彷徨うミリオーネ

Bergamini

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バタタタタタ


 闇夜に特徴的な飛翔音をまき散らしながら、一機のヘリが行く。

《こちらロッソ7、飛行計画書通り順調に飛行中。本来の予定時刻よりは2時間程度の遅れ》

 眼下に民家と思わしき明かりはほとんど見られない。山東省周辺軍閥に対して、定期的な国土回復運動(レコンキスタ)を満州国は実施しており、ここはその境界線付近だからそのせいもあるだろう

《ロッソ7、了解した。先に美味しい獲物は頂いておく、お前らはゆっくり来い》
《少しは残しといてくださいよぉ?以上交信終わり》

 そんな満州国の連中がやり過ぎないように、天津租借地を駐屯地とする俺たち、イタリア陸軍ミリオーネ航空強襲連隊は、隊を上海や南京を支配している軍閥のもつ基地へと移動させて、同じく満州国内から移動してくる日本の連中と一緒に訓練と称した巡回を行うのだ。
 当然、緩衝地帯から先へ踏み込まれたくない上海閥の連中の俺たちへの待遇は据え膳下げ膳で良きにはからえさせてもらえるので、非常にいい。仮に、上海閥が北伐を行う時はその逆を行くわけだ

『エンジントラブルさえなけりゃあなぁ』

 発進が遅れたのは、飛び立つ段になってこの俺が操縦する攻撃ヘリ、A129マングスタのエンジンが珍しくぐずったせいである。

『日頃の行いが悪いからでしょ』

 にべもなく前席のガナーの彼女から愚痴に対してそんな答えが返ってくる
 こいつとの出会いはこの部隊に配属されてからだが、リビアのトゥアレグ族出身で、ベルベル系の美人ときて、おそらく前の大戦の時に混じったのだろうが、金髪と言う見た目の自己主張の大きい子というのが最初のイメージ。
 そして着任早々コンビを組まされる事になった。本来ペアとなるのは女性なら女性同士だが、出自故か本来の気性の激しさからか孤立していたかららしい。それでいていたずら好きも相まってじゃじゃ馬って評価が周囲の評価だった。新しい従僕(ペア)としてお鉢が回ってきたわけだな。
 これがなかなかどうして、相性が良かったのだから世の中わからんものだと思う


『あのぅ、それじゃあお前様の行いも』

『私の行いが良いわけないでしょ。あなたが励みなさい。前借しとくから』

 ふふん♪と満足げにそう言ってのけやがる。このアマァ・・・あとでベッドでヒィヒィ言わせたr


キラッ


『光源!?』


ガキャッ!!!


『ぐぅっ!!』
『がぁっ!!』


反応するより先に、ものすごい衝撃が後ろから響く


ピピッ!ピピッ!ピピッ!


そしてコンソール類からの警告音が異常をわめきたてる


『くっ!なにが起きやがったぁ!!!』

くらむ頭をしゃっきりさせるべく、自分自身に怒鳴る。ロックを受けたような警告は一切出なかった。機体の反応が鈍い、油圧系統も下がりつつある。だがエンジンは無事だ


『増槽、ロケットも落す!武装はガンだけよ!』


先に正気に戻っていたのだろう、素早く手順を終えている。よし!愛してるぜ相棒!


『やってくれ!なんとか無事に降ろす!まだコントロールは効く!』



ガコンッ


 ほとんど中身が無くなっていた増槽と、一応という事で載せていたロケット弾発射機を落して身を軽くする。重量物が離れたことで、ふわりと少し機体が上昇する。だが、それがよくなかったのか


バキィッ


 嫌な音と共にテールが脱落する。折れかけだったのだろう、油圧の低下はこれが原因か

『ちょっと!?』

前席のヘルメットが焦りげにこっちを向く。収まり切れなかった金髪が見えるようだ。大丈夫だ、安心しろ、なんとか安全に降ろしてやる。お前をこんなことで失ってたまるか・・・!

『少し回転するぞ!』

 テールローターごと脱落した以上、回転するトルクを抑えきれなくなる。どうする!?エンジンの出力を調整して回転力を抑えるか!?

