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14.魔境の入口

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 冒険者街を進んでいき、城門を抜ければ、僕たちの前にうっそうとした森が姿を見せた。
「では、勇者御一行様……お気をつけて」
 城門を守る兵士たちに見送られると、いよいよリッカシデン隊はクレバスに向けて行軍を開始した。

 先頭はロドルフォ。2番手に僕。3番手にシャーロット。4番手にフリーダ。最後尾はリッカシデン号という並びだ。普通のパーティーなら、荷運びウマを最後尾にするとは何事だと言われそうだが、僕たちのチームなら話は変わってくる。
『どうだい、ロドルフォさん……危険な臭いとかは?』
「とりあえずは大丈夫ですな。ただ……油断は禁物」
「それはそうね」

 クレバスの周りには、広葉樹林が広がっている。
 だから薄暗いのは当然なのだが、更にクレバスに近づくにつれて瘴気濃度が少しずつ上がっているから大変だ。
「なんだろう。少しずつ圧迫感が強くなってきている」
「この場所から、そのことに気が付かれるとは……さすがは勇者ですな」

 ロドルフォが心から感心した様子で言うと、シャーロットも頷いた。
「ええ、ダンジョンの瘴気濃度を理解できるかが……冒険者として生き残れるかの分かれ道と言われるくらいだもんね」


 しばらく歩くと、僕たちは小休憩を取ることにした。
 周囲を気にしながらなので、立ちっぱなしではあるが、水分補給をしたり、軽食を取ったり、木に寄りかかったりするだけでも体力は回復するものである。

『軽食を取るときは素早く食べてね。ここには鼻の効く獣が多いから』
「わかった」
 やはり、鼻の効くリッカシデン号が言うと説得力がある。忠告通りに素早く乾燥した豆を食べると、すぐに水を口に流し込んだ。

 再び歩き出して2時間が経つと、今度はロドルフォが言う。
「皆さん、ヒルがいます……ご注意を」

 足元を見ると、彼の言う通りヤマビルに近いヒルが地面を這っていた。
 僕は歩調を調整して回避し、シャーロットは地面を隆起させて回避し、フリーダは飛んで避け、最後にリッカシデン号は、踏みつけていった。


 そして更に10分ほど歩くと、ロドルフォは言う。
「ゴブリンが近くにいます。迂回しますか?」
「……数はわかるかい?」
 ロドルフォは目を細めた。
「5、6匹ほど……うち1匹はホブゴブリンです」

 相手はゴブリン小隊か。
 腕試しには、丁度いい相手かもしれない。
「よし、正面からぶつかろう」
「承知致しました!」


 リッカシデン隊には、索敵能力の高い仲間ばかりなので、仲間も次々とゴブリンの位置を捕捉しはじめた。
 最初に、場所と正確な数を調べたのはフリーダだ。リッカシデン号も場所を捕捉し、続いてロドルフォ、最後はシャーロットも場所を突き止めたことを伝えてきた。

 一方ゴブリン小隊にとって、僕たちの出現は予期せぬ出来事だったようだ。
 僕たちが万全を期して登場したのに対し、向こうは陣形も崩れていたし、何より判断も遅かった。
「ブ、ブ、ブッツブセぇ!」

 リーダーであるホブゴブリンは、しばらく目を白黒させた後で攻撃命令を下し、手下たちの前で自分は逃げ出すという悪手を打っていた。
 次の瞬間には、フリーダの矢を急所に受けて倒れ、僕やリッカシデン号も間髪入れずに、翼ブーメランや水魔法をゴブリンたちに浴びせていく。

 戦いが終わると、フリーダは申し訳なさそうに言った。
「申し訳ありません。2匹逃がしてしまいました」
「いや、ホブゴブリンを倒せたんだし、まずまずの結果だと思う。この調子でモンスターを倒しながら進もう」
「はい!」
 この後も、僕たちは索敵を繰り返しながら、自分からホブゴブリンやゴブリンの集団に当たりに行くように樹海を移動した。


「よし、ゴブリンだ……みんな、打ち合わせ通りに!」
「了解!」
 今度遭遇したゴブリンたちは、正面から僕たちと組み合ったため、ホブゴブリン1匹と、ゴブリン4匹を倒すことができた。
『マスター、レベルが上がったよ』

 これで、僕、フリーダ、ロドルフォのレベルは7。シャーロットのレベルも5に上がった。
 さて僕自身は、2ポイントのボーナスポイントも得たワケだ。これを、両方とも魔法攻撃力に使ってみると、リッカシデン号の角も18センチくらいまで伸び、いよいよ一角獣らしい長さにまでなってきている。
「どうだ? まだ……もう少し時間がかかりそうか?」
『ここまで、長くなれば……可能かな?』

 彼は角に霊力を集中していくと、ちょうど僕の腕にあった擦り傷へと向けてきた。
 角からは柔らかく暖かい光が現れ、腕の傷がみるみる癒されていく。

 その様子を見ていたロドルフォも、フリーダも、シャーロットも、全員が頷いた。
「これは……間違いありませんね!」
『ヒーリングと言っても、これは簡単な傷を治すだけの初歩的なモノだよ。あくまで補助的なモノと考えてね』

 僕たちは笑いあっていたが、実はこのとき……新たな襲撃者が密かに動き出そうとしていた。



【ロドルフォ ウェアウルフ 男性】
36歳 男性 身長182センチメートル 体重81キログラム
固有特殊能力A:月光剣
特殊血統の技。刃先が見えなくなるうえに、幽体系やスライム系の敵にもダメージを与える。
固有特殊能力B:バッドムーン
夜間限定で周囲に恐怖効果を与える。勇者レベルが上がるごとに効果が強化されていく。

固有技:バッドムーン
種族能力:高感度聴覚、暗視ビジョン、オオカミ嗅覚

近接戦闘力   A ★★★★★★★
魔法戦闘力   C ★★
狙撃戦闘力   C ★★
物理防御    B ★★★★★★
魔法防御    C ★★★★
体力・持続力  A ★★★★★★★
素早さ・回避  B ★★★★★★
器用さ・命中  B ★★★★★
索敵能力    B ★★★★★★
経験      B ★★★★★★

 経験豊富なオオカミ族の戦士。
 ついこの間まではAランク冒険者パーティーに所属していたが、その実力に惚れ込んだSランク冒険者パーティーのリーダーが、多額の移籍金を出してきたこともある。
 ちなみにフリーダは元々、彼の奥さんの友人で、彼の獲得に関しては奥さんの働きかけがあったようだ。
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