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第一章 人魚の鱗は海へ還る
10 三つの輪
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「金がない」
「私は貸さんぞ!!」
アイビスの切ない報告に、すごい勢いで答えたのは、なぜかクウェイルだった。
「私を当てにするな!うちは貧乏領地だ!まだ借金があるんだ!!」
自慢げに堂々と胸を張る。
「……別に、お前からなけなしの金をせびったりしない」
カイトの苦笑にも、「どうだか」と斜に構えた態度を崩さない。
「ぷっは!おっさん、貧乏なのかよ!しかもなんで自慢げ!?」
ヘロンは真面目なクウェイルをからかうのを、楽しんでいるのだが、本人はそれにちっとも気づかず、毎回律儀に反応を返している。
「むっ……確かに金はないがな、今のお前たちよりはましだ!それに私が貧乏なのは」「『愛』のため、だものね!」
メイの茶々に、「うっ……」と詰まったが、照れながら首肯した。
「なになに!?『愛』って!!」
「ほっとけ」「私のためよ」
「メイの?!」
ヘロンの興味は、クウェイルをからかうことよりも、メイと話すことに移った。
「そうよ。私のために、この家とこの領地を整備してくれたの。なにかあった時にすぐに海へ逃げられるように、家と海を繋げてくれて……大きな港を作って、領地の収入を上げて、食べていけるようにね」
この家はまさに、人魚のために作られている。
ほとんど海の上に建っていると言ってもいいが、それはわざわざクウェイルが海を広げて、メイが不自由ないだけの深さを確保したのだ。
それと同時に、ここに至る海路は狭め、船が入れないように障害物や門を配置している。あの門は実は見せかけで開かないが、人魚が通れるだけの隙間が、水の中にはある。
クウェイルはメイのけがを知るまでは、メイを助けたら海へ送り、もう会わない方がいいと考えていた。
しかし海へ帰れないことが分かり、自分が一生涯かけて彼女を守ることを誓ったのだ。
そのために、それまであまり熱心ではなかった領主の仕事にも、力を入れ始めた。なにせ金はあるだけ困らないのだ。それに権力も。それをクウェイルは学んだ。
「港を作ったって、もしかしてあの大きな港か?」
実際に見て来たフェザントが、驚きの声を上げる。
「そうよ、あそこはクウェイルが作ったのよ」
メイは胸を張る。
「はぁー……そりゃあ思い切ったもんだ……」
フェザントの感心なのか呆れなのか分からないため息に、おかしそうに口を挟んだのはカイトだ。
「ここは元々、いい木材が採れるんだが、それを運び出す輸送手段がなくてな。大きな木をわざわざ小さく切って、国内に運んでいた。クウェイルが港を整備したことで、一本のまま国外にも輸出できるようになった」
「うちの木は、大きく堅くそして水に強い。おかげで造船業の盛んな隣国とも、いいパイプができた」
カイトを引き継いだクウェイルは、全ては妻のおかげとも言うように、メイに愛おしげな顔を向ける。
「……お前のおもしろいところは、全てメイのために動いているのに、いつの間にか領地をも潤しているところだな」
カイトは言葉通りにおもしろそうに笑ってはいるが、どこか恋愛劇を見ているような、他人事の空気があった。
「うわー!!おっさんのにやけ顔なんて見たくねぇー!」
一方のヘロンは心から楽しそうだ。
「なんだと?!」「でれでれじゃねぇか!」
言い合いを始めた二人を止めたのはアイビスの、
「おい!話がズレてるぞ!」
というもっともな突っ込みだった。
「なんだっけ?」本当に忘れているヘロンを放って、
「あの船は、それほど金にならなかったのか?」
カイトがアイビスとクウェイルに尋ねる。
「解体料は引かせてもらったぞ」
とクウェイルが見積もりを渡す。
「……確かに、少ないな」
あの乗り捨てた船を解体して、木材としてクウェイルに売却を頼んでおいたのだが、それが思ったほどの金にはならなかったのだ。
