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~一章 野望の剣士編~
十八話 暴け! 砂塵のオーキュラス
しおりを挟む「みんな気をつけろ! こいつ砂を操る逸脱だ!」
「俺様の砂塵からは逃げられん。お前達に目に見えぬ恐怖を与えてやろう」
「砂が恐くて冒険ができるかよ! いくぜッ!」
俺は飛ぶようにジャンプすると、敵の脳天をめがけて剣を振り下ろす──!
「遅いな。くらえ『砂塵の舞い』!」
オーキュラスの手足に渦巻く砂が大きく膨張すると、それが突風の如く俺の全身に被るように襲いかかる。
「うおあ!?」
まるで飲み込むように、猛る砂塵の塊が俺の体を幾度と無く打ちつけた。
「「バッジョ!」」
「くくくく。次はお前達だ。『魔技・砂獄の陣』ッ!」
オーキュラスは両手を地面につけると、辺り一帯の砂が盛り上がり、細かな砂塵が煙のように舞い上がり、一瞬のうちに視界は閉ざされ、たちまちに周囲を砂の闇へと変えた。
「なによこれ! こんなんじゃ何もわからないわ!」
「くっ……! 何も見えない──!」
砂の煙が視界を眩ます。ろくに目も開けてられないこの状況は非常にまずいものでもあった。周りに仲間がいるかも知れない事から、迂闊に剣も振れず、ただ相手のペースになる一方である。
「俺様の技を断ったお前達の強さはコンビネーションの良さと見た。だがこうも砂塵が吹き荒れていれば互いの場所もわかるまい。連携の取れないお前達は、ここでゆっくりと俺様の攻撃の餌食となるのだ! くっはははは!」
砂塵の中からオーキュラスの高笑いが聞こえる。
「くそったれ……! ディーノ! ティエナ! 聞こえるか!? 返事してくれ!! ゴホッゴホッ。ちくしょう、声がうまく出せねえ……!」
俺は必死に叫ぶが、無情にも襲う砂塵が口の中に張りついてその声はかき消される。
「くくくくく! 無駄だ無駄だ! 俺様の『砂獄の陣』は入ったが最後、すべてが砂と化すまで出られん! くらえい!!」
ドゴオッ!
「ぐはッ!」
砂煙の中、どこからかオーキュラスの拳が飛んでくると、俺の腹に強烈な一撃をくわえた。
「ガッ……ぐぅ──!」
「どうしたどうした! まだまだこれからだぞ!」
ドガッ! バキッ!!
その場で倒れるように片膝を着いた俺に対し、オーキュラスは無数の拳で攻撃してきた。
「かはッ……!」
口から血を吐く。何回にも岩のような拳で殴られた全身は、目に見えぬがアザだらけであろう。
「おっと危ない危ない。うっかり殺してしまう所であった。お前は大事な駒となる物だ。この辺で勘弁しておいてやろう。さて次はあの伊達男だな。じわじわと殴りつけてやろう」
そう言うと、ディーノの方へ向かったのか、オーキュラスの気配が消えた。
「く……そ……。二人を──助け、ねえ……と」
剣を杖にして、ボロボロになった体を無理矢理に立たせる。だが容赦なく吹く砂塵が全身を打つと、悲鳴を上げそうな程の痛みが襲う。
「まけ……負けるか……よ……!」
腫れた顔面をぐぐぐと上げると、砂の闇の中に一筋の光が見えた。
「──! あそこか!」
俺はその光に向かい、痛みをこらえて足を駆け出す。そしてその光の元へとたどり着くと、
「バッジョ! 無事か!!」
「大丈夫!? あんたフラフラじゃない!?」
そこには光輝く『パルマの花』を持った、ディーノとティエナがいた。
この『パルマの花』は茎の部分を強く押すと、花弁が電球のように眩しく光輝く珍しい花だ。
本来なら北の大陸にしか咲かない花なのだが、テインの港町でティエナが無駄遣いで買った物の一つである。
「よく来てくれたバッジョ! 技は出せるか?」
「へへっ……ガッツ、あるし……!」
「いいガッツだ! 踏ん張れよ、ここで俺達は終われないぞ!」
ディーノはゆらりと剣を担ぎ、俺は腰をすくめて剣を低く構えた。
「「──阿吽」」
「(──奴等、合流したか……。しかし無駄だ。先の技では俺様のこの『砂獄の陣』は突破できん!)」
「うおお!! 豪ノ断ちッ! ──『飛び瓦』ッッ!!」
俺は今ある力をすべて振り絞り、剣を握る。技を出す瞬間、ディーノは俺の剣の腹に飛び乗った。俺は剣を下から上へと思い切り振り上げると、ディーノは技の力に合わせるようにジャンプし、天高く飛び上がった。この技は切る事が目的では無い──。そう、この野菜も切れない最高に切れ味の悪い剣だからこそ成せる技である──!
「見えたぞ! オーキュラス!!」
砂塵の晴れた上空から下を見下ろすと、一つの黒い影が確かに見える。
「上!?」
「幻視ノ剣──『無明斬』ッ!!」
「こしゃくっ!」
オーキュラスは両手でガードするが、光の作用により剣身が透けるこの斬撃は単純な軌道に非ず、その剣はオーキュラスの左の肩口へと刻み込まれた。
「み、見えん!? ぐおおおッッッ!!」
振り抜いた剣が弧を描くと、オーキュラスの左腕がボトリと地面に落ちた。そのうめき声と同時に砂塵がゆっくりと晴れると、辺りを埋め尽くした砂の煙は収まりを見せ、元の荒野へとその姿を戻した。
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