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9 自己紹介という名のアピール大会
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第2ゲームのプレゼントゲームが終わると、花嫁候補は7人まで減った。
控室のテーブルにはサンドイッチ、ビスケット、オレンジ、プチケーキなどが並んでいたが、誰も手をつけていない。
みんな疲れ切った顔をしている。
私は多少の空腹感があったが、軽食でも素直に食べられるような心境ではない。
「そうだ。候補者が絞られてきたから自己紹介でもしない? この花嫁ゲームに参加した理由も合わせて教えて欲しい」
ミノリが提案して、「それはいいわね」とミノリに賛成したのは、トウコだった。
凍りついた雰囲気があったから、気が紛れて良かった。
まずはミノリから自己紹介を始めた。彼女の名前は田端ミノリ、花屋で働きながら夢を追い求めてフリーターをしているという。花嫁候補になった理由は、父親の借金のカタに嫁がされる前に自分の運勢を試したいと思ったからだそうだ。
「夢ってどんな夢?」
「ブーケデザイナーになりたいんです」
私の質問に、ミノリは垂れ目をさらに垂らして照れくさそうに笑った。
彼女の持ってきた花はどれも素晴らしかった。きっと彼女は素敵なブーケを作れるに違いない。
次に口を開いたのはトウコだった。
「名前は鷹野目トウコ、高級クラブでホステスをしているわ」
トウコはサバサバとした口調で話した。背中まで流れる黒髪が印象的な美人だ。
彼女の実家は裕福で、お金持ちの男と結婚することが幼い頃からの夢だったという。
度胸が据わっている感じがしたから、職業を聞いてなるほどなと思った。背筋はピンと伸びていて、ドレスに隠れた豊満な胸はいかにも高級クラブのホステス然としている。
それから、他の二人の花嫁候補が自己紹介をした。
一人はネルという女性で、彼女はアパレル店員で、運命の恋人を求めてパーティーに参加したそうだ。毛先だけ金髪に染めて、頬の横で外側に跳ねた髪型が特徴的だ。
もう一人はジュラという女性だ。目と目が離れた美人系の魚顔で、長身でモデルのようなスタイルが印象的だった。彼氏に騙されてお金がなくなってゲームに参加したそうだ。昔から男運がなくて、変な男に引っかかってばかりらしい。
ジュラの隣にいた女性は、その流れで自己紹介を始めた。
「花房《はなふさ》ユウです。仕事は事務をしています。運命の恋人を探しに参加したけど、こんなデスゲームが始まるとは思ってなかったなぁ。特技は冷蔵庫の残ったもので料理できることです」
「……聞いてもいないのに特技言っちゃうの?」
トウコがすかさず突っ込むと、ユウは分厚い唇を尖らせながら答えた。
「えー。きっとどこかで私たちは見られてるんでしょ? それならアピールしないと損じゃん」
モナークさまは、どこかにいる。監視カメラも仕掛けられているだろうし、私たちの言動を観察しているに違いない。
「だからー、ちゃんと見てる人に向けてアピールしてるの」とユウが言った。
彼女は口を開かなければ、異性からモテるタイプの美人なんだな、と私は思った。
トウコは「あ……そう」と気のない返事を返したが、ユウに気を悪くした様子はない。
ネルが「相変わらずだね」と苦笑した。どうやら彼女は、ユウのこういった性格に慣れているらしい。
「ユウさんとネルさんはお知り合いなんですか?」
私が質問すると、ユウは「そうなんです」と頷いた。
「地元が同じで、高校のクラスメイトなんです。同窓会で集まった時に再会したんですよー」
ネルも頷いて言った。
「そうだね。ユウには高校の同窓会で久々に会ったんだ。それ以来かな」
彼女がそう答えると、隣でユウが「そうだ」と何かを思い出したかのように言った。
