29 / 33
第二章 学園編
29 さびれた画廊で
しおりを挟む
グラバー園を出た私たちは、自由行動の次の目的地を目指してレンガで舗装された道を歩く。
……ん?
しばらく歩くと、道沿いの店舗の一つに違和感を感じて立ち止まった。
黒い靄が立ち上っているだ。……これは。
嫌な予感がする。怪盗ヴェールのターゲットの絵に現れる靄と同じタイプのものだ。
「私、この店に寄っていきたい! すぐに戻るから、みんなは先を歩いていて」
と、私は店に向かって駆け出す。
「おい、秋山!」
健太が呼び止める声が聞こえたが、私は構わず店に入った。
さびれた画廊だった。私は絵が飾られているフロアを歩き回って、絵の確認をする。その中の一つの絵が黒い靄に包まれていた。間違いない、ターゲットの絵だ。
「秋山、勝手に一人で行動するなよ!」
振り向くと健太が立っていた。他のみんなの姿はまだ見えない。
「この絵……」
健太は私の前にある絵をまじまじと見つめる。
「峡雨の絵だ。……怪盗ヴェールが狙っている絵で間違いない」
鋭い目つきで健太はそう言った。鑑定士さながらの目利きだ。
私が最初に見つけたのに横取りされるの? それは嫌よ! ターゲットが近くにあるのに手をこまねいて見る羽目になるとは……!
「秋山、どうしてここにきたんだ?」
健太が私に問いかける。
「それは……」
私は言いよどむ。黒い靄が見えたから……とは絶対に言えない!
「もしかして、絵の収集家だったとか? それで絵が気になって見にきたとか」
「…そうだよ! 絵には目がないの! 自分の部屋に飾りたいな……って」
私は苦し紛れに答えた。
「なるほど……秋山の意外な一面を見た気がするよ。俺も絵を見る目はある方だけど、ここまでとはね」
「ありがとう!」
私は笑顔で取り繕った。
「峡雨の絵は俺に譲ってくれないか? 怪盗ヴェールを呼び寄せる切り札にしたいんだ」
健太は真剣な表情で私を見つめた。
ああ、本当は譲りたくない! だけど、断ったら怪しまれてしまうに決まっている。
私には健太の言葉を呑むしか選択肢はなかった。
「分かった……いいよ」と私は頷く。
「本当か! ありがとう!」
健太は嬉しそうに言った。
「秋山のおかげで良い買い物ができたよ」
健太はホクホク笑顔で感謝の言葉を述べる。
「どういたしまして……」
私は引きつった笑顔で返答した。
ターゲットの絵は健太に奪われてしまったけれど、もう一つの可能性に賭けて、こっそりとメールを打った。
私の父親宛てだ。
彼は表立っては怪盗家業をしていないが、いくつかの架空会社を持ち、オークションなどに峡雨の絵が出品されないか目を光らせている。
どうか横取りが成功しますように。
その後、店を出た私たちは他の班員たちと合流しホテルへ戻った。
部屋に着くとベッドに寝そべり、メールで澪に今日起こった出来事を報告する。
送ってからすぐに返事が来た。
「大丈夫だよ。今度は一緒に取り返そう!」
私は胸が熱くなるのを感じた。澪は私を信頼して、そう言ってくれている。
「ありがとう! 絶対に取り戻そうね!」と私は返信したのだった。
こうして、思わぬハプニングは多数あったけれど、修学旅行は無事に終了した。
私たちは長崎駅へ到着し、新幹線に乗って帰路につく。
帰りの新幹線の中、私は斜め前の席にいる健太の様子をチラチラと伺っていた。彼の携帯が鳴り、席を離れる。そして、戻ってきたときの健太の表情は険しかった。
「……あの絵が買えなかった? 嘘だろ……」
健太は誰にも聞こえないような小声で呟く。
「あの絵って?」
こそっと声をかけると、健太は振り返った。
「ああ……秋山が見つけた峡雨の絵だよ。他に高値で買い取ってくれる人が出てきたから売る話はなかったことにしてほしいってさ」
「それってまさか……」と私は息を呑んだ。
「そのまさかだよ。誰かに横取りされたみたいなんだ」と健太は悔しそうに言う。
「……そうなんだ」
きっと父の交渉が成立したようね! と心の中で喜びつつも、私は言葉を濁した。
健太は窓の外に視線を移し、「誰なんだよ……」と独り言をつぶやく。
絵を取り返せたのは嬉しかったけれど、手放しには喜べなかった。……どうして? 横取りしたことに罪悪感でもあるのだろうか。
私はその考えをすぐに打ち消した。罪悪感なんて……健太にそんなこと感じていたら、仕事に支障が出るわ!
私は外を見るふりをして、斜め前の席にいる健太の姿を盗み見た。彼はつまらなさそうな表情をしている。やはり、絵を横取りされて苛立っているようだ。
私はこっそりと息をついた。
健太には悪いけど、ターゲットが手元に戻ってきて良かった! それに健太の家にあの絵があったら、きっと彼に不幸が訪れていたはず。それは絶対に避けなきゃいけない!
今回の修学旅行はハプニングだらけだったけど、結果として絵が取り戻せて本当に良かった!
