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第一章:光属性の朝日さんの堕とし方
第18話:初デート? その3
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店の前から二分ほど歩き、目的のゲームセンターに到着する。
業界的にはなかなか厳しい状態が続いているとは聞くが、連休の夕方ということもあり、大勢の客で賑わっていた。
「おー……結構本格的なゲームセンターだね!」
大手の系列店ということもあり、種々の筐体が沢山並んでいる。
入り口付近には客寄せ用のプライズコーナーやプリクラが並び、その少し奥にはカジュアルなファミリー向けや協力プレイの体感型ゲーム。
一番奥にはコア層向けの音ゲーや格闘ゲーム、ネットワーク通信対応の大型筐体なども。
「そうだね。朝日さんは普段も来る? クラスの友達……例えば、日野さんとかと」
幾重にも重なった電子音に負けないように、少し声を張り上げる。
「ん~……絢火は基本的にこういうところあんまり来ないかなー。他の子ともプリを撮ったりすることはあるけど、ゲームで遊んだりってのはほとんどないかも」
「へぇ……逆に俺はゲーセンならC組の風間とか金田とたまに行くけど、プリクラは人生で一度も撮ったことないなぁ」
本当にあらゆる面で真逆だな……と考えていると――
「じゃあ、せっかくだし撮ってみる?」
PCゲーマーがクソゲーの返金申請をする時くらいの軽いノリで、そう言われた。
「……何を?」
「プリを」
「……誰が?」
「二人で」
「……なるほど」
その後、気がついたら加工マシマシな俺たちのシールが生成されていた。
「あっはっは! この顔やばー! 見て! 二人ともやばくない?」
出てきたシートを手に、コロコロと笑っている朝日さん。
「人としての尊厳を弄ばれたような気がする……」
「ごめんごめん。つい調子に乗って盛りすぎちゃった。はい、これはんぶんこね」
半分にカットされたシートの片割れを手渡される。
そこにはとんでもなく大きな目で、真っ白な肌の俺たちが写っていた。
「ぷっ……くく……」
笑わないつもりでいたはずが、つい込み上げてしまう。
「あー! なんだかんだでそっちも笑ってるじゃん!」
「いや、だって……これは流石に……」
「罰としてスマホに貼ってやる……!」
「それはまじで勘弁してください……」
そんなものを誰かに見られたら二重の意味で大惨事になる。
しばらく続いたじゃれ合うような攻防の後、今度はゲームコーナーに移動する。
最初に訪れた体感型ゲームのコーナーで、彼女の人間性能の高さを改めて思い知らされた。
ガンシューティングをはじめ、基本的にコンティニューが前提になっているゲームを持ち前の動体視力と反射神経を以て、ワンコインで軽々とクリアしていく。
俺はそんな彼女の足を引っ張らないようにするので精一杯だった。
なんとか意地を見せようとしたエアホッケーに関しては、結果を語りたくもない。
どんなに大勢の人が居る場所でも、彼女は常に一際目立つ輝きを放っていた。
「なあ、あの子めっちゃかわいくね?」
だからなのか時折、周囲からそんな言葉も何度か聞こえてきた。
「うおっ、まじだ。でも彼氏連れじゃん」
「いや明らかに釣り合ってねーし、身内か何かだろ」
「じゃあ、お前声かけてみろよ」
「無理、勝てない戦いはやらない主義だから」
俺はそんな声が気になって仕方がなかったが、彼女は全く気にしてもいない。
「次はあれやろ! ほら、早く早く!」
部屋でゲームをやってる時と同じ様子で、光を振り撒きながら手を引いてくれる。
そうしてたっぷりと遊び疲れた後は、プライズコーナーで景品を乱獲した。
「あ~……もう、これアーム弱すぎぃ……」
その総仕上げとして俺たちは、入り口付近にある一番の目玉景品『でっかわ』のぬいぐるみを狙っていた。
女子中高生を中心に絶大な人気を誇るキャラで、ご多分に漏れず朝日さんも好きらしい。
しかし、既に二人で二千円は投資しているが未だ全く取れそうな気配がない。
なんとなく惜しそうなところまではいくが、絶妙な調整によってあと一歩が届かない。