「同窓会の帰りにね、ネルが男の人にしつこくされてたんだ。なんかチャラチャラしてて、感じ悪かったんだよねー」
「ちょっ! 声が大きいよ!」
ネルは慌てたようにユウの口を塞ごうとする。それから小声で付け加えた。
「……でも、なんで見てたの? そんな余裕ある状況じゃないでしょ?」
ネルの質問にユウはあっさりと理由を告げた。
「えー、いいじゃん別に。ネルのことが心配だっただけ。だから助けたんだし、何もなくて良かったじゃん」
「それはそうだけど……」
「運命の恋人を探すって言いながら、ネルは恋愛より男選び優先って感じだったし? さすがにヤバそうだったから助けてあげたのにさー。なんか損した気分だよー」
ネルとユウの会話を聞きながら私は苦笑した。確かに危ない状況だったらしいけど、それにしたって言い方がストレートすぎるわ……。
他の人たちも似たようなことを思ったのか苦笑いを浮かべている。
「次はあなたよ」
トウコに促されて、私も自己紹介をした。
「私は九条アカネ。親戚の経営する会社で事務をしています」
その経歴は真っ赤な嘘だ。実際は探偵事務所を構えていて……それはもちろん隠すつもりだ。
私の説明を聞いたトウコは驚いたような顔をした。
「しっかりしてるから大手企業で働いているのかと思ってたけど、そうじゃなかったのね」
「大手だと融通が効かないことが嫌で。だから親戚に頼んで就職させてもらったの」
「ああ、あるわね。そういう会社も」
トウコは納得した様子で頷いた。
最後に残った女性に全員の視線が注がれた。
「あ! もしかしてコトリちゃん? アイドル系YouTuberの! 顔小さっ! なんかめっちゃ可愛いんだけど!」
女性が口を開く前に、ユウがテンション高く言う。コトリと呼ばれた女性は「知ってたんだね……」と苦笑いを浮かべた。
「確か、有名YouTuberとの熱愛発覚をネットで叩かれて破局したってネットニュースで見たけど……」
トウコがそう言うと、他の人たちからも「ああ……」と納得したような声が聞こえた。
コトリは「そうなんだよね」と苦笑した。
「それから芸能界を干されて、フリーになったんだよね? これからどうする予定なの?」
トウコが尋ねると、コトリは困ったように笑った。
「実は死のゲームがあるって聞いてこの花嫁ゲームに参加したんだ。私、生きることに疲れてたから……」
「死のゲーム?」
トウコの質問にコトリは頷いた。
「そう。YouTube界隈では有名になってた話だけど、一般人は知らない人が多いかもね。第一回の花嫁ゲームにYouTuberが参加したけど、謎の原因で死んじゃったんだ。それで、第二回が開催されるって聞いて、チャンスだと思ったんだよね」
「チャンスって?」とトウコが聞き返した。
コトリは「うーん」と少し考え込んだ後、口を開いた。
「私、YouTubeでもあんまり人気なかったからさ……。チャンネル登録者数も少なければ再生回数も少ないし……。だから死んでも惜しまれないかなって……」
彼女の表情には諦めの感情が強く現れていた。
「自殺を推奨したくはないけれど……死にたいのなら、わざわざゲームに参加せずに、別の方法で死んだ方がいいんじゃないの?」
ユウが尋ねると、コトリは首を横に振った。
「ゲームに参加して気づいたんだけど……死ぬのが怖くなったの。お世話になった人たちの顔が浮かんで、また会いたいって……」
「まあ、そうね。死ぬのは誰でも怖いものね」とトウコは言った。
コトリは同意するように頷いた。
「でも……次のゲームで私、死にたくないな……」
彼女は深いため息をつくと、俯いた。
私は彼女を元気づけようと声をかけた。
「大丈夫だよ! きっと大丈夫だから!」
そんな無責任な言葉しか出てこない自分が嫌になった。気休めにもならないことを言ってしまった。それでもコトリは「ありがとう」と言って弱々しく笑った。
