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18.ドワーフの港町ハンマーブルグ
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洋上で取引してから3日後。
僕たちは、港町ハンマーブルグに寄港した。
ここは周辺地域と比べても発展した港町で、多くの商船が寄港しているだけでなく、町そのものが軍隊を持っているため準都市国家と呼ばれるほどだ。
僕はさっそく仲間たちを見た。
「街を見て回りたい人」
手を上げたのは、マーチル、オフィーリア、エリン、リーゼの女性陣全員だった。ドワーフのニッパーも笑いながら言う。
「ここはドワーフの町だからな。ワシが行った方がいいだろう」
ミホノシュヴァルツ号は町を見下ろして、少し考えてからこちらを見てきた。
『逆に吾が行ったら邪魔になりそうだな。留守は引き受けるゆえ……皆で行ってきたらどうだ?』
「気を遣わせてすまない」
出発の準備を進めていると、オフィーリアは右目に眼帯を付けてきた。
「どうしたんだい? 目の調子が悪いのかい?」
「いいえ、これはいつものことなんです」
どうやらオフィーリアは、アビリティ【アブソルート・マナ・センス】を持っているため、人混みなどに入ると過剰な視覚的な刺激を受けてしまうようだ。
そう言えば人魚の島でも、戦いの際は隠れていたのを思い出す。
「絶対マナ感覚だっけ……便利そうに見えて大変なんだね」
「全員が全員、影響を受ける訳ではありませんが……片側だけ耳栓をしたり、味覚異常が起きたり、頭痛を感じたりと、人によって様々な症状に悩まされているようです」
その話を聞いていたニッパーやマーチルも、頷きながら言った。
「絶対音感の持ち主が、生活音や雨音なんかに悩まされているようなモンだな」
「アビリティがあることのリスク……というヤツだね」
歩きながら、僕たちはエリンから人魚族の平均的な体格に付いて聞いた。
どうやら彼らは海に潜って戦うことも多く、話を聞いているうちにチェインメイルのような鎖状の防具がいいことや、定期的に手入れなどをする必要もあることがわかってきた。
「なるほど……そうなると、ここで失業しているドワーフを何人か見つけて仲間にしたいところだな」
僕もそれがいいとは思うけど、船大工であるニッパーはやはり手放したくないし、できれば船のダメージコントロールができるような人材はもっと欲しいところだ。
そんなことを考えていたら、僕は何と誰かと肩がぶつかって相手を倒してしまった。
「……! すまない、大丈夫かい?」
そう言って手を差し伸べると、相手は有翼人の少女だった。
「ご、ごめんなさい……私もボーっとしていたから……」
彼女は僕が差し出した手を握ると、ゆっくりと立ち上がった。青い翼を持つ少し風変わりな雰囲気を持つ少女だ。彼女も買い物か何かに来たのだろうか。
彼女は僕をじっと見ると、困り顔のまま聞いてきた。
「ところで、この辺でウマを見かけませんでしたか?」
「ウマ?」
「はい。黒毛で前脚2本と、後ろ右足が白い仔なんです……少し目を離した隙にいなくなってしまって……」
その話を聞いていたニッパーは、難しい顔をしている。
「悪いが、見かけてねえな……」
「そうですか……ありがとうございます」
何だか心配になる少女だが、こちらにはこちらでやることがある。
僕たちは早速、防具屋に向かうとチェインメイルの値段を見てみることにした。
「……へぇ、けっこう安価で買えるんだね」
「ああ、これは少し調整すれば女性用とかにもなりそうだな」
真珠と大金貨3枚ほどで、チェインメイルを100着ほど入手したわけだけど、これは改めて凄いことだと思う。
あのガンスーンの奴でも、チェインメイルをこんなに買い込むことは不可能だろう。アイツは僕だけでなく、女の子たちの稼ぎの上前をはねていたけど、それでも年収は大金貨10枚前後。チェインメイルを100着なんて買えるのはSランク冒険者チームのリーダーくらいだ。
荷車をレンタルすると、僕たちはチェインメイルを船へと運び込んだ。
「モノがモノだから、運ぶのも楽だね」
「そりゃそうだ。鉄でできているとはいえ服のようなモノだからな」
