永久に待つ春

三谷玲

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春光

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「ねっ♡もう、いいからっ♡」
「ダメだ」

 仕切り直すとは言ったけどなにもここまでしなくてもいいのでは?と思うほど龍生が僕の中を執拗に攻める。
 舌で周りの縁を舐め、中へと唾液を注ぎ込む。それを塗り込むようにして差入れた指が縁周りをぐるりと一周する。
 無理な挿入のせいで拓いたそこを焦れた動きでかき回されると、今度は突かれた奥が疼き出す。
 何度強請っても龍生はまだと言って拓かせることに余念がない。
 すでに3本の指が入られてるにも関わらず、肝心なところへの刺激は与えてくれない。
 指を抜き差ししながら僕の性器を口に咥えた時には、僕の身体は限界に達していて、あっという間に射精した。

「だから、も、だめって」

 ぐずぐずと泣き出す僕に龍生がやっと手を放した。
 その手に口から僕の精液を吐き出すとそれを自分の性器に擦り付ける。わざとゆっくり吐き出したそれを自分の性器に擦り付ける。見せつけるかのようなオーバーな動きで上下する手からぐちゅりぐちゅりと卑猥な音が響いた。

「あき……そんなにこれ、欲しい?」

 僕はどんな顔をしているんだろうか?きっとバカみたいに蕩けた顔をしているに違いない。だって龍生も僕を見る目が溶けている。
 言葉にするのは躊躇われて、開いた足を自分で抱えた。若い身体は柔らかいから、前世なら関節が痛むような格好もやすやすと出来るなと、恥ずかしさを隠すような考えが頭に浮かぶ。

「挿れるよ」

 さっきみたいにいきなりじゃなく、ゆっくりと侵入してくる龍生に焦れた僕は抱えた足を龍生に回して、引き寄せた。
 奥まで届くと僕の性器からまた少し精液が漏れ出す。

「んっ♡」
「大丈夫?」
「へいき、だからもっと、して」

 龍生の首に両手を回して口づけをして、先を急かすと、龍生が腰を動かし始めた。

「あっ♡そこ、いいっ♡もっと、もっと、たつき」
「はっはぁっ、あきっ」

 奥を抉るように突かれては浅いところを擦られてあられもなくあがる喘ぎ声が止まない。

「あき、あき。俺の、俺だけのあきっ」
「あぁっ♡だめ、たつき、すき、たつきっ」

 溢れ出る気持が抑えられずに言葉を紡ぐと、中に収まった龍生の性器が膨れ上がり、より深くまで刺さる。
 ぐっと押し込まれたそこから熱い精液が放出されるのを感じて、僕もまた絶頂を迎えた。

「はぁ……はぁ……」

 僕の上に倒れ込んだ龍生の重みと熱にようやく安堵した。覚えのある温もり。
 龍生の髪を撫でるように梳いていると、息が落ち着いた龍生がぽつりと呟いた。

「自殺、しようとしたんだ」
「自殺?」

 僕の胸に顔を埋める龍生の声が陰りを帯びる。

「どうせなら目立つようにと考え調べてやっと実行しようとした時、スマホに一通のメールが来た。まさかそれが召喚状とは思わないからな。酒浸りだったから回らない頭でメールを開いて、書いてあったURLを踏んだ瞬間、この世界に飛ばされた」
「なにそのワンクリック詐欺みたいな手口。君そんなのに引っ掛かったことないでしょう?」
「だから頭が回ってなかったんだよ。お前が居なくなってお前を刺した女は精神薄弱だとか精神疾患だからと無罪になるし、俺とお前の関係が世間に知られるのはお前の家族に迷惑がかかるからと俺は何も出来なかったから……」

 僕が死んだ後の龍生がそんなことになっているなんてもちろん知るわけがなく、聞かされた言葉に胸が痛む。龍生の頭を掻き抱いたまま問いかける。

「そっか……あ、刺した女の人って龍生の……知り合いじゃなかったの?」

 きっと今の僕の顔は醜い顔をしているだろう。彼女が龍生の奥さんだとばかり思っていたから。

「あれはお前の、というかお前の作品のリュウのストーカーだ」
「は?」
「あの日あきを待ってる間読んでたんだ、あきの小説。それで話しかけてきて、最初は普通だったんだが……」

