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第三章 交点に降るは紅の雨
番外編 ベレン領の買い物 後編 ※
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月明かりと暖炉の火、二つの異なる光がクレインの髪を照らしている。
濡れた艶めきをジェイは手ぐしで整えて、いつもより指ざわりのいい青に少し感動していた。
もちろん今までも、彼はクレインの髪を綺麗だと思っていたが、最高級の香油はそれをさらに際立たせるものだった。それこそクレインのために作られたかのように。
ジェイは髪飾り屋の店主に感謝しながら、艶がありながらサラサラの毛先を弄ぶ。
「ん……」
毛先が首筋をくすぐって、クレインから色めいた声が漏れる。
それを吸い取るように、ジェイはうなじに唇を落とした。
髪をかき上げて細い首を軽く吸っていく。跡は付けない。ジェイは自分の痕跡を残してもいいとは、まだ思えなかった。
する、と肩から上衣を滑り落とすと、産毛すら見つけられない真っさらな背中が現れる。
自分の手に残っている香油を、ジェイはそこにも移すように広げていく。
ゴツゴツした自分の手がクレインの柔肌を傷つけてしまうことを怖れていたが、香油はその悩みをも解決してくれる。
もう一滴、ジェイは香油を手の平に乗せて、背中から腕を回してお腹にも手を滑らせる。
「ン……っ、」
香油によって摩擦を減らした肌は吸いつくほどだ。
***
湯上りに香油を髪に塗る──それは口実だということは、二人共分かっていた。
クレインからあそこまで言われて、誘いに気づかないほどジェイは鈍くはない。
だがそれでも、二人には口実が必要だった。
***
「あっ……!」
いつもより柔らかくなったジェイの指が、クレインの胸にかかる。
手の平で広げるように擦りながら、だんだんと引っかかりが大きくなる感触を楽しむように。
「うっ……ん……っ!」
指の腹で塗り込むように乳輪をなぞってから、芯のできた中心をぬるん、と弾く。
「あ、っんン!」
クレインの押し殺した喘ぎに、ジェイは己の中心が張り詰めるのが感じられた。
腕から上衣を抜き、クレインは振り返ってジェイの服に手をかける。
二人の手によって布は取り除かれた。
クレインの部屋のベッドの上──最初の夜と同じ状況だったが、あの時のような焦燥感はない。どこか穏やかな空気が流れている。
「──ん……いい匂い、だな」
向かい合ってジェイの手を鼻に近づけて、クレインは香油のほのかな花の香りを吸い込む。
柔らかく甘い中に、ぴり、と刺激的な香りが隠れていて、甘過ぎないそれはクレインによく合う。
ぺろ、ジェイの親指を舌を伸ばしてひと舐めしてから、クレインは自分の口内に引き入れてちゅぅっ、と吸った。
「ンふ……、匂いは甘いのに、舐めると苦い。っていうか、渋い?」
「っ、そう、なのか……?」
「ん……お前も、舐めて、みる……?」
ちゅぽ、とクレインの口から出てきた指は、香油ではなく唾液で濡れている。
ジェイはそれにごくり、と唾を飲んで、クレインの唇に置かれた自分の指を、舌を出して舐める。もちろん、クレインの唇にも舌は触れる。
「……確かに、渋い。口に入れても大丈夫でも、美味しいものではないんだな」
「だな。……それなら……」
クレインは濡れる自分の胸に手を滑らせる。
「お前が舐めたいところには、塗らない方がいいんじゃないか……?」
初めての時、ジェイがそこにかぶりついたことを思い出して、今さらながら忠告を送る。
あくまでジェイを心配したクレインの言葉だったのだが、ジェイには『ここを舐めて欲しい』と言っているようにしか聞こえない。
「……そんなことを言ったら、どこにも塗れなくなる」
『全身を舐め回したい』と同義のその言葉に、
「ん、ばか……」
照れて目を伏せたクレインは、色っぽいよりもかわいらしかった。甘えるように、もう一度指に吸いつく。
唇を撫でていた指と入れ替わりに、ジェイは己の唇を近づける。
「ん、ン……っ、ふ……」
前回のような傍若無人に舌をねじ込むのではなく、擦り合わせては軽く吸いつきそれから舌でちろ、と舐めて、表面の感触を楽しむ口づけから始めた。
かぷ、と緩く歯を立てると、クレインの薄い唇が震えて開いていく。
ジェイは舌先だけを潜らせて、唇の裏側を探り、歯列を数える。
くすぐったかったのか、クレインの舌がそれを止めるように伸ばされて、ジェイの舌に触れた。その瞬間──