「これからフェザントの村に向かうんだろ?これでは馬を買っただけですっからかんだ。とても道中の路銀まで確保できない」
「……馬は四頭でいい。それほど急ぐ旅じゃない。進みは遅くなるが、二人で乗ればいい」
「荷物もあるんだ。重量超えだろう?」
「いや、十分だ。……どの道どこかで金は稼がなきゃならんと思っていた。ドワーフの村へ行く前に、ベレン卿のところへ寄ろう」
「寄るって……村とは方角が違うだろう」
「十字行路を進んだ方が、時間的には早い」
「そうは言っても……お前、ベレン卿のこと、金づるだと思っていないか?」
「金は腐るほど持っているんだ。いいだろう」
「まったく……」
長と副長の会話だけで、一行の進路は決まったのだが、他の者に不服はないようだった。
すでに決定事項として、カイトは発表する。
「ここを出たら、まず西へ向かい十字行路に出る。そこから北へ。ベレン卿のところで一稼ぎしてから、いよいよドワーフの村だ」
各々が頷いたのを確認し、カイトはクウェイルとメイにも世話になった礼を言う。
「馬がそろい次第、ここを発つ。世話になったな」
カイトのあっさりした態度に慣れている二人だったが、メイはずっと気になっていたのか、質問を投げかける。
「ドワーフの村って?ドワーフの『鍵』とも言っていたわよね?私たちにも詳しいことを教えて!」
それに応えて、カイトは語り始める。
「ドワーフの村は大山脈の麓にある、初めてドワーフと人間の血が混じったと言われている村だ」
「……あっさり言っているが、それはつまり……」
「ドワーフは人間と子どもを作れるってこと?!」
クウェイルの後半を継いだメイは、驚がくの声を上げる。
「ああ」
「ああって……そんなあっさり常識を覆すようなこと……」
確かに亜種という存在は認められているが、人間の常識では、他種との交配はできないとされてきた。だからこそ亜種は不気味な存在として差別されるし、公に認めている国はないのだ。
「ドワーフは元々、人間と身体の構造が近いと言われていた。だからなのか、今となっては分からないが……なにせもう、純粋なドワーフは、残っていないだろうからな」
クウェイルとメイは呆然とする。カイトがもたらす情報は、世界を揺るがせるほどのものばかりだ。
「……残って、いない?」
カイトはここで、フェザントに語り手を譲る。
「……たぶん、だがな。ドワーフの国は、大山脈の地下にあるが、そこに住むやつらも、過去を辿れば人間との混血だ。ま、そんなこと死んでも認めないだろうがな」
フェザントはこの話をここですべきなのか迷ったが、結局カイトの促しに従った。
これはいわば、ドワーフの秘密なのだ。おそらく知っている者は、数えるほどしかいない。
「そんで俺の村は、ドワーフの男と人間の女の間にできた子どもが、最初に住んだと言われている所だ。山間の小せぇ村だが、今はそこにドワーフも人間もごちゃまぜに暮らしている」
険しい山と小さな川、そして小さな集落。故郷を思い出して、フェザントはしばらく言葉を止めた。
「……まあ、血が混じったのは、ずっと前、本当にずっとずっと前だからな。純粋なドワーフは『岩から生まれる』なんて言い伝えもあるから、今のこの……まあ、人間と子作りができるってのが、どうやったのかは、俺たちにも分からないんだがな」
人魚とのことに役に立たなくて……とフェザントは頭をかく。
「……そう、なの……なんだか、頭いっぱいだわ。常識がガラガラ崩れていくわね」
「……話を聞いていると、亜種っていうのは本当に、人間と他の三種の混血によって生まれるってことになるんじゃないか……?」
クウェイルは考え考え、カイトに確認するように聞く。
「……さあな」
だがカイトははぐらかす。
「おい!お前、もしかしてもっと色々知っているんじゃないか!?もったいぶらず、さっさと話せ!」
「……『知っている』訳じゃない」
クウェイルの追及をうるさそうに手で払うが、その場の全員の視線が物言いたげなことに気づき、「しかたない」というように、「……ただの俺の推測に過ぎない」と前置きして話し始める。
