98 / 98
第4部 妖精の森編
98 後日談
しおりを挟む
妖精の国に少しの間滞在することになり、ロウが目覚めてから数日が経った。
ロウはリハビリを続け、次第に以前の強さを取り戻していった。でも、リハビリが必要ないくらい魔力が安定しているけどね。
ある日の夕暮れ、ディディがふとしたことでロウに話しかけた。
彼女の声はよく通るのでしっかりと聞こえたけれど、彼らの視界に入っていないことをいいことに、私はこっそりと聞き耳を立てる。
「ロウさま、体の調子はどうですか?」
「すっかり元どおりだ」
ディディは「それはよかったわ」と言って、ロウをただ見つめた。
「……あのとき、ロウさまの頭の中はロザリーでいっぱいだったわ。分かっていたけれど、どうしても受け入れられなかったの。でも、ずっと勝手に片思いでいるのはいいでしょう?」
彼女の瞳には少しの寂しさが宿っていた。ロウはディディの肩に手を置き、優しく微笑んだ。
「それはいけない。ディディは見合った相手を見つけて、愛し合って幸せになるべきだ。……その相手はこの世界にきっといる」
ディディは少し黙って考え込んでいたが、やがて決心したように顔を上げた。
「じゃあ、ロウが見つけてくれる? それなら納得できるかもしれないわ」
彼女の無邪気な提案に、ロウは苦笑しながら首を振った。
「俺はどちらかというと父親の気分なんだ。中途半端な男はディディにやれない。俺では理想が高くなって見つけられないだろう」
ディディはそれを聞いて眉を寄せた。
「……そっか、父親か。最初からロウの恋愛対象になれなかったってことね」
「すまない」
ロウは自分が悪者になることを決めたようだった。未練を断ち切るにはハッキリ言うしかなかったのだろう。ディディはしばらく黙っていたが、やがて悲しい表情を消して顔を上げた。
「私を傷つけないように考えてくれるなんて、格好良すぎるわ。ロザリーが羨ましい」
そう言葉を切って、ディディは微笑んだ。
「私はさっさといい男を見つけて、二人の父親を悲しませてやるんだから!」
ディディの悪戯っぽい言葉に、ロウはハハハッと笑った。
「それは困るな」
二人は楽しそうに笑っていたので、私はそっとその場を離れた。そろそろ帰らなくてはいけない日が近づいている。そんな予感がした。
◇
その日の夜、ロウと私は泉のほとりで静かに話していた。月明かりが水面に反射し、美しい光景が広がっていた。
「もしかして、あの時の魔法学校の記憶は最初からあったの?」
私は問いかけた。ロウは頷きながら、遠くを見つめた。
「そうだが」
彼の返答に、私は心が少しざわついた。
「それじゃあ、初めて魔道具屋に行ったときも、私が誰だか知っていて……」
「やっと気づいたか。俺の初恋はタイムスリップしてやってきた師匠のロザリーで、それは隠していないといけなかった。変に俺が口を出して、ロザリーの行動を変えるわけにはいかなかったからだ」
ロウは淡々と話した。私はその答えに少し驚いた。
「もしかして……私がタイムスリップしたことも、全部分かっていたの?」
「それを知ったのは、魔族に襲われた村でロザリーを見かけたときだったな。師匠の魔力を間違えるわけがない」
ロウは私を見て微笑んだ。
その言葉に、私の心は暖かくなった。長い間、ロウが抱えてきた想いを知り、その深さに感動した。
「ありがとう、ロウ。私もずっとあなたのことが好きだった。今、こうして一緒にいられることが本当に幸せだわ」
私がロウの手を握ると、彼は強く握り返した。
「俺もだ。絶対にロザリーを離したくない」
私たちの想いは同じだった。ロウが私の肩を引き寄せた。私はその胸に顔を押し付け、彼の少し早い鼓動を聞いていた。
ロウはリハビリを続け、次第に以前の強さを取り戻していった。でも、リハビリが必要ないくらい魔力が安定しているけどね。
ある日の夕暮れ、ディディがふとしたことでロウに話しかけた。
彼女の声はよく通るのでしっかりと聞こえたけれど、彼らの視界に入っていないことをいいことに、私はこっそりと聞き耳を立てる。
「ロウさま、体の調子はどうですか?」
「すっかり元どおりだ」
ディディは「それはよかったわ」と言って、ロウをただ見つめた。
「……あのとき、ロウさまの頭の中はロザリーでいっぱいだったわ。分かっていたけれど、どうしても受け入れられなかったの。でも、ずっと勝手に片思いでいるのはいいでしょう?」
彼女の瞳には少しの寂しさが宿っていた。ロウはディディの肩に手を置き、優しく微笑んだ。
「それはいけない。ディディは見合った相手を見つけて、愛し合って幸せになるべきだ。……その相手はこの世界にきっといる」
ディディは少し黙って考え込んでいたが、やがて決心したように顔を上げた。
「じゃあ、ロウが見つけてくれる? それなら納得できるかもしれないわ」
彼女の無邪気な提案に、ロウは苦笑しながら首を振った。
「俺はどちらかというと父親の気分なんだ。中途半端な男はディディにやれない。俺では理想が高くなって見つけられないだろう」
ディディはそれを聞いて眉を寄せた。
「……そっか、父親か。最初からロウの恋愛対象になれなかったってことね」
「すまない」