「んっ、んっ、ンーーっ!」
口づけは一気に激しさを増した。
クレインの口の中を全て舐め尽くさんとするジェイの舌を、クレインの舌が追いかけては絡め取り、押し合って吸い取って唾液を溢れさせる。
口の端からつとー……と唾液が流れるころには、互いの背中を弄り合って腰が密着し、香油が塗りたくられたクレインの乳首が、ジェイの硬い胸筋に擦られていた。
「ンあ……っ!ふっ、んんっ……」
クレインの背中を支えたまま、ジェイは柔らかく蕩けた肢体を押し倒していく。
ベッドが二人の体重を受け止めてもまだ、唇は離れない。
ジェイにのしかかられて、クレインの口内に全ての唾液が流れ込む。
くちゅ、ぐちゅ……卑猥な音が頭の中に直接響いて、クレインは背筋を震わせた。
「んーっ、んくっ!ん、んっ」
こくん、と動いたクレインの喉に煽られたジェイは、自分と彼の混ざり合った唾液の行き先を辿るように、唇からあご、喉、そして胸へと舌を這わせる。
香油の渋みとクレインの汗を舌に感じながら、身体の中心をなぞってへそまで到達し、そこを舌先で抉った。
「ぅあ……っん!」
ぎゅっ、とクレインの身体が丸まる。
肩を挟んだ両脚を宥めるようにさすって、ジェイは許可を得るように目を向ける。
クレインは言葉の代わりに、少し身体を起こして伸ばした手をジェイの下衣にかけた。
互いの下衣を脱がせ合って、再びベッドに沈む。
どちらの中心もすでに形を変えていた。
自分の腰を挟んだすらりとした脚を持ち上げて、ジェイは唇を落とす。
「っ、あ……っ!」
膝から下へ向かいすべらかな肌を辿ると、途中で感触が変わる。
足首から甲にかけての白い布──まだそれを剥ぎ取ることは、二人共できない。
クレインの不安そうな空気を感じ取って、ジェイはそこに頰を寄せた。布の上から唇を落とし、長くは留まらないで足先に向かう。
「えっ?あ、やっ……!」
ちゅる、と親指を口に入れると、クレインは驚いて脚をバタつかせる。
「やめっ、汚い……っから!」
その言葉に反抗するように恭しく掲げて、ちゅ、と爪先に口づけた。
「お前に、汚いところなんか、ない」
「……ばか」
今度の『ばか』は、少し苦味が含まれたものだった。
今度は膝から上へと辿って、太ももの薄い皮膚をくすぐると、「……っ、」クレインは堪えるように息を止める。
香油でも汗でもない雫が滲んだ。
ジェイの舌が、ふくらみの根元に這わされる。
「っ、あ……っぅ……!」
中心をゆっくりと舐め上げていき、最後は舌で弾くと、「うっン!!」震えて雫を垂らした。
雫が落ちる前に、唇で扱くように全部を口内に収める。そしてヂュッ、と吸った。
「あぁっ!!」
クレインの腰が浮いて、さらにジェイの口の奥に突き入れられる。
浮いた腰を手で支えたジェイは、腰と背中をくすぐりながら、窄めた口で茎への刺激を強める。
「あっ!だ、め……っだ、も……っ!!」
きゅぅぅ……と力が入ったクレインの尻たぶに気づき、ジェイはヌトぉ、と今にも弾けそうな中心を口から抜いた。
「ン、え……?」
そのまま口淫での射精を期待していたクレインは、肩透かしを食らって無防備な顔になった。
(かわいい……)
ジェイは伸び上がって瞼に口づけを送り、
「もう少し待ってくれ。一緒に、イきたい……」
そう言って、クレインがすでに存在を忘れていた香油の瓶に手を伸ばした。
「え……?」
戸惑うクレインを安心させるように顔中に唇を落としながら、手の平から溢れるほどの香油を期待に満ちた陰茎、ではなく、その奥へと──
「あぁ……っ!!」
ジェイはぬめりを移すように手の平全体で臀部を撫でてから、確かめるように人差し指だけを差し入れる。
唾液や精液とは違って、香油はなめらかで乾きにくい。簡単に一本を飲み込んだ。
「やっ……!」
二本になっても、クレインの中は痛みを感じることもなく、長く太いジェイの指を根元まで迎え入れた。
「まっ……!こ、こんなところに、使っても……?」
さらに香油を足そうとしたジェイの手を、不安そうにクレインが止める。
その疑問は、クレインの性経験のなさを象徴していて、ジェイを煽る。
「っ、大丈夫、だ。香油は男同士の性行によく使われるものだし……」
だがジェイが安心させようとして言ったその言葉は、クレインの眉間にシワを寄せさせた。
「……そう、なのか?」
「……?あ、ああ。ここは濡れないから、油なんかでぬめりをよくしないと……」
「……ふぅん……」
視線を逸らしたクレインに、ジェイは慌てる。
(な、なんだ?!なにかマズイことを言ったか……?)
