エッケハルトのザマァ海賊団 〜金と仲間を求めてゆっくり成り上がる〜

スィグトーネ

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5.キャプテン、ウイスキーデビル

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 その船長と思しき風貌の男を睨んでいると、隣から声が聞こえてきた。
「ハルト君……気づいてる?」

 この声は猫族マーチルの声だ。僕ももちろんと思いながら答える。
「敵が……他にもいる」
「ザコは私に任せて。その間の足止めだけでも……お願い!」


 マーチルが走ると、僕もその船長に斬りかかった。
 僕が船長とぶつかり合うまでの間に、マーチルは海賊1人を斬り伏せ、2人目の顔面にも蹴りを入れている。こんなに速く動けるなんて……本当に凄いと思う。僕も負けてはいられない。

 船長も応戦したため、僕はつばぜり合いをすることになった。
「うお……兄ちゃん、なかなか……力があるな」
「伊達に……鍛えてないからな!」

 そう言いながら更に力を加えると、海賊船長は押し負けたと見え、後退して体勢と整えていた。
 その直後に、海賊の1人の断末魔が聞こえてくる。
「また一人やられたのか……うちは本当にだらしねえヤローばかりだ」
「安心しろ、次はお前の番だ!」

 そう言いながら再び斬りかかると、船長は僕の剣を受けきれなかったらしくよろけた。今がチャンスだ!
 勢いがついたまま体当たりを見舞うと、船長は完全にバランスを崩して転倒し、僕が剣を振り下ろすとギリギリのところで避けながら床を転がっていく。
「くっそ……ちっとばかし、酔い過ぎたか……」

 船長はそう呟きながら、今度は腰に下げていたナイフを抜いた。
 すると……何だろう。とつぜん僕の視界が揺れたように感じる。
「……?」

 気のせいではないようだ。僕の体は完全に平穏時の状況ではなく、身体も徐々に熱い状態になっている。これって……これってもしかして!
「これは……お前のアビリティか!?」

 船長はニヤッと歪んだ笑みを浮かべていた。
「そう……これは、俺様のアビリティ強制酒宴クレイジードリンキング。だけどもちろん……それだけじゃねえ」


 そう言うと船長は、自分の肩に刺さった妙な金属を見せてきた。
 なんだろう……その妙なモノには見覚えがあるような気がする。
「それ……もしかして……」
「ほう……やはり、お前にも見えるのか!」
 今の言葉を聞いて確信した。この男もまた……僕と同じ宿命を持っているのだろう。

「もしかしたら聞いたことがあるかもしれねーな。コイツは……ユニコーンのオーブ。その破片が体に刺さってから、俺様のアビリティは増幅されたみたいなんだ」
 そこまで言うと、この船長は不敵に笑った。
「お前からも、似たニオイがするぜ?」
 なるほど、と思うと、僕は自分の髪の毛をかき分けることにした。
「……アンタも、コイツが見えるというワケだな」
「ああ! 殺して奪うのが……海賊というもんだ!」

 海賊船長がそう叫ぶと、僕の頭のオーブの破片と、船長の肩に刺さっているオーブの破片が赤々とした光を放っていた。これはもう勝負をするしかなさそうだ。
「…………」


 要するに海賊船長の特殊能力は、特定の範囲内に入り込んだ敵を酔わせるというモノか。僕は酒にそれほど弱くはないが、マーチルは!?
 そっと横目で彼女を見ると、ちょうど最後の海賊の手下を蹴り倒していた。

 意外と……彼女は……
 そう楽天的に考えようとしたとき、マーチルは振り返った。
「なんかぁ……すご~~く、いい気分!」


 僕はその姿を見て唖然としていた。
 マーチルは口からよだれを流し、顔はすでに真っ赤になりながらこちらを眺めている。更によく見てみると、視線の向きも安定していないぞ。
「お待たせぇ……ヒック……じゃあ、オオモノぉヒック……やっつけるよぉ?」

 ま、ま、真っ直ぐに、真っ直ぐに歩いていない。
 これ……泥酔する一歩手前なのでは!?
「お、おい……待て、マーチル! お前、大分酔っ払ってる!」
「よってなぁ! いっ!!」


 そう言いながら向かって行くマーチルだったが、海賊船長は棒立ちしているだけで十分だった。
 すでに千鳥足になっているマーチルは、船長を攻撃しようとしても真っ直ぐに歩くことすらできず、まるで1人でバカ踊りを踊っているようだった。

「おお、だいぶ出来上がってるねぇ……お嬢ちゃん」
「うるせぇ……ヒック、ここららが、らーひるサマのヒック……腕の……」

 船長は軽々とマーチルの攻撃を交わすとマーチルを捕まえて羽交い絞めにした。
 マーチルはもちろん嫌がって暴れていた。だけど完全に酔っ払っているマーチルでは、大して力も出せないようだ。
「やめろ……やめ……」
「お楽しみは、ここからだぜ?」

 船長は、そのままマーチルの首も押さえつけると、鼻の辺りに息を吹きかけていた。するとマーチルはまぶたをゆっくりと閉じて、スヤスヤと寝息をたてはじめたのである。
「獣人族ってのは、すぐに酔っ払っちまっていかんね」

 そう言うと、コイツはマーチルを部屋の隅に投げ捨てたが、彼女は起きる様子すらなかった。
「後で檻にでもぶち込んで奴隷商にでも売り飛ばすとするか」
「そうはさせないぞ!」

 僕がそう言いながら歩み出ると、足の踏ん張りが利かなくなっていた。
 まずい。僕自身もかなり酔っ払ってきている。船長は笑いながら言った。
「兄ちゃんもその状態でいつまで持つかな!?」


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