積み荷を船に運び終えると、僕たちは再び町に出た。
せっかく荷車もあるのだから、ウイスキーなどを仕入れておきたい。一角獣ミホノシュヴァルツ号の話によれば、ウイスキーがあれば消毒などにも使えるし、水で薄めれば飲酒も楽しめるからだ。
酒屋に入ると、中の品物を見てニッパーは唸った。
「ほほう……これはいい匂いだ。上質な酒が揃っていると見える」
「シュヴァルツ号へのお土産も用意しないとね」
「ウマも飲酒を楽しむのか? なら、ワシと話が合いそうだな」
「残念ながら、治療に使おうと思っているみたいだ」
そう事実を伝えると。ニッパーは残念そうな顔をした。
「まあ、一角獣らしい考え方だな。飲酒の楽しさを知らんのは人生の半分を損しているが……」
まあ、飲んでることもあるけどね。
酒の調達はエリンが稼いでくれた銀貨で行うので、基本的に彼女の意見が反映される。
彼女は治療に役立つウイスキーを中心に、ビールなどを大銀貨が許す限り購入した。まあそれでも、ウイスキーがなかなか高額なので、ウイスキーを樽3つ、ビールを5つしか買えなかったわけだが……
「うーん……もう少し銀貨を稼いでおけばよかったでしょうか?」
エリンが言うと、隣で聞いていたオフィーリアは答えた。
「今回は防具を仕入れることを目的にしていますからね。仕方がないのでは?」
「た、確かに……」
そんな話をしていたら、マーチルが「ほ、本気!?」と、店の外を見ながらつぶやいていた。
何事かと思いながら店の外を見ると、先ほどウマを探していた有翼人の少女が檻の中に入れられて、奴隷化させられているのである。
僕は唖然としながら近くにいた通行人に聞いていた。
「彼女に……何があったんですか?」
「ああ、あの女の子、預かっていたウマを逃がしちまったみたいでね。弁償として奴隷商に売り飛ばされちまったみたいなんだ」
同行していた女性陣の表情は青ざめていたが、僕にはこれがチャンスに思えた。
「……どうすれば、彼女を買い戻せるかな?」
「そりゃ……金を積むしかないだろうな。どうやら奴さんは、ホースレースに出場予定のウマを逃がしたみたいだから、それこそ優勝して賞金を稼ぐくらいでないと無理だろうが」
【ドワーフの職人戦士 ニッパー】
僕たちは、港町ハンマーブルグに寄港した。
ここは周辺地域と比べても発展した港町で、多くの商船が寄港しているだけでなく、町そのものが軍隊を持っているため準都市国家と呼ばれるほどだ。
僕はさっそく仲間たちを見た。
「街を見て回りたい人」
手を上げたのは、マーチル、オフィーリア、エリン、リーゼの女性陣全員だった。ドワーフのニッパーも笑いながら言う。
「ここはドワーフの町だからな。ワシが行った方がいいだろう」
ミホノシュヴァルツ号は町を見下ろして、少し考えてからこちらを見てきた。
『逆に吾が行ったら邪魔になりそうだな。留守は引き受けるゆえ……皆で行ってきたらどうだ?』
「気を遣わせてすまない」
出発の準備を進めていると、オフィーリアは右目に眼帯を付けてきた。
「どうしたんだい? 目の調子が悪いのかい?」
「いいえ、これはいつものことなんです」
どうやらオフィーリアは、アビリティ【アブソルート・マナ・センス】を持っているため、人混みなどに入ると過剰な視覚的な刺激を受けてしまうようだ。
そう言えば人魚の島でも、戦いの際は隠れていたのを思い出す。
「絶対マナ感覚だっけ……便利そうに見えて大変なんだね」
「全員が全員、影響を受ける訳ではありませんが……片側だけ耳栓をしたり、味覚異常が起きたり、頭痛を感じたりと、人によって様々な症状に悩まされているようです」
その話を聞いていたニッパーやマーチルも、頷きながら言った。
「絶対音感の持ち主が、生活音や雨音なんかに悩まされているようなモンだな」
「アビリティがあることのリスク……というヤツだね」
歩きながら、僕たちはエリンから人魚族の平均的な体格に付いて聞いた。
どうやら彼らは海に潜って戦うことも多く、話を聞いているうちにチェインメイルのような鎖状の防具がいいことや、定期的に手入れなどをする必要もあることがわかってきた。
「なるほど……そうなると、ここで失業しているドワーフを何人か見つけて仲間にしたいところだな」