だがジェイはその理由が見つけられない。
「ク、レイン……?どう──?」
「っ別に!いいから、続けろよ……!」
全然『いい』という顔ではないが、ジェイは追求を諦めて動きを再開させた。
クレインに行為そのものを止められることを恐れるように。
***
クレインはジェイが香油の扱いに慣れていることが気に入らなかった。それはつまり、他との性行為──それも男との──をほのめかすものだからだ。
一方のジェイからすれば、クレイン以前の行為は全て、ただの性欲処理に過ぎないという感覚だ。
確かに戦場で男を抱いたこともあったし、闘技場ではとてもクレインには聞かせられないような危ない性技も覚えさせられた。
だがわざと鈍くした思考に引きずられるように感覚も鈍感になっていて、夢との狭間のような記憶だった。
普段はそれほど鈍くないジェイなのだが、クレインのかわいい嫉妬には、結局気づくことはなかった。
ここでも微妙にすれ違う二人だった。
***
差し込んだままの己の指から香油を伝わせて、窄まりをさらに和らげていく。
指が三本になったところで、ジェイはそれまで広げることを優先していた動きを、クレインの快楽を引き出すように変える。
「っ、んんっ!」
くすぐるように縁をなぞって、指の腹で内壁を探っていく。
「あっっん……!!」
ある一点をかすめた瞬間、クレインが跳ねた。
かぁぁ……!自分の声に驚いたように口を塞いで、顔を赤らめる。
「な、に……っ?そこ……」
怖れの混じった目を見つめながら、ジェイはもう一度、そのしこりを押す。
「やっ、あぁ!!」
びくん、びくん、と薄い腹が揺れる。
「やっ!ぃや、だ……、そこ、ぉ……!」
手が無意識といったようにジェイの手にかかる。だがクレインにはそれを跳ね除ける力が入らない。
ジェイは三本の指をまとめて、じゅぷじゅぷっ、と大きく抜き挿しし、前立腺への刺激を続ける。
「ふぁ……!!あっん!や、ぅ……っ!」
後頭部をベッドに擦りつけるクレインの喉に、ジェイは噛みつく。
「ああぁ!!」
歯を立ててから、労わるように舐める。それを繰り返して、喉からだんだんと降りて、胸の頂に辿り着いた。
「ひっ……ぁぁぁ……!」
右と左、両方を噛んで舐めて、クレインの声がかすれて消えたところで、窄まりから指を抜く。
ひく、ひく、と波打つ腹と連動するように、濡れて赤らんだ下のクチがジェイをぱくぱくと誘う。
力の抜けたクレインの脚を抱え上げ、飲み込もうと待ち構えるそこに、ジェイの剛直が押し当てられる。
「ぁ……」
涙の膜越しに、見つめ合う。
前立腺での暴力的なまでの快楽に、恐怖が芽生えかけたクレインだが──
(……ばか)
最後にはこうしてクレインの許可を待つジェイを、許してしまうのだ。
「ん……ジェイ、」
脚を彼の腰に、手を彼の腕に絡めて、少し、ほんの少しだけ、引き寄せる。
それで、伝わる。
「あ……っ」
ぐっ、と頭が押し入る感覚に、クレインは身構える。
それに気づいたジェイを、手をぎゅっと握って引き止める。
クレインは知っている。
ジェイが自分を傷つけることなどないことを──クレインを傷つけるくらいなら、ジェイは己の欲望を抑え込むだろう。
だからクレインは、この行為で傷ひとつ負ってはならない。
余裕を装ってもう一度、脚で腰を引き寄せた。
「んんん……んっ!あ……っは、ン……!!」
クレインのそんな覚悟をよそに、下肢はぬぬぬ……っと呆気ないほど簡単に、ジェイの欲望を飲み干していた。
「……え……?」
きょとん、とクレインはジェイを見上げる。
「っ、平気、か?」
「え?あ、うん」
自分よりもよほど堪えた顔のジェイに、間抜けな返事を返す。
(な、んか……すごい、すんなり……え?前はあんなに……)
クレインの戸惑いを正確に読み取って、ジェイは何の準備もなく抱いてしまった前回を反省する。
唾液と精液のぬめりだけでは、かなり痛かったはずだ。
それでもクレインはそんなそぶりを見せずに、ジェイを受け入れてくれたのだ。
「……クレイン、すまない……」
いきなり謝ったジェイに、クレインはびくっと身を震わせて、「……な、にが……?」目を合わせずに聞き返す。
「この前──クレインは初めて、だったのに……俺は自分勝手に無茶をして……」
「え?」
「痛かった、だろう……?」
「……っそんな、こと……っ」
「余裕がなくて……気遣ってやれなかった……」
「……余裕、なかった、のか?」
なぜかクレインが少し嬉しそうに見えて、ジェイは内心で首を傾げながらも、それに首肯する。
「ああ。……お前相手に、余裕なんて微塵もない。情けないことに、な」
今だって、クレインが慣れるまで待ってあげたいのだが──挿入しただけで早くも暴発しそうなのだ。
「俺もあんな、その……舐めて、広げるなんて初めてだったんだが……あの時は油を取りに行くような余裕もなくて……悪い。気持ち、悪かった、んじゃないか……?」
かぁぁ!!
クレインは今繋がっているそこに、ジェイの舌が触れた瞬間のことがまざまざと蘇る。
「ん!」「っと、」
カラダもそれを思い出したように、きゅん、とそこが反応して、その刺激でジェイの腰が揺れる。
二人同時に、息を呑んだ。
目が合って、(まだ、だめだ……!)勝手に揺れ続けようとする己の腰を、何とか引き止めようとしたジェイを、「……ジェイ、ぃい、から……!」クレインが決壊させた。
「はや、く……!」
顔を引き寄せられて、唇同士が触れたのと同時に、
「あぁ!!」
ぐん、とジェイが中で伸び上がる。
『全身に触れていたい』
唇を、舌を、肌を、粘膜を──触れられる全てをくっつけて、二人はベッドを軋ませる。
「っん、ンンッんむ……っ!んはぁ……っ、ぷぁっあンっ!!」
「はぁ、んっ!……っ!!」
ジェイの張り出した傘があのしこりを押しつぶすたびに、クレインの内部がギュッと全体を抱き締める。
香油だけでないぬめりが、クレインの入り口でぷくぷくと溜まってこぼれていく。
初めての時には届かなかった奥まで突き入れては、ギリギリまで抜いて、ぐちゅんっ、ぐちゅんっ、と音を立て激しく抽送を繰り返す。
「ぅんん~~っ!!ふっ、あぁあん!あんっ!あぁ……んっ!!」
苦しくなったクレインが口づけを引き剥がすと、その中に溜まっていた嬌声が溢れ出た。
それに煽られて、ジェイの剛直がさらに張り詰める。
「やっあぁ!!あっ、だ、め……だっ!ダメ、あ、だめぇ……!!」
のしかかって、蜜まみれのクレインの中心を腹筋で押しつぶすように扱くと、思わず、といった様子でジェイの肩を手で押し返す。
だがジェイがクレインの腰を掴んで、ぐんっ、と引き寄せると、「っん、はぁっ!!」その手は首に回って、自ら押しつけるようにカラダを寄せた。
「……っ、だめ、ジェイ、もっ……!」
たまらない、というように、クレインはジェイの頭を抱えて髪をかき混ぜて、耳に舌を這わせる。
「──イク……っ」
同時に、ぱんっ、とジェイの腰が打ち付けられた。
「ぁ、あ、あぁ……っ!!!」
びゅくっ、精液が噴き出すのに合わせて、ジェイを含んだままの後ろが痙攣する。
「──くっ……!」
ジェイは奥へ奥へと引き込まれるのに抗って、歯を食いしばりながらも間一髪のところで、引き抜いた。
そして一つになった証のように、クレインの下腹に溜まる白濁の中に、己の白を混ぜるように射精した。
はぁ、はぁ……高みに上った意識を落ち着けるように、自然と抱きしめ合う。
互いの存在を確かめるように、静かに呼吸を重ねた。
***
四肢を投げ出してされるがままのクレインの腹を、ジェイが柔らかな布で拭う。
ちょうどクレインの大きな傷跡に、二人分の白濁が溜まっていた。
それに何とも言えない罪悪感があって、
「……悪い。もう一度湯を浴びるか……?」
ジェイは申し訳なさそうに聞く。
クレインは億劫そうに、首を縦なのか横なのか曖昧に振って、
「……ジェイ……」
手を伸ばしてジェイを求める。
それに応えて、自力では動けないクレインの身体を抱き起こし、膝の上へと導く。
「──ん、」
くてん、とジェイの胸に頭を寄せたクレインが、身じろぎしてもぞ、と何かを気にする。
「……?どうした?」
「んっナカ、から……香油が……」
たっぷりと塗り込めた香油がまだ中に残っていて、それが垂れてきていた。
ぞわ……なのか、ぞくっ!なのか自分でも分からない感覚に、クレインは「んーっ」うめく。
そんな様子にジェイは喉が渇く気がして、ゴクン、と唾を飲んだ。
「っ、わ、るい……っ!香油を使い過ぎた……!」
その渇きを誤魔化すように慌てて目を逸らして、ベッドに放り出してあった小瓶を掴む。
「……もう、ほとんど残ってない、な」
クレインの指摘通り、香油は瓶の底に薄っすらとしか見えない。
「……また、買いに行く、か……?」
「……え?」
クレインの言葉の意味が分からずに、ジェイはポカンと口を開ける。
「……俺は別にどっちでもいいけど」
「え……?」
「香油がないなら──」
ジェイの唇をする、と撫でる。
「──ここで濡らしてくれても、俺はいい、から……」
そんな大胆な誘いを、恥ずかしそうに目を伏せて言うものだから──
「あ、えっ?」「う、悪い……」
むくり、とジェイのモノが勃ち上がって、クレインのモノに擦れる。
さっき出したとは思えないほど、一気に元気になったそれを見て、
「……全部、使う、か……?」
残り少ない小瓶の蓋を、クレインが開ける。
最高級の香油は結局、一滴残らず一晩で使い切ってしまったのだった。
