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6.ウイスキーデビルの弱点
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僕は、おう吐したくなるのを我慢しながら考えた。
この船長の能力は、同じ空間にいる相手を強引に酔わせるというシロモノだ。これは感覚の鋭い獣人や獣系の相手に対して、存分に力を発揮する。
だから、苦しいからと……ミホノシュヴァルツ号に助けを求めるのは悪手だ。アイツはウマなのだから、マーチル以上に感覚が鋭いはず。きっとすぐに酔っ払ってしまう。
さて、この一見便利な固有特殊能力だって無尽蔵に使える訳ではない。
例えば、前のパーティーにいたシスターのソフィアは、聖者の領域という能力を持っていた。これが発動すると、アンデッドがダメージを受け続けるワケだが、自分の精神力……つまりMPを消費していく。
海賊船の船長にも、もちろん弱点はあるはずなんだ。
わかっていることは、同じ空間にいる相手を酔わせる。凄く接近するとその効果が強くなる。そして……息を吹きかけると、相手の酔いはますます強くなる。
「気分が悪そうな顔をしているなぁ……さては、お前さん、下戸だなぁ?」
「…………」
悔しいが、その通りだ。
僕はどういうワケか、生まれた時からあまりお酒には強くないし、少しでも深酒すると翌日には二日酔いに悩まされてしまう。だから酒宴も修業という名目で先に上がらせてもらっていたくらいだ。
その船長はバカにしたように笑った。
「俺はなぁ……酒豪が好きなんだよ。ジョッキで10杯ビールが飲める奴は、どんなクズでもとりあえず生かす! お前は……無理そうだなぁ?」
こうやってべらべらと喋るのは酔っ払っているからというのもあるだろうが、時間が経過すれば経過しただけ、僕に酔いが回るということか。
参ったな……少しずつ清浄な……ん、正常な思考ができなくなってきている。足に踏ん張りが利かない。
僕は遂に、壁に寄りかかりながら、何とか船長を睨んでいた。
「そろそろお前も死ぬかぁ? そんだけ酔っ払ってればよぉ……痛みも感じねぇだろうよぉ?」
よたよた歩きながら、船長が向かってくる。
多分だけど歪で残忍な笑みを浮かべているのだろう。ああ……店長が2人、いや3人に見える。このままじゃ……終わるな。
ん、いま僕は船長ではなく店長と考えていたか。こりゃあいい。相手が店長ならもう閉店の時間ってやつか……はははは……。閉店と言えばドアとま……。
…………
…………
そういえばさ、この部屋って……どうして窓を閉め切っているんだ?
こんなに臭気が籠っているのなら、普通は換気くらいはしたくなる。本人が酔っ払っているからと言えばそれまでだけど、ここには手下たちだっていたはずだ。
なら、換気しないのは……不自然だろう!
僕はすでに酔っ払っている。平衡感覚すら麻痺してしかかっている。だけど、出てこい……エッケザックス。
その全てを出せないまでも、せめて……あれだけは!
「しねい!」
その声が聞こえてくると同時に、僕の手元には宝玉コンパスだけが姿を現していた。
針の先は黄色に輝くとくるりと回転して、脳内に向けて直接方角を教えてくれた。僕はその方向に向かって、自分の剣を投げつけた。
ガタンという音が響くと、雨戸が吹き飛んで明るい日差しと、懐かしい潮風が部屋の中へと吹き込んで来た。
すると、僕の感覚が徐々に覚醒してくる。
対照的だったのが船長だった。サーベルを振り上げたまま怯えた様子で壊れた雨戸に視線を向け、そして病人のように真っ青な顔をしている。
「新鮮な空気だ……酔い覚ましには……ピッタリだね!」
そう伝えると、敵である船長は後ろに下がろうとした。しかし後は壁だ。
「ま、ま、待て……まて、お、お前も……俺の手下に……そうだ、手下に……」
「さっきまでの威勢はどうした?」
僕はゆっくりと前に歩み出た。
「笑ってみなよ?」
間違いなかったようだ。
この船長の能力は、閉め切っている空間にしか有効ではないようだ。もしかしたら、自分自身が服用したお酒を散布して周囲の生き物を酔わせる能力なのかもしれない。
さらに一歩前に出ると、船長は激昂した。
「こ、この……下手に出てりゃ調子に乗りやがって……このクソガキ、この獣人女がどうなってもいいのか!?」
そう言いながら船長は眠っているマーチルを掴み上げ、ナイフをその首に突きつけようとした。
すると……
「調子に乗るんじゃないよ!」
マーチルは一瞬のうちに目をぱっちりと開くと、その細腕からは虎の毛が生え、一瞬にして船長を投げ飛ばしていた。これが……彼女のアビリティ!
