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第二章 学園編

25 怪盗ヴェール、高校に出現!?

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 城宮高校の事務局宛に予告状が送られると、その噂はあっという間に拡散された。
 
『名探偵、桐生くんの高校で直接対決!』
『ついに怪盗ヴェールが、城宮高校に現れるのか!?』
 
 そんなSNS上での盛り上がりを、私は複雑な気持ちで眺めていた。
 
「なんか……すごいことになっているな……」
 
 私はため息まじりに呟いた。このままでは作戦どころではないかもしれないな……と思いながらも、私がやるべきことは変わらないのだ。この騒ぎを利用して盗み出すのみ! 私はそう意気込んで、携帯の画面と睨めっこをするのだった。

 
 そして予告日当日の放課後、私は城宮高校の正門から校舎まで伸びる並木道にいた。
 髪をひっつめ、黒い眼鏡をかけて俯いた姿勢で歩く。どこにでもいる地味な生徒の姿に、下校する生徒たちからは注目されることはない。
 正門から健太がガタイの良い男性と一緒に歩いてきた。油断のない顔つきをしたスーツの男性はおそらく刑事だろう。
 
「健太くんのいる学校で盗みを働こうとは、いい度胸だよな。怪盗ヴェールは」
 
 その刑事が健太に話しかけたのが聞こえた。
 
「ええ」と健太は頷く。
「早く捕まえましょう」と刑事の男は目をギラギラさせて答えた。
 
 私は健太たちとすれ違い、離れていく。健太も、その隣を歩く刑事も、私の正体には気づかない。私の変装が完璧だからだ。

 数メートル離れたところで、私の中でスイッチが切り替わった。
 猫背だった背中をスッと伸ばす。
 黒縁メガネを外して、制服の胸ポケットへ。
 帽子を取るような早技でカツラを引っ張り下ろすと、色素の薄い金髪がこぼれ落ちる。

 紺色のブレザーにチェックの膝上のスカート、短め丈の黒いソックスに茶色のローファー。制服姿の怪盗ヴェールだ。

「どこのモデルさんだろう……」
 
 他の女子生徒から注目されても、それに構わず歩き続ける。
 
「か、怪盗ヴェールだ!」

 瞬く間に生徒たちから取り囲まれた。
 スマホでパシャパシャと写真撮影会が始まる。

「可愛く撮ってね♡」

 気分を良くした私は手を腰にあててポーズを取った。アイドルみたいなセリフでも、怪盗ヴェールに変身すればサラリと言えてしまう。
 地面にスピーカーが設置されていて、ノリの良い洋楽が大きい音で流れ始める。音楽のテンポが早まるにつれて、テンションが上がって踊りだす生徒も出てきた。

「いいぞー! ヴェールちゃん!」
「もっとサービスしてー!」

 ノリのいい生徒たちに、私はウインクをして微笑んだ。
 
 人だかりにもみくちゃにされながら、健太が先頭列に顔を出すと「うっ」と耳を塞いた。ボリュームの大きい音楽がお気に召さなかったらしい。
 
「あ、探偵くん!」
 
 私は手を挙げて、ブンブンと大きく振った。
 観客たちの注目は健太に集まる。期待のこもった視線だった。

 健太のこめかみに青筋が浮かぶ。苛立っているようだ。
 
「怪盗ヴェール……!」

 健太は怒りを滲ませた声で、私に向かって叫んだ。
 そろそろ空からロープが降りてくる頃だ。
 風圧で私の金髪が舞い上がり、ヘリコプターの羽音が近づいてくる。
 健太はハッと空を見上げた。
 
「撮影会はこれでおしまい。みんな、じゃあね!」
 
 私は空から降りてきたロープに捕まると、地面からフワリと浮いた。
 ヘリコプターからロープを巻き上げられる。
「またね!」と私は笑顔で手を振った。
 
 そして、ロープの巻き上げる力が強くなり、私の体は空高く舞い上がった。
 ロープを伝って、ヘリコプターに乗り込むと座席に座る。
 操縦席にいるのは叔父さんだ。
 
「目的地は高校の屋上でいいんだな」
 
 叔父さんは前を向きながら、私に問いかける。
 
「うん!」
 
 私が笑顔で頷くと、ヘリコプターは城宮高校の屋上へ向かって飛んでいった。
 そして屋上に着陸した私はロープから降ると、「ありがとう!」と私は大きく手を振った。

 ヘリコプターの羽音が遠ざかっていくのを聞きながら、私は校舎へ入り、階段を駆け下りる。
 放課後の校舎は人通りがあまりなく、すれ違う生徒も少なかった。
 
「まずは美術室ね」
 
 私は独り言を呟いて、地下の美術室を目指した。SNSの鍵アカウントで密かに連絡を取り合い、指定された場所だった。
 美術室の前まで来ると、扉には鍵はかかっていなかった。
 私は音を立てないように、ゆっくりとドアの取っ手を回して開ける。
 中は薄暗くて埃っぽい部屋だった。
 
 そして、美術室には一人の女性が佇んでいた。赤城先生だ。
 彼女は私の姿を見ると、明らかに落胆した顔になった。
 
「……男性のヴェールさまではなかったんですね。性別を指定しておけばよかった」

 あちゃー。どうやら怪盗紳士がお望みだったらしい。
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