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引っ越し前最後の夜
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転職前の最後の出勤日の夜。
正式な退職日は一ヶ月後だが、溜まっていた有給を消化するため、仕事上の引き継ぎなどもすべて済ませたその日が最後の出勤日だった。
一人暮らしをしていたアパートからの引っ越しの立ち会いがあるので、今日はいつものアパートに帰るが、明日からは待ちに待った篠崎さんとの同棲生活が始まる。
さらには一ヶ月は仕事にも行かずにずっと篠崎さんのお家で過ごせる。まるで夢みたいな、長期休暇だ。
その最後の出勤日、久しぶりに青くんから連絡が来て、夜ご飯を一緒に食べることになった。
「ユウくん、つい明日からシノと同棲かぁ。いいなあ、ユウくん、幸せそう」
机に肩肘をついた青くんが、心から羨ましそうにこぼす。青くんはいつでもこんなふうに素直なリアクションをしてくれる。
それいいなあ、とか
愛されてるんだね、とか
これだけ素直に表現されると、ついふわふわと嬉しい気持ちになってしまう。
優越感、というとあまりいい表現じゃないけれど。
でも、青くんはお人形みたいに完璧に可愛くて。もうその容姿だけで僕なんかより勝ち組で。
でもそんな青くんに、いいなあと言われる自分というのが、なんだか自慢げな気持ちになってしまうんだと思う。
「明日からっていうのが、まだ実感がないんですけど」
「シノの束縛余計に強くなりそうだよね。もうこうして二人で夜の飲み会なんてできないかも」
青くんが綺麗な両目をうるうると潤ませる。
青くんとこうして会っていることを、篠崎さんはまだ知らない。青くんがずっとまだ言わずにおこうよというからだ。
「でも友達としての飲みだったら大丈夫じゃないですか。だって、青くんは篠崎さんの仕事仲間ですよね。特別な感情を持ちようがないことはわかっているだろうし」
「うーーん」
青くんはにこりと笑顔のまま大きく首をかしげる。
「まあ、シノにいうタイミングは僕に任せてよ。シノの機嫌がいいときを見計らうからさー」
「まあ、青くんがそういうなら……」
いつもよりもハイペースでお酒を飲む青くんに、僕はそこまで飲みすぎないように気を付けていたはずなのに、なんだかいつもより酔いが回るのがはやく、居酒屋をでたときは、すでに足元がふらふらだった。
体の内側が熱くて、夜風が冷たくてきもちいい。
「帰りたくないよぉ。ユウくん、独身最後の夜なんだから、一緒に朝まで飲もーよー」
「さいごのよるって……」
これまではどんなにお酒を飲んでも、酔ったようにみえなかった青くんが駅にむかう道の途中で、ふらふらと僕に寄りかかってくる。
「あおくん……っ」
青くんは僕の腕にすがりつくようにして、脱力している。
「青くん、青くん??」
青くんの様子も心配だけれど、それより自分もだいぶ酔いが回っている気がする。
なんだか全身が熱くて、頭がぼんやりする。
「あおくん……タクシーかなんか……呼ぶ??」
そう聞いて、そういえば青くんがどこに住んでいるのか、知らないことに気づく。青くんは、よく僕の家に来ていたけど……。
「あおくん?」
「んーーー、たくしーは、いい。すぐそこ、だから」
青くんがおぼつかない手つきで、鞄から取り出したのは、ホテルのカードキーだった。
カードキーに書かれていたホテル名は、本当にすぐ近く、駅近のビジネスホテルだった。
足元の危うい青くんを抱えるようにしてホテルに向かい、青くんがポケットから取り出したくしゃくしゃになった紙には部屋番号が書かれていて、カードキーをかざすと、かちゃりとドアのロックが外れる。