私は気持ちを切り替えて、帰り道の新幹線で眠りにつくのだった。
……ん?
しばらく歩くと、道沿いの店舗の一つに違和感を感じて立ち止まった。
黒い靄が立ち上っているだ。……これは。
嫌な予感がする。怪盗ヴェールのターゲットの絵に現れる靄と同じタイプのものだ。
「私、この店に寄っていきたい! すぐに戻るから、みんなは先を歩いていて」
と、私は店に向かって駆け出す。
「おい、秋山!」
健太が呼び止める声が聞こえたが、私は構わず店に入った。
さびれた画廊だった。私は絵が飾られているフロアを歩き回って、絵の確認をする。その中の一つの絵が黒い靄に包まれていた。間違いない、ターゲットの絵だ。
「秋山、勝手に一人で行動するなよ!」
振り向くと健太が立っていた。他のみんなの姿はまだ見えない。
「この絵……」
健太は私の前にある絵をまじまじと見つめる。
「峡雨の絵だ。……怪盗ヴェールが狙っている絵で間違いない」
鋭い目つきで健太はそう言った。鑑定士さながらの目利きだ。
私が最初に見つけたのに横取りされるの? それは嫌よ! ターゲットが近くにあるのに手をこまねいて見る羽目になるとは……!
「秋山、どうしてここにきたんだ?」
健太が私に問いかける。
「それは……」
私は言いよどむ。黒い靄が見えたから……とは絶対に言えない!
「もしかして、絵の収集家だったとか? それで絵が気になって見にきたとか」
「…そうだよ! 絵には目がないの! 自分の部屋に飾りたいな……って」
私は苦し紛れに答えた。
「なるほど……秋山の意外な一面を見た気がするよ。俺も絵を見る目はある方だけど、ここまでとはね」
「ありがとう!」
私は笑顔で取り繕った。
「峡雨の絵は俺に譲ってくれないか? 怪盗ヴェールを呼び寄せる切り札にしたいんだ」
健太は真剣な表情で私を見つめた。
ああ、本当は譲りたくない! だけど、断ったら怪しまれてしまうに決まっている。
私には健太の言葉を呑むしか選択肢はなかった。
「分かった……いいよ」と私は頷く。
「本当か! ありがとう!」
健太は嬉しそうに言った。
「秋山のおかげで良い買い物ができたよ」
健太はホクホク笑顔で感謝の言葉を述べる。
「どういたしまして……」
私は引きつった笑顔で返答した。
ターゲットの絵は健太に奪われてしまったけれど、もう一つの可能性に賭けて、こっそりとメールを打った。
私の父親宛てだ。
彼は表立っては怪盗家業をしていないが、いくつかの架空会社を持ち、オークションなどに峡雨の絵が出品されないか目を光らせている。
どうか横取りが成功しますように。
その後、店を出た私たちは他の班員たちと合流しホテルへ戻った。
部屋に着くとベッドに寝そべり、メールで澪に今日起こった出来事を報告する。
送ってからすぐに返事が来た。
「大丈夫だよ。今度は一緒に取り返そう!」
私は胸が熱くなるのを感じた。澪は私を信頼して、そう言ってくれている。
「ありがとう! 絶対に取り戻そうね!」と私は返信したのだった。
こうして、思わぬハプニングは多数あったけれど、修学旅行は無事に終了した。
私たちは長崎駅へ到着し、新幹線に乗って帰路につく。
帰りの新幹線の中、私は斜め前の席にいる健太の様子をチラチラと伺っていた。彼の携帯が鳴り、席を離れる。そして、戻ってきたときの健太の表情は険しかった。
「……あの絵が買えなかった? 嘘だろ……」
健太は誰にも聞こえないような小声で呟く。
「あの絵って?」
こそっと声をかけると、健太は振り返った。
「ああ……秋山が見つけた峡雨の絵だよ。他に高値で買い取ってくれる人が出てきたから売る話はなかったことにしてほしいってさ」
「それってまさか……」と私は息を呑んだ。
「そのまさかだよ。誰かに横取りされたみたいなんだ」と健太は悔しそうに言う。
「……そうなんだ」
きっと父の交渉が成立したようね! と心の中で喜びつつも、私は言葉を濁した。
健太は窓の外に視線を移し、「誰なんだよ……」と独り言をつぶやく。
絵を取り返せたのは嬉しかったけれど、手放しには喜べなかった。……どうして? 横取りしたことに罪悪感でもあるのだろうか。
私はその考えをすぐに打ち消した。罪悪感なんて……健太にそんなこと感じていたら、仕事に支障が出るわ!
私は外を見るふりをして、斜め前の席にいる健太の姿を盗み見た。彼はつまらなさそうな表情をしている。やはり、絵を横取りされて苛立っているようだ。
私はこっそりと息をついた。
健太には悪いけど、ターゲットが手元に戻ってきて良かった! それに健太の家にあの絵があったら、きっと彼に不幸が訪れていたはず。それは絶対に避けなきゃいけない!
今回の修学旅行はハプニングだらけだったけど、結果として絵が取り戻せて本当に良かった!
私は気持ちを切り替えて、帰り道の新幹線で眠りにつくのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる