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第二部 極北の修道院編
53 黒幕と対峙する
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修道院長に案内されながら暗い階段を降りていくと、だんだんと暗闇に目が慣れてきた。
地下牢に着くと、鉄格子の中に鎖で手を繋がれたロウの姿が。
近づく数名の足音に気づいたロウがハッと顔を上げる。
「来るな!」
ロウが素早く叫んだ。
私たちは周囲を警戒して、足を止める。
『注意してください! 魔獣が来ます!』
敵の気配を察したリアが声を上げる。
「クックック。自ら捕まりにやって来たとは笑わせてくれる」
ソニアの皮を被った魔獣がそこにいた。修道女の姿をしているが、禍々しいオーラを全身に纏っていた。
「捕まりに来てはいないわ。ロウを助けに来たのよ! 修道院長さまも私たちの仲間よ!」
私は負けじと強気で言い返した。こちらは第一王子と修道院長と私、敵は魔獣一人。数で言えば、こちらの方は圧倒的に有利だ。
「ミランダは泳がせておいたのだ。今さら雑魚が一匹増えたところで変わりはない」
修道院長は泳がせておいた? わざと操る魔法をかけなかったってこと?
それは……私たちを誘き出すために?
「良いことを教えてやろう。最強だったはずの大魔法使いが、あっさりと我に捕まった理由を聞きたくないか?」
魔獣はニヤリと笑った。
「やめろ! ロザリー、耳を貸すな!」
魔獣の誘いに乗ってはいけないと、ロウは私に向かって叫んだ。
しかし、それはずっと気になっていたことなので、嫌でも耳に入ってきてしまう。
「大魔法使いは、ロザリーの様子を盗み見たのだ。フィアルとか言う男に笑いかけたロザリーを見て、ちょっと突けば隙ができた。まったく、人間の心の弱さには、ほとほと呆れさせてくれる」
魔獣はそう言い捨てた。
フィアルが私を訪ねてきた時のことだ。去り際の、フィアルが一人旅をして強盗に襲われかけた話のくだりで、笑い合った覚えがある。その時のことをロウに見られたってこと!?
ということは、ロウが捕まったのは、私のせいなの!?
そうだ。お前のせいだ。さあ、苦しむがよい――。
魔獣から、そんな圧を感じた。
でも……私はそうは思わないんだけどなぁ。
「あの、ネアトリアンダー。名前が長いから、いっそのことネアちゃんでいいか。言葉巧みに私の心を傷つけようとしているようだけど……まったく私に効いていません!」
「ネア……ちゃんだと……!」
魔獣の眉がピクリと動いた。可愛らしいあだ名を付けられて屈辱とばかりに。
「それに、大魔法使いが捕まったのはお前のせいなのに、まったく効いていないのか!? なぜだ!」
慌て始めた魔獣に、今度は私が呆れ返った。
なぜかと聞かれたら……いいでしょう。教えてあげるわ。
「だって、ロウが嫉妬してくれたってことでしょう? 私だって、ロウの過去の女の話が出てきたら嫌な気分になるわ。彼と同じ気持ちだって分かったから、それ以上に嬉しいことはありません!」
あ、売り言葉に買い言葉で、数名の目撃者がいる中で堂々と告白してしまった。この魔獣の討伐が終わるまで、この気持ちは内緒にしておこうと思ったのに。ロウの足枷になって、きっと迷惑だから。
ロウはブワッと耳まで赤面する。第一王子は告白現場に固まっているし、修道院長はやっちまったなって目で見てくるし。妖精リアはカップル成立を祝服してキラキラする目だ。
うん、そうだね。やっちまったね。勢いで言ってしまうなんて、恥ずかし過ぎる。もうこれは開き直るしかないわ。
あなたたち全員が証人です!
だって、ロウよりも六才も年下のお子さまで、恋愛対象として見られないと思ってた。師匠と弟子の関係だと思うようにしていた。
わざわざそれを教えてくれるなんて、ネアちゃんって実は恋のキューピットなの?
「……ならば、大魔法使いの過去の女の話を引きずり出してやろうか」
怒声を含んだ声で、ネアちゃんはそう言ってくる。意地悪だなぁ。本当に。
ネアちゃんがそう言うのなら、ロウの過去の女の話があるの? 私よりも人生経験があるから、そんな話の一つや二つあってもおかしくないけれど……。
「黙っていれば好き勝手に……もう、これ以上かき回すのはやめてくれ!」
「気になるけど、ネアちゃんからはいらないわ!」
ロウの悲痛な叫びと、私の声が重なった。
「おのれ、ネアちゃんめ……。俺がせっかく告白のシチュエーションを用意していたものを全部ぶち壊しやがって……」
ロウは鎖に繋がれた拳を震わして、怒りの矛先をネアちゃんに向けた。おや、ネアちゃん呼びが定着し始めている。言いやすいからね。
それにしても、告白のシチュエーションを用意って……ロウって、意外とロマンチストだったの!?
地下牢に着くと、鉄格子の中に鎖で手を繋がれたロウの姿が。
近づく数名の足音に気づいたロウがハッと顔を上げる。
「来るな!」
ロウが素早く叫んだ。
私たちは周囲を警戒して、足を止める。
『注意してください! 魔獣が来ます!』
敵の気配を察したリアが声を上げる。
「クックック。自ら捕まりにやって来たとは笑わせてくれる」
ソニアの皮を被った魔獣がそこにいた。修道女の姿をしているが、禍々しいオーラを全身に纏っていた。
「捕まりに来てはいないわ。ロウを助けに来たのよ! 修道院長さまも私たちの仲間よ!」
私は負けじと強気で言い返した。こちらは第一王子と修道院長と私、敵は魔獣一人。数で言えば、こちらの方は圧倒的に有利だ。
「ミランダは泳がせておいたのだ。今さら雑魚が一匹増えたところで変わりはない」
修道院長は泳がせておいた? わざと操る魔法をかけなかったってこと?
それは……私たちを誘き出すために?
「良いことを教えてやろう。最強だったはずの大魔法使いが、あっさりと我に捕まった理由を聞きたくないか?」
魔獣はニヤリと笑った。
「やめろ! ロザリー、耳を貸すな!」
魔獣の誘いに乗ってはいけないと、ロウは私に向かって叫んだ。
しかし、それはずっと気になっていたことなので、嫌でも耳に入ってきてしまう。
「大魔法使いは、ロザリーの様子を盗み見たのだ。フィアルとか言う男に笑いかけたロザリーを見て、ちょっと突けば隙ができた。まったく、人間の心の弱さには、ほとほと呆れさせてくれる」
魔獣はそう言い捨てた。
フィアルが私を訪ねてきた時のことだ。去り際の、フィアルが一人旅をして強盗に襲われかけた話のくだりで、笑い合った覚えがある。その時のことをロウに見られたってこと!?
ということは、ロウが捕まったのは、私のせいなの!?
そうだ。お前のせいだ。さあ、苦しむがよい――。
魔獣から、そんな圧を感じた。
でも……私はそうは思わないんだけどなぁ。
「あの、ネアトリアンダー。名前が長いから、いっそのことネアちゃんでいいか。言葉巧みに私の心を傷つけようとしているようだけど……まったく私に効いていません!」
「ネア……ちゃんだと……!」
魔獣の眉がピクリと動いた。可愛らしいあだ名を付けられて屈辱とばかりに。
「それに、大魔法使いが捕まったのはお前のせいなのに、まったく効いていないのか!? なぜだ!」
慌て始めた魔獣に、今度は私が呆れ返った。
なぜかと聞かれたら……いいでしょう。教えてあげるわ。
「だって、ロウが嫉妬してくれたってことでしょう? 私だって、ロウの過去の女の話が出てきたら嫌な気分になるわ。彼と同じ気持ちだって分かったから、それ以上に嬉しいことはありません!」
あ、売り言葉に買い言葉で、数名の目撃者がいる中で堂々と告白してしまった。この魔獣の討伐が終わるまで、この気持ちは内緒にしておこうと思ったのに。ロウの足枷になって、きっと迷惑だから。
ロウはブワッと耳まで赤面する。第一王子は告白現場に固まっているし、修道院長はやっちまったなって目で見てくるし。妖精リアはカップル成立を祝服してキラキラする目だ。
うん、そうだね。やっちまったね。勢いで言ってしまうなんて、恥ずかし過ぎる。もうこれは開き直るしかないわ。
あなたたち全員が証人です!
だって、ロウよりも六才も年下のお子さまで、恋愛対象として見られないと思ってた。師匠と弟子の関係だと思うようにしていた。
わざわざそれを教えてくれるなんて、ネアちゃんって実は恋のキューピットなの?
「……ならば、大魔法使いの過去の女の話を引きずり出してやろうか」
怒声を含んだ声で、ネアちゃんはそう言ってくる。意地悪だなぁ。本当に。
ネアちゃんがそう言うのなら、ロウの過去の女の話があるの? 私よりも人生経験があるから、そんな話の一つや二つあってもおかしくないけれど……。
「黙っていれば好き勝手に……もう、これ以上かき回すのはやめてくれ!」
「気になるけど、ネアちゃんからはいらないわ!」
ロウの悲痛な叫びと、私の声が重なった。
「おのれ、ネアちゃんめ……。俺がせっかく告白のシチュエーションを用意していたものを全部ぶち壊しやがって……」
ロウは鎖に繋がれた拳を震わして、怒りの矛先をネアちゃんに向けた。おや、ネアちゃん呼びが定着し始めている。言いやすいからね。
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