三鍵の奏者

春澄蒼

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第一章 人魚の鱗は海へ還る

3 船上にて

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(変な海賊だ)
 船に乗って数日、ユエは同じことを幾度も思った。

「できたぞ」
「あー腹減ったぁー!」
「メシだー!!」
「おい、ヘロン!途中でほっぽり出すんじゃない!」
 全員が一堂に会して食事が始まる。

「あーっ!!フェザント!それ俺の肉ー!!」
「なーにが『俺の』だ!名前でも書いてあるのかー?」
「俺がさばいて干したんだ!俺のー!!」
「ちょ、ちょっとヘロン……そんなこと言ったら、僕だって干した……」
「ほっとけラーク」
「そうだよ。食べないとなくなる」
「カイト、パンは?」
「もらう」
「ほらヘロン、俺のをやるから」
「やりぃ!」
「またジェイは……ヘロンを甘やかすな!」
「……悪い」
 毎度こんな調子だ。

 カイトが船長なのだろうが、それにしてはみんな遠慮がない。

 船での役割も、それとなく決まっているようだが、それは『得意な者が得意なことをやる』といったくらいに見えた。

 ユエが捕まったのも、海賊船だった。

 あの船では、船長は絶対の存在だった。現に、ユエに手を出そうとした何人かを、容赦なく斬り、海に捨てるところを目の当たりにしたのだ。

 ユエにとって不幸中の幸いだったのは、あの海賊たちが金目当てだったことだ。

 今や人魚はお目にかかることすらできない。金持ちや権力者にとってはそれこそ、金で買えるなら安いものだ。それを知っていた無法者たちは、人魚を丁重に扱った。どの道自分たちでは、商品がでかすぎてさばけない。付き合いのある仲買は、自分たちより立場は上になる。足元を見られるわけにはいかなかった。

 ユエがこの船に来るまでに無事でいられたのは、奇跡と言ってもよかった。


「お気に召さないか?」
 ぼんやりと一行を眺めていたユエに、カイトが声をかける。

 ユエの前には海藻や貝が並んでいる。まさに人魚の食事だ。

 ただこんな賑やかな食事に慣れていないだけなのだが、七人に見つめられ、気まずく手を伸ばす。

「……おいしい?」
 ラークがおずおずと反応を窺う。彼の見た目ややさしさに、ユエも意地を張ってはいられなかった。小さく肯き、何も問題はないというように、続けて口へ運ぶ。

 何くれと世話を焼いては、ユエの反応に一喜一憂するラークには、少しだけ心を許し始めていた。

「人魚って少食なのな!肉とか食べたいって思わねぇの?!」

 ラークの心配からのお節介に対し、ヘロンは自分の興味によるちょっかいだ。好奇心旺盛な年ごろではあるが、彼はとにかく何にでも首を突っ込みたがる。

 さっきまで取り合っていた肉を目の前に掲げて、それを嫌がるユエのことが信じられないといった様子だ。ヘロンにとって肉は、一番のお宝なのだ。

「なんだヘロン、あんなに『俺の』『俺の』と言っていたのに。いらないなら、俺がもらってやるぞ」

 フェザントは年少者二人の保護者のようで、二人を叱るのはいつも彼だった。ユエに対しても、お子様たちが世話をするのを、一歩下がって見守っている。

 この三人が、ユエに積極的に関わってくるのに対して、残りの四人は二通りに分かれた。

 仕事仲間として扱うカイトとジェイ。必要なことはするが、必要以上のことはしない。

 そしてあからさまではないが、煙たがっているアイビスとクレイン。この二人は全くと言っていいほど、ユエには関わってこなかった。

 特にクレインは、視界に入れるのも嫌といったくらいで、ユエが日中を過ごす甲板には近づかない。今も、見えないようになのか、体格のいいジェイの陰に隠れている。


******
 船は順調に進んでいた。

 何度か寄港して物資の調達はしたが、停泊はしなかった。それは急いでいることもあったが、なるべく町の人間と関わりたくない表れでもあった。

 その理由が自分のせいだけではないと、ユエにも分かったのは、ラークに話を聞いてからだった。


 それはあまり風のない日のこと。

「うーん……今日はあんまりよくないなぁ……」
 ユエの隣で港で買った果物を切りながら、ラークが呟く。乾燥させたり砂糖につけたりして保存食を作る作業中だ。ヘロンはつまみ食いをしながら、それでも手はよく動く。