僕もそれがいいとは思うけど、船大工であるニッパーはやはり手放したくないし、できれば船のダメージコントロールができるような人材はもっと欲しいところだ。
そんなことを考えていたら、僕は何と誰かと肩がぶつかって相手を倒してしまった。
「……! すまない、大丈夫かい?」
そう言って手を差し伸べると、相手は有翼人の少女だった。
「ご、ごめんなさい……私もボーっとしていたから……」
彼女は僕が差し出した手を握ると、ゆっくりと立ち上がった。青い翼を持つ少し風変わりな雰囲気を持つ少女だ。彼女も買い物か何かに来たのだろうか。
彼女は僕をじっと見ると、困り顔のまま聞いてきた。
「ところで、この辺でウマを見かけませんでしたか?」
「ウマ?」
「はい。黒毛で前脚2本と、後ろ右足が白い仔なんです……少し目を離した隙にいなくなってしまって……」
その話を聞いていたニッパーは、難しい顔をしている。
「悪いが、見かけてねえな……」
「そうですか……ありがとうございます」
何だか心配になる少女だが、こちらにはこちらでやることがある。
僕たちは早速、防具屋に向かうとチェインメイルの値段を見てみることにした。
「……へぇ、けっこう安価で買えるんだね」
「ああ、これは少し調整すれば女性用とかにもなりそうだな」
真珠と大金貨3枚ほどで、チェインメイルを100着ほど入手したわけだけど、これは改めて凄いことだと思う。
あのガンスーンの奴でも、チェインメイルをこんなに買い込むことは不可能だろう。アイツは僕だけでなく、女の子たちの稼ぎの上前をはねていたけど、それでも年収は大金貨10枚前後。チェインメイルを100着なんて買えるのはSランク冒険者チームのリーダーくらいだ。
荷車をレンタルすると、僕たちはチェインメイルを船へと運び込んだ。
「モノがモノだから、運ぶのも楽だね」
「そりゃそうだ。鉄でできているとはいえ服のようなモノだからな」
積み荷を船に運び終えると、僕たちは再び町に出た。
せっかく荷車もあるのだから、ウイスキーなどを仕入れておきたい。一角獣ミホノシュヴァルツ号の話によれば、ウイスキーがあれば消毒などにも使えるし、水で薄めれば飲酒も楽しめるからだ。
酒屋に入ると、中の品物を見てニッパーは唸った。
「ほほう……これはいい匂いだ。上質な酒が揃っていると見える」
「シュヴァルツ号へのお土産も用意しないとね」
「ウマも飲酒を楽しむのか? なら、ワシと話が合いそうだな」
「残念ながら、治療に使おうと思っているみたいだ」
そう事実を伝えると。ニッパーは残念そうな顔をした。
「まあ、一角獣らしい考え方だな。飲酒の楽しさを知らんのは人生の半分を損しているが……」
まあ、飲んでることもあるけどね。
酒の調達はエリンが稼いでくれた銀貨で行うので、基本的に彼女の意見が反映される。
彼女は治療に役立つウイスキーを中心に、ビールなどを大銀貨が許す限り購入した。まあそれでも、ウイスキーがなかなか高額なので、ウイスキーを樽3つ、ビールを5つしか買えなかったわけだが……
「うーん……もう少し銀貨を稼いでおけばよかったでしょうか?」
エリンが言うと、隣で聞いていたオフィーリアは答えた。
「今回は防具を仕入れることを目的にしていますからね。仕方がないのでは?」
「た、確かに……」
そんな話をしていたら、マーチルが「ほ、本気!?」と、店の外を見ながらつぶやいていた。
何事かと思いながら店の外を見ると、先ほどウマを探していた有翼人の少女が檻の中に入れられて、奴隷化させられているのである。
僕は唖然としながら近くにいた通行人に聞いていた。
「彼女に……何があったんですか?」
「ああ、あの女の子、預かっていたウマを逃がしちまったみたいでね。弁償として奴隷商に売り飛ばされちまったみたいなんだ」
同行していた女性陣の表情は青ざめていたが、僕にはこれがチャンスに思えた。
「……どうすれば、彼女を買い戻せるかな?」
「そりゃ……金を積むしかないだろうな。どうやら奴さんは、ホースレースに出場予定のウマを逃がしたみたいだから、それこそ優勝して賞金を稼ぐくらいでないと無理だろうが」
【ドワーフの職人戦士 ニッパー】
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