******
次の日──再び髪飾り屋を訪れたジェイに「あの香油を、あるだけ全部買いたい」と信じられない注文を受けて、店主は仰天することになる。
しかし店主は、クレインが髪の手入れに目覚めてくれたのだと勘違いし、喜んで最高級の香油をお値打ちに売ってくれた。
だが残念なことにその香油は、店主が望むような使い方をされることはなかったのだった。
濡れた艶めきをジェイは手ぐしで整えて、いつもより指ざわりのいい青に少し感動していた。
もちろん今までも、彼はクレインの髪を綺麗だと思っていたが、最高級の香油はそれをさらに際立たせるものだった。それこそクレインのために作られたかのように。
ジェイは髪飾り屋の店主に感謝しながら、艶がありながらサラサラの毛先を弄ぶ。
「ん……」
毛先が首筋をくすぐって、クレインから色めいた声が漏れる。
それを吸い取るように、ジェイはうなじに唇を落とした。
髪をかき上げて細い首を軽く吸っていく。跡は付けない。ジェイは自分の痕跡を残してもいいとは、まだ思えなかった。
する、と肩から上衣を滑り落とすと、産毛すら見つけられない真っさらな背中が現れる。
自分の手に残っている香油を、ジェイはそこにも移すように広げていく。
ゴツゴツした自分の手がクレインの柔肌を傷つけてしまうことを怖れていたが、香油はその悩みをも解決してくれる。
もう一滴、ジェイは香油を手の平に乗せて、背中から腕を回してお腹にも手を滑らせる。
「ン……っ、」
香油によって摩擦を減らした肌は吸いつくほどだ。
***
湯上りに香油を髪に塗る──それは口実だということは、二人共分かっていた。
クレインからあそこまで言われて、誘いに気づかないほどジェイは鈍くはない。
だがそれでも、二人には口実が必要だった。
***
「あっ……!」
いつもより柔らかくなったジェイの指が、クレインの胸にかかる。
手の平で広げるように擦りながら、だんだんと引っかかりが大きくなる感触を楽しむように。
「うっ……ん……っ!」
指の腹で塗り込むように乳輪をなぞってから、芯のできた中心をぬるん、と弾く。
「あ、っんン!」
クレインの押し殺した喘ぎに、ジェイは己の中心が張り詰めるのが感じられた。
腕から上衣を抜き、クレインは振り返ってジェイの服に手をかける。
二人の手によって布は取り除かれた。
クレインの部屋のベッドの上──最初の夜と同じ状況だったが、あの時のような焦燥感はない。どこか穏やかな空気が流れている。
「──ん……いい匂い、だな」
向かい合ってジェイの手を鼻に近づけて、クレインは香油のほのかな花の香りを吸い込む。
柔らかく甘い中に、ぴり、と刺激的な香りが隠れていて、甘過ぎないそれはクレインによく合う。
ぺろ、ジェイの親指を舌を伸ばしてひと舐めしてから、クレインは自分の口内に引き入れてちゅぅっ、と吸った。
「ンふ……、匂いは甘いのに、舐めると苦い。っていうか、渋い?」
「っ、そう、なのか……?」
「ん……お前も、舐めて、みる……?」
ちゅぽ、とクレインの口から出てきた指は、香油ではなく唾液で濡れている。
ジェイはそれにごくり、と唾を飲んで、クレインの唇に置かれた自分の指を、舌を出して舐める。もちろん、クレインの唇にも舌は触れる。
「……確かに、渋い。口に入れても大丈夫でも、美味しいものではないんだな」
「だな。……それなら……」
クレインは濡れる自分の胸に手を滑らせる。
「お前が舐めたいところには、塗らない方がいいんじゃないか……?」
初めての時、ジェイがそこにかぶりついたことを思い出して、今さらながら忠告を送る。
あくまでジェイを心配したクレインの言葉だったのだが、ジェイには『ここを舐めて欲しい』と言っているようにしか聞こえない。
「……そんなことを言ったら、どこにも塗れなくなる」
『全身を舐め回したい』と同義のその言葉に、
「ん、ばか……」
照れて目を伏せたクレインは、色っぽいよりもかわいらしかった。甘えるように、もう一度指に吸いつく。
唇を撫でていた指と入れ替わりに、ジェイは己の唇を近づける。
「ん、ン……っ、ふ……」
前回のような傍若無人に舌をねじ込むのではなく、擦り合わせては軽く吸いつきそれから舌でちろ、と舐めて、表面の感触を楽しむ口づけから始めた。
かぷ、と緩く歯を立てると、クレインの薄い唇が震えて開いていく。
ジェイは舌先だけを潜らせて、唇の裏側を探り、歯列を数える。
くすぐったかったのか、クレインの舌がそれを止めるように伸ばされて、ジェイの舌に触れた。その瞬間──
