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10 第3ゲーム「フルーツパニック」①
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メイドによって扉を開けられた会場は真っ暗だった。見上げると、前面の大型モニターに「第3ゲーム フルーツパニック」と存在感のある文字が浮かんでいる。
「フルーツパニック?」
トウコが口に出した。そのゲーム名からは、どんなゲームが始まるのかまったく想像できない。
赤いドレスを着用したままで、赤いヒールも穿かせられたまま。運動は辛いので、動き回るゲームだけはやめてほしい。
と、スポットライトが支配人を映し出した。
「皆さまそろいましたね? では、ゲームの説明に入ります」
スポットライトが床を映し出した。そこには1メートル四方のフルーツの描かれた木板が置かれていた。一枚の木板には、ドレスを着た私たちが4人入るので精一杯だろうか。それが9枚。
会場奥側から順番に、
もも、ぶどう、なし
いちご、りんご、みかん
すいか、ばなな、めろん
と書かれた文字とその上にフルーツのイラストが描かれている。
「ルールは簡単です。モニターに問題が出ますので、その答えとなるフルーツのパネルまで移動してください。制限時間は10秒です」
10秒で移動しないといけないのか……。だいぶ短い。じっくり考える時間は与えられないようだ。
戸惑っている間にもゲームの説明は続く。
「例えば、五十音順の最後の「ん」がつくフルーツはどれだ? という問題が表示された場合には、りんご、みかん、めろんのパネルに立っていた方はゲームクリアとなります」
「そんなの簡単じゃん」
トウコが軽い口調で言う。私は黙って話を聞いていた。嫌な予感がしていたからだ。
「ただし、このゲームには制限を設けさせていただきます」と支配人は話を続けた。
「両足が床から離れた瞬間にその人はゲームオーバーとなります」
この場の空気が一気に冷えた。
「えっ……」
ミノリが息を呑んだ。他の人たちも戸惑いの表情を浮かべている。私も不安を隠せない。
「両足が床から離れた瞬間って……それは、つまり」
トウコが震える声で言うと、支配人は頷いた。
「そうです。このゲームでは走ることが禁止となります」
私は顔をしかめた。第1ゲームの「椅子取りゲーム」の悲劇が頭に蘇る。両足ルールで数人が脱落して、毒杯で命を落とした。
この「フルーツパニック」だって、クリアできなかったら死が待っているだろう。
「ちょっと待ってよ! 椅子取りゲームもそうだけど、走りたくなるでしょ? なんでいきなり足が床から離れてはいけないルールを加えるのよ」
トウコの指摘に支配人は首を傾げた。
「皆さまはゲームを何だと思っているのですか? もちろんレースや競争ではありませんよ。いかに少ないタイムで問題を解くかを競うゲームです。私は『フルーツパニック』というゲームを、足の速さを競うレースだとは一言も言っておりませんよ? あくまでもゲームですから」
トウコは悔しそうに唇を嚙みしめた。確かに支配人の言っていることは筋が通っているようだ。
「それではルール説明を続けます」と支配人が言ったので、私たちはその話に耳を傾けることにした。
「今から大きなモニターに問題を映し出します。その問題は全部で4問あります。皆さんにはそれぞれのパネルに向かって移動していただきます」
支配人が言い終わると、大型モニターが「第1問!」という表示に変わった。
私は自分の目の前にある木板を見つめた。ここに答えがある。それは分かるのだけど……。なんだか嫌な予感しかしない……。
支配人の「第1問!」という声が広間に響き渡る。それと同時に大型モニターに問題文が表示された。
『この中で赤いフルーツはどれでしょうか?』
問題文とフルーツを照らし合わせると「りんご」か「いちご」が答えのように思えた。しかし第1問だけあって簡単すぎるかもしれない……。
私以外の人たちは一斉に動き出した。全員が一直線に真ん中の「りんご」に向かうつもりだ。私は別のフルーツを狙おうと思ったけど……。やっぱり同じフルーツを狙った方がいいのだろうか……?
他の人たちが「りんご」に集中して窮屈そうだったので、私はその隣の「いちご」の木板に移動した。「いちご」と表示されたパネルに辿り着くと、そこにはちょうどミノリが移動してくるところだった。
「あ……あなたもこのフルーツを選んだの?」
ミノリが不安そうに聞いてきた。私は笑顔で頷く。すると彼女はホッと安堵の表情を浮かべた。
その反応からすると、私の選択は間違っていなかったようだ。私たちがそれぞれのフルーツの上に立つと、支配人が「そこまで!」と言った。
「皆さん、フルーツのパネルの上に立っていますね? では、判定します……」
私は緊張で唾を飲んだ。間違っているとは思えないが、答えが発表されるまで安心できない。
「全員正解です! おめでとうございます!」という支配人の声でようやく緊張が解けた。
「ふう……」
私がため息をつくと、ミノリが遠慮がちに微笑んだ。他の人たちも安心したように肩の力が抜けたようだ。
全部で4問だから、これで残り3問。この調子でクリアできれば全員で次のゲームに進むことができるかもしれない。
支配人が「第2問!」という声と同時に、大型モニターが切り替わった。今度の問題は……。
『この中で2文字フルーツはどれでしょうか?』
と表示されている。これを見ると、先ほどの問題と同じで答えは2つあるはずだ。「もも」と「なし」のどちらかが答えだ。
私は一番近いパネルの「もも」に移動した。ミノリも私と同じように「もも」に向かっている。
私がパネルの前まで来た時、後ろからミノリが追い付いてきた。
「りんご」にいた人たちからは「なし」へ3名、「もも」へ1名と回答が分かれた。
「それでは判定します」と言って、支配人が続けた。
「全員正解です!」
私は安堵の息を吐いた。よかった……。間違ってなかったようだわ……。
「次は第3問です!」という声と同時に、大型モニターが切り替わった。今度の問題は……。
『英語に訳すとMの付くフルーツはどれでしょうか?』
という表記に変わった。Mのつくフルーツは、パッと思い浮かぶのは「めろん」だ。他の人たちもそう思ったのか、一斉に「めろん」のパネルを目指し始めた。
ここで私は気付いた。「めろん」だけではなく、「すいか」も英語に訳せばwatermelon。そう、Mが付く。「すいか」も正解だわ!
私が「すいか」に向かおうとしたその時、ミノリが視界に入った。彼女は多数派の「めろん」に向かっている。
しかし、私が辿り着く前にミノリが「めろん」のパネルを踏んだ瞬間、すでにそこにいた一人の参加者がミノリを突き飛ばしたのが見えた。やったのは花房ユウだ。
ミノリはバランスを崩し、パネルの外に倒れ込んでしまった。
「フルーツパニック?」
トウコが口に出した。そのゲーム名からは、どんなゲームが始まるのかまったく想像できない。
赤いドレスを着用したままで、赤いヒールも穿かせられたまま。運動は辛いので、動き回るゲームだけはやめてほしい。
と、スポットライトが支配人を映し出した。
「皆さまそろいましたね? では、ゲームの説明に入ります」
スポットライトが床を映し出した。そこには1メートル四方のフルーツの描かれた木板が置かれていた。一枚の木板には、ドレスを着た私たちが4人入るので精一杯だろうか。それが9枚。
会場奥側から順番に、
もも、ぶどう、なし
いちご、りんご、みかん
すいか、ばなな、めろん
と書かれた文字とその上にフルーツのイラストが描かれている。
「ルールは簡単です。モニターに問題が出ますので、その答えとなるフルーツのパネルまで移動してください。制限時間は10秒です」
10秒で移動しないといけないのか……。だいぶ短い。じっくり考える時間は与えられないようだ。
戸惑っている間にもゲームの説明は続く。
「例えば、五十音順の最後の「ん」がつくフルーツはどれだ? という問題が表示された場合には、りんご、みかん、めろんのパネルに立っていた方はゲームクリアとなります」
「そんなの簡単じゃん」
トウコが軽い口調で言う。私は黙って話を聞いていた。嫌な予感がしていたからだ。
「ただし、このゲームには制限を設けさせていただきます」と支配人は話を続けた。
「両足が床から離れた瞬間にその人はゲームオーバーとなります」
この場の空気が一気に冷えた。
「えっ……」
ミノリが息を呑んだ。他の人たちも戸惑いの表情を浮かべている。私も不安を隠せない。
「両足が床から離れた瞬間って……それは、つまり」
トウコが震える声で言うと、支配人は頷いた。
「そうです。このゲームでは走ることが禁止となります」
私は顔をしかめた。第1ゲームの「椅子取りゲーム」の悲劇が頭に蘇る。両足ルールで数人が脱落して、毒杯で命を落とした。
この「フルーツパニック」だって、クリアできなかったら死が待っているだろう。
「ちょっと待ってよ! 椅子取りゲームもそうだけど、走りたくなるでしょ? なんでいきなり足が床から離れてはいけないルールを加えるのよ」
トウコの指摘に支配人は首を傾げた。
「皆さまはゲームを何だと思っているのですか? もちろんレースや競争ではありませんよ。いかに少ないタイムで問題を解くかを競うゲームです。私は『フルーツパニック』というゲームを、足の速さを競うレースだとは一言も言っておりませんよ? あくまでもゲームですから」
トウコは悔しそうに唇を嚙みしめた。確かに支配人の言っていることは筋が通っているようだ。
「それではルール説明を続けます」と支配人が言ったので、私たちはその話に耳を傾けることにした。
「今から大きなモニターに問題を映し出します。その問題は全部で4問あります。皆さんにはそれぞれのパネルに向かって移動していただきます」
支配人が言い終わると、大型モニターが「第1問!」という表示に変わった。
私は自分の目の前にある木板を見つめた。ここに答えがある。それは分かるのだけど……。なんだか嫌な予感しかしない……。
支配人の「第1問!」という声が広間に響き渡る。それと同時に大型モニターに問題文が表示された。
『この中で赤いフルーツはどれでしょうか?』
問題文とフルーツを照らし合わせると「りんご」か「いちご」が答えのように思えた。しかし第1問だけあって簡単すぎるかもしれない……。
私以外の人たちは一斉に動き出した。全員が一直線に真ん中の「りんご」に向かうつもりだ。私は別のフルーツを狙おうと思ったけど……。やっぱり同じフルーツを狙った方がいいのだろうか……?
他の人たちが「りんご」に集中して窮屈そうだったので、私はその隣の「いちご」の木板に移動した。「いちご」と表示されたパネルに辿り着くと、そこにはちょうどミノリが移動してくるところだった。
「あ……あなたもこのフルーツを選んだの?」
ミノリが不安そうに聞いてきた。私は笑顔で頷く。すると彼女はホッと安堵の表情を浮かべた。
その反応からすると、私の選択は間違っていなかったようだ。私たちがそれぞれのフルーツの上に立つと、支配人が「そこまで!」と言った。
「皆さん、フルーツのパネルの上に立っていますね? では、判定します……」
私は緊張で唾を飲んだ。間違っているとは思えないが、答えが発表されるまで安心できない。
「全員正解です! おめでとうございます!」という支配人の声でようやく緊張が解けた。
「ふう……」
私がため息をつくと、ミノリが遠慮がちに微笑んだ。他の人たちも安心したように肩の力が抜けたようだ。
全部で4問だから、これで残り3問。この調子でクリアできれば全員で次のゲームに進むことができるかもしれない。
支配人が「第2問!」という声と同時に、大型モニターが切り替わった。今度の問題は……。
『この中で2文字フルーツはどれでしょうか?』
と表示されている。これを見ると、先ほどの問題と同じで答えは2つあるはずだ。「もも」と「なし」のどちらかが答えだ。
私は一番近いパネルの「もも」に移動した。ミノリも私と同じように「もも」に向かっている。
私がパネルの前まで来た時、後ろからミノリが追い付いてきた。
「りんご」にいた人たちからは「なし」へ3名、「もも」へ1名と回答が分かれた。
「それでは判定します」と言って、支配人が続けた。
「全員正解です!」
私は安堵の息を吐いた。よかった……。間違ってなかったようだわ……。
「次は第3問です!」という声と同時に、大型モニターが切り替わった。今度の問題は……。
『英語に訳すとMの付くフルーツはどれでしょうか?』
という表記に変わった。Mのつくフルーツは、パッと思い浮かぶのは「めろん」だ。他の人たちもそう思ったのか、一斉に「めろん」のパネルを目指し始めた。
ここで私は気付いた。「めろん」だけではなく、「すいか」も英語に訳せばwatermelon。そう、Mが付く。「すいか」も正解だわ!
私が「すいか」に向かおうとしたその時、ミノリが視界に入った。彼女は多数派の「めろん」に向かっている。
しかし、私が辿り着く前にミノリが「めろん」のパネルを踏んだ瞬間、すでにそこにいた一人の参加者がミノリを突き飛ばしたのが見えた。やったのは花房ユウだ。
ミノリはバランスを崩し、パネルの外に倒れ込んでしまった。
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