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8 第2ゲーム「プレゼントゲーム」
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参加者は15名まで減っていた。トウコやミノリの姿もある。
「それでは次のゲームを始めます」と支配人が告げると同時に、執事たちが大小さまざまの包装された箱や紙袋を抱えて運んできた。
「こちらは参加者に持参していただいたモナークさまへのプレゼントです。まずは自分のものを受け取ってください」
一人ずつ、順番に執事からプレゼントを受け取る。
10万円の支度金の中で買うように指定されたプレゼントだ。次のゲームはこれを使ってどんなゲームをするのだろうか。プレゼントを受け取った参加者たちは、支配人からの説明を待った。
「皆さんにプレゼントを受け取っていただいたところで、次のゲームの内容をご説明します」
支配人は壁に設置された巨大モニターを手で示した。そこには、『2回戦 プレゼントゲーム』と表示されていた。
「前のモニターはモナークさまとテレビ通話が繋がっています。一人ずつプレゼントを開けて、画面に向かってアピールしてください。順番は挙手制にします」
どうやら、モナークさまが気に入らないプレゼントを贈ってしまったら、次のステップに進めないということか。
慎重に行こう。他の人のプレゼントの反応を見て、それを参考にするのがいいだろう。
モニターの画面が変わり、男性の顔が映し出された。
この人がモナークさま……。
しかし、顔の上半分が金色の仮面によって隠されて見ることはできなかった。年齢は30代くらいだろうか、若々しくも感じるが年齢不詳にも見える。
「モナークさま、花嫁候補の皆さまからのプレゼントでございます。どうぞご覧ください」
支配人が画面に向かって話しかけると、モナークさまが『よろしい』と返事した。
「では一人目の方」
と支配人が呼びかけると、一人の女性が手を上げて、支配人が「どうぞ」と言った。
「私のプレゼントはこちらです」
彼女が手にしたのは万年筆だった。高級そうなデザインで、金色のキャップが輝いている。
「趣味に合うかはわかりませんが、よろしければ使ってください」
モナークさまはそれをじっくりと見ると、『ふむ……素晴らしいな』と満足げに言った。支配人は言葉を続けた。
「こちらの万年筆がお気に召されたようで何よりでございます。合格となります。お二人目の方、アピールをどうぞ」
次に立ち上がったのは、小柄な女性だった。
「私のプレゼントはこちらです」
彼女が取り出したのは毛糸のセーターだった。深緑色の落ち着いた色のアラン模様のセーターで、百貨店の紳士服売り場に置いてあってもおかしくない出来栄えだった。
「手編みのセーターです。モナークさまのことを考えながら編みました。気に入っていただけると嬉しいです」
『手作りのものは嫌いだ。いらない』
そう言われた瞬間に、小柄な女性は控えていた執事たちから拳銃で撃たれた。撃たれた彼女は、膝から崩れ落ちて床に倒れた。
会場からは女性たちの悲鳴とどよめきが上がる。
支配人は落ち着き払った態度で言った。
「モナークさまのお気に召さなかった場合、脱落していただくルールでございます」
動かなくなった女性は執事たちの手によって棺桶に入れられて会場から運び出された。
床に付着した血は、メイドたちがモップで掃除している。
私の隣に座っていた女性が、涙を流していた。
「なんてひどいことをするの、あんな一方的に……」と呻くように言っている。
「モナークさまのお気に召さなかったのですから、仕方ありません」
支配人は冷酷に言い放った。その言葉を聞いた女性は絶望しきった表情になった。
画面の向こうのモナークさまは、何事もなかったかのように言った。
『次』
その女性はハイブランドの財布をプレゼントに選んでいた。モナークさまはその財布を見た瞬間に首を横に振った。
『俺はカード派だ。財布は使わない』
拳銃で撃たれた女性は棺桶に入れられて会場から運び出された。
続けて二人も脱落者が出た。悪い流れだ。
次に立ち上がったのはトウコだった。彼女は赤い光沢のある包装紙に白いリボンのかかった箱を取り出した。
「私のプレゼントはこちらです」とトウコは言った。
モナークさまが『開けてみてくれ』と言うと、彼女は丁寧にリボンを解き、包装紙を剝がしていく。そして箱を開けると、中からグラスが二つ出てきた。
「バカラのグラスです。ウイスキーなどに合う、ロックグラスが二つ入っています。お酒を飲まれない場合でしたら、お水やフレッシュジュース、冷製スープを入れてもピッタリだと思います」
モナークさまはグラスをまじまじと眺めている。
『なかなか良いものだな。これなら使ってやってもいい』
トウコは安堵の表情を浮かべた。彼女は嬉しそうに礼を言うと、席に戻った。
次にミノリが立ち上がった。勇気を奮い立たせたのだろう、手が震えていた。彼女は大きな袋を手にしている。大きさからしてぬいぐるみだろうか?
「私のプレゼントはこれです」とミノリは言った。
袋から取り出されたのは見事な花束だった。白いバラとカーネーション、グリーンの小花で構成された可愛らしいブーケだった。
「私は花屋で働いていまして、一本一本選ばせていただきました。お客様が花を贈る意味や花言葉もご存じかと思いますので、そちらも加味して選んでいます」
モナークさまは花束をじっくりと眺めていた。そして満足そうに頷いた。
『素晴らしい出来だ。気に入ったぞ』
ミノリはほっとした表情を浮かべた。手や足が震えている。彼女はお礼を言うと、席に戻った。
それからは脱落者も合格者も出た。
これは無難なプレゼントを送って相手に喜ばれるかを競うゲームだ。
脱落者に共通するのは、モナークさまに使用を強制する物を選んだことだろう。
私の持ってきたものは、どちらかと言えば、使用を強制するものに当てはまる。
そのまま渡せば、待っているのはあの世の楽園だろう。
みすみす殺されに行くのは嫌だ。依頼で潜入しているというのに冗談じゃないわ。
「それでは次の方」と支配人が言った。
もう緊張でどうにかなりそうだ。手汗もすごいことになっているし、心臓はバクバクと脈打つ。
「はい」
私は立ち上がると、覚悟を決めた。もう後戻りはできない。私が生き残れるかどうかの瀬戸際だ。
ゆっくりと深呼吸してから私はモニターの前に立った。そして口を開いた。
「私のプレゼントはこれです」
紙袋から巾着に入った小瓶を取り出す。
「香水です。……でも、これではモナークさまの好みではないと思いましたので、こうします」
私はそう言うと、小瓶を開けて中身を床へ垂らした。その瞬間にモナークさまの顔色が変わった。
『お前! 何てことをしてくれたんだ!』
彼の怒りの形相を見た瞬間に、私の心は意外にも冷静になれた。予想通りの反応をもらえたからだろうか。
「こちらの香水は、男性が好む香りとされています。ですが、きっとお気に召さないでしょうから、捨てさせていただきました。プレゼントは、このゲームに勝ち残ったら、モナークさまの好みを聞いて一緒に探しに行きたいと思います」
さらにモナークさまの表情を観察する。動揺している様子はあるが、私のプレゼントを喜んでいる様子はない。
私は画面のモナークさまを真っ直ぐに見つめた。しばらく無言で見つめ合う。
向こうの出方を待っていると、モナークさまは口の端を上げた。
『……面白い。度胸が据わっているな。合格だ。プレゼントに1円もかけていないのに、合格したのは君だけだ』
「ありがとうございます」
賭けに勝った。
けれど、全く生きた心地がしない。足はガクガクと震えている。
私は頭を下げると、席に戻った。
「あなたが撒いたコロンのせいで臭いのよ」
トウコが小声でクレームを言ってきた。
メイドがモップで香水を拭いたが、広がった臭いはなかなか消えない。
トウコの言葉は嫌味に違いないが、彼女が話しかけてくれたおかげで、冗談を言えるくらいには回復した。
「あら、血の臭いよりはマシでしょう?」
私が小声で返すと、トウコは「どうかしらね?」と言った。
◇
「第2ゲームが終わったところで、皆さま横の壁にご注目ください」
支配人の言葉に従って、壁に視線を送る。
執事たちが白いカーテンを取り去ると、そこにはりんごの木の描かれたプレートが張り出されていた。
赤いランプがところどころ光っている。ランプの消えたりんごと、ランプの点灯したりんごには何か意味があるのだろうか。
ランプの点灯したりんごは7つ。生き残った花嫁候補も7人。ということは……。
「このプレートの光っているランプは、勝ち残った花嫁の候補者の数になります」
と支配人が言った。
やっぱりそうだった。
裏を返せば、消えたランプは、この会場で死んでいる花嫁候補たちだ。
わかってはいたけれど、犠牲者があまりに多すぎる。私は手をぎゅっと握りしめた。
「最後のりんごになれるように、皆さま頑張ってくださいね」
そう言って支配人は説明を終わらせた。
「それでは次のゲームを始めます」と支配人が告げると同時に、執事たちが大小さまざまの包装された箱や紙袋を抱えて運んできた。
「こちらは参加者に持参していただいたモナークさまへのプレゼントです。まずは自分のものを受け取ってください」
一人ずつ、順番に執事からプレゼントを受け取る。
10万円の支度金の中で買うように指定されたプレゼントだ。次のゲームはこれを使ってどんなゲームをするのだろうか。プレゼントを受け取った参加者たちは、支配人からの説明を待った。
「皆さんにプレゼントを受け取っていただいたところで、次のゲームの内容をご説明します」
支配人は壁に設置された巨大モニターを手で示した。そこには、『2回戦 プレゼントゲーム』と表示されていた。
「前のモニターはモナークさまとテレビ通話が繋がっています。一人ずつプレゼントを開けて、画面に向かってアピールしてください。順番は挙手制にします」
どうやら、モナークさまが気に入らないプレゼントを贈ってしまったら、次のステップに進めないということか。
慎重に行こう。他の人のプレゼントの反応を見て、それを参考にするのがいいだろう。
モニターの画面が変わり、男性の顔が映し出された。
この人がモナークさま……。
しかし、顔の上半分が金色の仮面によって隠されて見ることはできなかった。年齢は30代くらいだろうか、若々しくも感じるが年齢不詳にも見える。
「モナークさま、花嫁候補の皆さまからのプレゼントでございます。どうぞご覧ください」
支配人が画面に向かって話しかけると、モナークさまが『よろしい』と返事した。
「では一人目の方」
と支配人が呼びかけると、一人の女性が手を上げて、支配人が「どうぞ」と言った。
「私のプレゼントはこちらです」
彼女が手にしたのは万年筆だった。高級そうなデザインで、金色のキャップが輝いている。
「趣味に合うかはわかりませんが、よろしければ使ってください」
モナークさまはそれをじっくりと見ると、『ふむ……素晴らしいな』と満足げに言った。支配人は言葉を続けた。
「こちらの万年筆がお気に召されたようで何よりでございます。合格となります。お二人目の方、アピールをどうぞ」
次に立ち上がったのは、小柄な女性だった。
「私のプレゼントはこちらです」
彼女が取り出したのは毛糸のセーターだった。深緑色の落ち着いた色のアラン模様のセーターで、百貨店の紳士服売り場に置いてあってもおかしくない出来栄えだった。
「手編みのセーターです。モナークさまのことを考えながら編みました。気に入っていただけると嬉しいです」
『手作りのものは嫌いだ。いらない』
そう言われた瞬間に、小柄な女性は控えていた執事たちから拳銃で撃たれた。撃たれた彼女は、膝から崩れ落ちて床に倒れた。
会場からは女性たちの悲鳴とどよめきが上がる。
支配人は落ち着き払った態度で言った。
「モナークさまのお気に召さなかった場合、脱落していただくルールでございます」
動かなくなった女性は執事たちの手によって棺桶に入れられて会場から運び出された。
床に付着した血は、メイドたちがモップで掃除している。
私の隣に座っていた女性が、涙を流していた。
「なんてひどいことをするの、あんな一方的に……」と呻くように言っている。
「モナークさまのお気に召さなかったのですから、仕方ありません」
支配人は冷酷に言い放った。その言葉を聞いた女性は絶望しきった表情になった。
画面の向こうのモナークさまは、何事もなかったかのように言った。
『次』
その女性はハイブランドの財布をプレゼントに選んでいた。モナークさまはその財布を見た瞬間に首を横に振った。
『俺はカード派だ。財布は使わない』
拳銃で撃たれた女性は棺桶に入れられて会場から運び出された。
続けて二人も脱落者が出た。悪い流れだ。
次に立ち上がったのはトウコだった。彼女は赤い光沢のある包装紙に白いリボンのかかった箱を取り出した。
「私のプレゼントはこちらです」とトウコは言った。
モナークさまが『開けてみてくれ』と言うと、彼女は丁寧にリボンを解き、包装紙を剝がしていく。そして箱を開けると、中からグラスが二つ出てきた。
「バカラのグラスです。ウイスキーなどに合う、ロックグラスが二つ入っています。お酒を飲まれない場合でしたら、お水やフレッシュジュース、冷製スープを入れてもピッタリだと思います」
モナークさまはグラスをまじまじと眺めている。
『なかなか良いものだな。これなら使ってやってもいい』
トウコは安堵の表情を浮かべた。彼女は嬉しそうに礼を言うと、席に戻った。
次にミノリが立ち上がった。勇気を奮い立たせたのだろう、手が震えていた。彼女は大きな袋を手にしている。大きさからしてぬいぐるみだろうか?
