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~一章 野望の剣士編~
十七話 消える男
しおりを挟む──翌朝。
エリックの好意によって宿で充分に休んだ俺達は、行方不明者の事で集落の人の話を聞いてまわっていた。
「そうなのよ! 急に消えたのよ!」
興奮気味に話すのは近くで洗濯をしていたおばちゃんだ。なんでも十五歳の息子と隣の村まで遠征で野菜を売りに行こうとしたところ、急に砂ぼこりが舞ったかと思ったら、隣にいた息子が跡形もなく消えていたらしい。
「ディーノ、バッジョ。どう? 何かわかった?」
「なんかみんな同じような話だな」
「そうだな……消えた人は"みんな砂ぼこりと共に急にいなくなった"──この共通点のみだ。しかし逆にわかりやすい。そんな神業が出来るのは逸脱以外に無いだろう。やれやれ、放火魔の次は誘拐犯か」
「でも何で男ばっか拐うんだろうな。普通は女じゃねーの?」
「単純に考えれば拐った男を労働力として酷使するため、もしくは……人間の男の肉が好きな逸脱がいて食ってるのかもな」
ディーノは物騒な事をあっけらかんと言う。
「だとしたらその逸脱は最悪ね……。私、グロいのは無理だわ……」
「めっちゃ恐いじゃねーか! やべーよ、俺けっこう美味そうな肉体だからな……」
「自分で言うんじゃないわよ。あんたの臭い肉なんて誰も食べないわよ」
「臭くねーよ!? なんなら嗅ぐか? お?」
俺は上着を脱いで自慢の肉体をティエナに見せながら、じりじりと近づく。
「や、やめろおぉ! 変態ーー!!」
「ははは!」
朝からコントのようなやり取りを見るのも中々慣れてきたディーノは、笑ってそれを見ながら朝食のパンをもぐもぐと食べていた。
「バッジョ体の火傷はどうだ?」
「ああ、薬がいいせいか中々調子がいいぜ。しかもこの塗り薬そこそこうめえんだよ」
そう言うと俺は塗り薬をペロリと舐めた。
「あんた何やってんの!? それ塗り薬でしょ!?」
「あ? 塗り薬を食っちゃいけねえルールなんてねぇーだろうが。それに"薬"なんだから体内に入れた方が早く効くだろ」
「……私、あんたに助けられたのを、だんだん後悔してきたわ……」
「お前も食うか? うめーぞ」
「食わないわよ!!」
「はっはっはっはっ!」
たぶん世界中探しても塗り薬を食う奴なんてこいつだけだろうなと、ディーノは腹を抱えて笑った。
「その様子なら明日には出発できそうだな。バッジョ、今日は安静にな」
「わかってるよ。日課の鍛練終わったらさっさと寝るぜ」
「ねえディーノ。出発って言っても犯人がどこにいるかもわからずに行くのは危険だわ。何か作戦でもあるの?」
「作戦? ああ、あるよ」
「どんな作戦かしら?」
「──ドンだ」
「え?」
「──歩けば、ドンだ!」
どうしよう、このイケメンついに壊れたのかしらとティエナは白い目をした。
「ははは! ティエナ。そんなに難しく考える必用は無いんだよ。だって犯人は若い男を拐ってるんだ。俺達が歩いていればあちらから勝手に来てくれるのだよ」
「あっ、はぁ」
なるほど……と、ティエナは分かった素振りをしたが、何だかなんだかんだこの二人は別の意味で逸脱なのでは? と思ってしまうのであった。
・
──小鳥のさえずりと共に朝が来た。今日は良い日、誘拐犯をボコる日。そんな気持ちで俺達は目覚める。
「おーい、つるぺた早く起きろ」
「ううう……私の胸を返して……」
「だめだこりゃ」
お気に入りの変な人形を抱きながら寝言を言うティエナを一旦放っておき、俺とディーノは朝の鍛練をチャチャッと済ます。
「おはよう……」
鍛練が終わる頃、ティエナはぼーっとした顔で朝の挨拶をしてきた。
「おはようティエナ。そろそろ出発するよ」
「早く準備しとけ。それとも留守番しててもいいんだぜ?」
「……行くわよ。あなた達だけじゃ不安だからね」
三人は戦いの支度をするとタンタの集落を勇み足で踏み出した。
「いや~いい天気だなおい。張り切って誘拐犯捕まえて奥歯ガタガタいわしてやらあ」
「そうだな。やっと道が見えたんだ。この好機、逃す手は無いぞ。必ず捕まえて拐われた人達を助け出そう」
「……あんた達、元気ね。これからとんでもない逸脱が来るかも知れないのに」
俺とディーノはそれなりに浮かれていたのかも知れない。。それはガガトロやコーリーを倒したと言う実績ゆえにである。あの固く重い強敵、熱く変幻な猛者を倒した事で自分達の強さを多少なりとも実感していたからだ。だから今度の相手も必ず勝つと言う、根拠無き自信に溢れていたのである。
俺達は小一時間ほどしばらく歩くと、被害現場である、隣村との中間地点の荒野へと来てみた。
辺りは草木も無い荒れた大地で、地面には砂が薄く敷いてあるちょっとした砂漠地帯。ようするに何も無い場所だ。
「確かこの辺りの筈よね。でも何も無いわね……」
「ほんとにこんなとこに犯人なんているのか?」
「まあ、ちょっと様子を見ようじゃないか」
──その時であった。
ビュオオオオオオオオ
砂ぼこりが舞った。たちまちに広がる砂の煙、それは視界を奪う煙幕に近いものだ。とっさに俺達は背中合わせになり、砂にまみれた視界に何とか目を凝らす。
「くくくくく…………」
何者かの笑い声だ。だが、それがどこから聞こえてくるのかわからない。砂が舞う音が俺達の耳を塞ぐよう荒れ狂う。
「ティエナ! 敵がどこにいるか分かるか!?」
咄嗟に俺が言う。
「──駄目だわ! 私の能力はちゃんと視界に入らないと使えない!」
「バッジョ! この砂煙を払うぞ!」
「おうよ! ティエナ! しゃがんでろ!」
ティエナは言われた通りしゃがみこむと、俺とディーノは背中合わせに剣を上段に構える。
「「──阿吽」」
二つの刃が背中越しに重なった時、その交わる一閃は技と昇華する──!
「「重ね刃──『橋崩し』!!!!」」
二人の剣が逆方向に振り下ろされると、その視界を覆う砂ぼこりを断つ如く、疾風となった剣風がその砂のうねりを止めた!
「二人ともすごいわ!」
「へっ楽勝だっての」
俺は鼻を高くすると、一喝するように声を上げた。
「誘拐犯! 出てこい!!」
止んだ砂ぼこりの中から一人の黒い影が徐々に見えてきた。
その者は手足に砂の渦を纏い、体は岩石の鎧を着け、頭には尖った岩のヘルメットのような物を被った男だった。
「くくくく。よく俺様の砂地獄から脱出できたな」
「おめーが犯人か!? 犯人だな! よし! ぶっ飛ばす!!」
「タンタの集落の人達を返してもらおう!」
俺とディーノは臨戦態勢で構える。
「その通り……。俺様がお前達のいう犯人だ。俺様の名は『砂塵のオーキュラス』お前達も若いな……。決めたぞ、じっくりといたぶってからお前達も拐ってやろう──!」
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