は、世に星の数ほどいるんだろう。
「いつもより上手くなったりするかな? SEKIHYOノーデスクリアとか出来たりして!」
今にも跳び上がりそうなくらいの浮かれ気分で歩いている。
そんな彼女の姿を見ていると、俺まで何か楽しくなってきた。
だから、その存在を思い出すのが少し遅れてしまった。
「そういえば、この後――わっ!」
店の入口にあった段差に、朝日さんが右足を取られてバランスを崩す。
「危ない!!」
とっさに手を伸ばして、彼女の腕を掴む。
これまでの人生で最大と思えるくらいの力を込めて、その身体を支えた。
なんとか間一髪のところで間に合い、転倒は免れた。
「だ、大丈夫……?」
倒れてはいないが、安否を確かめる為に問いかける。
しかし、返答が来る前に、自分の手の内に生まれた未知の感触に気がつく。
俺は彼女の二の腕を、思い切り掴んでしまっていた。
生まれて初めて体感する女の子の柔らかさ。
自覚すると、その感触はますます生々しいものになっていく。
スポーツ選手ではあるが筋肉質というわけではなく、少し力を込めただけで潰れてしまいそうな柔らかさが芯を包んでいる。
しかもよくよく見れば、彼女は咄嗟に左足を出して自分で身体を支えていた。
流石はアスリートと関心するが、逆に言えば俺は無意味に触れてしまっただけでもある。
途端に、史上最大級の申し訳なさが襲ってきた。
どう弁明すべきかと考えようとした瞬間、異変に気がつく。
未だ問いかけに応じていない彼女の首筋には、薄っすらと汗が滲んでいた。
「……朝日さん?」
手を離して、もう一度声をかけながら顔を覗き込む。
彼女は目を見開き、これまでに見たことのない深刻な表情で自身の足元を見据えていた。
「ちょっと、朝日さん……まじで大丈夫?」
三度目の問いかけで、ようやく朝日さんは俺の方を見る。
しかし、その顔には普段の明るさはなく、まるで心臓を鷲掴みされたような憂色を帯びていた。
直感的に、ただ事ではないと理解する。
「どっか痛めたんなら、肩貸すからあっちのベンチに――」
「だ、大丈夫! 全然大丈夫! ちょっとびっくりしちゃっただけだから!」
俺の言葉を遮った彼女は笑顔を作って、何もなかったかのように振る舞い出した。
「……ほんとに? 実は痛いのを我慢してるとかじゃなくて?」
「うん、ほんとほんと。ほら、全然歩けるし。なんならターンも……ほら」
そう言って、俺の前で少し大げさに健在っぷりをアピールする。
確かにどこかを痛めている様子はなさそうに見える。
「心配かけさせちゃってごめん。でも、本当に何もないから」
「なら良かったけど……」
一安心はするが、さっき見たあの顔がまだ脳裏にこべりついている。
あれは一体、何だったんだろう。
本当に何もなかった人が、あんな深刻な表情を見せるだろうか……。
「それよりさ。次はどこ行く?」
未だ残る疑念について考えていると、何事もなかったかのようにそう提案される。
「え? 次って?」
約束は買い物だけで、それが終わったら解散だと思っていた。
当然、そこから先の予定なんて何も考えていない。
「次は次でしょ。せっかくここまで来たんだから、もっと遊びたくない? 明日もまだ休みだし」
「でも、朝日さんは明日もテニスの練習があるんじゃ……?」
「大丈夫大丈夫! それはそれ、これはこれ! ということで、この近くにどっか良さげなところない?」
「あっちにゲーセンならあるけど……」
「ゲームセンター! それは良き提案! 行こ行こ!」
そう言って、今度は彼女が俺の腕を掴んで引っ張り出す。
それはまるで、さっき俺に見せてしまった自分を誤魔化すような行動にも思えた。
けれど、本人が大丈夫と言っている以上は追求も出来なかった。
自分の考えすぎだったのかもしれないと一旦、疑念に蓋をした。
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