「……色々と考えられることはある。例えば……過去には人間と他の三種や動物を繋ぎ合わせる実験なんてことも、あったらしい」
「なんのためにそんな……」
気味悪そうにクレインが顔をしかめる。
「戦争のためだ。何百年も前、ドワーフや人魚と人間が戦争をしていた時代だ。まだそれほど数でも技術でも、人間が他の三種に勝てない時代に、人間を強くしようとした実験だ。三種だけでなく、動物を使っていた記録もある。人魚の内臓を人間に移植したり、ドワーフの腕を人間にくっつけたり、動物の足をつけたり……」
「かわいそう……」
ラークが実験台にされた生物たちのために、涙を流す。
「この時に血が混じった可能性は、まあ、否定はできない」
「カイトは、可能性は低いと思っているみたいだな」
アイビスの指摘に、「まあな」と首肯する。
「ないと言い切れるほどの情報はない。だが、それよりももっと可能性が高いのは……」
そう言ってユエを見る。
「……俺?」
「人間になった人魚の例が、ここにある」
「……過去にもそうして血が混じったってこと?」
メイの確認に、曖昧に頷く。
「確かめるべきことは山ほどあるが……知る術もない過去の話よりは、現実味がある。だがそれは『鍵』が引き金だという前提があってこそ、だがな」
「どうして?」
「『鍵』という共通項が必要だろう?」
カイトは当然だという顔だが、他には同じ景色は見えていない。
「共通項って……前言っていた『ドワーフの鍵』?」
「ああ」
「あー……俺も聞きたかったんだが……」
フェザントが口を挟む。
「お前が言っている『ドワーフの鍵』ってのは、俺が話したアレか?」
「他になにがある?」
「いや……」
当然のように返されると、フェザントは次の言葉を見つけられない。
代わりにアイビスが確認を重ねる。
「『太陽の間の鍵』……だったか?俺も思い出してみたんだが、『ドワーフ』で『鍵』の話って言ったら、それくらいだったよな?」
その話に聞き覚えがあったクレイン、ジェイ、ラーク、ヘロンが「ああ」と思い出した顔をするが、一様に、それがどう繋がるのか見当もつかない。
「でもそれって確か、ドワーフのお宝部屋、みたいな話じゃなかったっけ?」
ヘロンがラークに同意を求めると、「うん……」ラークも思い出し思い出し話す。
「ドワーフの王国の、一番地下にあって、ドワーフの大好きな宝石がいっぱいある、部屋?」
その子どもらしい印象に苦笑し、フェザントが正す。
「正確には、祈りの場だがな。ドワーフは地下にも太陽があると信じて、それを信仰してきた。その地下の太陽に祈りを捧げる部屋なんだが、まあ、今は確かに、供物とした宝石やら金やら鉱物やらが眠る、ドワーフの宝物庫みたいに言われているな」
「へぇ、地下の太陽……ドワーフっておもしろいのね」
メイの素直な感想に、フェザントは破顔する。
「と言っても今は、その中には入れない。扉は閉ざされて、鍵は……ドワーフの王を名乗るやつが持っている。カイトが言っているのはこの『鍵』のことなんだろう?」
「ああ」
「だがよ、あー……確かに鍵は鍵だが、こっちのが人魚の『鍵』と関係あるとは思えないんだが……」
「なぜだ?」
カイトは心底不思議そうだ。
「人魚とドワーフに共通して伝わる『鍵』があるんだ。むしろ関係がない方があり得ないと思うんだが」
カイトにとってそれは、ある種の勘、のようなものである。
「……ドワーフの伝説も、人魚のそれと似たところがある。どちらも、その種族だけしか辿り着けない場所への『鍵』。人魚は海の果てで、ドワーフは地下。それから……あの形……」
「形……?」
「人魚の『鍵』を見た時から、気になっている。……覚えているか?持ち手の形を」
「確か……三つの輪が……」
「そうだ。三つの輪。三──三種族──もし、妖精にも、同じような『鍵』の伝説があるとしたら……?」
カイトは一人で続ける。
「三つの種族、三つの鍵、『海の楽園』に『地下の太陽』──種を変えるほどの力──なんのために作られた?なぜ詳しく伝わっていない?……三つ、そろえたらなにが起きる……?」
