暴君は野良猫を激しく愛す

藤良 螢

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覆紗

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 担がれたまま馬で山野を駆けるのかと思いきや、意外なことに今回彼は従者を連れ立って来ていた。
 彼らは幸菜に対して会釈したが、そのあと急ぎ足で追いついた亜希を認めると慌てたように駆け寄って、荷物だ輿だと何かと世話をやこうとしていた。
 亜希はその一切を如才なくあしらい、颯爽と自身の所有する馬に乗り上がる。動きやすさを重視した装いは色彩に欠けるが、ぴんと筋の通った凜然とした雰囲気と相俟って彼女の美しさを際立たせた。

 亜希とは違い、さすがの幸菜も馬術の経験はないため遼展の馬に同乗させてもらった。後ろから覆うように彼の手が手綱を握り、馬を走らせた。

 僅か五騎の一行は、その分機動力も高い。初めての時は意地で根を上げなかったが、それに比べると今回は驚くほど容易い。
 もちろん、山道と平野との違いが大きいことは間違いない。それになにより、あの村からと亜希の屋敷からでは駆る距離がもとより違う。
 あの時と然程変わらないはずなのに重ならない現状は微かな息苦しさをもたらした。

「…………嫌か」

 道程の最中一度も口を開かない幸菜に、頭上から慮る声がかかる。
 人の言い分も聞かないで連れ出したくせに、変なところで気を遣う。
 そんなところは二人よく似ていると妙な感心を抱きながら緩やかにかぶりを振ると、彼は「そうか」と何か含んだような口ぶりをした。

 出立の前、彰久の居城へ行くのだと遼展は言った。今の装いも、それに応じたものなのだと。先触れも走らせてあるという彼にわけを問えば、「もうそれを許容される身分ではなくなったから」と。
 それが何を意味するのかはわからないまでも、事態が動いていることは感じていた。

「でも、殿様はきっとーー」

 言いかけて、口をつぐむ。先を口にするのが怖かった。いや、本当は、城へ向かうことも怖くて仕方がない。
 並走する亜希は力なく俯いた幸菜を心配そうに見ていたが、それでも彼女に何か声をかけることはない。それが疑問に思えて目を向けると、固く口を引き結んで小さく首を振った。
 まったく、難儀なものだ。
 口から出かかった溜息を何とか堪え、少し下の旋毛つむじを見下ろす。それから馬を止めて、外套を彼女の頭から被せた。

「っ、遼展様?」
「お前達の都合は知らんが、顔を合わせたくないならそれでも被って精々隠せ。身元を尋ねられたら私の縁者ということにすれば追求もされん」

 そうとまで言われれば、渋々でも頷くより他にない。大人しく言われるがままにする幸菜を見届けて、遼展はまた馬を走らせた。
 あと半刻もしないうちに城へ着く。正式な来訪だ、不審を露にしようとも運びを滞らせようとする者もいないだろう。
 とはいえ、たかが布一枚で隠し通せるほど彼が甘くはないことを、遼展はよく知っていた。
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