怪盗ヴェールは同級生の美少年探偵の追跡を惑わす

八木愛里

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第一章 教会潜入編

22 怪盗ヴェール参上!?

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 予告状の日、刑事が部下を引き連れてやってきた。
 子供たちは部屋でじっとしているように、と言われたが、誰一人として守っている人はいない。好奇心旺盛な子どもたちは、部屋から抜け出してこっそりと様子を窺っている。私もその一人に混ざった。

 教会の玄関で警察の人たちを出迎えた神父は、うやうやしく上半身を屈めた。

「どうぞお越しくださいました。……今日は探偵ヴェールの専門の探偵さんはいらっしゃらないのですか?」

 神父が怪盗ヴェールの専門の探偵と呼ばれる桐生健太の姿がないことを指摘すると、刑事は表情を変えずに口を開いた。

「彼は、急用でいない。何か不都合でも?」
「いいえ。噂で優秀な探偵がいると聞いていただけです。ではご案内します。こちらへ」
 
 刑事たちは、玄関ホールから教会の中へと通された。
 礼拝堂には黒い布が被せられていた。神父は布を外す。
 ステンドグラスの光を浴びて、一つの絵が浮かび上がった。
 
「これが、影山峡雨が描いたとされる絵画です」
 
 神父は額縁を持ってゆっくりと持ち上げた。刑事たちが息を呑んだのが聞こえた。私も息を吞んでしまったほどだ。教会の中で見ると、また風情があって良い。

 まるで天からの使いのペガサスが地上に降りてきたような光景だった。背景に描かれた森は鬱蒼と広がっているが、ペガサスの周りには小鳥たちがさえずっている。幻想的な絵だ。
 
「これは美しい……」
「近くで見ると緻密で美しい仕上がりですね」
 
 神父が誇らしく言う。刑事は絵を凝視した後、顔を上げた。

「神父さま、これが怪盗ヴェールの狙っている絵だな?」
「そうです」
「見事な絵だ……だが、警察が来たのはこれが目的ではない。神父さま、あなたに別の容疑がかかっている」
「えっ!?」
 
 神父は驚いて目を見開いた。
 
「別の容疑ってどういうことですか? 怪盗ヴェールからの予告状が来ているんですよ」
 
 刑事の言葉に、神父はショックを隠し切れないようだったが、すぐに反論した。
 
「怪盗ヴェールからの予告状は偽物です。探偵の桐生健太が出したものです」
 
 刑事が健太の存在に目配せすると、後ろに控えていた健太は一歩踏み出した。
 
「皆さん、初めまして。桐生健太と申します」

「寛太くん、どういうことだ!」
 
「寛太という人物はいません。ここにいるのは、健太です。調査中に、あなたが隠し持っているものを見つけました」
 
「隠し持っているものは、何もない!」
 
 神父は驚愕のあまり口をパクパクと開けたままになった。
 
「シラを切るつもりですか? 昨日ダンボールに入れたものを見せてもらえますか?」
「ダンボールだと?」
 
 警察の部下が神父の部屋からダンボールを探し当てると。中を開けて中身をテーブルの上に出すと、聖典だとわかった。神父は片眉を上げたが、平静を装ったようだ。
 
「これがどうしたというんだ?」
「中に入っていたのは、何でしょうか?」
 
 健太は神父に問うが、答えは帰ってこない。代わりに刑事が口を開いた。
 
「絵や聖書の中に宝石を隠すという手口を知っていてな」
 
 刑事が聖典を手に取って、背表紙をスライドさせて開くと窪みがあった。そこには麻薬の袋が入っていた。言い逃れのできない証拠だ。

「ありましたよ。ほら」
 
 刑事が掲げたのは、白い粉だ。神父の顔色はみるみる変わっていく。
 
「この白い粉は何でしょうか?」
「そ、それは……」
「あなたを麻薬の密売容疑で逮捕します」

 刑事たちは神父を拘束する。

「――僕が予告状を出しておいて、参上しないわけがないじゃないか」

 私は男バージョンの怪盗ヴェールの声で高らかに言った。
 刑事たちが首を傾げる。その中で一人、口に手を当てている者がいた。智哉だ。私はその智哉にウインクをする。内緒ね、と合図を込めて。
 
「怪盗ヴェール!」
 
 神父は顔を歪めた。
 私は景吾の変装を脱ぎ捨てて、男バージョン怪盗ヴェールのトレードマークである、蛍光色の紫色のジャケット姿に変身した。
 
「怪盗ヴェール、何をしに来た!」
 
 神父が悔しそうに叫んだ。私はにっと口角を上げる。
 私は指を鳴らすと、絵の中のペガサスが動き出した。まるで生きているかのようだ。そして翼を羽ばたかせて、飛び立っていくではないか。
 これは澪の得意とするプロジェクションマッピングの演出だけど。

「この絵は僕がいただくよ」
「何をするつもりだ! やめろ!」
 
 刑事たちが慌てて、絵のペガサスに駆け寄るが、ひらりとペガサスはかわして天井を突き抜けて飛び去ってしまった。教会の外へ出ていってしまう。
 
「なんてことをしてくれたんだ!」
 
 神父は顔を歪めて叫んだ。私は声を上げて笑う。
 
「ハッハッハ! 僕に盗まれるとわかっていて、これまで隠してたんじゃないのか?」
 
 私は神父を挑発するように言った。しかし、神父は首を横に振った。
 
「くっ……。しかし、予告状を出したのは、怪盗ヴェールではなく探偵だったはず」

「そうだったとしても、予告状は出されて、怪盗が現れた。ただそれだけさ」
 
 私は肩を竦めた。
 
「神父さまを警察へ連行してください」
 
 刑事は部下に命令した。神父は項垂れる。少しして外でヘリコプターの音が聞こえ始めた。おそらくヘリコプターで上空から絵を捜索するつもりだろう。

「そこにいる怪盗ヴェールを捕まえろ!」
「は!」

 刑事の指示を受けた警察官たちが走ってくる。
 
「捕まえられるものなら、捕まえてみるんだな!」
 
 私はマントをなびかせて挑発すると、足に力を込めた。
 さて、最後は怪盗らしく逃げるとしましょうか。
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