 びっくりして龍生の顔を持ち上げると、龍生は苦い顔のまま話を続けた。

「3巻のリュウの闇堕ち?あれが許せなかったんだと。馬鹿だな。あの後ちゃんとリュウはエイスの下に戻るのに」
「4巻、まだ書いてなかったのによく分かるね」
「そりゃわかるさ、リュウは俺だし、エイスはあきなんだから」

 中に入ったままの龍生が身体を起こす。擦れて思わず吐息が漏れる。結合部はそのままに僕の腰を抱えると座り込んだ龍生の上に跨るように促される。

「そっか……なんだか可哀想な人だね」
「同情する必要はない……とにかく、そのメールにはこう書いてあったんだ。瑛晴に会いたければ国を治めろと。詳細はURLでって」
「だからそんなのに騙されるとか社長様がなにしてるの」
「クリックした瞬間にこの王宮に喚ばれて、前の龍王ってのに引き継ぎさせられたのが300年前。瑛晴に逢わせるとは言ったがそれがいつとは言ってないとか言い出しやがるし、あんの糞爺今思い出しても腹が立つ。龍王が1000年交代制だとかいうのも後出ししやがるし、契約違反で訴えてやりたい」

 300年というのは想像もつかない長い時間だ。その間、龍生は本当に僕を忘れずにいてくれたのだろうか?
 僕が、あの時あんなことを願ったから?

「ごめん……」
「あきが悪いわけじゃない、自殺するようなヤツには相応の因果、だそうだ。それに俺は不誠実だったからな……」

 背を擦っていた龍生の手が不埒にも僕のお尻を撫でる。
 まださっきの余韻で敏感なそこを撫でられて、中がきゅうっと締まる。

「ね、なんで僕がわかったの?」
「龍王っていうのは力があるのは分かるな? その力っていうのは微粒子みたいな感じでこの国に撒かれてるイメージで考えてくれたらいい」
「花粉?あっん♡」

 話をしながらも器用に僕の顔に口づけてくる龍生はまるで仔犬のようだ。
 時折仔犬ではなく狼のように喰まれると声が上がってしまう。龍王なんだから龍じゃないのか?なにが龍らしいかは知らないけど。

「それでもいいが……まぁその花粉を撒き散らす事が出来る人間が召喚されて龍王に任ぜられる、前任者に」
「へぇ……ってことは前世、君にとっては前世じゃないのか。えっと前の世界でもそれを撒き散らしていたってこと?」

 龍生は昔も今も魅力あふれる男であるのは間違いないが前の世界でもそういったものが出ていたのだろうか?確かに光り輝いて見えたけどそれは惚れた欲目だろう。

「そういうことになるな。で、その花粉が、あきにはたくさん纏わりつくように付いているのが俺には分かる」
「花粉付いてるの嫌なんだけど……」
「実際は花粉じゃないからな? オーラとか気とかまぁ呼び方は何でもいいが……転生しても薄れる事なくあきにまとわりついていてそれがまぁ分かった理由……なんだが」

 龍生が若干気まずい感じなのはまとわりついてる理由が今中にあるモノと関係あるんだろう。くいっと腰を動かして存在を主張してくる。

「あっ♡も、話、つづき……」
「恐らくあきが生まれた頃くらいからか、この世界のあきの存在に気付いたのに目の前に現れないだろう? それまではなんとか耐えてた反動か一気に精神の安定を欠いてしまってな。おかげで国が荒れることになって……もうダメかと思ったらあの男からあきの気配をはっきり感じて」
「萬龍? あんな下っ端と逢うことなんてあるんだ?」

 名前を出したことで苛ついた龍生から怒気と冷気を感じる。

「領内で行っている法外な租税について調べている最中に呼び出したんだ。後は集めた証拠の証左さえ終わればあの男は降格、王家からも排斥されることになるだろう。龍蒼に調べさせたら男娼に執心してるって聞いてじゃあ身請けの保証人になるから春宴に連れてこさせるように言いくるめた」
「それで僕ここに来ることになったんだ……」
「まさか本当にあきが男娼になっていてあんな男に身請けされるかと思ったら……」

