三鍵の奏者

春澄蒼

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第六章 追憶の海に花束を浮かべて

80 過去へ向かう船

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 その海域が、船の墓場と恐れられるようになったのは、およそ百年前のこと──東の海で歴史上もっとも残忍と謳われたある海賊が、船もろとも沈んでからのことだ。

 同じ場所で船が沈むたび、人々は噂する。その海賊の呪いだと。

 金も力も、海さえ手に入れた男にも、唯一手の届かなかったモノがあった。──美しい人魚姫。

 船長は今も、かの女性を求めて、海の底で手をこまねいている────。



******

 ひと月と少し、久しぶりの仲間との再会は、予期せぬ滞在者によってなし崩しに始まった。

「やっと会えたわ!あなたがユエね」
「綺麗な髪と瞳!ほんとにユラン姫様と同じ海の色だわ!!」

「えっと……?」
 全く状況が理解できないユエを置いて、二人の人魚は前のめりになって手をこまねく。同族とはいえ初対面の女性によるこの大歓迎っぷりに、ユエは喜ぶよりも身の危険を感じて、もっとも安心できる態勢をとる。

 すなわち、カイトの腕にすがったのだ。

 カイトはユエをぶら下げたまま、「……どうなってる」と誰にともなく聞く。

「それがさー!!」喋りたくてしかたがないヘロンと、「でも……本当に人魚なの?」「人間にしか見えないわ」かしましい二人の人魚を、「私から説明するからっ、あなたたちは少し黙っていて!」この半月で彼らの扱い方を学んだメイが遮る。


 そうしてメイの口から、ユエたちが海を離れてからから起きた出来事、そして別行動をしていた間に仲間たちに起きた出来事が語られた。

 話が終わる頃には、すっかりクウェイルにこき使われている大人組も「ただいま」と戻り、やっと仲間全員が集合した。
 クレイン、ジェイ、フェザントに少し遅れて、家主も「カイト、この……我が家を勝手に待合所にするな!!」と用意してあった文句とともに帰ってきて、これでヘイレン以外の関係者は揃い踏みだ。


 総勢、十三名。


 そのうち、人魚が四人。その中の一人は人間の姿。そして純血のドワーフがひとり。彼女も人間の姿。
 亜種が三人、人間が五人──いや、そんな区別など意味がないことは、此処にいる者たちは知っている。

 それぞれがただのひとりで、それぞれがただの人。


「……ひとまず、夕食にしよう」
 十三人の声で、収集がつかなくなりつつあった混沌を、カイトのひと言が食欲一色に染める。

「……お、お前が言うな、カイト……!」
「クウェイル、金は後払いでもいいか?今は手持ちがないんだ」
「…………っ!!」


 一年前までは想像もできなかった我が家の人口密度を、メイが少しだけ楽しんでいることは、頭痛を起こしている夫には内緒だ。



******

「さてと……」
 食欲を満たして大人しくなった面々を、当然のようにカイトが仕切って、話し合いの場ができていく。
 新参者の人魚二人も不思議とカイトには突っかからずに、大人しく耳を傾けている。


「船の用意ができ次第、東の海──あの大渦の海域に向けて発つ。そこでユエの中の『人魚の鍵』を取り出す」

「取り、出すって……そんな簡単に」
 ここへ来た目的は誰もが想定できていたが、あまりにカイトがさらっと言うものだから、ついざわっと波立ってしまう。

「……方法が見つかったということか?」
 胡乱げなクウェイルに、カイトはこれまたあっさり「そうだ」と返した。

「え……」
「えっ!ほんとに?!どうやんの?!っつーかいつの間にそんなこと調べたんだ!?あっ、教会に情報があったのかっ?!」

 か細いユエの声をかき消して、ヘロンが矢継ぎ早に質問を投げかける。自分が知らないだけでもしかしてもうラークは知っているのかと、ヘロンはそちらにも目を向けたが、同じ見開いた瞳が返っただけ。

