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第2話 分かれ道
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「けっ!」
夢宙が蹴り上げた小石は、タイルを跳ねながら移動し、少し先で停止した。
(ぜーんぜん、わかんねー。聞いても聞いても右から左に流れてく)
コツコツと革靴を鳴らし、夢宙はこの『神世研究都市』と呼ばれる街を歩く。
ここは近未来的な建物が並ぶ、世界随一を誇る研究都市だ。
屋上に木が生えている建物や、エメンタールチーズのような外観をしている不思議な建物が並んでいる。
そんな研究都市で生活している人間たちは皆、自信に満ち溢れた表情をしており、姿勢を伸ばしながら堂々と歩いていた。
夢宙は、この街の出身ではない。
高校在学中に、親から「大学まで行かせる資金はない」と言われ、半ばヤケクソ気味に超有名企業へ研究員志望で面接をしたら受かってしまったのだ。
大学まで行って学ばなければ、絶対に受かるはずのない面接に。
しかし、受かってしまったのならば有り難く入社させていただこうということで、夢宙はこの街に引っ越してきた。
住居は会社が持っているタワーマンションである。
(いい会社に、いい暮らし。文句はないけど、あまりにも内容がムズすぎる……)
ため息をこぼしながら、夢宙は帰り慣れた道を歩く。
(あとなー。同期の目が怖いんだよなぁ。いい奴らなのは分かるんだけど、なんか、試されてるような気がする……)
夢宙は、研修期間中に出会った様々な視線を思い出し、身震いをした。
最近は、カレーに入っている人参を避けて食べていたら、周りから信じられないものを見るような目で見られたが、あれは一体なんだったのだろうか。
そんなことを思い出しながら歩いていると、夢宙は通りがかりにあった路地裏へ視線を奪われた。
いつもなら気にかけず、通り過ぎる場所だが、今日だけは何故か引き寄せられた。
(ここ通り抜けたら、どっかに出んのかな)
好奇心に駆られた夢宙は、路地裏へと足を踏み出した。
まだ陽は明るいので、特に恐怖などは感じない。
夢宙は時々上を見上げながら、どんどん奥へと進んでいった。
配管に剥き出しの電線。
壁はひび割れているところもあり、鉢植えが置かれている場所もあった。
換気扇は、夢宙の足元で低い音を立てながら羽を回していた。
(何かこう見ると、私の住んでた所とあんま変わんないかも)
神世研究都市には、今まで見たことのないような空間が広がっており、夢宙の住んでいた街とは別世界に思えてしまう場所だった。
しかし、こうして裏を見てしまえば、案外大きな違いはないのかもしれないと、夢宙は何処か安堵したように笑みを浮かべる。
(いや、路地裏に安心感覚えるって、あんま良くなくないか……?)
夢宙は笑みを浮かべてからすぐ、眉間に皺を寄せた。
もしかしたら、思っているより現状に参っているのかもしれない……と、夢宙は青ざめる。
そう一人で百面相していると、T字路が現れた。
(……まぁ、右にでも行くか)
特に深い理由はないまま、夢宙は右側へ向かおうと足を踏み出す——。
(お……?)
その時、夢宙の耳に気になる音が届いた。
テレビのノイズのような音が、ザーッと、何かを知らせるように、左側から鳴っている。
夢宙はその音に、異様な恐怖心を抱く。
しかし、ただの音だ。聞いたところで、危険が訪れる訳でもない。
緊張から息を呑み込み、夢宙は右側へ向かおうとしていた足の向きを変え、左側へと進んで行った。
夢宙が蹴り上げた小石は、タイルを跳ねながら移動し、少し先で停止した。
(ぜーんぜん、わかんねー。聞いても聞いても右から左に流れてく)
コツコツと革靴を鳴らし、夢宙はこの『神世研究都市』と呼ばれる街を歩く。
ここは近未来的な建物が並ぶ、世界随一を誇る研究都市だ。
屋上に木が生えている建物や、エメンタールチーズのような外観をしている不思議な建物が並んでいる。
そんな研究都市で生活している人間たちは皆、自信に満ち溢れた表情をしており、姿勢を伸ばしながら堂々と歩いていた。
夢宙は、この街の出身ではない。
高校在学中に、親から「大学まで行かせる資金はない」と言われ、半ばヤケクソ気味に超有名企業へ研究員志望で面接をしたら受かってしまったのだ。
大学まで行って学ばなければ、絶対に受かるはずのない面接に。
しかし、受かってしまったのならば有り難く入社させていただこうということで、夢宙はこの街に引っ越してきた。
住居は会社が持っているタワーマンションである。
(いい会社に、いい暮らし。文句はないけど、あまりにも内容がムズすぎる……)
ため息をこぼしながら、夢宙は帰り慣れた道を歩く。
(あとなー。同期の目が怖いんだよなぁ。いい奴らなのは分かるんだけど、なんか、試されてるような気がする……)
夢宙は、研修期間中に出会った様々な視線を思い出し、身震いをした。
最近は、カレーに入っている人参を避けて食べていたら、周りから信じられないものを見るような目で見られたが、あれは一体なんだったのだろうか。
そんなことを思い出しながら歩いていると、夢宙は通りがかりにあった路地裏へ視線を奪われた。
いつもなら気にかけず、通り過ぎる場所だが、今日だけは何故か引き寄せられた。
(ここ通り抜けたら、どっかに出んのかな)
好奇心に駆られた夢宙は、路地裏へと足を踏み出した。
まだ陽は明るいので、特に恐怖などは感じない。
夢宙は時々上を見上げながら、どんどん奥へと進んでいった。
配管に剥き出しの電線。
壁はひび割れているところもあり、鉢植えが置かれている場所もあった。
換気扇は、夢宙の足元で低い音を立てながら羽を回していた。
(何かこう見ると、私の住んでた所とあんま変わんないかも)
神世研究都市には、今まで見たことのないような空間が広がっており、夢宙の住んでいた街とは別世界に思えてしまう場所だった。
しかし、こうして裏を見てしまえば、案外大きな違いはないのかもしれないと、夢宙は何処か安堵したように笑みを浮かべる。
(いや、路地裏に安心感覚えるって、あんま良くなくないか……?)
夢宙は笑みを浮かべてからすぐ、眉間に皺を寄せた。
もしかしたら、思っているより現状に参っているのかもしれない……と、夢宙は青ざめる。
そう一人で百面相していると、T字路が現れた。
(……まぁ、右にでも行くか)
特に深い理由はないまま、夢宙は右側へ向かおうと足を踏み出す——。
(お……?)
その時、夢宙の耳に気になる音が届いた。
テレビのノイズのような音が、ザーッと、何かを知らせるように、左側から鳴っている。
夢宙はその音に、異様な恐怖心を抱く。
しかし、ただの音だ。聞いたところで、危険が訪れる訳でもない。
緊張から息を呑み込み、夢宙は右側へ向かおうとしていた足の向きを変え、左側へと進んで行った。
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