暴君は野良猫を激しく愛す

藤良 螢

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戸惑い

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 すっかり目が覚めてからも、彰久は幸菜を離そうとはしなかった。
 昨夜と同じように彼の膝に座らされ、その前に膳が置かれる。違うのは、それが二つあることと、彰久のものにしか酒が置かれていないこと。
 黙々と、食事というには慎ましい量しかないそれを摘み、酌をして、気まぐれに頭を撫でられる。

(今日は、大丈夫そうかも)

 酌も失敗していないし、酒を飲まされそうな雰囲気もない。「そういうこと」に至る前兆もなく、そっと肩の荷を降ろした。
 ちろりと横目に見上げた彰久は、もう二本目だというのに顔色を変えることもなく、平然と煽っている。

「お酒、強いんですね」
「お前が弱すぎるだけだ」

 くっと笑われるが、自分でもよくわかっているからか嫌な気はしなかった。

 しばらくして、ほう、と彰久が熱のこもった吐息を漏らした。目元がほんのりと赤くなっている。
 盃を膳に戻すと、顔を寄せられた。ちゅ、ちゅ、と音だけの口づけが雨のように幸菜に与えられた。
 可愛らしい音なのに、それを作る男はまったく可愛くない。纏う色香に当てられて、心臓も呼吸も停止してしまいそうだ。
 鼻先が触れそうなほどの至近距離。夜空と同じ色の瞳が幸菜を見据えた。
 視線が奪われる。
 ゆっくりと、彼の顔が近づいてくる。ひくりと喉が痙攣すると、見咎められて彼のこと動きが止まった。

「…………嫌か?」

 そう尋ねていながらも、嫌とは言わせない口調だった。
 だが、それは幸菜に強烈な衝撃を与えた。はっとしてしまう色を、瞳の中に見つけたから。
 驚愕のあまり真っ白になってしまった彼女を、抱きしめようと腕が回される。

「っぁ……!」

 触れられた瞬間、ぴりっともどかしい刺激が幸菜を襲った。
 彰久が息を飲む。間を置かず唸り声を上げて、恨めしそうな目が幸菜に刺さった。
 泣きそうな彼女に、彼はぐっと眉を寄せる。華奢な体を痛いほど強く抱きしめて、深く深く溜息を吐いた。

「っ、もういい、寝るぞ」

 横暴な物言いに相応しい横暴な所作で、整えられた布団に連れ込まれた。
 幸菜はさぁっと色をなくした。腕を伸ばして突っ撥ねようとしても、それらはいともたやすく捕らえられてしまった。
 腕ごと彰久に抱きしめられて、また口づけの雨が降る。

「お前は、本当に……」
「え、?」
「ーーいや。ほら、もう寝てしまえ」

 俺ももう寝る、と言う彼は本気のようだ。掛け布団をしっかり肩まで上げて、鋭い眼差しを覆い隠した。
 耳元に彼の吐息が吹きかかる。頭の下には彼の腕がある。

(あれ? …………あれ?)

 なんだ、これ。
 熱くて、苦しくて、もどかしい。目に見えない何かが全身に伝わる。

 これは、いったい何だろう。
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