 カイトと行動を共にしていたアイビス、ラーク、ユエにも、それは初耳だった。


 ひとりだけ見ている景色が違うように、カイトの瞳は遠くを──距離も、時間も越えた遠くを──見据えている。

「方法が見つかったというよりも、それしかない」
「どういう……?」
「あの場所へもう一度行けば、『何か』は起こる。いや、『何か』を起こすために行くんだ。あの大渦の──『鍵』が沈んでいた場所へ」

 カイトの言い様は、聴衆の反応を二つに分けた。

「なんだ、根拠はないんだな」
「いつもの勘ってこと?」
「出たとこ勝負か……おい、大丈夫かよ」
 クウェイル、ヘロン、フェザントを中心として、いつも通りと呆れる面々は力の抜けた顔でブツブツ言う。

 しかし──ユエやアイビス、ラークにそして人魚たちは、沈黙した。表情はそれぞれだったが、言葉を発せなかった面々は共通して、何か人知を超えたもの──もしかしたら、運命とでも呼ぶもの──を直視したような空寒さを感じていた。


 話がそこで終わっていたら、予言のようなその言葉はユエをもっと不安に駆り立てたかもしれないが、カイトは珍しく『勘』の内容を詳しく説明してくれた。

「……以前、ユエには話したんだったか」
「え……?」
「『鍵』を使う前提条件として、『知識』と『意思』が必要だと。アスカを例にすれば、『鍵』がドワーフを人間に変えるという知識があり、それを望む意思があった」

 明け方のキリッとした空気が、ユエに蘇る。歴史の欠片を手にした日。アスカが人間になった日。

「……俺は、知識も意思もなかった。だから──」
「ユエ以外の、第三者の意思が介在した」

 ユエにはすでに説明してあったのだから、カイトはこの時、彼以外に向けて話しているつもりだった。だがカイトの視線は、ただひとりを捉えて離さない。


「俺はその第三者を──」カイトはその名を、仇敵を呼ぶような厭わしさと気軽さの交じった調子で呼ぶ。「ジャン・ノーだと考えている」

「ジャン……?」
「ヴァルク・ジャン・ノー──海賊船人魚の涙ディア・メロウ号の船長」

「っ、それって……」ハッと息を飲んだのは、東の海の人魚三人。彼女たちにとってそれは、口に出すことも忌まわしい男と船の名前だった。

 ユエも背筋を震わせた。
 ユエはその男に会っている。骨だけになったその男に。


 暗く冷たい東の海。
 無数の沈んだ船──その一番下にあった、一番古く、一番大きな海賊船。船首にあった人魚の像は哀しげだった。
 骸骨の首にかかっていた『人魚の鍵』をユエが手に入れると、海は渦巻き、骸骨がまるで襲いかかるように向かってきて──。


 直後はそのことよりも、もっと大きな衝撃──人間になるという大事件──に気を取られて忘れていたが、今になってユエはその時の恐怖も一緒に思い出してしまった。

 しかし震えは長く続かなかった。
 陸で未知に立ち向かった経験、弓と剣で自分の身を守れるという自信、そしてカイトの存在がユエを支えている。


「ジャン・ノーは、人魚を人間にすることに執念を燃やしていた。取り憑かれていたと言ってもいいほどに」

 朗々としたカイトの声に、ユエは意識して集中する。

「そのジャン・ノーの『意思』が、ユエを人間に変えた──それがもっとも可能性が高い。『知識』の点ではまだ疑問が残るが……百年『鍵』を所有していたことと、動機を考えれば、あの男以外に候補がいない」

