暴君は野良猫を激しく愛す

藤良 螢

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見違えるほどの

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 ぱん、と乾いた音を響かせて障子が開く。白に立ち代わって現れた鮮やかな色彩に目を瞠った。
 明らかに平服とは異なる、精緻な細工の施された煌びやかな衣装を身に纏う人。此処に居るはずのない人。

「話は聞かせてもらった」

 ぴんと糸の張った声に幸菜は我に返った。
 亜希は困惑しながらも何とか平静を取り繕い、「盗み聞きなど、高貴な身分のお方がされるようなことではとてもございませんよ」と憎まれ口まで叩いてみせた。
 今まで彼女に対しては一目置いていたようだがこれは流石にと肝を冷やしたが、意外にも気性が荒いはずの彼は怒るどころか笑っていた。

「その気はなくとも、この屋敷なら聞こえてくる」

 人が少なく、声を抑えることもしていなかったから、確かにその通りかもしれない。
 そう思ったのは幸菜だけではないようで、亜希も下手を打ったと悔しげにしていた。

「さて、遅くなったが。久しいな、幸菜」
「へ。ぇ、あ、はい。お久しぶりでございます、遼展様」

 突然の声掛けに戸惑いながらも何とか挨拶を返せば、遼展は満足そうにひとり頷いた。
 まさか、彼の方から挨拶してくるとは思いもしなかった。子供じみた性格をそのままに、下々の者は自分を敬って当然と思っているようだと思っていた。
 けれど、幸菜の知るーー印象に残っている遼展の面影は、目の前の彼にはどこにも見当たらない。決意の輝く瞳は力強く、精悍に整った顔立ちは人の上に立つべき威厳を感じさせる。
 一瞬、彼に別の影が重なった。

「お前には悪いが、野に降らせはせん。お前の身柄は私が貰い受ける」

 は、と口だけがそれを象った。
 遼展の目はすでに亜希へと向いていた。そして、ただ一言を告げる。

「すまんな。もう、待つことは出来なくなってしまった」

 それがどういう意味なのか幸菜にはわからなかった。
 告げられた亜希は俄かに目を見開いて、今にも倒れてしまいそうなほど震えた声で「そうですか」と返していた。それが精一杯のらしかった。
 迷いを振り切るように、勢いよく彼女が立ち上がり、幾つかを風呂敷に包んでいく。
 それを脇目に、遼展は幸菜の体を担ぎ上げた。ぐんと高くなった視点は、いつかの時とは違うものだった。

「先に行く。早く来てくれ」
「はい」

 目まぐるしい勢いで進んでいく何もかもに、幸菜ひとりが取り残されている。
 呆然としたまま、彼女は遼展によって屋敷から連れ出された。
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