暴君は野良猫を激しく愛す

藤良 螢

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お手伝い

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 伊作から貰った大根を抱えて、もはや住み慣れた我が家への道を辿る。此処での生活のうちに大分力をつけたつもりでいたが、まだまだだったようだ。
 とはいえ、幸菜はそもそも小柄な体格をしている。彼女より背丈の低い者といえば、子供を除けば、腰の曲がった村長だけだった。
 小さな体で必死に大根を抱えて歩く幸菜に、すれ違う村人たちが「手伝おうか」と声をかける。そのどれにも「ありがとう、でも大丈夫です」と返して、安定しない足取りのまま先を進んだ。

 村はずれの神社だから、隣人というものはいない。一人暮らしの女が食べきるにはいささか多いそれを、大半は漬物にしようと決めた。
 さっそく丁寧に水洗いして糠床にしっかり漬けたところで、どうして外出したのかを思い出す。

 「いけない、田吾作たごさくさんのところに呼ばれてたんだった!」

 幸菜は慌てて飛び出した。
 緋袴をひらつかせて駆ける彼女に、はしたないと村長からの怒号が飛ぶ。それに「ごめんなさーい!」と叫び返しはしても、足を緩めることはなかった。

 そうして行き着いた田吾作の家では、ちょうど戸口から顔をのぞかせた少女が花のような笑みを浮かべた。

「ゆきねえちゃん!」
「こんにちは、加耶かやちゃん。遅くなってごめんね」

 僅かに上がる息を整えて、自分を迎えてくれた加耶の頭を撫でる。子供の柔らかな髪が指の間をくすぐった。
 そのうちに、母親のたえも大きな腹を抱えて現れた。「なかなか来ないから心配したんだよ」とわざと怒ってみせる彼女の優しさに、照れ臭そうに笑った。
 今日の手伝いは、彼女が理由なのだ。二人目を妊娠中の彼女は、悪阻つわりが重く、料理がままならない。加耶も健気に手伝うのだが、幼すぎて火を扱わせるわけにもいかず、幸菜に声がかかったのだ。

「かやね、もうすぐおねーちゃんになるんだよ!」

 会うたびに自慢げにする加耶に、幸菜も飽きもせず「そうだね」と笑顔で返す。お姉ちゃんになったらしたいことがたくさんあるらしい。
 台所に二人並ぶ姿を、妙は微笑ましいと優しく見守っていた。

「そういえば、幸菜ちゃんはい人はいないのかい?」
「良い人ですか? この村の人たちはみんな良い人だと思ってますけど」

 途端、妙が弾けるように威勢の良い笑い声を響かせた。

「違う違う! まったく、おかしなだねえ! そんなんじゃき遅れちまうよ?」
「いきおくれ………って、ええっ?」

 意味を理解して一気に顔が熱を持つ。未だわかっていないのは加耶だけだ。「なぁに、それ」と幼い子供の純粋な疑問に、正直に答えるわけにもいかず言葉を詰まらせる。

「か、加耶ちゃんにはまだ早いお話だから……」

 しもろもどろに逃げを打つ幸菜に、妙はやれやれと苦笑を禁じ得なかった。
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