流石は客寄せの人気景品というべきか、かなり露骨に絞られている。
「じゃあ、次は俺が……」
「お願い! 取れなかったら今日の夢に見ちゃいそう!」
朝日さんと交代して、コインを投入する。
最初はどちらが取れるかで競争していたが、今は俺たち二人と『でっかわ』の戦いになっていた。
バイトのおかげで高校生としては潤沢な資金を持っているが、流石にそろそろ決めないと懐がまずい。
慎重に距離感を読み、まずは横方向にアームを操作する。
「……よし」
操作にもかなり慣れ、狙ったところでピタリと止められた。
「あれ? ちょっと行き過ぎてない?」
「いや、大丈夫……これで狙い通り……」
これまでの十回以上の試行で、こいつに正攻法は通用しないと理解した。
持ち上げるには、アームのパワーが明らかに足りていない。
一度大きく呼吸をして、縦方向の操作ボタンを押す。
軽快なBGMと共に、アームが縦に動いていく。
狙うべきは本体ではなく……輪っかになっているタグの部分!!
ボタンを離すと同時に、開いたアームが降りていく。
高校受験の時よりも頭を使って調整したアームの先端は、するっとタグの中に吸い込まれていった。
「あっ……中に入った……!」
横で朝日さんが感嘆の声を上げるが、まだ安心はできない。
下まで降りきったアームが閉じ、上部へと戻っていく。
ここでタグが上手いこと接合部の出っ張りに……よし、引っかかった!
巨大なぬいぐるみが、宙に浮く。
そのまま排出口の真上にまで運ばれ……
――ガコン。
と音を立てて、取り出し口に落下した。
「……っしゃあ!!」
思わず渾身のガッツポーズが出る。
「取れたー! すごい! すっごーい!」
朝日さんも興奮気味に俺の腕を掴んで、跳ねるように喜んでいる。
ようやく、なんとか男の意地を見せられたような気がする。
勝利の余韻に浸りながら、取り出し口から戦利品を取り出す。
「はい、これ」
「えっ?」
手にしたぬいぐるみを、そのまま朝日さんへと手渡す。
「いや、欲しそうにしてたからさ……」
「……いいの?」
「まあ、俺が持ってても仕方ないし……今日、無理言って予定を開けてもらったお礼も兼ねてというか……」
とても俺の柄じゃない言葉が出てくる。
苦戦の果てに得た勝利の興奮で、頭の中に変な物質が分泌されているのかもしれない。
「そういうことなら貰っちゃおっと! えへへ、ありがと~!」
そう言って、朝日さんが受け取ったぬいぐるみに顔を埋めた時だった。
――パチパチパチ……。
周囲から小さな拍手の音が響いた。
辺りをグルっと見回すと、ギャラリー……という程ではないが、他のお客さんたちが何組か俺たちを見ていた。
どうやら気づかない間に、人気の大型景品と戦う俺たちを見守る流れが出来ていたらしい。
「見て、あれ。すっごい微笑ましくない?」
「青春してんなー」
「絶対、付き合いたてで一番楽しい時期だよね。あのままスレないで欲しいなー……」
「ああいうの見ると、学生時代に戻りたくなるよねー」
その何か微笑ましいようなものを見る目線に、羞恥心が一気に噴き上がってくる。
流石の朝日さんも恥ずかしいのか、隣で顔を赤らめていた。
「そ、そろそろ行こうか……」
「う、うん……」
居た堪れなくなり、拍手してくれた人たちに軽く会釈をしながらその場から立ち去る。
けれど、俺たちは迫りくる本当の脅威の存在にまだ気づいてなかった。
逃げるように歩き出した俺たちの前に、何かが行く手を遮るように立ち塞がる。
長く真っ直ぐな黒髪に、眼鏡の向こうで燃え盛っている火属性の眼光。
バグ利用でスキップしたはずのボス――日野絢火が、何故かそこにいた。
業界的にはなかなか厳しい状態が続いているとは聞くが、連休の夕方ということもあり、大勢の客で賑わっていた。
「おー……結構本格的なゲームセンターだね!」
大手の系列店ということもあり、種々の筐体が沢山並んでいる。
入り口付近には客寄せ用のプライズコーナーやプリクラが並び、その少し奥にはカジュアルなファミリー向けや協力プレイの体感型ゲーム。
一番奥にはコア層向けの音ゲーや格闘ゲーム、ネットワーク通信対応の大型筐体なども。
「そうだね。朝日さんは普段も来る? クラスの友達……例えば、日野さんとかと」
