暴君は野良猫を激しく愛す

藤良 螢

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ねだったのは

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 そんな時の気紛らわしとして、手慰みに始めた刺繍は有効だった。
 まだまだ思う通りの図案を再現することはできていないが、それでも見るに堪える作品と呼べるものが着々と増えていく。
 そろそろ、目標としていた仔猫の図案にも挑戦したいと考えていたところで、不意に幸菜は庭を振り返った。
 ぱちん、ぱちんと何かを切る音がする。膝ばいに縁側まで出てみると、身軽な服装の老人が庭の手入れをしていた。彼の足元には、剪定された木の枝が積もっている。
 じっとそれを見つめていると、幸菜に気づいた老人は器用に眉を片方だけあげた。

「初めて見る顔じゃ。お嬢さん、どうかしたのかね?」
「え? ーーああ、ご挨拶もしないで、ごめんなさい。先日からこのお屋敷にお世話になっております、幸菜と申します」

 会釈程度に三つ指を着くと、彼はぎょっと目を剥いて、白い頭に手をやって大きく頭を下げた。

「こりゃあ、失礼しやした。新しい奉公の娘だとばかり……」

 その気はないのだろうが、本音を滑らせた彼に幸菜も思わず苦笑する。
 彼がそう思うのも無理はない。様付けされて、年長者に傅かれるような現状に自分自身違和感を禁じ得ないのだから。

「あの、それ……」

 躊躇いがちに彼の足元を指差す。

「それ、どうするんですか?」
「どうって……薪にもなりませんでなぁ」
「なら」

 老人の言葉を途中で遮り、前のめりになる。行儀だとか初対面だとかの瑣事は頭の中から消えていた。

「それ、少し分けて頂けませんか?」
「こいつを、……ですかい?」

 老人ははてと首を傾げながら、そのうちの一枝を取り上げた。
 老い枯れた手が持つものは、せいぜい灰にして畑に撒くくらいしか使い道のない、何の変哲もない木の枝である。
 こんなものを欲しがるとは、と彼は不思議そうに枝と幸菜とを見比べた。
 まあ、譲ったところで何の問題もありはしない。他にも幾つかを選り抜いて差し出すと、彼女はそれを腕いっぱいに抱えたままきょろきょろと庭を見渡した。

「あの、他にも手を加えるものってありますか?」
「うん? そうですなぁ、あの辺と……ああ、あれもちぃと切らにゃならんでしょうな」

 そう言って指し示された植物に、幸菜はにっこりと笑みを浮かべて、再度同じ言葉を口にした。

「なら、それも少しでいいので分けてくださいな」

 お偉いさんの考えることはよくわからん。老人は心底そう思いながらも、曖昧に頷いて答えたのだった。
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