『こなくそぉおおおお!!!』

 あとは機体を傾けてエネルギーの相殺を狙う。これは下方視界を取るためでもある。降りて大丈夫かどうか確認しなければ。たとえテールを失っても、小さいとはいえスタブウィングは揚力を発生させる、まだいけるはずだ!いけなくてたまるかよ!


ズザザザザ!!!!


おそらくコーリャン畑だろう。機体は斜めに滑りながら畑を蹂躙し、あぜ道に突き当たったところで横倒しになる。はじけ飛んだローターが地面に突き刺さるのが見えた気がした

『ちゃんと・・・降ろしたぞ、大丈・・・夫か?』

そう言ったところで俺は意識を手放した・・・手放してしまった。



『行方不明!?そんな馬鹿な!?』

 次に俺が気が付いた時には、天津の病院のベッドで、相方のあいつの姿は消えていた。
 生存しているのは確かで、俺を機体が炎上する前にドアから引きずって機外へ引き出し、木陰までたどり着いた後、失踪した。いわゆるMIA(ミッシングインアクション)と言う奴だ

『捜索中止とはどういうことです!?』

 そして、周辺の捜索が行われたものの、展開する人員そのものが極東の地に於いて少なく。また、地上捜索そのものが満州国と上海閥の恩着せ合戦に発展しかねず、偶発的な戦闘を頻発させかねないとし、短期間で打ち切りとせねばならないというのだ

『あいつは俺の相棒です!なんとしても助け出さなければいけないんです!絶対に・・・!絶対に!』


 そうして俺は、軍を脱走した。しがない一軍人のままでは、どうやっても彼女を探しに行くことが出来ないがために



『流れ流れて3年、か』

   落とした増槽による汚染や、コーリャン畑を荒らした事で感情的に受けが最悪なところで有り金叩きながら掴んだ情報によれば、普段見ることのない連中によって構成された馬族が現地を荒らしていたという事くらいだ。
   そして、そうであるならば近隣軍閥とは別の連中ということだろうと当たりをつけ、かつ日伊側との関係性の深い福州閥を除き、かつ、山東省近辺まで遠征が出来る財力等を考えるならば、と、この広東の地に流れてきたのだ


ー彼女が売りに出来るものは何かー


   あの時の状況を繰り返し夢に見る。そして、彼女が囚われの身であるとして何が出来るか。金目のものは何があったか。そう言ったものに目を光らせる上で《文書屋》は、非常に都合のいい身分と言える。
   脱走兵に過ぎない俺が生きていくためでもあったが・・・


『少し街に出てみるか』


 弓さんが言っていた通り、今は稼業的に暇であることは間違いない。その間に契約刑事として動けるという事はありがたい。
 ロッカーをあけてショルダーホルスターを装着し、脱走時に一緒に持ってきていたベレッタM93Rとマガジンを入れる。そしてその上からジャージの上を羽織る。ここいらの界隈で下町まで入ったりする場合はこういうものじゃないと存在自体が目立つ。前を締めなければそこまでホルスターは目立たない。



広東州・珠海市


 俺の居ついたマカオと接続するこの地域は、広東州の中核である広州市や、香港との接続地にあたる九龍半島、フランスの影響力の強い雷州半島と違って、ポルトガルと言う欧州の中小国の影響力下にあるということで、外人という存在であってもその存在を目立たせずに済み、かつ経済的に高すぎず低すぎずで生活できるという稀有な場所と言える。
 特に接続地域を中心とする中心街は、中流階級を狙ったカジノなどが経営されており、時折俺も通訳として夜にバイトに行ったりしたこともある。シナ大陸全般では、それぞれ地域に根差した言語と日本語、それに加えて英あるいは仏語が通じないとまともなビジネスチャンスは無いと言っていいので、中流以上の人々ならば日本語が通じるからだ。
 公共機関はおおよそ日本語が使われている。これはそれぞれの宗主国との地理的な距離の差が原因と言っていいだろう。それと漢字の存在だ。俺も履修の時苦労したが、おかげで食えてる。ありがたやありがたや

『おっさん、いるかい?』

 最初に訪ねたのは、同じ市の界隈にあるシューティングレンジ場だ。マカオでギャンブルをやるついでに銃も撃ってみようという射好場で、昼は銃や弾丸の売買も行っている。勿論、基本的に銃弾はこの場での使い切りがルールだが、今俺は契約刑事としての立場が使える。俺が契約刑事として動き出すときにすることはまずここに来ることだ。

