怪盗ヴェールは同級生の美少年探偵の追跡を惑わす

八木愛里

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第一章 教会潜入編

20 地下室へ

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 書斎の扉は開け放たれたままだった。几帳面な神父にしては用心が足りないと私は感じたけれど、神父は信者の対応に追われ、警察に電話をかけたりして、教会の中は構っていられなかったのだろう。

 まさか数日前から別人になりすまして潜入しているとは思うまい。

 鍵穴をピッキングしていたら目立ってしまう。施錠されていないのはありがたい。

 私は音を立てずに書斎に入り、本棚の前に立った。
 宗教本や偉人についての本が並んでいる。その中で『影山峡雨の光と闇』というタイトルの本に自然に手が伸びる。
 私の曽祖父であり、怪盗ヴェールが狙う絵の画家だった。カラーの図解が数ページ載っていて、その後は系譜が書かれている。

 明治三年東京都中野区生まれ。最愛の妻に先立たれ、失意の中で酒に溺れながらも五人の子どもを養うために絵を描くことで生計を立てた。繁栄をもたらす絵と言われたのは晩年になってからで、それまでは安値で買い叩かれ、庶民向けに風景画等を描いて暮らしていたという──。

 激動の生涯に同情するけれど、怪盗の家業をせざるを得ない原因となった人物なので、彼が絵を生み出さなければと幾度と考えたかわからない。
 本に集中するあまり、足音が近づいていたのに反応が遅れてしまった。

「……景吾。この部屋に入るな、と言い聞かせていたのに、言いつけを破ったな」

 顔を上げると、目を怒らせた神父が立っていた。

「……」

 何を言っても無駄だ、と瞬時にわかって、黙り込むしかなかった。
 気づいたときには手を引っ張られていた。

「来い」
 
 強引に腕を引かれ、部屋から引きずり出される。
 その時、後ろでドアが勢いよく閉まった。

「ごめんなさい! もうしませんから!」
「こっちに来て、反省しなさい」

 引っ張られるままに辿り着いたのは、地下室だった。空気がひやりとして、私は身震いする。

「悪いことをした子は一日、自分と向き合ってもらう。食事は運ばせるから、飢え死にすることはない。しっかりと反省をしなさい」
「……はい」

 外から鍵がかけられて、地下室に閉じ込められてしまった。頑丈な石の壁でできているからか、何も物音がしない。
 反省部屋のようだ。密室に閉じ込められては、子どもなら不安で押しつぶされてしまうに違いない。

「ああもう、お風呂にも入りたいのに、閉じ込められるなんて、不衛生だ!」

 変装が解けずに、体の隅々まで洗えていない。汗でベトベトして髪の毛や体が気持ち悪い。こんなとき、変装は不便だ。
 
 幸いだったのは、神父が私の正体に気づいていないこと。そして、怪盗として閉所や密室で過ごすことが多いから、全然恐怖はない。

「さて。鍵は閉まっているし……どうしようかな」
 
 考えたけれど、いい案も浮かばず床にゴロンと寝転んで目を閉じた。
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