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19.ホースレースにエントリー
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僕はすぐに、有翼人の少女を所有している奴隷商人に話しかけた。
「このオッチョコチョイな有翼人が欲しいなんて、兄ちゃんも物好きだね」
「いくらなんだい?」
「値段はそこに書いてあるよ」
有翼人だから大金貨10枚か。若い騎士が使うウマと同じくらいの金額ということになる。
僕は大金貨1枚を出した。
「頭金を払うから、予約済みという契約をして欲しい」
「その年で船を持っているって噂だけど、さすがに金持ってるね兄ちゃん!」
すぐに船へと戻ると、詳しいことをミホノシュヴァルツ号に伝えた。
彼は『なるほど……』と呟くと、納得した様子で微笑んでいる。
『悪くない話だ。そういうことなら一肌脱ごう』
「実は大金貨10枚なら、船の中にあるんだけど……コイツを使ったらいざという時の金がなくなるしな」
『手許現金は、ある程度は残しておいた方がいい。で……そのレースの参加費用は?』
「小金貨5枚だ」
金額を伝えると、シュヴァルツ号は不敵に笑っていた。さすがに黒い馬体のコイツが笑うと、嗤っているように見えてくる。
『エビでタイをつり上げるのも、海賊の醍醐味……やるとしよう』
2人で話を進めていると、マーチルは不思議そうな顔をした。
「シュバって、脚は速いの?」
『こう見えてもキシダンブラック産駒の端くれだ。まあ見ていてくれ』
こうして僕たちは、ホースレースにエントリーしたわけだが、ここには手強そうな金持ちたちが大勢エントリーしていた。
アドラー商会の名馬、グリューンアドラー。
バナン冒険者ギルドの名馬、バナンリッター。
エメスト職人ギルドの名馬、ブラウンエメスト。
つーか、この3頭は特にユニコーンじゃん。
参加するウマは合わせて16頭となり、距離は2400メートル。芝コースを走ることになるようだが、シュヴァルツ号は大丈夫だろうか。
『芝か……なかなか手入れされていて、踏み心地がいいな』
どうやらシュヴァルツ号は、図太さも一級品のようです。
「ちなみに、どうやって勝つ?」
『あまり目立ちたくないからな。馬群に紛れながら後半まで待機し……どさくさに紛れて……』
そんな内緒話をしていると、後ろから「退け、貧乏人!」という言葉が聞こえてきた。
素早く退いてから、そっと様子を窺うと、3大優勝候補の1人であるバナンがウマを連れて、会場であるレース会場を我が物顔で練り歩いていた。
この男、特に僕たちに危害をくわえてきたワケではないが、アゴを突き出したまま偉そうに歩いているので、何だか見ているだけで無性に腹が立ってくる。なんというか庶民をバカにした態度が全身からにじみ出ている。
思わずシュヴァルツ号を見ると、僕たちは苦笑していた。
まあ、金持ちと言っても成金のような人もいるだろう。僕たち貧乏人の中にも素行の悪い奴はいるんだから、これくらいはまあ……ねぇ?