『なんだ、お前さんにまで声がかかったのかい』

 新聞を読んでいた眼鏡のマレー系の男が顔を上げる。ここの存在を知ったのはマカオでのバイトの際に一緒について行ったのが縁だ

『までってのは随分な言い方だな。どうだい景気は』

『よかぁなってるよ、なにせ、弓の旦那が動くような事件だ、護身だって備える奴は増える』

 そう、あのおっさんが動くという事は、どこの派閥にも関わらないシリアルキラーが動いている可能性が高いという事になるわけで、必然的に自衛の気運は高まる。まあ、それを見込んであのおっさんも動き回っているんだろうけれども

『9mmパラを5箱頼むよ』

『・・・・あいよ。払いは弓の旦那だな?』

 ここ、中国大陸ではもともと国民党がドイツからの軍事顧問団を受け入れていた関係上、9mmパラべラムのコピー弾が工場を含めて複数存在し、多く流通している。昔ながらの16発入りの箱で5箱、80発だ

『2箱は俺が出すよ。幾らだい?』

『4000エスクード』

 財布からそれを出して、銃弾の箱を取る際に手をおっさんからむんずと掴まれる

『・・・偽札は掴ませてねぇぜ?』

 ちゃんと中国貨幣でなく、バイトで掴んで置いた外貨で支払っている。特に問題は無いはずだ

『ちげぇよ、弓の旦那から伝えておけってな。何をする気かはしらんが、あまり貯め込むな、とな。誰が好き好んで野郎の手なんか握るかい』

『やっぱりお見通しか』

 あのおっさん抜け目ねぇからなぁ。こういう時にかこつけて銃弾を多めに買い付けて、それを使っていない。なんらかの予備行動ではないかと弓は読んでいるわけだ。お前のしていることを知っているぞ、は大きな脅し文句だ

『俺ぁ大それたこたぁしねぇよ。するつもりもねぇ。そういう風に今度会ったら流しといてくれ』

頭を掻きつつ言う。実際大ごとに巻き込まれるという事は目立ちすぎているという事だ。とても相棒の捜索なんて出来なくなる

『だといいがな。まぁ、俺としてはお得意様だ。適当に使ってりゃ問題はねぇ。だが、てめぇ様のつかった弾丸で逆恨みされるのはまっぴらだからな』

 おっさんが目を傍らに向けると、そこにはショットガンが置いてある。おっさんのエモノはショットガンだ。これで返り討ちにあったやつも多いと聞く。やべぇやべぇ

『わっかりましたよ。それじゃあお暇しますぜ』

 と、そそくさと店を後にする。あとは乗り合いバスを捕まえて、沿岸沿いに珠海市から香山市を抜けて広州市へと2時間ほどかけて足を進める。乗り合いバスの中は時間帯がずれたせいかそこまで混んでなく、ぎゅうぎゅうに押し込まれずに済んだ。見ればなるほど、皆が用心のために武装している。物騒な世の中になった、と俺が言うのは筋違いだな

『さてと、死体が捨ててあったところはここの近くだったな』

 場所は香山市との境界から一つ区を超えた番禺区。香港への船が出る蓮華港がここにはあり、ここと北の黄埔区や南の南沙区は広州市の海上物流の支えといえる。そうであるが故に倉庫街として発展し、多数の倉庫、そしてその荷役を支える貧困層、それを狙った飲食業などが混在し、雑多な様相を呈している

『ん?なんだ』

 珠江デルタとして縦横に水路が入り込んだこの地区であるが、橋の欄干に人だかりができている。近づいてみると、腰を抜かした乞食の老人とビニールシートに包まれた異臭を放つソレ

『儂じゃねぇ!!金目のものでもないか流れてきたから揚げてみただけなんだ!そったらこんな、ひぃいいい!!』

 シートからはみ出た足の太ももには、皮が切り取られていた痕跡がはっきり残っていたのである。そして、これを爺さんは流れてきたのを揚げたと再三言ってパニックを起こしている。これが演技なら大したものだ、つまりは

『・・・・・おい、嘘だろ』

そして俺は、橋の下を通るほの暗い水路を見て、自分の想像が嘘であってくれと絶句した。


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