幾重にも重なった電子音に負けないように、少し声を張り上げる。
「ん~……絢火は基本的にこういうところあんまり来ないかなー。他の子ともプリを撮ったりすることはあるけど、ゲームで遊んだりってのはほとんどないかも」
「へぇ……逆に俺はゲーセンならC組の風間とか金田とたまに行くけど、プリクラは人生で一度も撮ったことないなぁ」
本当にあらゆる面で真逆だな……と考えていると――
「じゃあ、せっかくだし撮ってみる?」
PCゲーマーがクソゲーの返金申請をする時くらいの軽いノリで、そう言われた。
「……何を?」
「プリを」
「……誰が?」
「二人で」
「……なるほど」
その後、気がついたら加工マシマシな俺たちのシールが生成されていた。
「あっはっは! この顔やばー! 見て! 二人ともやばくない?」
出てきたシートを手に、コロコロと笑っている朝日さん。
「人としての尊厳を弄ばれたような気がする……」
「ごめんごめん。つい調子に乗って盛りすぎちゃった。はい、これはんぶんこね」
半分にカットされたシートの片割れを手渡される。
そこにはとんでもなく大きな目で、真っ白な肌の俺たちが写っていた。
「ぷっ……くく……」
笑わないつもりでいたはずが、つい込み上げてしまう。
「あー! なんだかんだでそっちも笑ってるじゃん!」
「いや、だって……これは流石に……」
「罰としてスマホに貼ってやる……!」
「それはまじで勘弁してください……」
そんなものを誰かに見られたら二重の意味で大惨事になる。
しばらく続いたじゃれ合うような攻防の後、今度はゲームコーナーに移動する。
最初に訪れた体感型ゲームのコーナーで、彼女の人間性能の高さを改めて思い知らされた。
ガンシューティングをはじめ、基本的にコンティニューが前提になっているゲームを持ち前の動体視力と反射神経を以て、ワンコインで軽々とクリアしていく。
俺はそんな彼女の足を引っ張らないようにするので精一杯だった。
なんとか意地を見せようとしたエアホッケーに関しては、結果を語りたくもない。
どんなに大勢の人が居る場所でも、彼女は常に一際目立つ輝きを放っていた。
「なあ、あの子めっちゃかわいくね?」
だからなのか時折、周囲からそんな言葉も何度か聞こえてきた。
「うおっ、まじだ。でも彼氏連れじゃん」
「いや明らかに釣り合ってねーし、身内か何かだろ」
「じゃあ、お前声かけてみろよ」
「無理、勝てない戦いはやらない主義だから」
俺はそんな声が気になって仕方がなかったが、彼女は全く気にしてもいない。
「次はあれやろ! ほら、早く早く!」
部屋でゲームをやってる時と同じ様子で、光を振り撒きながら手を引いてくれる。
そうしてたっぷりと遊び疲れた後は、プライズコーナーで景品を乱獲した。
「あ~……もう、これアーム弱すぎぃ……」
その総仕上げとして俺たちは、入り口付近にある一番の目玉景品『でっかわ』のぬいぐるみを狙っていた。
女子中高生を中心に絶大な人気を誇るキャラで、ご多分に漏れず朝日さんも好きらしい。
しかし、既に二人で二千円は投資しているが未だ全く取れそうな気配がない。
なんとなく惜しそうなところまではいくが、絶妙な調整によってあと一歩が届かない。
流石は客寄せの人気景品というべきか、かなり露骨に絞られている。
「じゃあ、次は俺が……」
「お願い! 取れなかったら今日の夢に見ちゃいそう!」
朝日さんと交代して、コインを投入する。
最初はどちらが取れるかで競争していたが、今は俺たち二人と『でっかわ』の戦いになっていた。
バイトのおかげで高校生としては潤沢な資金を持っているが、流石にそろそろ決めないと懐がまずい。
慎重に距離感を読み、まずは横方向にアームを操作する。
「……よし」
操作にもかなり慣れ、狙ったところでピタリと止められた。
「あれ? ちょっと行き過ぎてない?」
「いや、大丈夫……これで狙い通り……」
これまでの十回以上の試行で、こいつに正攻法は通用しないと理解した。
持ち上げるには、アームのパワーが明らかに足りていない。
一度大きく呼吸をして、縦方向の操作ボタンを押す。
軽快なBGMと共に、アームが縦に動いていく。
狙うべきは本体ではなく……輪っかになっているタグの部分!!