 言い切ったカイトに、「待て……!」クウェイルがもっともな疑問を差し込む。
「待て待て、その男はだって……もう百年も前に死んでいるんだろう?!」

「死んでも『意思』は遺る」
 カイトの返答は奇妙なほどにきっぱりとしていて、誰も何も、それ以上言えなくなる。


 カイトは仲間たちの沈黙を全く気にせずに、「手がかりは大抵、最初の場所に落ちているものだ」と嘯いてから、船旅の準備を具体的に指示して、序章に幕を引いた。



******

 それから数日は、準備に追われ瞬く間に過ぎた。
 その間カイトは、船の手配を頼んだヘイレンの元へと行ったきりで、ユエは寂しさに身を焦がすこととなった。

 初日に出迎えた二人の女性だけでなく、東の一族が入れ替わり立ち替わり、ユエを見にクウェイルの館を訪れたが、それもユエの心を慰めることはない。
 むしろ──「本当に人魚なの?」「『鍵』を見つけた時の話を聞かせて!」「中央の一族は今どうしてるんだ?」「人魚に戻れたら、東の一族に来るといい。みんな歓迎するよ」……煩わしいとさえ、ユエは思ってしまった。

 中でもユエの心をかき乱すのは、カイトに対するユエの気持ちを、そろって否定されること。

 最初の二人に、「人魚に戻ったら、私たちと子どもを作って」と何とも直裁的に口説かれたユエが、負けじと「俺、カイトのことが好きだから、それはできない」と直球で断ったところ、会う人魚、会う人魚に否定的な言葉をかけられるようになったのだ。

「人間に惚れてるって……冗談だろ?」
「しかも男なんて……気の迷いよ」
「人魚の男性は数が少ないんだから、子どもを作るのは義務でしょう?」
「大丈夫、人魚に戻って海に帰れば、人間のことなんてすぐ忘れるわ!」


 見かねたメイが、一族に立ち入り禁止を言い渡すまで、ユエは心ない言葉を浴びせられ続けた。



***
「……ユエ、気にすることないわ」
 メイは複雑な心境を隠して、ユエを慰める。

 自分の前に他が騒いで驚きそびれてしまったが、(ユエが人間を、それも男、さらに言えばあのカイトを!!好きだなんて……!!)メイの内心は大混乱が続いていた。

 しかし先日の失敗──クレインとジェイの関係を知らずに、人魚との恋を応援してしまったこと──の反省もあって、メイはかける言葉に悩まされる。


 こんな時に限ってヘロンもアスカも外に出ている上に、ここ数日人魚の訪問で騒がしかった家は、その反動のようにいつもより静まり返っている。その静けさの中に、ポツリとユエの弱音が落ちる。

「俺……人魚に戻るの、怖いんだ」
「ユエ……」
「もう二度と人間になれなかったらどうしよう、とか、カイトに置いて行かれたらどうしよう、とか……でも──」

「大丈夫よ」と根拠のない慰めを言いかけたメイは、思いがけないユエの表情にかち合い、言葉を引っ込めた。

 そこにいたのは、成熟したひとりの男性。

 出会った頃の、寄る辺ない迷子の子どもではなく、自分を持った大人の顔のユエは、不安に立ち向かおうとしている。

「でも『人魚の鍵』は、ずっとカイトが追い求めてきたものだから……カイトの助けになるなら、取り出したい。だから、怖くても行かなくちゃ……!」

「ユエ……」
 メイは自分の間違いに気づく。ユエのカイトに対する想いは、周囲から反対された程度で揺らぐものではなかったのだ。ユエの悩みはもっと先にあった。

 ユエとカイトの関係は、自分が口を出すことではないと吹っ切れたメイは、「大丈夫よ!」今度は力強くその言葉を言える。

「だってアスカは『ドワーフの鍵』で、ドワーフに戻ったりまた人間になったり、何度か試してみたんでしょう?それなら『人魚の鍵』も同じよ!あなたが人魚に戻っても、きっともう一度人間になれるわ」
「そう、かな……」
「それに……人魚に戻ったらカイトと一緒にいられないって考えは、短絡的よ」
「だって──あっ!ご、ごめんなさいっ!」


 慌てて謝ったユエに寛大な笑みで応えたメイは、「ね、諦めなければ大丈夫よ」と自分を指差す。

「……俺、自分のことばっかりだった。『鍵』を取り出すことは、メイとクウェイルのためにもなるのに……」
「私たちのことまで背負わなくていいのよ。もちろん、期待が全くないってことはないけれど、今は『人間になれたら幸運ラッキー』くらいに思ってるわ」

