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21.脳内になぜか処刑BGM
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このホースレースの距離は2400メートル。
コースは楕円形になっており、ぐるりと1周すればクリアというオーソドックスなレース場だ。
スタートで1秒も出遅れてしまったミホノシュヴァルツ号は、1頭だけ明らかに突き放された形で走ることになった。
イメージとしてウマや一角獣が15頭走っているなか、たった1頭だけ数メートルの感覚を開けてポツンと走っているような感じだ。
それを見た観客たちの中には、僕らを露骨に指さして嘲っている奴もいる。
さて、ミホノシュヴァルツ号はと言えば、相変わらず天馬のような穏やかな表情で走っている。
見たところ、あの有翼人の少女ハルフリーダは、オッチョコチョイなところはあるが、素直だし指先をよく見ると豆を作っているほど弓矢を扱っている形跡があった。
恐らく、かなり勇者や英雄適性のある人間なのではないかと思う。
そんな貴重な人間を奴隷化させるような仕打ちを見て、更に前日は散々コケ下ろされ、今もスタートを妨害されるという暴挙まで受けた。
そこまでされていて、天馬のように穏やかな顔をして走っているのが、不自然すぎる。
何だろう。嫌がらせをされ続けて、遂に頭がおかしくなってしまったのだろうか。
そんな僕の心配をよそにレースは続いていく。先頭のウマが1000メートルの目印を越えていく。ミホノシュヴァルツ号は相変わらず最下位だ。ビリから2番目のウマとの差もまだまだ遠い。
先頭のウマが向こう正面の直線コースを走り切り、3つ目のコーナーへと入った。
相変わらずミホノシュヴァルツ号は最下位。ビリから2番目のウマとの距離もまだある。
先頭のウマが第4コーナーへと入った。ゴールが少しずつ見え始めるにつれて、他のウマたちも少しずつスピードアップしていく。乗り手も次々と鞭を入れていく。すでに戦いは後半戦から終盤戦に向かおうとしている。
この時になると、さすがにミホノシュヴァルツ号はビリから2番目のウマとの距離も、2メートルくらいにまで縮めていた。だけど……このままじゃビリであることに変わりない!
そう思ったときだった。
何だろう。ミホノシュヴァルツ号が地面を蹴る音が、どこかリズムよく聞こえてきて、他のウマたちに送られている声援が交じり合って、何だか音楽のように聞こえだしたのである。
同時に今まで笑っていたミホノシュヴァルツ号の雰囲気が、がらりと変わった。
――怒りは……真っ直ぐに向けるもの!
その直後に、鋭い視線がVIP観客席のある男に向けられていた。
ミホノシュヴァルツ号は、一気にその脚運びを速めると、第4コーナーの終盤から切れ味抜群のスパートをかけ始めたのである。
最後の直線の距離は、410メートル。
残り395メートルで15番手。残り365メートルで14番手。残り335メートルで13番手に順位を上げると、ここで上り坂が現れた。
多くのウマたちにとって、心臓破りの高低差4メートル、長さ150メートルの上り坂だが、ミホノシュヴァルツ号の脚運びは衰えるどころか、更に切れ味を増した。
残り320メートルで12番手。残り310メートルで11番手。307メートルで10番手。302メートルで9番手。287メートルで8番手。278メートルで7番手。271メートルで6番手。
追い抜かれていくウマたちは、悲鳴でも上げるような表情でこちらを眺めていたが、ミホノシュヴァルツ号は気にも留めないようだ。
252メートルで5番手。236メートルで4番手。210メートルで……3強の1角に並びかけた。
相手はグリューンアドラーだ。コイツはずっと先頭を走り続けてきたが、終盤のライバルたちのスパートに付いてこれずにズルズルと落とされている。ずっと先頭を走ることの大変さだは理解するが……これも勝負の世界だ。
205メートルの地点で、僕らはグリューンアドラーを抜き去った。
次に192メートルで、バナンリッターを射程圏内に捉えた。
VIPルームからは、興奮しすぎた元紳士のバナンの姿があったが、肝心のウマの方にそんな余力は残っていない。
183メートルの地点で僕たちが抜き去ると、バナンは持っていた扇子をへし折っていた。
そしていよいよ、トップを走っていたブラウンエメストを捉えた。
その乗り手は、僕たちを睨むと鞭を振り上げて、ミホノシュヴァルツ号の目に向かって鞭を振り下ろしてきたが、僕は腕を出してその攻撃からシュヴァルツ号を守った。
手の皮膚が破れて血が噴き出してきたが、シュヴァルツ号は無事だ。
相手の乗り手は気に入らなそうに僕を睨むと、再びこちらに向けて鞭を振るってくるが、僕はそれも腕で防いだ。
ミホノシュヴァルツ号は歯を食いしばると、じりじりとグングンと身体を前へと進ませていく。敵の乗り手はせめて僕のことを妨害しようと鞭を再び振り上げると、僕の皮膚から流れ出た血がブラウンエメスト号の目に入って、ウマが暴れ出した。
鞭を大きく振り上げていた乗り手は、ウマから投げ出されると柵に突っ込んで倒れ、ウマは蛇行して走ったので、他の乗り手たちも慌てて速度を落としていく。