「んっ、んっ、ンーーっ!」
口づけは一気に激しさを増した。
クレインの口の中を全て舐め尽くさんとするジェイの舌を、クレインの舌が追いかけては絡め取り、押し合って吸い取って唾液を溢れさせる。
口の端からつとー……と唾液が流れるころには、互いの背中を弄り合って腰が密着し、香油が塗りたくられたクレインの乳首が、ジェイの硬い胸筋に擦られていた。
「ンあ……っ!ふっ、んんっ……」
クレインの背中を支えたまま、ジェイは柔らかく蕩けた肢体を押し倒していく。
ベッドが二人の体重を受け止めてもまだ、唇は離れない。
ジェイにのしかかられて、クレインの口内に全ての唾液が流れ込む。
くちゅ、ぐちゅ……卑猥な音が頭の中に直接響いて、クレインは背筋を震わせた。
「んーっ、んくっ!ん、んっ」
こくん、と動いたクレインの喉に煽られたジェイは、自分と彼の混ざり合った唾液の行き先を辿るように、唇からあご、喉、そして胸へと舌を這わせる。
香油の渋みとクレインの汗を舌に感じながら、身体の中心をなぞってへそまで到達し、そこを舌先で抉った。
「ぅあ……っん!」
ぎゅっ、とクレインの身体が丸まる。
肩を挟んだ両脚を宥めるようにさすって、ジェイは許可を得るように目を向ける。
クレインは言葉の代わりに、少し身体を起こして伸ばした手をジェイの下衣にかけた。
互いの下衣を脱がせ合って、再びベッドに沈む。
どちらの中心もすでに形を変えていた。
自分の腰を挟んだすらりとした脚を持ち上げて、ジェイは唇を落とす。
「っ、あ……っ!」
膝から下へ向かいすべらかな肌を辿ると、途中で感触が変わる。
足首から甲にかけての白い布──まだそれを剥ぎ取ることは、二人共できない。
クレインの不安そうな空気を感じ取って、ジェイはそこに頰を寄せた。布の上から唇を落とし、長くは留まらないで足先に向かう。
「えっ?あ、やっ……!」
ちゅる、と親指を口に入れると、クレインは驚いて脚をバタつかせる。
「やめっ、汚い……っから!」
その言葉に反抗するように恭しく掲げて、ちゅ、と爪先に口づけた。
「お前に、汚いところなんか、ない」
「……ばか」
今度の『ばか』は、少し苦味が含まれたものだった。
今度は膝から上へと辿って、太ももの薄い皮膚をくすぐると、「……っ、」クレインは堪えるように息を止める。
香油でも汗でもない雫が滲んだ。
ジェイの舌が、ふくらみの根元に這わされる。
「っ、あ……っぅ……!」
中心をゆっくりと舐め上げていき、最後は舌で弾くと、「うっン!!」震えて雫を垂らした。
雫が落ちる前に、唇で扱くように全部を口内に収める。そしてヂュッ、と吸った。
「あぁっ!!」
クレインの腰が浮いて、さらにジェイの口の奥に突き入れられる。
浮いた腰を手で支えたジェイは、腰と背中をくすぐりながら、窄めた口で茎への刺激を強める。
「あっ!だ、め……っだ、も……っ!!」
きゅぅぅ……と力が入ったクレインの尻たぶに気づき、ジェイはヌトぉ、と今にも弾けそうな中心を口から抜いた。
「ン、え……?」
そのまま口淫での射精を期待していたクレインは、肩透かしを食らって無防備な顔になった。
(かわいい……)
ジェイは伸び上がって瞼に口づけを送り、
「もう少し待ってくれ。一緒に、イきたい……」
そう言って、クレインがすでに存在を忘れていた香油の瓶に手を伸ばした。
「え……?」
戸惑うクレインを安心させるように顔中に唇を落としながら、手の平から溢れるほどの香油を期待に満ちた陰茎、ではなく、その奥へと──
「あぁ……っ!!」
ジェイはぬめりを移すように手の平全体で臀部を撫でてから、確かめるように人差し指だけを差し入れる。
唾液や精液とは違って、香油はなめらかで乾きにくい。簡単に一本を飲み込んだ。
「やっ……!」
二本になっても、クレインの中は痛みを感じることもなく、長く太いジェイの指を根元まで迎え入れた。
「まっ……!こ、こんなところに、使っても……?」
さらに香油を足そうとしたジェイの手を、不安そうにクレインが止める。
その疑問は、クレインの性経験のなさを象徴していて、ジェイを煽る。
「っ、大丈夫、だ。香油は男同士の性行によく使われるものだし……」
だがジェイが安心させようとして言ったその言葉は、クレインの眉間にシワを寄せさせた。
「……そう、なのか?」
「……?あ、ああ。ここは濡れないから、油なんかでぬめりをよくしないと……」
「……ふぅん……」
視線を逸らしたクレインに、ジェイは慌てる。
(な、なんだ?!なにかマズイことを言ったか……?)