 ユエだけでなくアスカも現れたことで、メイとクウェイルの期待が高まったことは確かだ。もしかしたら本当に、二人の子どもが──けれども、それに固執し過ぎてはいけないと、メイは己を戒める。

 膨らました期待が弾けた時に、己や誰かを責めないためにも──特にこれは、自分たちの努力や行いで結果が変わるものではないのだから。


「……恵まれてたんだ、俺」
 申し訳なさそうに呟いたユエに、メイは僻みも妬みもない。だから次の台詞も含みなく言える。

「そうかもね。異種間の恋につきものの悩みなんか、あまり感じなかったでしょう?からだの違いや禁忌なんて」
「うん……だってカイトを好きになった時、俺はもう人間になってたもの」
「私たちは大変だったわ。手を繋ぐにも、クウェイルに手を水で濡らしてもらったり。ふふ、うっかりして何度かやけどを作ったわ。もちろん、今となってはいい思い出だけど」

 ついつい惚気になってしまったメイだったが──「そっか……」に続いたユエの言葉に、そんな甘酸っぱさは吹っ飛んだ。


「カイトと俺が抱き合えるのは、普通のことじゃなくて、すっごく恵まれてたんだ……」


「だ、だ抱き……?!
 メイがどもった理由は、『抱き合う』という言葉で浮かんだのが、抱擁ハグの光景ではなかったから。それ以上の関係を、ユエの表情と口調は物語っていた。

(待ってっ、えっ?!ユエの片思いじゃないの?!)

 てっきりそうだとばかり思って確かめもしなかったメイは、さらに混乱に拍車がかかる。
 両思いならば、ユエが人魚に戻ることにこれほど不安を持つことはないだろう。ユエの言い様には明らかに、二人の間の温度差が見える。

 混乱した頭でメイは、確信の持てる答えをどうにか引き出そうと──

「……く、口づけもね、人魚と人間ではほらっ!体温が違うから、口の中をやけどしたり……!」
「口づけ、でき、ないの……?」
「えっ、や、そんなことはないわよ!人魚と人間でもできるし、むしろ……!熱いクウェイルの舌がだんだん私の体温に馴染んでいくのはそれはそれで──って、なに言ってるのかしら、わたし……!」

 絶望的な顔になったユエを何とかしなければと、熱の入ったメイは、自分の台詞の恥ずかしさに途中で赤面する。

 しかしユエはそれにも気づかないで、想像の世界に浸っていた。

「今でもあんなに熱いのに、人魚に戻ったらもっと……?ほんとにやけどするくらいの、カイトの口づけ──」

 ユエはぽぉっと惚けて、自分の唇を自分の指で撫でてから、「ふふ」と無意識に顔をほころばせる。それもまた、メイが初めて見る表情。

「ユ、エ?」
「人魚に戻るのは怖いことばかりだと思ってたけど……少しだけ楽しみができたかも」
「え?」
「今の姿で感じる体温と、人魚の姿で感じる体温が違うなら、もう一度がたくさんできる」


 自分に言い聞かせるように微笑むユエに、メイの口から「……本当に好きなのねぇ」と感動のような声が漏れた。

「うん、大好き」
 間髪入れない返事と、照れもしないどころか自慢げでさえある様子に、片思いでも両思いでもどっちでもいいかと思えてくる。

 初対面の時の印象でも、ユエのことを綺麗だと思ったメイだったが、その時の印象が霞むほどに、今目の前にいるユエは、内面から輝くように美しい。

 これほどユエを綺麗にした恋ならば、幸福な結末ハッピーエンドになるはず──いや、そうでなければ許さないわ!と、メイは誰を相手にすればいいのかは分からないが、とにかく拳を握りしめた。


「ユエの気持ちがそれだけ確かなら、これからなにがあっても大丈夫よ!人魚に戻ろうが、鍵がどうなろうが、あなたがカイトの手を離さなければいいの」
「、ん……」

 それでもまだ憂いの消えないユエに、「不安は全部言ってしまいなさい。口に出せば楽になるかもしれないわ」と、仲間には言いづらくても自分になら相談できることもあるかもと促す。

