暴君は野良猫を激しく愛す

藤良 螢

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「……ねぇ、聞いた?あの話」

 声を潜めた問いかけに、すぐさま賛同の声が上がった。集い囁きあうのはなにも同輩だけではない。
 年嵩の者も、盛りを迎える間際の者も、寄り合っては言葉を交わした。

「やぁね、見境もなくたぶらかして」
「本当に。何を考えておいでなのかしら、さっぱりだわ」
「何も考えてないのでしょう。そうでもなければ、恥知らずもいいところだもの」

 仔細は知らされずとも、人の目の多い城内では情報は何よりも早く駆け抜ける。
 それは、今この瞬間も例外ではない。

「行くと思う?」
「まさか。自分から恥をかきにいくようなものだもの」
「でも、お傍には亜希様がいらっしゃるし……」

 女中頭の才媛ぶりは、誰もが知るところだ。その手腕をどの役よりも間近で目の当たりにしてきたからこそ、その影響力に沈黙がおりる。
 彼女なら、なんとかしてしまうのではないか。
 そんな考えが全員の胸の内にあった。
 彼女に対しての悪意はない。
 だが、今回のことまで丸く収められてしまうのは面白くなかった。

「ーー少し、手を回す?」

 ぽつりと誰かの呟きに、水を打ったようになる。けれど場の静けさとは真逆に、彼女たちの内側では心臓が早鐘を打っていた。

「…………やりましょう」

 ひとりが名乗りを上げ、またひとりが名乗りを上げる。

「でも、万が一殿の耳に入りでもしたら…」
「大丈夫よ。あんな山育ちの小娘より、私たちを邪険に扱うはずがないわ」
「そう、そうよね。遼展様だって、素性をお知りになったらきっとーー………」

 戸惑いが広がる。ざわめきが波打つ。ーー流れが変わる。
 凪いだ人垣は互いに頷きあい、策を練る。一つ一つに重みはないが、幾つもが重なりあえばどうなるか。

「これは殿の為でもあるのよ」

 荒げられていないはずの言葉がゆっくりと染み渡る。それはじりじりと何かを麻痺させていった。

「ああ、急がなきゃ。時間がないわ」
「お茶室の方には私たちが向かうから、あなた達は、」
「わかってるわ」

 ひそり、ひそりと人の口を伝って情報が広がっていく。止まることはない。
 うっそりと、暗い火が灯っていた。
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