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喜劇
ヒロインの登場
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それからすぐにクラメール王国からたくさんのお供を連れてやってきたのがファネットゥ王女だ。
王女が謁見の間に訪れると、ファンデラント公国の人々は顔を顰めた。その中でも一番厳しい顔をしたのがリーレイだ。
「このたびは同盟締結のため婚約を了承していただきありがとうございますっ!」
クラメール王国にしては珍しい白い肌に、淡い金髪、淡いグリーンの大きな瞳を輝かせた王女は明るく挨拶をしていた。
ファンデラント公国とクラメール王国、元は同じだがクラメール王国には褐色の割合が多い。現在の国王もまた褐色の痩せた男だったと記憶している。
領土拡大のため、大陸諸国との混血が進んだ結果だ。
おそらく、王宮内ではとても可愛がられていたのだろうと予測出来るほどに無垢な印象だった。
いつものリーレイの後ろではなく、辺境伯代理として末席に侍っていたわたしは隠すことなく顔を顰めた。
いくらファンデラント公国との交流がないとはいえ、わたしがクラメール王の容貌を知っているように、ましてや嫁ぎ先であるファンデラント公国の宮殿儀礼について何も知らないのでは、先が思いやられる。
「遠路はるばるよく参られた。今宵はお疲れのこと思う。ゆっくり休めるよう手配をしているのでそちらに逗留していただきたい」
「えっ? あたし、ここにお部屋をもらえるんじゃないんですかっ?」
大公の丁寧な言葉とは真逆の王女の発言に、集まった人々がざわついた。
「申し訳ないが宮殿内には余っている部屋がない。年の近い女性がいたほうがあなたも何かと気が楽だろう、アビゲイル」
そう言って大公の視線がこちらに飛んできた。
前もって聞かされていたから否はない、否はないが嫌なものは嫌っ!
さすがにここまで世間知らずとは思ってもなかった彼女を引き受けなければいけないなんて! 大公も人が悪すぎる。
ドレスではなく幅の広い茶色のキュロットスカートをさばいて一歩前に出ると、周りの目がわたしに集中した。
同じレイイースト産の毛織物で作られたジャケットは肩まわりがコンパクトなひとつボタン。ウェストで絞ることでかろうじて女性らしさを演出している。
長い赤い髪は一つにまとめただけで背に流している。
令嬢としては地味だが、辺境伯代理としては威厳を持ちつつ若輩として悪目立ちしない適度なものだ。
コースティ家の代表として恥をさらすわけにはいかない。毅然とした態度で王女のもとまでゆっくりと歩いた。
「あなたは……?」
「サウスラーザン辺境伯コースティ家のアビゲイルと申します。大公より王女様のお世話を仰せつかりました。ご不便をおかけしますが――」
「あら、アビゲイルだなんてあちらじゃ男性に使う名前に似てるわねっ! お洋服もまるで男の人みたいっ! あ、ごめんなさいっ! 悪気はないのよっ? 許してね、アビゲイル」
大きな瞳を丸くして驚いて、それから小首をかしげて謝る姿は可愛らしいと映る人もいるのだろう。
しかし、わたしにはそれがあざとい演出にしか見えなかった。実際そうだったのだろう。
彼女はこの物語の主人公だから、多少演技が過ぎてもいたしかたないのかもしれない。
彼女はわたしの衣装と自分の衣装を見比べてから、にこりと笑った。
オーガンジーの淡いピンクのフレアドレスはたしかに彼女には似合っていた。
わたしよりも10センチは低いであろう身長にはピッタリな可愛らしいドレスだ。
しかし、そのオーガンジーの生地の目は粗く、ところどころに大きな穴を作っているのが見えた。
デザインかと思ったが、おそらくは技術のない職人が作ったものと思われる。
そんなことを考えて溜飲を下げなければならないほど、わたしはあのふわりとした温もりを欲していた。
しかしそれはこの場にはない。
壇上にいる大公を見ると、申し訳無さそうな顔でわたしを見ていた。
そう思うならせめてお世話係はわたし以外にして欲しかったと思わずにはいられないが、わたしにはわたしの役割があった。大公には今度温泉旅行をおねだりしようと心に強く念じた。
そのとなり、新たな婚約者を得たリーレイは一言も言葉を発さず終始顔を顰めたまま、まっすぐこちらを睨んでいた。