 この時は見送る側のつもりでいたメイは、ユエが旅立つまで時間がないという焦りもどこかにあって、いつもより強引に──するとユエは、葛藤を見せてから、重たい口を開く。


「……こんな想像が、頭から離れないんだ。──カイトが俺に背中を向けて、どこか遠くへ行ってしまう。その時の俺は人魚の姿で……カイトを追いかけることができない──」


 メイの心臓がひやっと冷たくなった。

 ユエの想像に同調して蘇ったのは、カイトたち一行がこの領地を旅立った後に感じた、言い様のない不安。
 ──カイトに二度と会えないのではないか?

 もちろんそれは、この再会によって跡形もなく払拭された──はずだった。

 二度と会えないも何も、もう会っているのに、それなのに──なぜかメイの中からその不安は消えていない。大きくも小さくもならずにくすぶり続けるそれを、メイはまだ夫にも相談できずにいた。


 カイトが今ここにいるのは、教会への寄り道という想定外の出来事があったため。もしそれがなければ、カイトは仲間たちをこの領地に待機させないで、直接東の海へと向かっただろう。

 その後は──?

 メイの不安は外れたのではなく、ただその時が延びただけなのではないか──?


 渋面を作ってメイが黙り込んでいるうちに、ユエは解決法のない問題だと自覚があるのか、自嘲気味に眉を下げる。
「ばかみたい、でしょう?自分でもどうしてこんなに不安なのか分からないんだけど、でも……現実になりそうで、怖い……」

「ユエ、」
 カイトとの別れはいつも、旅立つ後ろ姿を見送るものだった。だからメイには、ユエの想像が具体的に感じられる。
 おそらく近しい仲間よりも、メイが一番、今のユエの気持ちを理解していた。


「あ……」不安を共有しようとして、メイは踏み止まる。
 ここで話したとて楽にはならず、むしろ自分もユエも不安を増幅させるだけだ。


 この場ではあえて何も言わないことを選んだメイは、その日のうちにクウェイルに相談を持ちかけた。自分の不安やユエの不安についての相談ではなく、もっと具体的な行動についての相談だ。

 妻らしくないわがままにも思えるそれを、夫は驚き、一度は止めた。しかしメイの決意が固いことを認めると、すぐに方々へ調整に取りかかってくれた。


 反対材料を全てつぶしてから、クウェイルとメイは一行がそろった場でそれを伝える。

「私たちも一緒に行きたいの。『人魚の鍵』がどうなるか、自分の目で見届けさせて」
「すでに仕事は調整したからな、私も行くぞ。船ならこちらで出せる。文句は言わせん」

 いきなりの申し出に、ほとんどの者は呆気にとられていたが、その中でひとりは楽しそうに、そしてもうひとりは無表情でそれを請けた。

「なんだ、ちょうどいいな」と嗤うのは、ヘイレン。
「実は今回用意した船は、クウェイルがメイのために造ったもんを参考にして、人魚も乗れるように改良させたんだ。突貫工事がいきなり役に立つ。お前らもこっちに乗ってきゃいい」

「どう、してそんな……?」
 準備のよさにメイは空恐ろしくなって目を見開いたが、ヘイレンの言を信じれば、「メイじゃなくてユエを想定して造ったんだがな。何があってもいいように、一応」とのことで、メイの考えを予期していた訳ではないらしい。


 そしてカイトは──特に賛成も反対もなく、ただ黙っていた。


 この二人の反応に、果たしてこれでよかったのかという考えが、メイの頭の中をグルグル回る。
 自分の行動は、カイトの想定外になったのだろうか?
 これで何かが変わったのだろうか?


 結局、出発の日までメイの不安は消えなかったが、それでも漫然とただ待つよりはずっと気が楽だと言い聞かせる。
 何が起ころうとも、自分の手の届くところならばまだ変えられることもあるはずだ。


******
 大渦に向かう船がクウェイルの領地を発ったのは、初夏のこと。

 この旅の結末がまだ定まっていないことを、カイトだけが知っていた。


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