ミホノシュヴァルツ号は、そのまま走っていき1着でゴールした。
コースは楕円形になっており、ぐるりと1周すればクリアというオーソドックスなレース場だ。
スタートで1秒も出遅れてしまったミホノシュヴァルツ号は、1頭だけ明らかに突き放された形で走ることになった。
イメージとしてウマや一角獣が15頭走っているなか、たった1頭だけ数メートルの感覚を開けてポツンと走っているような感じだ。
それを見た観客たちの中には、僕らを露骨に指さして嘲っている奴もいる。
さて、ミホノシュヴァルツ号はと言えば、相変わらず天馬のような穏やかな表情で走っている。
見たところ、あの有翼人の少女ハルフリーダは、オッチョコチョイなところはあるが、素直だし指先をよく見ると豆を作っているほど弓矢を扱っている形跡があった。
恐らく、かなり勇者や英雄適性のある人間なのではないかと思う。
そんな貴重な人間を奴隷化させるような仕打ちを見て、更に前日は散々コケ下ろされ、今もスタートを妨害されるという暴挙まで受けた。
そこまでされていて、天馬のように穏やかな顔をして走っているのが、不自然すぎる。
何だろう。嫌がらせをされ続けて、遂に頭がおかしくなってしまったのだろうか。
そんな僕の心配をよそにレースは続いていく。先頭のウマが1000メートルの目印を越えていく。ミホノシュヴァルツ号は相変わらず最下位だ。ビリから2番目のウマとの差もまだまだ遠い。
先頭のウマが向こう正面の直線コースを走り切り、3つ目のコーナーへと入った。
相変わらずミホノシュヴァルツ号は最下位。ビリから2番目のウマとの距離もまだある。
先頭のウマが第4コーナーへと入った。ゴールが少しずつ見え始めるにつれて、他のウマたちも少しずつスピードアップしていく。乗り手も次々と鞭を入れていく。すでに戦いは後半戦から終盤戦に向かおうとしている。
この時になると、さすがにミホノシュヴァルツ号はビリから2番目のウマとの距離も、2メートルくらいにまで縮めていた。だけど……このままじゃビリであることに変わりない!
そう思ったときだった。
何だろう。ミホノシュヴァルツ号が地面を蹴る音が、どこかリズムよく聞こえてきて、他のウマたちに送られている声援が交じり合って、何だか音楽のように聞こえだしたのである。
同時に今まで笑っていたミホノシュヴァルツ号の雰囲気が、がらりと変わった。
――怒りは……真っ直ぐに向けるもの!
その直後に、鋭い視線がVIP観客席のある男に向けられていた。
ミホノシュヴァルツ号は、一気にその脚運びを速めると、第4コーナーの終盤から切れ味抜群のスパートをかけ始めたのである。
最後の直線の距離は、410メートル。
残り395メートルで15番手。残り365メートルで14番手。残り335メートルで13番手に順位を上げると、ここで上り坂が現れた。
多くのウマたちにとって、心臓破りの高低差4メートル、長さ150メートルの上り坂だが、ミホノシュヴァルツ号の脚運びは衰えるどころか、更に切れ味を増した。
残り320メートルで12番手。残り310メートルで11番手。307メートルで10番手。302メートルで9番手。287メートルで8番手。278メートルで7番手。271メートルで6番手。
追い抜かれていくウマたちは、悲鳴でも上げるような表情でこちらを眺めていたが、ミホノシュヴァルツ号は気にも留めないようだ。
252メートルで5番手。236メートルで4番手。210メートルで……3強の1角に並びかけた。
相手はグリューンアドラーだ。コイツはずっと先頭を走り続けてきたが、終盤のライバルたちのスパートに付いてこれずにズルズルと落とされている。ずっと先頭を走ることの大変さだは理解するが……これも勝負の世界だ。
205メートルの地点で、僕らはグリューンアドラーを抜き去った。
次に192メートルで、バナンリッターを射程圏内に捉えた。
VIPルームからは、興奮しすぎた元紳士のバナンの姿があったが、肝心のウマの方にそんな余力は残っていない。
183メートルの地点で僕たちが抜き去ると、バナンは持っていた扇子をへし折っていた。
そしていよいよ、トップを走っていたブラウンエメストを捉えた。
その乗り手は、僕たちを睨むと鞭を振り上げて、ミホノシュヴァルツ号の目に向かって鞭を振り下ろしてきたが、僕は腕を出してその攻撃からシュヴァルツ号を守った。
手の皮膚が破れて血が噴き出してきたが、シュヴァルツ号は無事だ。
相手の乗り手は気に入らなそうに僕を睨むと、再びこちらに向けて鞭を振るってくるが、僕はそれも腕で防いだ。
ミホノシュヴァルツ号は歯を食いしばると、じりじりとグングンと身体を前へと進ませていく。敵の乗り手はせめて僕のことを妨害しようと鞭を再び振り上げると、僕の皮膚から流れ出た血がブラウンエメスト号の目に入って、ウマが暴れ出した。
鞭を大きく振り上げていた乗り手は、ウマから投げ出されると柵に突っ込んで倒れ、ウマは蛇行して走ったので、他の乗り手たちも慌てて速度を落としていく。
ミホノシュヴァルツ号は、そのまま走っていき1着でゴールした。
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