ボタンを離すと同時に、開いたアームが降りていく。
高校受験の時よりも頭を使って調整したアームの先端は、するっとタグの中に吸い込まれていった。
「あっ……中に入った……!」
横で朝日さんが感嘆の声を上げるが、まだ安心はできない。
下まで降りきったアームが閉じ、上部へと戻っていく。
ここでタグが上手いこと接合部の出っ張りに……よし、引っかかった!
巨大なぬいぐるみが、宙に浮く。
そのまま排出口の真上にまで運ばれ……
――ガコン。
と音を立てて、取り出し口に落下した。
「……っしゃあ!!」
思わず渾身のガッツポーズが出る。
「取れたー! すごい! すっごーい!」
朝日さんも興奮気味に俺の腕を掴んで、跳ねるように喜んでいる。
ようやく、なんとか男の意地を見せられたような気がする。
勝利の余韻に浸りながら、取り出し口から戦利品を取り出す。
「はい、これ」
「えっ?」
手にしたぬいぐるみを、そのまま朝日さんへと手渡す。
「いや、欲しそうにしてたからさ……」
「……いいの?」
「まあ、俺が持ってても仕方ないし……今日、無理言って予定を開けてもらったお礼も兼ねてというか……」
とても俺の柄じゃない言葉が出てくる。
苦戦の果てに得た勝利の興奮で、頭の中に変な物質が分泌されているのかもしれない。
「そういうことなら貰っちゃおっと! えへへ、ありがと~!」
そう言って、朝日さんが受け取ったぬいぐるみに顔を埋めた時だった。
――パチパチパチ……。
周囲から小さな拍手の音が響いた。
辺りをグルっと見回すと、ギャラリー……という程ではないが、他のお客さんたちが何組か俺たちを見ていた。
どうやら気づかない間に、人気の大型景品と戦う俺たちを見守る流れが出来ていたらしい。
「見て、あれ。すっごい微笑ましくない?」
「青春してんなー」
「絶対、付き合いたてで一番楽しい時期だよね。あのままスレないで欲しいなー……」
「ああいうの見ると、学生時代に戻りたくなるよねー」
その何か微笑ましいようなものを見る目線に、羞恥心が一気に噴き上がってくる。
流石の朝日さんも恥ずかしいのか、隣で顔を赤らめていた。
「そ、そろそろ行こうか……」
「う、うん……」
居た堪れなくなり、拍手してくれた人たちに軽く会釈をしながらその場から立ち去る。
けれど、俺たちは迫りくる本当の脅威の存在にまだ気づいてなかった。
逃げるように歩き出した俺たちの前に、何かが行く手を遮るように立ち塞がる。
長く真っ直ぐな黒髪に、眼鏡の向こうで燃え盛っている火属性の眼光。
バグ利用でスキップしたはずのボス――日野絢火が、何故かそこにいた。
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