いつもと、違うことをしよう

三谷玲

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早川静玖は気が気でなかった

想起

 早川静玖は気が気でなかった。

 約束の一ヶ月がもうすぐ迫った金曜日の午後。キャンパス内で佑を見掛けた。
 今日が終わればまた佑との日々を迎えられるとわかっていても静玖の心は浮かないままだった。
 遥は金曜日だけではなく、自分のコンビニのシフトが終わると静玖のアパートに来てはその身体を貪った。
 最初の日のように静玖の身体を貫く日もあれば、ただ静玖の口に精を吐き出して終わる日もあったし、極稀に何もしない日もあった。

 それは気まぐれで静玖は毎日気が気でなかった。

 振り向いた佑と視線がぶつかった静玖の顔がこわばった。
 自分が悪いわけではないはずなのに後ろめたさで佑の顔をまともに見ることができなかった。
 友人と歩いていた佑が静玖のもとに駆け寄っても、その顔をあげることはなかった。

 頭上から聞こえるのは佑の声なのに、背筋に冷たいものが走った。

「シズク? どうかした? 疲れた顔して……バイトそんなに忙しいの?」
「う、ん。ちょっと休めなくて……。ごめんね、ユ、ウ……」

 頭を撫でるひんやりした手が心地よいと思っていた。
 佑の手に撫でられることは静玖にとってなによりも喜びを与えるものだと。
 それが今はどうだろう。
 その手に触れられ、声を掛けられ、その名を呼ぼうとして、静玖の喉が詰まった。

 遥はセックスの際、静玖に自分のことをユウと呼ばせた。
 曰く、俺の呼び名もユウだからと。
 静玖にとっては遥と佑は別物で、いくら声が似ていようとそれは変わらないはずだった。
 けれど、一度快楽を与えられ瞳を閉じてしまうと、聞こえてくるのは佑と同じ声。
 違うのはその体温だけだった。

 遥は時折わざと佑のような喋り方をして静玖を混乱させた。
 ユウと呼ぶことに最初は不快感をあらわにした静玖だがが、呼んでしまえば今抱いているのは佑であって遥ではないと自身を慰めるようになった。

 今目の前にいるのが佑だと分かっていても、静玖の身体は反応した。
 ほとんど毎日遥に激しく抱かれ、その声で厭らしいことを囁かれ、その手で頭を撫でられた。
 こわばって上げられることのなかった静玖の顔を佑が掬い上げた。
 その瞳は潤み、口はだらしなく開き、頬は赤みをさしていた。

「……シズク?」
「ユウ、っ……あ、僕……あの……」

 静玖は今の自分の状況を把握して慌てて取り繕おうとした。しかしそれは佑の笑顔に阻まれた。

「ここじゃ、話しづらいだろう? 少しの時間でいいから、うちで話そう」

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