「それでは皆さま。会場の準備ができましたので移動お願いします!」
メイドが休憩室に入ってきて、沈黙を打ち破った。
控室のテーブルにはサンドイッチ、ビスケット、オレンジ、プチケーキなどが並んでいたが、誰も手をつけていない。
みんな疲れ切った顔をしている。
私は多少の空腹感があったが、軽食でも素直に食べられるような心境ではない。
「そうだ。候補者が絞られてきたから自己紹介でもしない? この花嫁ゲームに参加した理由も合わせて教えて欲しい」
ミノリが提案して、「それはいいわね」とミノリに賛成したのは、トウコだった。
凍りついた雰囲気があったから、気が紛れて良かった。
まずはミノリから自己紹介を始めた。彼女の名前は田端ミノリ、花屋で働きながら夢を追い求めてフリーターをしているという。花嫁候補になった理由は、父親の借金のカタに嫁がされる前に自分の運勢を試したいと思ったからだそうだ。
「夢ってどんな夢?」
「ブーケデザイナーになりたいんです」
私の質問に、ミノリは垂れ目をさらに垂らして照れくさそうに笑った。
彼女の持ってきた花はどれも素晴らしかった。きっと彼女は素敵なブーケを作れるに違いない。
次に口を開いたのはトウコだった。
「名前は鷹野目トウコ、高級クラブでホステスをしているわ」
トウコはサバサバとした口調で話した。背中まで流れる黒髪が印象的な美人だ。
彼女の実家は裕福で、お金持ちの男と結婚することが幼い頃からの夢だったという。
度胸が据わっている感じがしたから、職業を聞いてなるほどなと思った。背筋はピンと伸びていて、ドレスに隠れた豊満な胸はいかにも高級クラブのホステス然としている。
それから、他の二人の花嫁候補が自己紹介をした。
一人はネルという女性で、彼女はアパレル店員で、運命の恋人を求めてパーティーに参加したそうだ。毛先だけ金髪に染めて、頬の横で外側に跳ねた髪型が特徴的だ。
もう一人はジュラという女性だ。目と目が離れた美人系の魚顔で、長身でモデルのようなスタイルが印象的だった。彼氏に騙されてお金がなくなってゲームに参加したそうだ。昔から男運がなくて、変な男に引っかかってばかりらしい。
ジュラの隣にいた女性は、その流れで自己紹介を始めた。
「花房《はなふさ》ユウです。仕事は事務をしています。運命の恋人を探しに参加したけど、こんなデスゲームが始まるとは思ってなかったなぁ。特技は冷蔵庫の残ったもので料理できることです」
「……聞いてもいないのに特技言っちゃうの?」
トウコがすかさず突っ込むと、ユウは分厚い唇を尖らせながら答えた。
「えー。きっとどこかで私たちは見られてるんでしょ? それならアピールしないと損じゃん」
モナークさまは、どこかにいる。監視カメラも仕掛けられているだろうし、私たちの言動を観察しているに違いない。
「だからー、ちゃんと見てる人に向けてアピールしてるの」とユウが言った。
彼女は口を開かなければ、異性からモテるタイプの美人なんだな、と私は思った。
トウコは「あ……そう」と気のない返事を返したが、ユウに気を悪くした様子はない。
ネルが「相変わらずだね」と苦笑した。どうやら彼女は、ユウのこういった性格に慣れているらしい。
「ユウさんとネルさんはお知り合いなんですか?」
私が質問すると、ユウは「そうなんです」と頷いた。
「地元が同じで、高校のクラスメイトなんです。同窓会で集まった時に再会したんですよー」
ネルも頷いて言った。
「そうだね。ユウには高校の同窓会で久々に会ったんだ。それ以来かな」
彼女がそう答えると、隣でユウが「そうだ」と何かを思い出したかのように言った。
「同窓会の帰りにね、ネルが男の人にしつこくされてたんだ。なんかチャラチャラしてて、感じ悪かったんだよねー」
「ちょっ! 声が大きいよ!」