だがジェイはその理由が見つけられない。
「ク、レイン……?どう──?」
「っ別に!いいから、続けろよ……!」
全然『いい』という顔ではないが、ジェイは追求を諦めて動きを再開させた。
クレインに行為そのものを止められることを恐れるように。
***
クレインはジェイが香油の扱いに慣れていることが気に入らなかった。それはつまり、他との性行為──それも男との──をほのめかすものだからだ。
一方のジェイからすれば、クレイン以前の行為は全て、ただの性欲処理に過ぎないという感覚だ。
確かに戦場で男を抱いたこともあったし、闘技場ではとてもクレインには聞かせられないような危ない性技も覚えさせられた。
だがわざと鈍くした思考に引きずられるように感覚も鈍感になっていて、夢との狭間のような記憶だった。
普段はそれほど鈍くないジェイなのだが、クレインのかわいい嫉妬には、結局気づくことはなかった。
ここでも微妙にすれ違う二人だった。
***
差し込んだままの己の指から香油を伝わせて、窄まりをさらに和らげていく。
指が三本になったところで、ジェイはそれまで広げることを優先していた動きを、クレインの快楽を引き出すように変える。
「っ、んんっ!」
くすぐるように縁をなぞって、指の腹で内壁を探っていく。
「あっっん……!!」
ある一点をかすめた瞬間、クレインが跳ねた。
かぁぁ……!自分の声に驚いたように口を塞いで、顔を赤らめる。
「な、に……っ?そこ……」
怖れの混じった目を見つめながら、ジェイはもう一度、そのしこりを押す。
「やっ、あぁ!!」
びくん、びくん、と薄い腹が揺れる。
「やっ!ぃや、だ……、そこ、ぉ……!」
手が無意識といったようにジェイの手にかかる。だがクレインにはそれを跳ね除ける力が入らない。
ジェイは三本の指をまとめて、じゅぷじゅぷっ、と大きく抜き挿しし、前立腺への刺激を続ける。
「ふぁ……!!あっん!や、ぅ……っ!」
後頭部をベッドに擦りつけるクレインの喉に、ジェイは噛みつく。
「ああぁ!!」
歯を立ててから、労わるように舐める。それを繰り返して、喉からだんだんと降りて、胸の頂に辿り着いた。
「ひっ……ぁぁぁ……!」
右と左、両方を噛んで舐めて、クレインの声がかすれて消えたところで、窄まりから指を抜く。
ひく、ひく、と波打つ腹と連動するように、濡れて赤らんだ下のクチがジェイをぱくぱくと誘う。
力の抜けたクレインの脚を抱え上げ、飲み込もうと待ち構えるそこに、ジェイの剛直が押し当てられる。
「ぁ……」
涙の膜越しに、見つめ合う。
前立腺での暴力的なまでの快楽に、恐怖が芽生えかけたクレインだが──
(……ばか)
最後にはこうしてクレインの許可を待つジェイを、許してしまうのだ。
「ん……ジェイ、」
脚を彼の腰に、手を彼の腕に絡めて、少し、ほんの少しだけ、引き寄せる。
それで、伝わる。
「あ……っ」
ぐっ、と頭が押し入る感覚に、クレインは身構える。
それに気づいたジェイを、手をぎゅっと握って引き止める。
クレインは知っている。
ジェイが自分を傷つけることなどないことを──クレインを傷つけるくらいなら、ジェイは己の欲望を抑え込むだろう。
だからクレインは、この行為で傷ひとつ負ってはならない。
余裕を装ってもう一度、脚で腰を引き寄せた。
「んんん……んっ!あ……っは、ン……!!」
クレインのそんな覚悟をよそに、下肢はぬぬぬ……っと呆気ないほど簡単に、ジェイの欲望を飲み干していた。
「……え……?」
きょとん、とクレインはジェイを見上げる。
「っ、平気、か?」
「え?あ、うん」
自分よりもよほど堪えた顔のジェイに、間抜けな返事を返す。
(な、んか……すごい、すんなり……え?前はあんなに……)
クレインの戸惑いを正確に読み取って、ジェイは何の準備もなく抱いてしまった前回を反省する。
唾液と精液のぬめりだけでは、かなり痛かったはずだ。
それでもクレインはそんなそぶりを見せずに、ジェイを受け入れてくれたのだ。
「……クレイン、すまない……」
いきなり謝ったジェイに、クレインはびくっと身を震わせて、「……な、にが……?」目を合わせずに聞き返す。
「この前──クレインは初めて、だったのに……俺は自分勝手に無茶をして……」
「え?」
「痛かった、だろう……?」
「……っそんな、こと……っ」
「余裕がなくて……気遣ってやれなかった……」
「……余裕、なかった、のか?」
なぜかクレインが少し嬉しそうに見えて、ジェイは内心で首を傾げながらも、それに首肯する。
「ああ。……お前相手に、余裕なんて微塵もない。情けないことに、な」
今だって、クレインが慣れるまで待ってあげたいのだが──挿入しただけで早くも暴発しそうなのだ。
「俺もあんな、その……舐めて、広げるなんて初めてだったんだが……あの時は油を取りに行くような余裕もなくて……悪い。気持ち、悪かった、んじゃないか……?」
かぁぁ!!
