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糸
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我ながら、難儀な道を選んだものだ。
そう思いながらも、幸菜の心は陽だまりのように温かで穏やかだった。
頼るべき生家も後見もない身の上はひどく頼りないはずなのに、たったひとつの言葉で払拭されてしまった。何の根拠もないはずなのに、大丈夫だと思えるのだ。
「な、んで………」
驚きのあまりうまく動かない口で何とか言葉を紡ぐ彼に、自分にもわからないと曖昧に笑う。
存在を確かめるように伸ばされる手は震えていた。ゆっくりと迫る、自分よりも大きな掌。かつては怯えたそれも、今は愛しくてたまらない。
応えるように両手で包み込むと、彰久は泣きそうになった。
「どうして、戻ってきたんだ」
「逃げて、ごめんなさい」
「そうじゃないだろう!」
思いきり手を引かれ、彰久の胸に飛び込んだ。渾身の力で抱きしめてくる逞しい腕が背中で交差する。
抱きしめ返すと、一瞬彼の肩が跳ねた。
「…………何度も、何度も泣きました」
彼と出逢ってから今日まで、泣かなかった日などきっとない。身勝手に彼を恨んだこともあった。
それでも、一緒にいた時より離れた後の方がずっと辛かった。
何かを言いかけた唇に指を置いて妨げる。詫びる言葉なんて聞きたくない。
ほしいのは、ただひとつなのだから。
「もう一度、傍に置いてくれますか?」
頼るべき生家も後見もない自分だけど、傍にいてもいいですか。
不安の滲む問いに、彰久の腕の力が強くなる。聞くまでもないことだと何より伝えてくる。
「お前でなければ意味がない……!」
愛していると、涙を噛み殺した声が伝えてくれる。自分を求めてくれていると疑いようのない声。
頑張れると、心から思った。
すっと、横から伸びてきた手が前髪を掠めるように頭を撫でた。
見上げれば、得意そうにしながら満足気な遼展が、亜希と寄り添いあって微笑していた。
「どうやら、問題は解決したようだな。ーー私と彰久で、改めて同盟を結ぼう。その証として、我が縁者を嫁入らせることとする。異論のある者はいるか?」
遼展の声に答える者はいない。大半は呆然と流され、極一部の例外は物申したくともかなわず苦虫を噛み潰した。
どれだけ信じがたいことであろうと、公式の場での発言を疑うような悪手を打てはしない。同盟に関わるともなればなおさらだ。
遼展はにやりと一同を見渡し、場の終結を宣言した。
「遅くないうちにお支度も整えなくては」
ふふ、と笑う亜希は母のような心境なのだろう。楽しそうなのは構わないが、自分の事も忘れられては困る。
「二人分揃えるのは、職人が泣きそうだな」
意地悪い笑みを浮かべてそう言えば、亜希は顔を赤くして遼展の肩を思いきり叩いた。
そう思いながらも、幸菜の心は陽だまりのように温かで穏やかだった。
頼るべき生家も後見もない身の上はひどく頼りないはずなのに、たったひとつの言葉で払拭されてしまった。何の根拠もないはずなのに、大丈夫だと思えるのだ。
「な、んで………」
驚きのあまりうまく動かない口で何とか言葉を紡ぐ彼に、自分にもわからないと曖昧に笑う。
存在を確かめるように伸ばされる手は震えていた。ゆっくりと迫る、自分よりも大きな掌。かつては怯えたそれも、今は愛しくてたまらない。
応えるように両手で包み込むと、彰久は泣きそうになった。
「どうして、戻ってきたんだ」
「逃げて、ごめんなさい」
「そうじゃないだろう!」
思いきり手を引かれ、彰久の胸に飛び込んだ。渾身の力で抱きしめてくる逞しい腕が背中で交差する。
抱きしめ返すと、一瞬彼の肩が跳ねた。
「…………何度も、何度も泣きました」
彼と出逢ってから今日まで、泣かなかった日などきっとない。身勝手に彼を恨んだこともあった。
それでも、一緒にいた時より離れた後の方がずっと辛かった。
何かを言いかけた唇に指を置いて妨げる。詫びる言葉なんて聞きたくない。
ほしいのは、ただひとつなのだから。
「もう一度、傍に置いてくれますか?」
頼るべき生家も後見もない自分だけど、傍にいてもいいですか。
不安の滲む問いに、彰久の腕の力が強くなる。聞くまでもないことだと何より伝えてくる。
「お前でなければ意味がない……!」
愛していると、涙を噛み殺した声が伝えてくれる。自分を求めてくれていると疑いようのない声。
頑張れると、心から思った。
すっと、横から伸びてきた手が前髪を掠めるように頭を撫でた。
見上げれば、得意そうにしながら満足気な遼展が、亜希と寄り添いあって微笑していた。
「どうやら、問題は解決したようだな。ーー私と彰久で、改めて同盟を結ぼう。その証として、我が縁者を嫁入らせることとする。異論のある者はいるか?」
遼展の声に答える者はいない。大半は呆然と流され、極一部の例外は物申したくともかなわず苦虫を噛み潰した。
どれだけ信じがたいことであろうと、公式の場での発言を疑うような悪手を打てはしない。同盟に関わるともなればなおさらだ。
遼展はにやりと一同を見渡し、場の終結を宣言した。
「遅くないうちにお支度も整えなくては」
ふふ、と笑う亜希は母のような心境なのだろう。楽しそうなのは構わないが、自分の事も忘れられては困る。
「二人分揃えるのは、職人が泣きそうだな」
意地悪い笑みを浮かべてそう言えば、亜希は顔を赤くして遼展の肩を思いきり叩いた。
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