――獅子族の切り札!!
「おぎゃほ!?」
「更に!」
それだけでは彼女の気は済まなかったらしく、マーチルは寝技を使って船長に関節技をかけた。
船長の凄まじい叫び声が響く。
「はぎょぼぐハゲrリナあろっ!」
「はい、ハルト君……縄ちょうだい」
「あ、ああ……」
キャプテン、ウイスキーデビルを倒すと、肩の光はなくなり、僕の頭の破片が少し大きくなったようだ。
それだけでなく、海賊船長のポケットから大きな金貨が10枚以上出てきた。
「…………」
コインを掴むと、今までの苦労を思い出していく。
「…………」
僕が冒険者時代に手にした年収は……これ1枚だけだった。
朝から晩までガンスーンの奴に罵られ、他の女性たちにも見下され、365日のあいだ休みなく働いてやっと1枚になる大金貨。しかも、ここから生活費や食費が引かれるから、僕の手元には何も残らなかった。
恐らく、このキャプテン・ウイスキーデビルも、そんな昔の僕のような奴のなけなしの稼ぎを、暴力と脅しによって奪い取ってきたのだろう。
僕は……そんな男をねじ伏せ、自分の15年分の稼ぎを……たった1日で、奪い取ったんだ。
気持ちい……エセ強者を踏みにじるのって……最っ高っっに気持ちいい!
この船長の能力は、同じ空間にいる相手を強引に酔わせるというシロモノだ。これは感覚の鋭い獣人や獣系の相手に対して、存分に力を発揮する。
だから、苦しいからと……ミホノシュヴァルツ号に助けを求めるのは悪手だ。アイツはウマなのだから、マーチル以上に感覚が鋭いはず。きっとすぐに酔っ払ってしまう。
さて、この一見便利な固有特殊能力だって無尽蔵に使える訳ではない。
例えば、前のパーティーにいたシスターのソフィアは、聖者の領域という能力を持っていた。これが発動すると、アンデッドがダメージを受け続けるワケだが、自分の精神力……つまりMPを消費していく。
海賊船の船長にも、もちろん弱点はあるはずなんだ。
わかっていることは、同じ空間にいる相手を酔わせる。凄く接近するとその効果が強くなる。そして……息を吹きかけると、相手の酔いはますます強くなる。
「気分が悪そうな顔をしているなぁ……さては、お前さん、下戸だなぁ?」
「…………」
悔しいが、その通りだ。
僕はどういうワケか、生まれた時からあまりお酒には強くないし、少しでも深酒すると翌日には二日酔いに悩まされてしまう。だから酒宴も修業という名目で先に上がらせてもらっていたくらいだ。
その船長はバカにしたように笑った。
「俺はなぁ……酒豪が好きなんだよ。ジョッキで10杯ビールが飲める奴は、どんなクズでもとりあえず生かす! お前は……無理そうだなぁ?」
こうやってべらべらと喋るのは酔っ払っているからというのもあるだろうが、時間が経過すれば経過しただけ、僕に酔いが回るということか。
参ったな……少しずつ清浄な……ん、正常な思考ができなくなってきている。足に踏ん張りが利かない。
僕は遂に、壁に寄りかかりながら、何とか船長を睨んでいた。
「そろそろお前も死ぬかぁ? そんだけ酔っ払ってればよぉ……痛みも感じねぇだろうよぉ?」
よたよた歩きながら、船長が向かってくる。
多分だけど歪で残忍な笑みを浮かべているのだろう。ああ……店長が2人、いや3人に見える。このままじゃ……終わるな。
ん、いま僕は船長ではなく店長と考えていたか。こりゃあいい。相手が店長ならもう閉店の時間ってやつか……はははは……。閉店と言えばドアとま……。
…………
…………
そういえばさ、この部屋って……どうして窓を閉め切っているんだ?