 思い出したのだろう龍生からの冷気が増して僕は身を震わせた。中のものまで冷えて来てる気がする。

「龍生……もしかして君の感情で気候が変わるの?」
「悪い冷たかったな……制御してはいるんだが、でもあきが龍玉に成ったから、気候の方は安定するはずだ」

 冷たい身体を温めるように龍生にしがみついた。僕のせいで長い間龍生が寒い思いをしていたのだ。出来ることなら最期の願いはもっと明るい願いにすればよかった。

――君を置いて逝く僕を許さないで。
 
 そう願った僕が悪かったんだ。
 まさか生まれ変わったその先で君にまた出逢うとは思わなかった……。
 こんな長い間辛い想いをさせるとは思わなかったんだ。

「ごめん、ごめんね。龍生」
「そう何度も謝らなくていいんだ、あき。俺がちゃんと別れてからあきと付き合ってれば、あきを守れたかもしれない。あんな痛い想いをさせずにすんだかもしれない。むしろ謝るのは俺の方だよ、ごめんな、あき」

 互いで互いを温めるように隙間なく抱き合うと龍生の体温が少しづつあがるのが分かる。

「もういいよ、君は僕が欲しかった言葉を二度もくれたから」
「二度? 三度の間違いじゃないか?」

 あの言葉は僕にとっては大切な思い出で間違うはずがない。

「なんで? ホテルで言われたのと、さっきのと……」
「一番最初に逢った時のは?」
「あ、あれ……は違うだろ?」

 あの一瞬で恋に落ちた僕にとては大事なっものだがあれは奥さんへのプロポーズの言葉として使ったって……。

「あの時から俺はお前を永久の恋人だと思ってたよ。じゃなきゃあんな耳元で囁くなんてするわけがないじゃないか」
「ズルい! あんな風に自分の作品褒められて、好きにならずには居られなかった僕がどれだけ悩んだと思ってるんだよっ! 奥さんのこととか男同士とかいろいろ悩んだのにっ」

 だってそうだろう?奥さんがいる人を好きになってしかも男で一目惚れってとずっと思い悩んでいたんだ。もう逢うこともない相手を。
 龍生を思い出しては小説で消化することで秘めたままにするはずだったのに。

「あきもあの時から?」
「そうだよっ! じゃなきゃ二度目に逢っただけでしかも抱かれるなんて、出来るわけないじゃないか」

 たった二度しか逢っていない相手に全てを明け渡すほど、僕は龍生に恋をしていた。
 恋を知らない作家だと揶揄されたことも、知ってしまった僕はそれに溺れるだけ溺れて大事な事を伝えられずに、いつもそこから逃げていた。
 最期の時ですら、想いを伝えられずに、呪いのような願いを思っていた。

「あきっ」
「あっ♡やっ♡いきなり大きくしないでっ」

 中に収まっていたものが硬度を増して下から突き上げてくる。

「好きだ、瑛晴」
「残念っ、僕は愛してるよ、龍生」

 柵のなくなった今なら惜しみなく言える。本当に一番伝えたかった言葉を。

「ははっ! 俺もだ、愛してる。世界中の何よりも、あきがあきだけが、俺の宝物だ」
「龍っは、きらきら、光る、もの、集めるって、ほんと?あっ♡あっ♡だめ、またっ♡」

 僕の腰を掴んだ龍生は更に動きを早めてくる。

「そうだな、俺には昔から、お前が光り輝いて見えるよっ」

 揺らされるから途切れ途切れになる僕の言葉を拾った龍生がトドメとばかりに奥を穿つと僕は射精もしないで二度目の絶頂を迎えた。



 長い春を待っていた龍王に龍玉が現れたと国民に知らされたのはそれから4日後。
 儀式の終わりと龍玉の誕生を祝う国中で色とりどりの花々が陽の光を浴びて光り輝くその様は龍王の治世が続いたその後700年間ずっと、龍の社で語り継がれた。
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