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25.北国の玄関港

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 無人島を後にして3日後。
 僕たちは北国の玄関港と言われるダダダンスクへと到着した。

 今は風も吹いていないから、寄港する船が少ないのも理解できるが、それにしてもどこか物々しさがある。軍船の数も多いし、町の中に兵士の姿も目立つ。
 一体、どうしたのだろう。

 港に船を停泊させて近くの商会にサンゴを売りに行くと、担当者は笑顔になった。
「これは素晴らしい……」

 彼はソロバンをはじくと、僕に値段を提示してくる。
「100グラム当たり……これくらいでいかがでしょう?」
 わお、小金貨2枚か。これはここまで頑張った甲斐があるというモノだ。

 サンゴは5キログラムあったため、僕たちは大金貨10枚を手にした。これ単体だと、チェインメイル仕入れ値とトントンくらいだが、僕たちにはまだ真珠がある。
 こちらも出すと、更に大金貨6枚と小金貨7枚が出てきた。以前の僕がいかにぼったくられていたかがわかる。

「そういえば、何だか港や町に兵隊さんをよく見かけますけど、何かあったんですか?」
 そう質問すると、担当者は少し困り顔になって答える。
「実は、ミチェーリ大帝が、この港町を狙っているという噂が流れているんです」


 ミチェーリ大帝……。
 聞いたことがある。なんでも雪原の町や村を次々と征服して、その土地の人々に重税や重役を科しているという暴君だ。この辺りはツーノッパ地域でも、最も大帝の影響を強く受ける場所なので大変だろう。

「……ここって北国では貴重な凍らない港ですからね」
「ええ、ですから……我々も征服されないように備えをしているところなんです」

「なるほど。ならば、風紀の乱れになるお酒を引き取らせて頂きましょう。ウォッカはお幾らですか?」
 少し冗談交じりに言うと、担当の男性も笑いながら言った。
「それは有り難い。ちょうど去年のモノがありますので、お安くしておきますよ!」


 さすがに、ここはウォッカの名産地のひとつなので、僕の故郷やドワーフの職人街では、考えられないような値段で取引してくれた。
 船にたくさん積み込んでも、まだまだ大金貨は35枚も残っている。これは他にも有用な商品を買い込むしかない。


 安値で買えるお宝を、ミホノシュヴァルツ号に聞いてみると、彼は楽しげにウォッカの入った樽を眺めながら答えた。
『この地域は、銀細工や琥珀が有名だが、特に銀細工が安くなっているようだな』
「へぇ……またどうしてだろうな?」
『もし、戦争が起こったら、別の都市に引っ越すために現金がいる』
「ああ、なるほど……」

 この地域では、庶民も銀製品を持っているため、みんなが一斉に銀製品を売ってお金に変えようとしたから、コインの価値が上がって、銀製品の価値が大きく下がっているという話だ。
「…………」
「…………」

 普段からクルーの皆にはお世話になっているのだし、ここで好きなモノを買うというのもいいかもしれない。
 僕はまずはミホノシュヴァルツ号を見た。一番世話になっているのは彼なのだから、声をかけない方がどうかしているだろう。
「お前は、何か欲しい銀細工はあるか?」

 そう質問すると、コイツは笑いながら答えた。
『吾が欲しいのはオーブの情報と、そうだな……渡り鳥に振る舞う豆くらいだ』
「本当に欲しいモノはそれだけか?」
『ああ、ご覧の通り吾は着飾ることに魅力を感じていない。船の留守は吾がするゆえ、皆で買い物でもしてくるがいい』
「すまないな……」


 間もなく僕は、クルー全員を呼んで銀製品を買うことにした。
 彼らが欲しがるモノには、それぞれ個性があっておもしろい。例えばオフィーリア、ハルフリーダ、エリンは、精神力を上昇させる銀製のアクセサリーなどを欲しがるし、リーゼはスプーンやフォークなどの食器。ヤーシッチやマーチルは銀の腕輪系を求めていた。

 いや、もっと異色なのはドワーフのニッパーか。彼は細かく飾り掘りをされた細工品を欲しがっている。
「あの3人の分も、3つずつくらい買っていてやるか」
「そうだね。どんどん買おう!」
 エリンも、隣にいたオフィーリアに聞いていた。
「お姉さまには、これが……似合いますかね……?」
「ええ! きっとこの髪飾りも喜ぶと思います」

 仲間たちは最低でも3つは買っているため、普段なら凄い会計になるところだが、清算しても大金貨2枚と小金貨7枚という会計だった。
 いやこれでも、昔の僕だったら、真っ青になるような金額なんだろうけど。


 まだまだ金貨はたくさん残っているので、僕は残っている銀製品を見て……試しに言ってみることにする。
「店員さん」
「なんでしょう?」
「この棚の端から端まで……買うと幾らになる?」
「ええと……お待ちください!」

 調べてもらうと大金貨12枚と小金貨4枚ということだ。
「手ごろな値段だね。全部買うよ」
「ま、毎度ありがとうございます!」

 そのやり取りを見て、ニッパーとヤーシッチは面白がる様子で僕を見ていた。人は変わるものだと思っているのかもしれない。

【ダダダンスク】
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