青くんは僕の肩に腕を回したまま、さっきからもうほとんど話しかけても返事がない。セミダブルベッドがどんと置かれた部屋のなかまで、青くんを連れて入る。
白いシーツのかかったベッドを前にして、これって、なんだか浮気……みたいだな、と思った。
その時。
突然、青くんが僕の肩を押して、僕は勢いよくベッドに仰向けに倒れ込んだ。
「青くん……っ??」
青くんが覆い被さるようにして僕の体にまたがって、両腕を無造作につかんだかと思うと、ぎゅっと両腕を縄で縛られる感覚がある。
それから、両足にも縄で縛られる感覚。
僕に覆い被さるようにしていた青くんがベッドから軽やかに降りたときに僕は、両手はばんざいするように、両足は大きく広げるような格好でベッドに縛り付けられていた。
「あおくん、な、なに……」
先程まで歩くのがやっとだった青くんが、僕の着ている服のポケットを全部たしかめるように裏返し、それから突然、僕の両足の靴を脱がすと、僕の靴と、それから僕の持っていたカバンを持って、ホテルの部屋の窓を開けて、突然、窓の外へと、カバンと靴を放り投げる。
「え、えっっ???」
ドス、とカバンが地面に叩きつけられるような音がしたような気がするが、わからない。
くる、とこちらを振り向いた青くんが、人形みたいな綺麗な顔で、にこりと笑う。
「いやぁ、もしかして靴にGPSついてるかもな、と思って。それに携帯でシノを呼ばれても困るしね。大丈夫、この窓の下、ホテルの裏道で人通りがほとんどない場所だから、誰の目にも止まらないから。明日の朝、回収できるよ」
「あ、青くん……酔ってるん、ですよね?」
「ううん。さっきまでは演技。僕、お酒強いからさあ」
青くんが、からりと笑う。
「僕、実はSとMのどっちもいけるタイプなんだぁ。とくにユウくん見てると、めちゃくちゃいじめたくなる。シノが溺愛する気持ちもわかるなぁ」
青くんは、僕にまたがるようにして、その綺麗な顔をぐいと寄せる。
「だから、酔った勢いで押し倒してるわけじゃないよ、安心して。ちゃんとユウくんのこと好きだよ」
正式な退職日は一ヶ月後だが、溜まっていた有給を消化するため、仕事上の引き継ぎなどもすべて済ませたその日が最後の出勤日だった。
一人暮らしをしていたアパートからの引っ越しの立ち会いがあるので、今日はいつものアパートに帰るが、明日からは待ちに待った篠崎さんとの同棲生活が始まる。
さらには一ヶ月は仕事にも行かずにずっと篠崎さんのお家で過ごせる。まるで夢みたいな、長期休暇だ。
その最後の出勤日、久しぶりに青くんから連絡が来て、夜ご飯を一緒に食べることになった。
「ユウくん、つい明日からシノと同棲かぁ。いいなあ、ユウくん、幸せそう」
机に肩肘をついた青くんが、心から羨ましそうにこぼす。青くんはいつでもこんなふうに素直なリアクションをしてくれる。
それいいなあ、とか
愛されてるんだね、とか
これだけ素直に表現されると、ついふわふわと嬉しい気持ちになってしまう。
優越感、というとあまりいい表現じゃないけれど。
でも、青くんはお人形みたいに完璧に可愛くて。もうその容姿だけで僕なんかより勝ち組で。
でもそんな青くんに、いいなあと言われる自分というのが、なんだか自慢げな気持ちになってしまうんだと思う。
「明日からっていうのが、まだ実感がないんですけど」
「シノの束縛余計に強くなりそうだよね。もうこうして二人で夜の飲み会なんてできないかも」
青くんが綺麗な両目をうるうると潤ませる。
青くんとこうして会っていることを、篠崎さんはまだ知らない。青くんがずっとまだ言わずにおこうよというからだ。
「でも友達としての飲みだったら大丈夫じゃないですか。だって、青くんは篠崎さんの仕事仲間ですよね。特別な感情を持ちようがないことはわかっているだろうし」
「うーーん」
青くんはにこりと笑顔のまま大きく首をかしげる。
「まあ、シノにいうタイミングは僕に任せてよ。シノの機嫌がいいときを見計らうからさー」
「まあ、青くんがそういうなら……」
いつもよりもハイペースでお酒を飲む青くんに、僕はそこまで飲みすぎないように気を付けていたはずなのに、なんだかいつもより酔いが回るのがはやく、居酒屋をでたときは、すでに足元がふらふらだった。
体の内側が熱くて、夜風が冷たくてきもちいい。
「帰りたくないよぉ。ユウくん、独身最後の夜なんだから、一緒に朝まで飲もーよー」
「さいごのよるって……」
これまではどんなにお酒を飲んでも、酔ったようにみえなかった青くんが駅にむかう道の途中で、ふらふらと僕に寄りかかってくる。
「あおくん……っ」
青くんは僕の腕にすがりつくようにして、脱力している。
「青くん、青くん??」
青くんの様子も心配だけれど、それより自分もだいぶ酔いが回っている気がする。
なんだか全身が熱くて、頭がぼんやりする。
「あおくん……タクシーかなんか……呼ぶ??」
そう聞いて、そういえば青くんがどこに住んでいるのか、知らないことに気づく。青くんは、よく僕の家に来ていたけど……。
「あおくん?」
「んーーー、たくしーは、いい。すぐそこ、だから」
青くんがおぼつかない手つきで、鞄から取り出したのは、ホテルのカードキーだった。
カードキーに書かれていたホテル名は、本当にすぐ近く、駅近のビジネスホテルだった。
足元の危うい青くんを抱えるようにしてホテルに向かい、青くんがポケットから取り出したくしゃくしゃになった紙には部屋番号が書かれていて、カードキーをかざすと、かちゃりとドアのロックが外れる。
青くんは僕の肩に腕を回したまま、さっきからもうほとんど話しかけても返事がない。セミダブルベッドがどんと置かれた部屋のなかまで、青くんを連れて入る。
白いシーツのかかったベッドを前にして、これって、なんだか浮気……みたいだな、と思った。
その時。
突然、青くんが僕の肩を押して、僕は勢いよくベッドに仰向けに倒れ込んだ。
「青くん……っ??」
青くんが覆い被さるようにして僕の体にまたがって、両腕を無造作につかんだかと思うと、ぎゅっと両腕を縄で縛られる感覚がある。
それから、両足にも縄で縛られる感覚。
僕に覆い被さるようにしていた青くんがベッドから軽やかに降りたときに僕は、両手はばんざいするように、両足は大きく広げるような格好でベッドに縛り付けられていた。
「あおくん、な、なに……」
先程まで歩くのがやっとだった青くんが、僕の着ている服のポケットを全部たしかめるように裏返し、それから突然、僕の両足の靴を脱がすと、僕の靴と、それから僕の持っていたカバンを持って、ホテルの部屋の窓を開けて、突然、窓の外へと、カバンと靴を放り投げる。
「え、えっっ???」
ドス、とカバンが地面に叩きつけられるような音がしたような気がするが、わからない。
くる、とこちらを振り向いた青くんが、人形みたいな綺麗な顔で、にこりと笑う。
「いやぁ、もしかして靴にGPSついてるかもな、と思って。それに携帯でシノを呼ばれても困るしね。大丈夫、この窓の下、ホテルの裏道で人通りがほとんどない場所だから、誰の目にも止まらないから。明日の朝、回収できるよ」
「あ、青くん……酔ってるん、ですよね?」
「ううん。さっきまでは演技。僕、お酒強いからさあ」
青くんが、からりと笑う。
「僕、実はSとMのどっちもいけるタイプなんだぁ。とくにユウくん見てると、めちゃくちゃいじめたくなる。シノが溺愛する気持ちもわかるなぁ」
青くんは、僕にまたがるようにして、その綺麗な顔をぐいと寄せる。
「だから、酔った勢いで押し倒してるわけじゃないよ、安心して。ちゃんとユウくんのこと好きだよ」
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