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13 緊急開催ゲーム「裏切り者は誰だ」①
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私たちは会場に戻り、次のゲームの説明を待った。
執事が会場の外からやってきて、手紙を支配人に渡した。何やら慌ただしそうに話をしている。
支配人はハンカチで額の汗を拭きながら「お待たせいたしました」と言った。
「予定を変更しまして、新しいゲームを行いたいと思います」
ネルが興味津々といった様子で「どんなゲームなの?」と尋ねた。
支配人は咳ばらいをした。
「次のゲームは、『裏切り者は誰だ』でございます」
「え……?」という驚きの声を漏らしたのは私だけだった。他の参加者たちは平然とした顔をしている。私は混乱した頭を整理するのに努めた。
「参加者の中に警察官がいるという情報をモナークさまが耳にしたそうです」
私は反射的にトウコの顔を見た。彼女は平然としているように見えたが、どこか複雑な表情をしていた。
「モナークさまは経歴を偽った人がいることに憤りを感じていらっしゃいます。参加の動機も許しがたいことです!」
支配人の太い眉毛が吊り上がった。
「そこで……裏切り者は皆さまに話し合って決めていただきます」
話し合いと聞いて、私たちの視線は行き交った。
つまりは話し合いで一人殺せということだ。
支配人が「ルールを説明しましょう」と続ける。
「参加者の中で1人だけ、裏切り者に投票することができます。ただし、裏切り者に選ばれた人はその時点で失格です」
そこまで聞いて、私は手を挙げて質問した。
「話し合いで決めるということは、その場では裏切り者と見なされても、本当はただの花嫁候補だったってこともありえますよね? それでも話し合いによる決定でよろしいでしょうか?」
「モナークさまは花嫁候補たちの決断を信じると言っております」
ネルが「なるほどね」と相槌を打った。
これ以上は深く聞くのやめた。
「それでは……話し合いで裏切り者を決めていただきましょう。話し合いの様子は監視カメラで見させていただきますので。私はこれで失礼します」
支配人はそう言ってから、参加者に一礼すると去って行った。
最初は誰も口を開かなかった。
ゲームが始まった……のだと思う。
私はあまり乗り気にはなれなかった。自分以外の誰かを疑わなければならないのだ。誰かを疑うのは気分が良いものではない。
警察官は……彼女の告白が真実だったとすれば、今は涼しい顔をしているトウコだろう。
花嫁候補たちが全員椅子に座ったところで、最初に口を開いたのはトウコだった。
「話し合いって言われても、まともに機能するとは思えない。だから、怪しいと思う人のことを一人ずつ挙げるのはどう?」
「え……そんなのありなの?」
と、ネルが質問した。
「どうせ話し合いなんてできないじゃない」
トウコは冷静な声で続けた。
「それに、裏切り者を決めないと、私たち全員ゲームオーバーになる可能性もあるわ」
「話し合いなんかして、もし間違っていたらどうするのよ!」とネルがさらに反論した。
「じゃあ、他にいい方法でもあるの?」
トウコが全員の顔を見渡して言った。誰も何も言わない。
「決まりね」
トウコはそう言って微笑んだ。
私は彼女の姿を見て、美しい容姿だけではなく、頭脳も優れているのだと気が付いた。
一番手はネルになった。彼女は立ち上がると言った。
「私は……ミノリが怪しいと思う。彼女は花房ユウが脱落した時も、あまり動揺していなかったし、表情に出てなかったから。それに、何だかすごく落ち着いているように感じたわ」
次に立ち上がったのはミノリだった。彼女は穏やかな笑みを浮かべていた。
「私は美浜ネルさまを疑っています。裏切り者のゲームが発表されて、私を含めて全員が驚いている時にも彼女は冷静でした。花房ユウさまをフルーツパニックで押し出した時も抵抗感がなかったように見えました。それに……このゲームの参加者の中で、彼女は少し異質な存在に感じられます」
次は私の番だった。
協力関係にあるトウコの名前は避けた方がいいだろう。なので、私はネルの名前を挙げた。
「私は……誰も疑いたくはないけれど、美浜ネルさんを疑っています。花房ユウさんを押し出した時もずっと冷静で、それが怪しく感じました」
次はトウコだ。彼女は不敵な笑みを浮かべて言った。
「私は九条アカネさんを疑っているわ。彼女は第三ゲームでミノリを助けたけれど、それが警察官だからこその正義感から取った行動のように思えるのよね。それに、彼女は裏の顔があるような気がするわ」
トウコの言葉は、まるで私の心臓にナイフを突きつけられたような衝撃だった。
そんな……まさか。
私は……トウコに裏切られた。警察官だと明かしたのはトウコの方だ。その告白が本当だったとしたら、早々に私を捨て駒にされたようなものだ。
感情的に反論したら、私が余計に疑われる。
チラリとトウコの表情をうかがったが、彼女は相変わらず余裕そうな笑みを浮かべているだけだった。
トウコは何を考えているのだろう……。
次はコトリの番だった。彼女は現役YouTuberで、参加者の中では一番身分がはっきりしている。
彼女は私をまっすぐ見てきた。
「私は九条アカネさんを疑っています。彼女は冷静な態度を終始崩しませんし、何か隠しているように見えます。それに、ミノリさまを助けたのは、警察官だからという理由だけではないと思います」
最後に残ったのはジュラだった。彼女は私を見ると、ニッコリと微笑んだ。
「私は九条アカネさまを疑っています。彼女は参加者の中でも一番目立っていましたし、場の雰囲気に流されず冷静に行動していたからです」
私は驚いたが、表情に出さないように気を付けた。おそらくジュラは、私に票が傾いてきたから同調してきたのだろう。誰かを追放すれば自分は助かるという保身に走ったのだ。
「九条アカネさん3票、美浜ネルさん2票、田畑ミノリさん1票……となったわね」
トウコは私たちの顔を見渡して言った。
執事が会場の外からやってきて、手紙を支配人に渡した。何やら慌ただしそうに話をしている。
支配人はハンカチで額の汗を拭きながら「お待たせいたしました」と言った。
「予定を変更しまして、新しいゲームを行いたいと思います」
ネルが興味津々といった様子で「どんなゲームなの?」と尋ねた。
支配人は咳ばらいをした。
「次のゲームは、『裏切り者は誰だ』でございます」
「え……?」という驚きの声を漏らしたのは私だけだった。他の参加者たちは平然とした顔をしている。私は混乱した頭を整理するのに努めた。
「参加者の中に警察官がいるという情報をモナークさまが耳にしたそうです」
私は反射的にトウコの顔を見た。彼女は平然としているように見えたが、どこか複雑な表情をしていた。
「モナークさまは経歴を偽った人がいることに憤りを感じていらっしゃいます。参加の動機も許しがたいことです!」
支配人の太い眉毛が吊り上がった。
「そこで……裏切り者は皆さまに話し合って決めていただきます」
話し合いと聞いて、私たちの視線は行き交った。
つまりは話し合いで一人殺せということだ。
支配人が「ルールを説明しましょう」と続ける。
「参加者の中で1人だけ、裏切り者に投票することができます。ただし、裏切り者に選ばれた人はその時点で失格です」
そこまで聞いて、私は手を挙げて質問した。
「話し合いで決めるということは、その場では裏切り者と見なされても、本当はただの花嫁候補だったってこともありえますよね? それでも話し合いによる決定でよろしいでしょうか?」
「モナークさまは花嫁候補たちの決断を信じると言っております」
ネルが「なるほどね」と相槌を打った。
これ以上は深く聞くのやめた。
「それでは……話し合いで裏切り者を決めていただきましょう。話し合いの様子は監視カメラで見させていただきますので。私はこれで失礼します」
支配人はそう言ってから、参加者に一礼すると去って行った。
最初は誰も口を開かなかった。
ゲームが始まった……のだと思う。
私はあまり乗り気にはなれなかった。自分以外の誰かを疑わなければならないのだ。誰かを疑うのは気分が良いものではない。
警察官は……彼女の告白が真実だったとすれば、今は涼しい顔をしているトウコだろう。
花嫁候補たちが全員椅子に座ったところで、最初に口を開いたのはトウコだった。
「話し合いって言われても、まともに機能するとは思えない。だから、怪しいと思う人のことを一人ずつ挙げるのはどう?」
「え……そんなのありなの?」
と、ネルが質問した。
「どうせ話し合いなんてできないじゃない」
トウコは冷静な声で続けた。
「それに、裏切り者を決めないと、私たち全員ゲームオーバーになる可能性もあるわ」
「話し合いなんかして、もし間違っていたらどうするのよ!」とネルがさらに反論した。
「じゃあ、他にいい方法でもあるの?」
トウコが全員の顔を見渡して言った。誰も何も言わない。
「決まりね」
トウコはそう言って微笑んだ。
私は彼女の姿を見て、美しい容姿だけではなく、頭脳も優れているのだと気が付いた。
一番手はネルになった。彼女は立ち上がると言った。
「私は……ミノリが怪しいと思う。彼女は花房ユウが脱落した時も、あまり動揺していなかったし、表情に出てなかったから。それに、何だかすごく落ち着いているように感じたわ」
次に立ち上がったのはミノリだった。彼女は穏やかな笑みを浮かべていた。
「私は美浜ネルさまを疑っています。裏切り者のゲームが発表されて、私を含めて全員が驚いている時にも彼女は冷静でした。花房ユウさまをフルーツパニックで押し出した時も抵抗感がなかったように見えました。それに……このゲームの参加者の中で、彼女は少し異質な存在に感じられます」
次は私の番だった。
協力関係にあるトウコの名前は避けた方がいいだろう。なので、私はネルの名前を挙げた。
「私は……誰も疑いたくはないけれど、美浜ネルさんを疑っています。花房ユウさんを押し出した時もずっと冷静で、それが怪しく感じました」
次はトウコだ。彼女は不敵な笑みを浮かべて言った。
「私は九条アカネさんを疑っているわ。彼女は第三ゲームでミノリを助けたけれど、それが警察官だからこその正義感から取った行動のように思えるのよね。それに、彼女は裏の顔があるような気がするわ」
トウコの言葉は、まるで私の心臓にナイフを突きつけられたような衝撃だった。
そんな……まさか。
私は……トウコに裏切られた。警察官だと明かしたのはトウコの方だ。その告白が本当だったとしたら、早々に私を捨て駒にされたようなものだ。
感情的に反論したら、私が余計に疑われる。
チラリとトウコの表情をうかがったが、彼女は相変わらず余裕そうな笑みを浮かべているだけだった。
トウコは何を考えているのだろう……。
次はコトリの番だった。彼女は現役YouTuberで、参加者の中では一番身分がはっきりしている。
彼女は私をまっすぐ見てきた。
「私は九条アカネさんを疑っています。彼女は冷静な態度を終始崩しませんし、何か隠しているように見えます。それに、ミノリさまを助けたのは、警察官だからという理由だけではないと思います」
最後に残ったのはジュラだった。彼女は私を見ると、ニッコリと微笑んだ。
「私は九条アカネさまを疑っています。彼女は参加者の中でも一番目立っていましたし、場の雰囲気に流されず冷静に行動していたからです」
私は驚いたが、表情に出さないように気を付けた。おそらくジュラは、私に票が傾いてきたから同調してきたのだろう。誰かを追放すれば自分は助かるという保身に走ったのだ。
「九条アカネさん3票、美浜ネルさん2票、田畑ミノリさん1票……となったわね」
トウコは私たちの顔を見渡して言った。
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