こんなに臭気が籠っているのなら、普通は換気くらいはしたくなる。本人が酔っ払っているからと言えばそれまでだけど、ここには手下たちだっていたはずだ。
なら、換気しないのは……不自然だろう!
僕はすでに酔っ払っている。平衡感覚すら麻痺してしかかっている。だけど、出てこい……エッケザックス。
その全てを出せないまでも、せめて……あれだけは!
「しねい!」
その声が聞こえてくると同時に、僕の手元には宝玉コンパスだけが姿を現していた。
針の先は黄色に輝くとくるりと回転して、脳内に向けて直接方角を教えてくれた。僕はその方向に向かって、自分の剣を投げつけた。
ガタンという音が響くと、雨戸が吹き飛んで明るい日差しと、懐かしい潮風が部屋の中へと吹き込んで来た。
すると、僕の感覚が徐々に覚醒してくる。
対照的だったのが船長だった。サーベルを振り上げたまま怯えた様子で壊れた雨戸に視線を向け、そして病人のように真っ青な顔をしている。
「新鮮な空気だ……酔い覚ましには……ピッタリだね!」
そう伝えると、敵である船長は後ろに下がろうとした。しかし後は壁だ。
「ま、ま、待て……まて、お、お前も……俺の手下に……そうだ、手下に……」
「さっきまでの威勢はどうした?」
僕はゆっくりと前に歩み出た。
「笑ってみなよ?」
間違いなかったようだ。
この船長の能力は、閉め切っている空間にしか有効ではないようだ。もしかしたら、自分自身が服用したお酒を散布して周囲の生き物を酔わせる能力なのかもしれない。
さらに一歩前に出ると、船長は激昂した。
「こ、この……下手に出てりゃ調子に乗りやがって……このクソガキ、この獣人女がどうなってもいいのか!?」
そう言いながら船長は眠っているマーチルを掴み上げ、ナイフをその首に突きつけようとした。
すると……
「調子に乗るんじゃないよ!」
マーチルは一瞬のうちに目をぱっちりと開くと、その細腕からは虎の毛が生え、一瞬にして船長を投げ飛ばしていた。これが……彼女のアビリティ!
――獅子族の切り札!!
「おぎゃほ!?」
「更に!」
それだけでは彼女の気は済まなかったらしく、マーチルは寝技を使って船長に関節技をかけた。
船長の凄まじい叫び声が響く。
「はぎょぼぐハゲrリナあろっ!」
「はい、ハルト君……縄ちょうだい」
「あ、ああ……」
キャプテン、ウイスキーデビルを倒すと、肩の光はなくなり、僕の頭の破片が少し大きくなったようだ。
それだけでなく、海賊船長のポケットから大きな金貨が10枚以上出てきた。
「…………」
コインを掴むと、今までの苦労を思い出していく。
「…………」
僕が冒険者時代に手にした年収は……これ1枚だけだった。
朝から晩までガンスーンの奴に罵られ、他の女性たちにも見下され、365日のあいだ休みなく働いてやっと1枚になる大金貨。しかも、ここから生活費や食費が引かれるから、僕の手元には何も残らなかった。
恐らく、このキャプテン・ウイスキーデビルも、そんな昔の僕のような奴のなけなしの稼ぎを、暴力と脅しによって奪い取ってきたのだろう。
僕は……そんな男をねじ伏せ、自分の15年分の稼ぎを……たった1日で、奪い取ったんだ。
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