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静寂
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幸菜が戸惑ううちにも時間は過ぎていく。
言われた通りにできたならよかったが、こんなままで寝れるほど図太い神経は持ち合わせていないのだ。
灯りもなく、音もない。静寂の中を漂流する。
抱きしめたまま、彼は目を閉じて静かに呼吸を繰り返している。まったく、この男の神経はどうなっているのか。
寝ているのだろうが、抱きしめられた体は抜け出せそうにはなかった。
「眠れんのか」
突然の声に体が大袈裟に跳ねた。それが誰のものかは考えるまでもない。
寝ていなかったのか、起こしてしまったのか。
「ごめんなさい」と声を潜めて謝ると、不意に、彼の体が動いた。
腕の力が強められて密着度が増す。
顔に押し当てられた胸板から、とくとくと心臓の音が聞こえてくる。
「あったかい……」
「生きているからな」
当たり前だと彼は言うが、それが本当の意味で「当たり前」ではないことを知っている。きっと、彼も知っているだろう。
「……殿様」
声をかけるが返事はない。
それでも幸菜は言葉を続けた。
「村のみんなは、……元気ですか」
病が流行ったりしていないか。
他所から襲われたりしていないか。
略取されることはなかったが、今年はどうにも取れ高がよくないと男たちが話していたから、飢えに苦しんでいないかも心配だ。
「……特に、問題があったという報せはない」
帰ってきたのは求めた答えではなかったが、今は十分だと思えた。
どうかそのままであってほしい。
心から願い、祈る。
「……お前は、他人のことばかりだな」
ぽつりと彰久が呟いた。呆れ、納得、諦め、その他様々な感情の織り込まれたそれは、ひとり取り残された時のように寂しげで悲しげな響きをしていた。
そっと彼を窺ってみるが、何かを読み取ることはできない。
それが余計に危うく思えてしまう。他人事だなんて思えなくて、もう寒くないのに寒くなる。
「………………」
少しだけ、本当に少しだけ、彼の夜着を摘む。
こんなことをしても、何かが変わるわけではない。ただの自己満足でしかないことを理解しているのに、そうせずにはいられなかった。
「…………あったかい……」
ちゃんと血の通った、何よりも心地よい生きた人の温もり。
それを感じたくて、感じてほしいと思った。
言われた通りにできたならよかったが、こんなままで寝れるほど図太い神経は持ち合わせていないのだ。
灯りもなく、音もない。静寂の中を漂流する。
抱きしめたまま、彼は目を閉じて静かに呼吸を繰り返している。まったく、この男の神経はどうなっているのか。
寝ているのだろうが、抱きしめられた体は抜け出せそうにはなかった。
「眠れんのか」
突然の声に体が大袈裟に跳ねた。それが誰のものかは考えるまでもない。
寝ていなかったのか、起こしてしまったのか。
「ごめんなさい」と声を潜めて謝ると、不意に、彼の体が動いた。
腕の力が強められて密着度が増す。
顔に押し当てられた胸板から、とくとくと心臓の音が聞こえてくる。
「あったかい……」
「生きているからな」
当たり前だと彼は言うが、それが本当の意味で「当たり前」ではないことを知っている。きっと、彼も知っているだろう。
「……殿様」
声をかけるが返事はない。
それでも幸菜は言葉を続けた。
「村のみんなは、……元気ですか」
病が流行ったりしていないか。
他所から襲われたりしていないか。
略取されることはなかったが、今年はどうにも取れ高がよくないと男たちが話していたから、飢えに苦しんでいないかも心配だ。
「……特に、問題があったという報せはない」
帰ってきたのは求めた答えではなかったが、今は十分だと思えた。
どうかそのままであってほしい。
心から願い、祈る。
「……お前は、他人のことばかりだな」
ぽつりと彰久が呟いた。呆れ、納得、諦め、その他様々な感情の織り込まれたそれは、ひとり取り残された時のように寂しげで悲しげな響きをしていた。
そっと彼を窺ってみるが、何かを読み取ることはできない。
それが余計に危うく思えてしまう。他人事だなんて思えなくて、もう寒くないのに寒くなる。
「………………」
少しだけ、本当に少しだけ、彼の夜着を摘む。
こんなことをしても、何かが変わるわけではない。ただの自己満足でしかないことを理解しているのに、そうせずにはいられなかった。
「…………あったかい……」
ちゃんと血の通った、何よりも心地よい生きた人の温もり。
それを感じたくて、感じてほしいと思った。
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