ロウは自分が悪者になることを決めたようだった。未練を断ち切るにはハッキリ言うしかなかったのだろう。ディディはしばらく黙っていたが、やがて悲しい表情を消して顔を上げた。
「私を傷つけないように考えてくれるなんて、格好良すぎるわ。ロザリーが羨ましい」
そう言葉を切って、ディディは微笑んだ。
「私はさっさといい男を見つけて、二人の父親を悲しませてやるんだから!」
ディディの悪戯っぽい言葉に、ロウはハハハッと笑った。
「それは困るな」
二人は楽しそうに笑っていたので、私はそっとその場を離れた。そろそろ帰らなくてはいけない日が近づいている。そんな予感がした。
◇
その日の夜、ロウと私は泉のほとりで静かに話していた。月明かりが水面に反射し、美しい光景が広がっていた。
「もしかして、あの時の魔法学校の記憶は最初からあったの?」
私は問いかけた。ロウは頷きながら、遠くを見つめた。
「そうだが」
彼の返答に、私は心が少しざわついた。
「それじゃあ、初めて魔道具屋に行ったときも、私が誰だか知っていて……」
「やっと気づいたか。俺の初恋はタイムスリップしてやってきた師匠のロザリーで、それは隠していないといけなかった。変に俺が口を出して、ロザリーの行動を変えるわけにはいかなかったからだ」
ロウは淡々と話した。私はその答えに少し驚いた。
「もしかして……私がタイムスリップしたことも、全部分かっていたの?」
「それを知ったのは、魔族に襲われた村でロザリーを見かけたときだったな。師匠の魔力を間違えるわけがない」
ロウは私を見て微笑んだ。
その言葉に、私の心は暖かくなった。長い間、ロウが抱えてきた想いを知り、その深さに感動した。
「ありがとう、ロウ。私もずっとあなたのことが好きだった。今、こうして一緒にいられることが本当に幸せだわ」
私がロウの手を握ると、彼は強く握り返した。
「俺もだ。絶対にロザリーを離したくない」
私たちの想いは同じだった。ロウが私の肩を引き寄せた。私はその胸に顔を押し付け、彼の少し早い鼓動を聞いていた。
159
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(10件)
あなたにおすすめの小説
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。
それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。
自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。
隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。
それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。
私のことは私で何とかします。
ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。
魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。
もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ?
これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。
表紙はPhoto AC様よりお借りしております。
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
空月そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
見守ってくださりありがとうございました。
本文には書かなかったのですが、第一王子は英雄を誤逮捕してしまった件を心から反省し、王位継承権を第二王子に譲って司法を管轄する役目に注力します。本人が時期王様を望んでいなかったことと、国民人気は元勇者で勇者に舞い戻った第二王子の方が高かったというのもありますが。
毒はネアちゃんがソニアを操って遠隔的に砂糖を毒に変えました。その際にも、ソニアの寿命がかなり消費されたようです。
感想ありがとうございます!
仲の悪くなったきっかけは、目玉焼きに何をかけるかレベルのささいなものでした。それが、仲が良かったならではの、つもりに積もった相手への不満が一気に吹き出し……大喧嘩してしまいます。そんな感じです。
ストーリーやプロットには最高に楽しませてもらっています、こんな感じのストーリーが長く続けば楽しいと思います...
...が主人公の性格(?)は「蒲鉾ってトトからできているの」っていうような人の感じで、歯がゆさとかじれったさを感じさせます(笑)。もっと「decisive」な性格の人になってほしい??? (^_-)-☆
感想ありがとうございます。
やはり問題児な主人公です。他の人の感情を気づかないふりをしたいのでしょうかね、このロザリーは…!本人には悪気が全くないのが困ったところで…。