カイトの疑問に答える者はない。
「私は貸さんぞ!!」
アイビスの切ない報告に、すごい勢いで答えたのは、なぜかクウェイルだった。
「私を当てにするな!うちは貧乏領地だ!まだ借金があるんだ!!」
自慢げに堂々と胸を張る。
「……別に、お前からなけなしの金をせびったりしない」
カイトの苦笑にも、「どうだか」と斜に構えた態度を崩さない。
「ぷっは!おっさん、貧乏なのかよ!しかもなんで自慢げ!?」
ヘロンは真面目なクウェイルをからかうのを、楽しんでいるのだが、本人はそれにちっとも気づかず、毎回律儀に反応を返している。
「むっ……確かに金はないがな、今のお前たちよりはましだ!それに私が貧乏なのは」「『愛』のため、だものね!」
メイの茶々に、「うっ……」と詰まったが、照れながら首肯した。
「なになに!?『愛』って!!」
「ほっとけ」「私のためよ」
「メイの?!」
ヘロンの興味は、クウェイルをからかうことよりも、メイと話すことに移った。
「そうよ。私のために、この家とこの領地を整備してくれたの。なにかあった時にすぐに海へ逃げられるように、家と海を繋げてくれて……大きな港を作って、領地の収入を上げて、食べていけるようにね」
この家はまさに、人魚のために作られている。
ほとんど海の上に建っていると言ってもいいが、それはわざわざクウェイルが海を広げて、メイが不自由ないだけの深さを確保したのだ。
それと同時に、ここに至る海路は狭め、船が入れないように障害物や門を配置している。あの門は実は見せかけで開かないが、人魚が通れるだけの隙間が、水の中にはある。
クウェイルはメイのけがを知るまでは、メイを助けたら海へ送り、もう会わない方がいいと考えていた。
しかし海へ帰れないことが分かり、自分が一生涯かけて彼女を守ることを誓ったのだ。
そのために、それまであまり熱心ではなかった領主の仕事にも、力を入れ始めた。なにせ金はあるだけ困らないのだ。それに権力も。それをクウェイルは学んだ。
「港を作ったって、もしかしてあの大きな港か?」
実際に見て来たフェザントが、驚きの声を上げる。
「そうよ、あそこはクウェイルが作ったのよ」
メイは胸を張る。
「はぁー……そりゃあ思い切ったもんだ……」
フェザントの感心なのか呆れなのか分からないため息に、おかしそうに口を挟んだのはカイトだ。
「ここは元々、いい木材が採れるんだが、それを運び出す輸送手段がなくてな。大きな木をわざわざ小さく切って、国内に運んでいた。クウェイルが港を整備したことで、一本のまま国外にも輸出できるようになった」
「うちの木は、大きく堅くそして水に強い。おかげで造船業の盛んな隣国とも、いいパイプができた」
カイトを引き継いだクウェイルは、全ては妻のおかげとも言うように、メイに愛おしげな顔を向ける。
「……お前のおもしろいところは、全てメイのために動いているのに、いつの間にか領地をも潤しているところだな」
カイトは言葉通りにおもしろそうに笑ってはいるが、どこか恋愛劇を見ているような、他人事の空気があった。
「うわー!!おっさんのにやけ顔なんて見たくねぇー!」
一方のヘロンは心から楽しそうだ。
「なんだと?!」「でれでれじゃねぇか!」
言い合いを始めた二人を止めたのはアイビスの、
「おい!話がズレてるぞ!」
というもっともな突っ込みだった。
「なんだっけ?」本当に忘れているヘロンを放って、
「あの船は、それほど金にならなかったのか?」
カイトがアイビスとクウェイルに尋ねる。
「解体料は引かせてもらったぞ」
とクウェイルが見積もりを渡す。
「……確かに、少ないな」
あの乗り捨てた船を解体して、木材としてクウェイルに売却を頼んでおいたのだが、それが思ったほどの金にはならなかったのだ。
「これからフェザントの村に向かうんだろ?これでは馬を買っただけですっからかんだ。とても道中の路銀まで確保できない」
「……馬は四頭でいい。それほど急ぐ旅じゃない。進みは遅くなるが、二人で乗ればいい」
「荷物もあるんだ。重量超えだろう?」
「いや、十分だ。……どの道どこかで金は稼がなきゃならんと思っていた。ドワーフの村へ行く前に、ベレン卿のところへ寄ろう」
「寄るって……村とは方角が違うだろう」
「十字行路を進んだ方が、時間的には早い」
「そうは言っても……お前、ベレン卿のこと、金づるだと思っていないか?」
「金は腐るほど持っているんだ。いいだろう」
「まったく……」
長と副長の会話だけで、一行の進路は決まったのだが、他の者に不服はないようだった。
すでに決定事項として、カイトは発表する。
「ここを出たら、まず西へ向かい十字行路に出る。そこから北へ。ベレン卿のところで一稼ぎしてから、いよいよドワーフの村だ」
各々が頷いたのを確認し、カイトはクウェイルとメイにも世話になった礼を言う。
「馬がそろい次第、ここを発つ。世話になったな」
カイトのあっさりした態度に慣れている二人だったが、メイはずっと気になっていたのか、質問を投げかける。
「ドワーフの村って?ドワーフの『鍵』とも言っていたわよね?私たちにも詳しいことを教えて!」
それに応えて、カイトは語り始める。
「ドワーフの村は大山脈の麓にある、初めてドワーフと人間の血が混じったと言われている村だ」
「……あっさり言っているが、それはつまり……」
「ドワーフは人間と子どもを作れるってこと?!」
クウェイルの後半を継いだメイは、驚がくの声を上げる。
「ああ」
「ああって……そんなあっさり常識を覆すようなこと……」
確かに亜種という存在は認められているが、人間の常識では、他種との交配はできないとされてきた。だからこそ亜種は不気味な存在として差別されるし、公に認めている国はないのだ。
「ドワーフは元々、人間と身体の構造が近いと言われていた。だからなのか、今となっては分からないが……なにせもう、純粋なドワーフは、残っていないだろうからな」
クウェイルとメイは呆然とする。カイトがもたらす情報は、世界を揺るがせるほどのものばかりだ。
「……残って、いない?」
カイトはここで、フェザントに語り手を譲る。
「……たぶん、だがな。ドワーフの国は、大山脈の地下にあるが、そこに住むやつらも、過去を辿れば人間との混血だ。ま、そんなこと死んでも認めないだろうがな」
フェザントはこの話をここですべきなのか迷ったが、結局カイトの促しに従った。
これはいわば、ドワーフの秘密なのだ。おそらく知っている者は、数えるほどしかいない。
「そんで俺の村は、ドワーフの男と人間の女の間にできた子どもが、最初に住んだと言われている所だ。山間の小せぇ村だが、今はそこにドワーフも人間もごちゃまぜに暮らしている」
険しい山と小さな川、そして小さな集落。故郷を思い出して、フェザントはしばらく言葉を止めた。
「……まあ、血が混じったのは、ずっと前、本当にずっとずっと前だからな。純粋なドワーフは『岩から生まれる』なんて言い伝えもあるから、今のこの……まあ、人間と子作りができるってのが、どうやったのかは、俺たちにも分からないんだがな」
人魚とのことに役に立たなくて……とフェザントは頭をかく。
「……そう、なの……なんだか、頭いっぱいだわ。常識がガラガラ崩れていくわね」
「……話を聞いていると、亜種っていうのは本当に、人間と他の三種の混血によって生まれるってことになるんじゃないか……?」
クウェイルは考え考え、カイトに確認するように聞く。
「……さあな」
だがカイトははぐらかす。
「おい!お前、もしかしてもっと色々知っているんじゃないか!?もったいぶらず、さっさと話せ!」
「……『知っている』訳じゃない」
クウェイルの追及をうるさそうに手で払うが、その場の全員の視線が物言いたげなことに気づき、「しかたない」というように、「……ただの俺の推測に過ぎない」と前置きして話し始める。
「……色々と考えられることはある。例えば……過去には人間と他の三種や動物を繋ぎ合わせる実験なんてことも、あったらしい」
「なんのためにそんな……」
気味悪そうにクレインが顔をしかめる。
「戦争のためだ。何百年も前、ドワーフや人魚と人間が戦争をしていた時代だ。まだそれほど数でも技術でも、人間が他の三種に勝てない時代に、人間を強くしようとした実験だ。三種だけでなく、動物を使っていた記録もある。人魚の内臓を人間に移植したり、ドワーフの腕を人間にくっつけたり、動物の足をつけたり……」
「かわいそう……」
ラークが実験台にされた生物たちのために、涙を流す。
「この時に血が混じった可能性は、まあ、否定はできない」
「カイトは、可能性は低いと思っているみたいだな」
アイビスの指摘に、「まあな」と首肯する。
「ないと言い切れるほどの情報はない。だが、それよりももっと可能性が高いのは……」
そう言ってユエを見る。
「……俺?」
「人間になった人魚の例が、ここにある」
「……過去にもそうして血が混じったってこと?」
メイの確認に、曖昧に頷く。
「確かめるべきことは山ほどあるが……知る術もない過去の話よりは、現実味がある。だがそれは『鍵』が引き金だという前提があってこそ、だがな」
「どうして?」
「『鍵』という共通項が必要だろう?」
カイトは当然だという顔だが、他には同じ景色は見えていない。
「共通項って……前言っていた『ドワーフの鍵』?」
「ああ」
「あー……俺も聞きたかったんだが……」
フェザントが口を挟む。
「お前が言っている『ドワーフの鍵』ってのは、俺が話したアレか?」
「他になにがある?」
「いや……」
当然のように返されると、フェザントは次の言葉を見つけられない。
代わりにアイビスが確認を重ねる。
「『太陽の間の鍵』……だったか?俺も思い出してみたんだが、『ドワーフ』で『鍵』の話って言ったら、それくらいだったよな?」
その話に聞き覚えがあったクレイン、ジェイ、ラーク、ヘロンが「ああ」と思い出した顔をするが、一様に、それがどう繋がるのか見当もつかない。
「でもそれって確か、ドワーフのお宝部屋、みたいな話じゃなかったっけ?」
ヘロンがラークに同意を求めると、「うん……」ラークも思い出し思い出し話す。
「ドワーフの王国の、一番地下にあって、ドワーフの大好きな宝石がいっぱいある、部屋?」
その子どもらしい印象に苦笑し、フェザントが正す。
「正確には、祈りの場だがな。ドワーフは地下にも太陽があると信じて、それを信仰してきた。その地下の太陽に祈りを捧げる部屋なんだが、まあ、今は確かに、供物とした宝石やら金やら鉱物やらが眠る、ドワーフの宝物庫みたいに言われているな」
「へぇ、地下の太陽……ドワーフっておもしろいのね」
メイの素直な感想に、フェザントは破顔する。
「と言っても今は、その中には入れない。扉は閉ざされて、鍵は……ドワーフの王を名乗るやつが持っている。カイトが言っているのはこの『鍵』のことなんだろう?」
「ああ」
「だがよ、あー……確かに鍵は鍵だが、こっちのが人魚の『鍵』と関係あるとは思えないんだが……」
「なぜだ?」
カイトは心底不思議そうだ。
「人魚とドワーフに共通して伝わる『鍵』があるんだ。むしろ関係がない方があり得ないと思うんだが」
カイトにとってそれは、ある種の勘、のようなものである。
「……ドワーフの伝説も、人魚のそれと似たところがある。どちらも、その種族だけしか辿り着けない場所への『鍵』。人魚は海の果てで、ドワーフは地下。それから……あの形……」
「形……?」
「人魚の『鍵』を見た時から、気になっている。……覚えているか?持ち手の形を」
「確か……三つの輪が……」
「そうだ。三つの輪。三──三種族──もし、妖精にも、同じような『鍵』の伝説があるとしたら……?」
カイトは一人で続ける。
「三つの種族、三つの鍵、『海の楽園』に『地下の太陽』──種を変えるほどの力──なんのために作られた?なぜ詳しく伝わっていない?……三つ、そろえたらなにが起きる……?」
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