ネルは慌てたようにユウの口を塞ごうとする。それから小声で付け加えた。
「……でも、なんで見てたの? そんな余裕ある状況じゃないでしょ?」
ネルの質問にユウはあっさりと理由を告げた。
「えー、いいじゃん別に。ネルのことが心配だっただけ。だから助けたんだし、何もなくて良かったじゃん」
「それはそうだけど……」
「運命の恋人を探すって言いながら、ネルは恋愛より男選び優先って感じだったし? さすがにヤバそうだったから助けてあげたのにさー。なんか損した気分だよー」
ネルとユウの会話を聞きながら私は苦笑した。確かに危ない状況だったらしいけど、それにしたって言い方がストレートすぎるわ……。
他の人たちも似たようなことを思ったのか苦笑いを浮かべている。
「次はあなたよ」
トウコに促されて、私も自己紹介をした。
「私は九条アカネ。親戚の経営する会社で事務をしています」
その経歴は真っ赤な嘘だ。実際は探偵事務所を構えていて……それはもちろん隠すつもりだ。
私の説明を聞いたトウコは驚いたような顔をした。
「しっかりしてるから大手企業で働いているのかと思ってたけど、そうじゃなかったのね」
「大手だと融通が効かないことが嫌で。だから親戚に頼んで就職させてもらったの」
「ああ、あるわね。そういう会社も」
トウコは納得した様子で頷いた。
最後に残った女性に全員の視線が注がれた。
「あ! もしかしてコトリちゃん? アイドル系YouTuberの! 顔小さっ! なんかめっちゃ可愛いんだけど!」
女性が口を開く前に、ユウがテンション高く言う。コトリと呼ばれた女性は「知ってたんだね……」と苦笑いを浮かべた。
「確か、有名YouTuberとの熱愛発覚をネットで叩かれて破局したってネットニュースで見たけど……」
トウコがそう言うと、他の人たちからも「ああ……」と納得したような声が聞こえた。
コトリは「そうなんだよね」と苦笑した。
「それから芸能界を干されて、フリーになったんだよね? これからどうする予定なの?」
トウコが尋ねると、コトリは困ったように笑った。
「実は死のゲームがあるって聞いてこの花嫁ゲームに参加したんだ。私、生きることに疲れてたから……」
「死のゲーム?」
トウコの質問にコトリは頷いた。
「そう。YouTube界隈では有名になってた話だけど、一般人は知らない人が多いかもね。第一回の花嫁ゲームにYouTuberが参加したけど、謎の原因で死んじゃったんだ。それで、第二回が開催されるって聞いて、チャンスだと思ったんだよね」
「チャンスって?」とトウコが聞き返した。
コトリは「うーん」と少し考え込んだ後、口を開いた。
「私、YouTubeでもあんまり人気なかったからさ……。チャンネル登録者数も少なければ再生回数も少ないし……。だから死んでも惜しまれないかなって……」
彼女の表情には諦めの感情が強く現れていた。
「自殺を推奨したくはないけれど……死にたいのなら、わざわざゲームに参加せずに、別の方法で死んだ方がいいんじゃないの?」
ユウが尋ねると、コトリは首を横に振った。
「ゲームに参加して気づいたんだけど……死ぬのが怖くなったの。お世話になった人たちの顔が浮かんで、また会いたいって……」
「まあ、そうね。死ぬのは誰でも怖いものね」とトウコは言った。
コトリは同意するように頷いた。
「でも……次のゲームで私、死にたくないな……」
彼女は深いため息をつくと、俯いた。
私は彼女を元気づけようと声をかけた。
「大丈夫だよ! きっと大丈夫だから!」
そんな無責任な言葉しか出てこない自分が嫌になった。気休めにもならないことを言ってしまった。それでもコトリは「ありがとう」と言って弱々しく笑った。
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