「なに?風ないの?」
「うーん……なんか変な感じ……」
「変ってなんだよ」
「うーん……」

 一人でうんうん唸った後、パッと立ち上がって、
「カイトのとこ行ってくる」
 あっという間に身を翻す。

 帰ってきた時には、カイトとクレインを連れていた。

「どうだ?」
 カイトがクレインに何かを尋ねる。クレインはなぜかユエの方を一瞬窺い、自信なさそうに「ん……荒れそう」と海を見つめる。

「そうか。それなら、ラーク、さっさとこの海域を抜けよう」

 三人で話し合って航路を決め、場にいなかったアイビス、フェザント、ジェイも呼んで、慌ただしく帆や舵の準備をする。

 何事かとただ見ていたユエは、自分の隣にいたヘロンも、散らかしていた果物やナイフをきれいに片付けていたことにも気づかなかった。

 準備が整ったところで、船首に立ったラークが、首元から細い銀の筒を取り出す。それは、ユエにも見覚えのあるモノ。あの貴族の馬車で、カイトが吹いた笛だ。

「一気に行くぞ」
 ユエが浸かった大きなたらいを足で押さえ、カイトが忠告した瞬間、さわっ、と肌が粟立った。大気が震える。

 ラークは笛に息を吹き込んだようだが、やはりユエには聞こえない。だがその結果は、風になって返ってきた。

 さっきまでの静寂が嘘のように、船の後方から風が押し出す。

 まるでこの船を進めるためだけに吹く風。

 あっという間に、船は凪を抜けた。

 ユエが呆気に取られている間に、他の船員は、通常の作業に戻っていた。ラークとヘロンも、先ほどの果物に再び向き合う。

「……さっきの……」
 珍しくユエから話しかけられて、ラークは少し驚いた顔を見せた後、破顔する。
「風を、呼んだんだ」

 誇らしげに、でも照れくさそうに、服の中に仕舞った笛を取り出して見せる。首から下げられたそれは、ラークの小指ほどの大きさの、何の装飾もないつるんとした笛だ。

「……風を……?」
「うん!僕は妖精の亜種なんだ」
「亜種……?」
「あれ?ユエは知らない?」

『鍵』のことを知らなかった時のような、居心地の悪さを味わう。ユエはいかに無知だったか、海の底を出てから痛感している。

 そんなユエを気遣って、「あっあっでも!人間の中にも知らない人はたくさんいるし!!」ラークが言葉を重ねる。「『亜種』って呼び方も、本当は差別的なんだってカイトは言ってたし!そっそれに、ヘロンだって、ね!?知らなかったよね?!」

「おう!俺も知らなかったぜ!」
 こっちは無知なことを全く恥ずかしくも思っていない。

 今度は子どもに気を使わせたことに気まずくなって、「それで、亜種って?」ユエは話を進める。

「あ、うん。亜種っていうのは、人間の中でちょっと特別な力を持った人たちのことだよ。力持ちだったり、泳ぐのが上手だったり。僕は風を読んだり、呼んだり、それから耳がよかったり、あとは……」

 いきなり言葉を切ったラークは、取りなすように笛を掲げる。

「この笛はね、特別なんだ。普通の人や動物には聞こえないの。風に話しかける時に使うんだ」

「……あの男も、使っていたけど……?」
「?あっ、カイトのこと?うん、カイトも聞こえるんだよ。僕とカイトだけなんだ」

 それは秘密を共有するうれしさや、理解者に対する崇拝が混じった言葉だった。しかし次の言葉は声調が幾分下がる。

「……亜種ってね、『化け物』とか『人間の成りそこない』とかって、差別されるんだ。なんで亜種が生まれるかは、まだ分かってないから。先祖が妖精や人魚やドワーフの血と混じったから、なんて言われたり……確かにドワーフみたいに力が強かったり、人魚みたいに……あっ!」

 まさにその人魚が目の前にいる。
「あっ!違うよ!人魚を差別してるんじゃなくって……!!」

 絵に描いたような慌てっぷりに、ユエにも苦笑が浮かぶ。ラークはそう思っていなくても人間のほとんどは、人間以外の三種、妖精・ドワーフ・人魚を、自分たちより下に見ていることは、自明の理だ。だから人魚を『飼う』なんて発想が生まれる。

 しかし人間の中にも差別されるものがいることは知らなかったユエだ。そうは言っても、同情する気にはならなかった。人間以外の三種の血が混じることが、まるでおぞましいような考えに、(こっちだって人間と混じったとか、似ているみたいに言われるなんて、願い下げだ)と人魚の矜持がふつふつと湧き上がる。