この鋭い視線に気づきもしないファネットゥ王女の鈍感さが、少し羨ましいと思った。
王女が謁見の間に訪れると、ファンデラント公国の人々は顔を顰めた。その中でも一番厳しい顔をしたのがリーレイだ。
「このたびは同盟締結のため婚約を了承していただきありがとうございますっ!」
クラメール王国にしては珍しい白い肌に、淡い金髪、淡いグリーンの大きな瞳を輝かせた王女は明るく挨拶をしていた。
ファンデラント公国とクラメール王国、元は同じだがクラメール王国には褐色の割合が多い。現在の国王もまた褐色の痩せた男だったと記憶している。
領土拡大のため、大陸諸国との混血が進んだ結果だ。
おそらく、王宮内ではとても可愛がられていたのだろうと予測出来るほどに無垢な印象だった。
いつものリーレイの後ろではなく、辺境伯代理として末席に侍っていたわたしは隠すことなく顔を顰めた。
いくらファンデラント公国との交流がないとはいえ、わたしがクラメール王の容貌を知っているように、ましてや嫁ぎ先であるファンデラント公国の宮殿儀礼について何も知らないのでは、先が思いやられる。
「遠路はるばるよく参られた。今宵はお疲れのこと思う。ゆっくり休めるよう手配をしているのでそちらに逗留していただきたい」
「えっ? あたし、ここにお部屋をもらえるんじゃないんですかっ?」
大公の丁寧な言葉とは真逆の王女の発言に、集まった人々がざわついた。
「申し訳ないが宮殿内には余っている部屋がない。年の近い女性がいたほうがあなたも何かと気が楽だろう、アビゲイル」
そう言って大公の視線がこちらに飛んできた。
前もって聞かされていたから否はない、否はないが嫌なものは嫌っ!
さすがにここまで世間知らずとは思ってもなかった彼女を引き受けなければいけないなんて! 大公も人が悪すぎる。
ドレスではなく幅の広い茶色のキュロットスカートをさばいて一歩前に出ると、周りの目がわたしに集中した。
同じレイイースト産の毛織物で作られたジャケットは肩まわりがコンパクトなひとつボタン。ウェストで絞ることでかろうじて女性らしさを演出している。
長い赤い髪は一つにまとめただけで背に流している。
令嬢としては地味だが、辺境伯代理としては威厳を持ちつつ若輩として悪目立ちしない適度なものだ。
コースティ家の代表として恥をさらすわけにはいかない。毅然とした態度で王女のもとまでゆっくりと歩いた。
「あなたは……?」
「サウスラーザン辺境伯コースティ家のアビゲイルと申します。大公より王女様のお世話を仰せつかりました。ご不便をおかけしますが――」
「あら、アビゲイルだなんてあちらじゃ男性に使う名前に似てるわねっ! お洋服もまるで男の人みたいっ! あ、ごめんなさいっ! 悪気はないのよっ? 許してね、アビゲイル」
大きな瞳を丸くして驚いて、それから小首をかしげて謝る姿は可愛らしいと映る人もいるのだろう。
しかし、わたしにはそれがあざとい演出にしか見えなかった。実際そうだったのだろう。
彼女はこの物語の主人公だから、多少演技が過ぎてもいたしかたないのかもしれない。
彼女はわたしの衣装と自分の衣装を見比べてから、にこりと笑った。
オーガンジーの淡いピンクのフレアドレスはたしかに彼女には似合っていた。
わたしよりも10センチは低いであろう身長にはピッタリな可愛らしいドレスだ。
しかし、そのオーガンジーの生地の目は粗く、ところどころに大きな穴を作っているのが見えた。
デザインかと思ったが、おそらくは技術のない職人が作ったものと思われる。
そんなことを考えて溜飲を下げなければならないほど、わたしはあのふわりとした温もりを欲していた。
しかしそれはこの場にはない。
壇上にいる大公を見ると、申し訳無さそうな顔でわたしを見ていた。
そう思うならせめてお世話係はわたし以外にして欲しかったと思わずにはいられないが、わたしにはわたしの役割があった。大公には今度温泉旅行をおねだりしようと心に強く念じた。
そのとなり、新たな婚約者を得たリーレイは一言も言葉を発さず終始顔を顰めたまま、まっすぐこちらを睨んでいた。
この鋭い視線に気づきもしないファネットゥ王女の鈍感さが、少し羨ましいと思った。
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