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~一章 野望の剣士編~
八話 漢の勝負
しおりを挟む「ティエナか。素敵な名前だね」
さらりとディーノは答えると、ティエナは少し恥ずかしそうに頷いた。
「ティエナ。君はどこから来たんだい?」
「私は、ここからずっと南の村から来ました……。あの、助けに来てくれたんですか?」
「すまないが、助けに来たわけでは無い。自分達は禁断の花園を探す冒険者でね、君から何か聞けたらなと思ってここまでやって来たんだ。もし期待をさせたなら申し訳ないね」
「そうですか……。あなたは正直ですね」
ティエナは明らかに落ちんでいた 。
「君は……何故捕まったんだい?」
「──私は村から追い出されたんです。逸脱だと分かったから。それでこの王都まで来たら私は指名手配にされててそのまま拘束されたんです……」
「そうだったのか……。しかし珍しいね。逸脱はもっと体に変化が出たり理性を失くしているから会話も出来なかったりするのに、君はハタから見れば普通の人間と遜色が無いね」
「私は昔、普通の人間だったから。でも幼い頃に両親が詐欺師に騙されて多額の借金を背負わされて、私の目の前で首を吊ったの。……その時から私の中で何かが弾けた。──私は他人の言ってる事の真偽が分かるようになったの。どんなに小さな嘘でも見抜く、その能力は私にとってはとても生きづらいものだったわ。だって世の中は嘘だらけだったから」
逸脱は生まれながらにして能力を持つ者もいれば、ごく稀に後天的に覚醒してしまう者もいる。
いまだその原因は解明されていないが、ティエナは精神的なものによる強い衝撃が引き金となって覚醒を迎えてしまったのかも知れない。
「そうか……それはさぞかし辛かったね。ありがとう、参考になったよ。さ、行くぞバッジョ。長居は無用だ」
そう言うとディーノは踵を返した。
「ちょっ! ちょっと待てよ! それだけか!?」
「ああ、これだけだ。話を聞いてわかった。この娘は能力以外は"普通の女の子"である事がわかった。残念ながら他の逸脱の情報も守護者も花園の事も何も知らない。そうだろ?」
ディーノはわかりきった顔でティエナを見ると、彼女は何も返せないようであった。
「違う……」
俺は肩を震わせる。
「バッジョ。行くぞ」
「違うだろ……! "普通の女の子"だからこんな所にいるのはおかしいだろうが!」
やり場の無き怒りをぶつける。
「──何が言いたい」
ディーノの目は鋭く俺を睨んだ。
「お前はなんも思わねえのか!? ティエナは普通の女の子だ! 他の逸脱と違ってなんも悪い事はしてねえ! ……決めたぜ。俺はこの娘を──」
「駄目だ。その先は言ってはならないぞバッジョ」
ディーノは静かに力強く俺の言葉を遮る。
「俺はこの娘を連れて行くぞ!!!!」
俺は振り払うように宣言した。
「……バッジョ。言っておくがな、それがどれ程の罪かわかるか? 簡単に言えば『死罪』だ。この娘を連れて外へ踏み出した瞬間、俺達はおたずね者だ。それはならない。俺達には絶対に叶えたい夢があり、そんなことをすれば師匠にも顔向けできん。それをわかって言っているのか?」
「──しゃらくせえ……」
「なに」
「しゃらくせえぜディーノ……! 今、目の前にある問題は、この娘をここから出すか出さねーかだろうが! ちゃちゃこましい事ぬかしてんじゃねーぞ……!」
二人の間に火花が散るような空気感が漂う。
「もめたな、バッジョ」
「もめたな、ディーノ」
──争いの火蓋がきられようとしていた。
「「ならば」」
「「『ジャンケンソルジャー』だ!!!!!!」」
説明しよう!! ジャンケンソルジャーとは! とどのつまりただのジャンケンである!! しかし! その心意気は普通に非ず! 勝者が言った事は絶対であり! 敗者は敬意を持ってその勝者の意向に沿うものである!! 情け無用、やり直しなど言語道断!! 漢と漢の一騎討ちは一発勝負にて決着を迎え、そこに疑いの余地は皆無である! 今、このジャンケンソルジャーを口にした瞬間、すでに互いは全てを賭け、全身全霊を持って勝負へと挑まん!!