クレインは今繋がっているそこに、ジェイの舌が触れた瞬間のことがまざまざと蘇る。
「ん!」「っと、」
カラダもそれを思い出したように、きゅん、とそこが反応して、その刺激でジェイの腰が揺れる。
二人同時に、息を呑んだ。
目が合って、(まだ、だめだ……!)勝手に揺れ続けようとする己の腰を、何とか引き止めようとしたジェイを、「……ジェイ、ぃい、から……!」クレインが決壊させた。
「はや、く……!」
顔を引き寄せられて、唇同士が触れたのと同時に、
「あぁ!!」
ぐん、とジェイが中で伸び上がる。
『全身に触れていたい』
唇を、舌を、肌を、粘膜を──触れられる全てをくっつけて、二人はベッドを軋ませる。
「っん、ンンッんむ……っ!んはぁ……っ、ぷぁっあンっ!!」
「はぁ、んっ!……っ!!」
ジェイの張り出した傘があのしこりを押しつぶすたびに、クレインの内部がギュッと全体を抱き締める。
香油だけでないぬめりが、クレインの入り口でぷくぷくと溜まってこぼれていく。
初めての時には届かなかった奥まで突き入れては、ギリギリまで抜いて、ぐちゅんっ、ぐちゅんっ、と音を立て激しく抽送を繰り返す。
「ぅんん~~っ!!ふっ、あぁあん!あんっ!あぁ……んっ!!」
苦しくなったクレインが口づけを引き剥がすと、その中に溜まっていた嬌声が溢れ出た。
それに煽られて、ジェイの剛直がさらに張り詰める。
「やっあぁ!!あっ、だ、め……だっ!ダメ、あ、だめぇ……!!」
のしかかって、蜜まみれのクレインの中心を腹筋で押しつぶすように扱くと、思わず、といった様子でジェイの肩を手で押し返す。
だがジェイがクレインの腰を掴んで、ぐんっ、と引き寄せると、「っん、はぁっ!!」その手は首に回って、自ら押しつけるようにカラダを寄せた。
「……っ、だめ、ジェイ、もっ……!」
たまらない、というように、クレインはジェイの頭を抱えて髪をかき混ぜて、耳に舌を這わせる。
「──イク……っ」
同時に、ぱんっ、とジェイの腰が打ち付けられた。
「ぁ、あ、あぁ……っ!!!」
びゅくっ、精液が噴き出すのに合わせて、ジェイを含んだままの後ろが痙攣する。
「──くっ……!」
ジェイは奥へ奥へと引き込まれるのに抗って、歯を食いしばりながらも間一髪のところで、引き抜いた。
そして一つになった証のように、クレインの下腹に溜まる白濁の中に、己の白を混ぜるように射精した。
はぁ、はぁ……高みに上った意識を落ち着けるように、自然と抱きしめ合う。
互いの存在を確かめるように、静かに呼吸を重ねた。
***
四肢を投げ出してされるがままのクレインの腹を、ジェイが柔らかな布で拭う。
ちょうどクレインの大きな傷跡に、二人分の白濁が溜まっていた。
それに何とも言えない罪悪感があって、
「……悪い。もう一度湯を浴びるか……?」
ジェイは申し訳なさそうに聞く。
クレインは億劫そうに、首を縦なのか横なのか曖昧に振って、
「……ジェイ……」
手を伸ばしてジェイを求める。
それに応えて、自力では動けないクレインの身体を抱き起こし、膝の上へと導く。
「──ん、」
くてん、とジェイの胸に頭を寄せたクレインが、身じろぎしてもぞ、と何かを気にする。
「……?どうした?」
「んっナカ、から……香油が……」
たっぷりと塗り込めた香油がまだ中に残っていて、それが垂れてきていた。
ぞわ……なのか、ぞくっ!なのか自分でも分からない感覚に、クレインは「んーっ」うめく。
そんな様子にジェイは喉が渇く気がして、ゴクン、と唾を飲んだ。
「っ、わ、るい……っ!香油を使い過ぎた……!」
その渇きを誤魔化すように慌てて目を逸らして、ベッドに放り出してあった小瓶を掴む。
「……もう、ほとんど残ってない、な」
クレインの指摘通り、香油は瓶の底に薄っすらとしか見えない。
「……また、買いに行く、か……?」
「……え?」
クレインの言葉の意味が分からずに、ジェイはポカンと口を開ける。
「……俺は別にどっちでもいいけど」
「え……?」
「香油がないなら──」
ジェイの唇をする、と撫でる。
「──ここで濡らしてくれても、俺はいい、から……」
そんな大胆な誘いを、恥ずかしそうに目を伏せて言うものだから──
「あ、えっ?」「う、悪い……」
むくり、とジェイのモノが勃ち上がって、クレインのモノに擦れる。
さっき出したとは思えないほど、一気に元気になったそれを見て、
「……全部、使う、か……?」
残り少ない小瓶の蓋を、クレインが開ける。
最高級の香油は結局、一滴残らず一晩で使い切ってしまったのだった。
******
次の日──再び髪飾り屋を訪れたジェイに「あの香油を、あるだけ全部買いたい」と信じられない注文を受けて、店主は仰天することになる。
しかし店主は、クレインが髪の手入れに目覚めてくれたのだと勘違いし、喜んで最高級の香油をお値打ちに売ってくれた。
だが残念なことにその香油は、店主が望むような使い方をされることはなかったのだった。
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