暴君は野良猫を激しく愛す

藤良 螢

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側室として

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「あの……私、これからどうなるんですか……?」
「さあ……。今のところは、ご側室として扱うことになりましたが」
「ごそくしつ? 何ですか、それ?」
「本妻とは別に囲う、……めかけのことでございます」

 つまりは現代でいう愛人といったところか。良い印象などまるでないのだが、高位の者には当たり前のことだそうだ。
 亜希は申し訳なさそうにしていたが、幸菜は当然だろうと思っていた。
 自分は、彼の気まぐれで連れてこられたのだ。彼が飽きれば村に帰る。その日はいつか必ず訪れる。彼は毛色の違う自分を面白がっただけなのだから。それまでの間、衣食住の保証がされているだけ好待遇だろう。
 そう納得してみせる幸菜に、亜希は「おいたわしい」と顔を曇らせた。彼女の言葉がどういう意味なのかはわからなかったが、良い意味ではないことは確信が持てた。

「ごめんなさい、そんな顔させるつもりなんてなかったのに……。何か気に触ること言いましたか?」

 本心からの言葉だった。
 しかし亜希は、幸菜の意に反してはらりと涙まで流し始める。

 ごめんなさい、泣かないで。

 幸菜が何かを言うたびにまた涙ぐむ彼女は、たもとで露を払うと幸菜に優しい笑みを向けた。

「幸菜様は、わたくしが必ずやお守り致します。ですからどうか、お心を強くお持ちくださいませ」

 勇気づけるように握られた手を、戸惑いながらも握り返す。何にせよ、味方がいるというのは心強い。ありがとう、と感謝を伝えると、彼女は感極まったとばかりにまたも涙ぐんで幸菜を困らせた。





 ようやく亜希の涙もおさまった頃、音もなく障子しょうじが開く気配がして彰久が現れた。
 怯えたように目を見開き震える幸菜の姿に、彼の目が細められる。
 彰久はそのまま亜希に目を向けた。彼が顎を動かして外を示せば、彼女は心得たとばかりに礼をとり、部屋を去ろうとする。

「やっ……待って!」

 伸ばしかけた手を、彰久が強い力で掴んだ。
 障子の向こうに亜希の姿が消えた。それを横目で見た彰久は、幸菜を見下ろし感心したような声を漏らした。

「化けるものだな……これならば山育ちとは誰も思わんだろう」

 それはそうだろう。こんなきらびやかな格好の農民なんているはずがない、と幸菜は心の中で噛み付いた。
 怖くなどないと言い聞かせて、気丈に彰久を睨みつける。

「手酷いことをしたと思ったが、さすがに丈夫なつくりをしているようだな」

 好都合だと、彰久は幸菜を引き寄せ、その背筋に指を這わせる。擽ったさに思わず仰け反ると、唇を塞がれた。

「んんっ」

 薄く開いていた口から彰久の舌が潜り込む。逃れようにも幸菜を抱く腕の力は思いの外強く、身動ぎさえ出来なかった。
 舌まで絡め取られる深い口づけ。立っていることもままならず膝から崩れ落ちると、追いかけるように彰久が覆いかぶさってきた。
 掴まれた腕が畳に縫い付けられる。
 ようやく口づけから解放されると、彰久の唇が首筋に触れた。

「や、やだっ、やめてっ」

 うまく力の入らないもう片方の手で押し退けようと奮闘するけれど、鍛えられた彼の体を前に、努力は泡と消えてしまう。
 痛む身体をおして暴れさせていた手もとうとう捕らえられ、頭上でひとまとめに押さえつけられた。
 大きな手がゆっくりと幸菜の首筋を撫でる。薄い皮膚をきつく吸われ、ちくりと小さな痛みがはしった。

 幸菜は蒼白になった。頭の中で、湯殿での記憶が蘇る。恐怖にうち震える体にあわせて、歯がかちかちと音を立てた。

「……た、すけて…………」

 こぼれ出た言葉はあまりにも頼りなかった。
 彰久が幸菜の顔を固定して、徐に唇を重ねる。肉厚の舌が蠢き、幸菜の呼吸を奪う。逃れることのできないそれに、幸菜の震えが増した。

「何を恐れることがある」

 彰久が低く甘い囁きを落とした。溢れそうな涙を吸い取り、反対側にも同じく唇を落とす。目尻を掠めるそれに、幸菜の体が跳ねた。
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