「「ジャン、ケン、ソルジャー!!!! ジャン!! ケン!!ポオオオオオオン!!!!」」
──余りにも、余りにも熱い勝負は一瞬で決着を迎える。
勝者は高らかに手を挙げると、──無実の少女を牢から出した。
・
「よし。どうしよっかな」
ティエナを出したがいいが、その後の事なんか俺は考えてなかった。
「なあディーノ。何とか脱出する方法とかないか!?」
「やれやれ。仕方無いな。とりあえずそうだな……」
二人は頭を悩ませていた。
「いやいやいや、ちょっと待ちなさいよ。いまこれ何が起こってるの????」
牢から出されたティエナは大変に混乱していた。
「何って、そりゃお前さんを助けるためだよ」
バッジョがさらっと言うと、ティエナは戸惑う。
「たっ、助けてくれるの? でも何で? っていうかさっきの勝負は何????」
「まあまあ。とりあえずそこまで。とにかく今は外に出よう。話は後でゆっくりとね。ティエナ、君はその壺に入ってくれ」
ディーノはそばにあった水入れの大きな壺を指差すと、ティエナは「はあ」と言いながら、訳もわからずにすっぽりと壺に入った。
「よし。バッジョ、これに着替えたらこの壺を運ぶぞ」
「ガッツあるしッ!!」
俺はディーノに渡された兵装に着替えると、二人はティエナの入った壺を担ぎ、地下牢から上がった。
一階の窓から外の様子を見ると、見張りが正面の門に何人かいるのが見える。
「どうすんだ?」
「まかせろ。バッジョは何も言わなくていいぞ」
兵装を着けて変装しながら、ティエナの入った重い壺を二人で運び、俺達は堂々と外へと出た。
「おい! それはなんだ」
やばい。さっそくだが声をかけられた。
「いやあ、このゴミを捨ててこいって上官に言われてさ。すまないが門を開けてくれないか」
飄々とディーノはホラを吹く。すると、
「それなら裏門から出ろ。正面はもう閉めきったからな。着いてこい」
すごいな、そんな嘘通っちゃうのか。いや、堂々としてるぶん逆に怪しくないのか、それともこの城で働く兵士はいつもこんな雑用させられてんのか。
見張りに着いて行くと、城の裏側にある小さな鍵付きの厚い扉の前まで連れてこられた。見張りの兵士はその扉を開けると、
「ほら、さっさと行け。帰ってきたらちゃんと鍵、閉めとけよ」
「ありがとう。助かる」
まんまと成功した俺達は渦巻き扉から出ようとすると、
「あっ、ちょっと待て。そう言えばどの上官から言われたんだ」
背中から冷や汗が垂れた。この質問はまずい。ディーノも流石にこの城の上官の名前なんかわからない筈だ……!
「それは……」
ごくりと唾を飲む。壷の中のティエナも震えているのか、小刻みな振動が手に伝わってきた。
「──ほら、イバン大臣のお気に入りの"あの方"だよ」
苦し紛れにディーノが言った。
「ああ、なんだあの方か。お前も大変だな。まあ、あの方は今この王都では一番の腕前だからな。あれで人使いの荒さがなけりゃいい上官なんだがな……。おっと仕事の邪魔して悪いな。行っていいぜ」
「ははは。それじゃ……」
俺達は外に出てバタンと扉を閉めると、
「「あっぶねえええーーーー!!!!」」
かくして、逸脱の少女ティエナを無事、脱出させたのであった。
「………………」
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