暴君は野良猫を激しく愛す

藤良 螢

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何よりも今は

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 ゆっくりと夜の帳が降り始めた頃、幸菜は彰久に連れられて座敷に通された。しばらくぶりのそこは以前と何一つ変わったところはない。それに少し安堵すると、背後から強く抱きしめられた。
 胸元で交差する彼の腕にそっと手を添える。

「もう、大丈夫ですよ」

 もう逃げたりしない。そう伝えるように彼の腕を抱きしめるけれど、抱きしめる力は緩まらなかった。
 さっきまでの茶の席ではまだ理性的だったのに、人目を離れて我慢ならなくなったらしい。その原因の一端が自分にあることを自覚しているから、幸菜も苦笑いするより他になかった。

 遼展が後見についたとはいえ、この輿入れに懐疑的な者が大半を占めていた。粗探しをする者も、十では済まなかった。同性である女中ほどそれは顕著だった。
 だが、それもすべては過ぎたことである。上役らしい老臣の提案で急遽設けられた茶の席で、幸菜はその所作のみによって反論をねじ伏せた。
 老臣は、幸菜を晒し者にでもする心算だったのだろう。
 せいぜいが付け焼き刃と侮っていただろう。
 けれど、幸菜には教養があった。現代を生きていた頃、母の言いつけでこの時代にも通用する教養を身につけていた。
 彼らには大打撃を与えたそれを、遼展と亜希はさすがに見事だと誇らしげな微笑みで称賛した。同じく幸菜を賛美する人の輪の外れで悔しさに唇を噛んでいた彼女も、もう波立てることはできないことを理解しているはずだ。
 年近いからこそ、余計な嫉妬を生んだのだろう。今はまだ叶わずとも、いつの日か彼女と妥協できればと思う。

 ちゅ、と。思考を遮るように口付けが降ってきた。頬に、項に、首筋に。一つ一つ範囲を広げていくそれが擽ったくて身を捩ると、耳朶に歯を当てられた。ついで、徐になぞり舐られる。

「っん、ちょ、殿様……っ」

 甘えるような仕草だったものが、次第に色を漂わせてくる。咎めるように見上げた先の瞳は、思わず息を呑むほど切ない欲情が溢れていた。
 しゅるりと帯が解かれる。慌てて手を突っ撥ねるも、その手は容易く絡め取られた。

「ま、まって、先に話を……」

 流されてはいけないと自戒しているが、いつまで保つものか。そんなものは後回しだ、と彰久が手を伸ばしてくる。

「聞きたいことも、聞かねばならんこともあるが…………今は、何よりお前が欲しい」

 駄目か? と不安げに尋ねてくる彼はずるい。
 そんな目で、顔で、そんなことを言われては断れないことを知っているのだ。
 恨めしい目を向けられるが拒まれないのを都合良く解釈して、彰久は彼女の機嫌をとるべく甘く優しい口づけを幾度と捧げた。
 布団の上に縫いとめられ、快楽のみを与えようとしてくる彼の手に、幸菜も間違いなく興奮していた。
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