「私のプレゼントはこれです」とミノリは言った。
袋から取り出されたのは見事な花束だった。白いバラとカーネーション、グリーンの小花で構成された可愛らしいブーケだった。
「私は花屋で働いていまして、一本一本選ばせていただきました。お客様が花を贈る意味や花言葉もご存じかと思いますので、そちらも加味して選んでいます」
モナークさまは花束をじっくりと眺めていた。そして満足そうに頷いた。
『素晴らしい出来だ。気に入ったぞ』
ミノリはほっとした表情を浮かべた。手や足が震えている。彼女はお礼を言うと、席に戻った。
それからは脱落者も合格者も出た。
これは無難なプレゼントを送って相手に喜ばれるかを競うゲームだ。
脱落者に共通するのは、モナークさまに使用を強制する物を選んだことだろう。
私の持ってきたものは、どちらかと言えば、使用を強制するものに当てはまる。
そのまま渡せば、待っているのはあの世の楽園だろう。
みすみす殺されに行くのは嫌だ。依頼で潜入しているというのに冗談じゃないわ。
「それでは次の方」と支配人が言った。
もう緊張でどうにかなりそうだ。手汗もすごいことになっているし、心臓はバクバクと脈打つ。
「はい」
私は立ち上がると、覚悟を決めた。もう後戻りはできない。私が生き残れるかどうかの瀬戸際だ。
ゆっくりと深呼吸してから私はモニターの前に立った。そして口を開いた。
「私のプレゼントはこれです」
紙袋から巾着に入った小瓶を取り出す。
「香水です。……でも、これではモナークさまの好みではないと思いましたので、こうします」
私はそう言うと、小瓶を開けて中身を床へ垂らした。その瞬間にモナークさまの顔色が変わった。
『お前! 何てことをしてくれたんだ!』
彼の怒りの形相を見た瞬間に、私の心は意外にも冷静になれた。予想通りの反応をもらえたからだろうか。
「こちらの香水は、男性が好む香りとされています。ですが、きっとお気に召さないでしょうから、捨てさせていただきました。プレゼントは、このゲームに勝ち残ったら、モナークさまの好みを聞いて一緒に探しに行きたいと思います」
さらにモナークさまの表情を観察する。動揺している様子はあるが、私のプレゼントを喜んでいる様子はない。
私は画面のモナークさまを真っ直ぐに見つめた。しばらく無言で見つめ合う。
向こうの出方を待っていると、モナークさまは口の端を上げた。
『……面白い。度胸が据わっているな。合格だ。プレゼントに1円もかけていないのに、合格したのは君だけだ』
「ありがとうございます」
賭けに勝った。
けれど、全く生きた心地がしない。足はガクガクと震えている。
私は頭を下げると、席に戻った。
「あなたが撒いたコロンのせいで臭いのよ」
トウコが小声でクレームを言ってきた。
メイドがモップで香水を拭いたが、広がった臭いはなかなか消えない。
トウコの言葉は嫌味に違いないが、彼女が話しかけてくれたおかげで、冗談を言えるくらいには回復した。
「あら、血の臭いよりはマシでしょう?」
私が小声で返すと、トウコは「どうかしらね?」と言った。
◇
「第2ゲームが終わったところで、皆さま横の壁にご注目ください」
支配人の言葉に従って、壁に視線を送る。
執事たちが白いカーテンを取り去ると、そこにはりんごの木の描かれたプレートが張り出されていた。
赤いランプがところどころ光っている。ランプの消えたりんごと、ランプの点灯したりんごには何か意味があるのだろうか。
ランプの点灯したりんごは7つ。生き残った花嫁候補も7人。ということは……。
「このプレートの光っているランプは、勝ち残った花嫁の候補者の数になります」
と支配人が言った。
やっぱりそうだった。
裏を返せば、消えたランプは、この会場で死んでいる花嫁候補たちだ。
わかってはいたけれど、犠牲者があまりに多すぎる。私は手をぎゅっと握りしめた。
「最後のりんごになれるように、皆さま頑張ってくださいね」
そう言って支配人は説明を終わらせた。
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