そんなことを考えていたら、貴婦人と思われる女性がしずしずと歩いてくると、やがて僕のことを覗き込んで来た。
「…………」
「……な、なんです?」
「……鑑定結果は、銅貨2枚ね」
「は……?」
この時は放心状態になった僕だけど、正常な思考に戻ったら思い出した。
今のはエメスト職人ギルドのギルド長の妻だ。彼女は確か……道端の石ころの値打ちも判定するという、驚異のオノノケ貴婦人だった。
このオノノケ貴婦人は、次にシュヴァルツ号の顔を覗き込んで来た。
『…………?』
「…………」
『…………』
「……鑑定結果は、大銀貨3枚ね」
その言葉を聞いた途端に、シュヴァルツ号も信じられないと言いたそうな表情をしていた。
確かに、一角獣である名馬中の名馬のシュヴァルツに対して大銀貨3枚はないだろう。よぼよぼで今すぐに死にそうな老馬だって、小金貨2枚くらいの値打ちがある。
「ゴミ同士でお似合いですね……おっーほっほっほっほっほ……」
普段は温厚なシュヴァルツ号も、一気に機嫌が悪くなったらしく耳を絞ってこめかみに青筋を走らせていた。まあでもさ……いいじゃんシュヴァ。僕なんて銅貨2枚だぞ。
『吾のことをコケにしおって……高くつくぞ高飛車女が』
今から怒ってもレースは明日なのでシュヴァルツ号をなだめていると、今度は別の人物が歩いてきた。
「おお、何と艶のあるウマなんだ……美しい!」
そう言いながら近づいてきたのは、きちんとした紳士という様子の男性だった。先ほどの2人が立て続けに成金だったので、よりこの男性が紳士に感じる。
「褒めて頂いて光栄です」
「何という名前の仔なのだね?」
「ミホノシュヴァルツといいます」
その男性は「ミホノシュヴァルツ……」と呟くと、その毛並みをじっくりと眺めた。
「見事な毛並みです。お手入れは君が?」
「船員のみんなで、交代で……」
「ほう……愛されているんだね。この女の子は……」
『申し訳ないが、吾は牡だ』
シュヴァルツ号の機嫌が、女の子という一言で一気に悪くなったが、この紳士そうに見えた男は、底意地悪そうな笑顔を見せた。
「おおそうだったのかそうだったのか……いや、オスだとは気づかなかったよ。失敬!」
そっとシュヴァルツ号の顔色を窺うと、顔のあちこちの血管が浮き出ていた。こ、これはもう……怒り出す直前という様子だ。
『いかんな……吾もまだまだ、メンタルコントロールが稚拙だ……沈めねば……』
ボソボソと呟くと、シュヴァルツ号は天馬の微笑みを浮かべていた。
こ、こわ……ほ、ほ、本当に怖っ! 明日……何がはじまるんですか!?
【会場を視察するシュヴァルツ号】
「このオッチョコチョイな有翼人が欲しいなんて、兄ちゃんも物好きだね」
「いくらなんだい?」
「値段はそこに書いてあるよ」
有翼人だから大金貨10枚か。若い騎士が使うウマと同じくらいの金額ということになる。
僕は大金貨1枚を出した。
「頭金を払うから、予約済みという契約をして欲しい」
「その年で船を持っているって噂だけど、さすがに金持ってるね兄ちゃん!」
すぐに船へと戻ると、詳しいことをミホノシュヴァルツ号に伝えた。
彼は『なるほど……』と呟くと、納得した様子で微笑んでいる。
『悪くない話だ。そういうことなら一肌脱ごう』
「実は大金貨10枚なら、船の中にあるんだけど……コイツを使ったらいざという時の金がなくなるしな」
『手許現金は、ある程度は残しておいた方がいい。で……そのレースの参加費用は?』
「小金貨5枚だ」
金額を伝えると、シュヴァルツ号は不敵に笑っていた。さすがに黒い馬体のコイツが笑うと、嗤っているように見えてくる。
『エビでタイをつり上げるのも、海賊の醍醐味……やるとしよう』
2人で話を進めていると、マーチルは不思議そうな顔をした。
「シュバって、脚は速いの?」
『こう見えてもキシダンブラック産駒の端くれだ。まあ見ていてくれ』
こうして僕たちは、ホースレースにエントリーしたわけだが、ここには手強そうな金持ちたちが大勢エントリーしていた。
アドラー商会の名馬、グリューンアドラー。
バナン冒険者ギルドの名馬、バナンリッター。
エメスト職人ギルドの名馬、ブラウンエメスト。
つーか、この3頭は特にユニコーンじゃん。
参加するウマは合わせて16頭となり、距離は2400メートル。芝コースを走ることになるようだが、シュヴァルツ号は大丈夫だろうか。
『芝か……なかなか手入れされていて、踏み心地がいいな』
どうやらシュヴァルツ号は、図太さも一級品のようです。
「ちなみに、どうやって勝つ?」
『あまり目立ちたくないからな。馬群に紛れながら後半まで待機し……どさくさに紛れて……』
そんな内緒話をしていると、後ろから「退け、貧乏人!」という言葉が聞こえてきた。
素早く退いてから、そっと様子を窺うと、3大優勝候補の1人であるバナンがウマを連れて、会場であるレース会場を我が物顔で練り歩いていた。
この男、特に僕たちに危害をくわえてきたワケではないが、アゴを突き出したまま偉そうに歩いているので、何だか見ているだけで無性に腹が立ってくる。なんというか庶民をバカにした態度が全身からにじみ出ている。
思わずシュヴァルツ号を見ると、僕たちは苦笑していた。
まあ、金持ちと言っても成金のような人もいるだろう。僕たち貧乏人の中にも素行の悪い奴はいるんだから、これくらいはまあ……ねぇ?
そんなことを考えていたら、貴婦人と思われる女性がしずしずと歩いてくると、やがて僕のことを覗き込んで来た。
「…………」
「……な、なんです?」
「……鑑定結果は、銅貨2枚ね」
「は……?」
この時は放心状態になった僕だけど、正常な思考に戻ったら思い出した。
今のはエメスト職人ギルドのギルド長の妻だ。彼女は確か……道端の石ころの値打ちも判定するという、驚異のオノノケ貴婦人だった。
このオノノケ貴婦人は、次にシュヴァルツ号の顔を覗き込んで来た。
『…………?』
「…………」
『…………』
「……鑑定結果は、大銀貨3枚ね」
その言葉を聞いた途端に、シュヴァルツ号も信じられないと言いたそうな表情をしていた。
確かに、一角獣である名馬中の名馬のシュヴァルツに対して大銀貨3枚はないだろう。よぼよぼで今すぐに死にそうな老馬だって、小金貨2枚くらいの値打ちがある。
「ゴミ同士でお似合いですね……おっーほっほっほっほっほ……」
普段は温厚なシュヴァルツ号も、一気に機嫌が悪くなったらしく耳を絞ってこめかみに青筋を走らせていた。まあでもさ……いいじゃんシュヴァ。僕なんて銅貨2枚だぞ。
『吾のことをコケにしおって……高くつくぞ高飛車女が』
今から怒ってもレースは明日なのでシュヴァルツ号をなだめていると、今度は別の人物が歩いてきた。
「おお、何と艶のあるウマなんだ……美しい!」
そう言いながら近づいてきたのは、きちんとした紳士という様子の男性だった。先ほどの2人が立て続けに成金だったので、よりこの男性が紳士に感じる。
「褒めて頂いて光栄です」
「何という名前の仔なのだね?」
「ミホノシュヴァルツといいます」
その男性は「ミホノシュヴァルツ……」と呟くと、その毛並みをじっくりと眺めた。
「見事な毛並みです。お手入れは君が?」
「船員のみんなで、交代で……」
「ほう……愛されているんだね。この女の子は……」
『申し訳ないが、吾は牡だ』
シュヴァルツ号の機嫌が、女の子という一言で一気に悪くなったが、この紳士そうに見えた男は、底意地悪そうな笑顔を見せた。
「おおそうだったのかそうだったのか……いや、オスだとは気づかなかったよ。失敬!」
そっとシュヴァルツ号の顔色を窺うと、顔のあちこちの血管が浮き出ていた。こ、これはもう……怒り出す直前という様子だ。
『いかんな……吾もまだまだ、メンタルコントロールが稚拙だ……沈めねば……』
ボソボソと呟くと、シュヴァルツ号は天馬の微笑みを浮かべていた。
こ、こわ……ほ、ほ、本当に怖っ! 明日……何がはじまるんですか!?
【会場を視察するシュヴァルツ号】
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