 人魚の自種偏愛ぶりに、嫌気がさしていたはずのユエだったが、それでもやはりいい気はしない。

「いいよなー!」

 ユエの暗い考えを打ち破ったのは、能天気なヘロンの声。

「俺も亜種ならよかったのに!フェザントみたいに怪力だったら、ケンカも負けなしだよなー!!」

 何も考えていないそれに、ラークもがっくりため息をつく。
「もう……ヘロンは能天気なんだから」

「なんだよ!だって絶対楽しいだろ?!フェザントみたいに一人で樽を持ち上げたり、お前みたいに風を呼んだり!!」
「……大変なことも多いんだよ」
「でも特別でかっこいいじゃねーか!」

 素直なそれに、ユエとラークは顔を合わせて笑った。

「……それじゃあ、あの……カイト、も亜種なのか?」
 まだ慣れないように、名前をたどたどしく呼ぶ。

「うーん……たぶん?」
「たぶん?」
 さっきまでのすらすらした説明とは打って変わって、なんとも歯切れが悪い。

「カイトははっきり言わないから。普通はね、亜種って能力に偏りがあるんだ。例えば……僕は耳はいいけど力はないし泳ぐのも下手っぴなんだ」
 頭をかいて、恥ずかしげだ。

「フェザントはドワーフの亜種なんだけど、すっごく力持ちで大人の人を五人も持ち上げたことあるんだって!でも泳げないの。沈んじゃうんだって。反対にクレインは、泳ぎは得意だけど、力がなくて暑さに弱いんだって」

「待って、この船に亜種は何人いるんだ?」
 次々と出てくる例えに、ユエは驚く。

「僕と、フェザントとクレインと、それからカイト、四人だよ」

 七人のうち四人。ユエにはそれが多いのかは分からなかったが、ここまで聞いた限りでは、それほど多数派ではないはずだ。そうでなければ『差別』や『特別』といった言葉は出てこない。

「クレインは人魚の亜種なんだ。でもね、そういうのって自己申告っていうか……説明する時に分かりやすいってだけで言ってるんだ。『ドワーフの亜種です』って言えば、『あぁ力が強いんだな』って分かってもらえるから。でもカイトが言うには、能力は人それぞれだから、そういう言い方はおかしいって。カイトは僕たちみたいに不得意がないんだ。何でもできるの。僕みたいに耳がいいし、力も強くて、泳ぐのも上手。だから『何の亜種』だって言わないけど……でもやっぱり『亜種』なんだと思う、けど……」
 自信なく締めくくった。


「実はね、僕が『妖精の亜種』だって言ってくれたの、カイトなんだ」

 作業が終わって、ヘロンがそれを調理場に届けに行き、二人になったところでラークは話を戻した。

「僕は……家族の中で、僕だけ変だったんだ」
 小さな自分の手を見て、独白する。

「僕はね、これ以上、大きくならないんだ」

 予想もしていなかった言葉に、ユエはまじまじと小さな体を見る。船で一番小柄なラーク。一番大きいジェイと並ぶと、腰までしか届かない。

「七年……八年前、かな。それくらいから伸びないんだ。弟にも抜かされちゃって……そうしたらね、お父さんもお母さんも、僕のこと気味悪がって、人目に触れないように、地下室に閉じ込めたの」

 ユエにはあのオークションまでの監禁部屋が思い浮かぶ。

「僕はそれからずっと『助けて』って、呼んだの。大きな声を出すと殴られるから、僕にしか聞こえない声で、『助けて』って何度も……そうしたらね、カイトが来てくれたんだ」

 俯いた顔に浮かんだ表情に、ユエはぞくっとする。

「カイトが来て、僕を連れ出してくれた。僕は『妖精の亜種』だって教えてくれた。だから背も伸びないし、普通の人には聞こえない音が聞こえるんだって。僕を必要としてくれた。一緒に行こうって。だから……」

 しかしそれは、パッと顔を上げた時には、消えていた。

「ユエも怖がらなくていいよ。カイトはやさしいんだ。この船のみんな、カイトに助けてもらったんだよ」

 自慢の兄を誇るようなその言葉に、ユエはかろうじて笑みを返すことができた。

 だが、先ほどの、幼い顔に似つかわしくない、狂信の表情──。


 遠くで雷が落ちる音が響いた。

 振り返ると、さっきまでこの船がいた方角の空が、真っ黒に染まっている。

「やっぱり荒れてきたね。早めに逃げて正解だった」
 事もなげに言うラークに、これを読んでいたのかと驚く。

 だがユエには、あの嵐から逃れたという安堵よりも、黒い雲が背後について回るような、不穏な空気が拭えなかった。


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