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~一章 野望の剣士編~
二十二話 かくて彼らは荒野へ挑む
しおりを挟む──二日後。
夜明けと共に俺達は旅支度をしていた。先の戦いでの傷は幸いにもほぼ完治に近い状態であり、俺達は鼻息荒く噂の守護者の根城を見つけるために奮起していた。
「よし。忘れ物はないかな?」
「おうよ。こっちはバッチリだぜ」
「……眠い」
俺と相棒は麻袋に必用最低限の生活用品と、エリックからもらった沢山の食料を詰めて意気揚々と準備を整えた。
「ティエナはどうだい? 荷物はまとまった?」
「うん……いいと思う……」
ティエナは朝が早いせいか、相変わらず眠そうに答える。お気に入りの白いブラウスの中からポロリとあの変な人形が落ちた。
「お前まだその変な人形持ってくのかよ」
「変じゃないもん。ちゃんとこの子には名前があるのよ」
「へえ。名前があるんだね」
「何だよ、『ゴンザブロウ』とかそんな名前か?」
「そんな可愛くない名前じゃないわ! この子はね……『うろうろくん』よ!」
「「…………」」
「な、なによ。その反応は! 言っておくけど、お店の人が言ってたんだからね!」
こいつが何を思ってこの人形を買ったのかわからんが、センス最悪だなと少なくても俺は思った。
「二人とも調子はどうだ? 傷が痛むならまだ、ここでゆっくりしていてもよいのだぞ」
扉を開けてエリックが宿に入ってくると、ディーノは一礼をする。
「エリックさんありがとうございました。まだゆっくりしたい所ですが、早い内に解決せねば拐われた人達の生存率が下がります。大丈夫です。必ず自分達が見つけ出してみせますよ」
「エリックさん! お世話になりました! 心配かも知れませんが、この二人は頑丈なので大丈夫ですよ。私達がすぐに行方不明者を元の村へ返してあげます!」
「そうそう。心配なんざいらねーよ。ほらアレだな、『男子三日とアバズレは活躍してみろ』って言うだろ? 泥舟に乗ったつもりで待っててくれや」
「「…………」」
「……通訳、いりますか?」
「「いらない」」
ティエナとエリックはディーノの通訳を拒否すると、いそいそと宿の外へ向かった。
「──それじゃあ気を取り直して……お前達、任せたぞ──!」
「はい!」
「まかせろよ!」
「行ってきますね!」
こうして三人の勇士は集落を発つのであった。
・
「んで、どこ行くんだ?」
漠然と前を歩く俺はそんな呑気な質問をする。
「隣の村までだ。ここから歩いて一日といったところだな」
「うげ、結構遠いな……」
「その道中に怪しい何かがないか調べるのよね?」
「そのとおりだ。タンタの集落から隣の村までのこの間が一番被害が出ている地帯だ。現にオーキュラスと戦ったのもこの先だしね。あの近辺に何かがある可能性が非常に高い」
「そうか……もしかしたら俺達が世界で初めて守護者に会えるかもしれねえんだよな……。なんかすごい事になってるな!」
「はしゃぎすぎよ。あんた敵がどんな奴かも分からないのよ? 今までみたいな奴等と一緒にしてたら痛い目みるんだからね」
「俺達三人なら平気のへっちゃらだぜ!」
「ふふっ。二人とも頼りにしてるよ」
「もう。ディーノまで子供なんだから……」
ティエナは予想以上に精神が幼い二人を見て大人ぶるが、その内心は自分を本気で仲間だと思ってくれている、このお馬鹿な二人に感謝していた。
──しばらく歩くこと数時間。荒野の真ん中でディーノがピタリと足を止めた。
「どうした?」
「どうかしたの? ディーノ」
ディーノは疑うような鋭い眼で辺りを見渡す。
「……いや、どうやら気のせいのようだ。丁度いい、あの座れそうな岩で昼食にしよう」
そう言うと相棒は平たい岩に腰を降ろして、麻袋からパンを取り出して俺達に配ると、三人は何もない荒野の真ん中で食事をすることにした。
「なあ、さっきのもしかして"気配"感じたのか?」
俺はパサパサのパンを食いながら言う。
「ああ。バッジョも感じたか。何者かの気配がしたんだがな、気のせいだったな」
「えっ? もしかして誰かにつけられてるの……?」
「俺も最初そう思ったけどよ、こうも何も障害物が無い荒野でそりゃ無理だ。俺達は目がいいからよ、かなり遠くでもわかるぜ。だからこんな荒野で跡をつけるなんて不可能だっての」
「……そうだな。少し神経質になってる所もある。用心に越した事は無いが、ほどほどにしないと精神力がもってかれるからな」
「敵らしき奴が見えたら、私の能力も役に立つから安心して。すぐに見抜いてあげるわ」
ティエナはかわいらしいガッツポーズを決めながら笑顔で言った。
「なあ、逸脱の能力って実際どんな感じで使うんだ? 体からなんか不思議なパワーが湧いてくんのか?」
「えっ、うーん……? 私の場合は嘘ついてる奴を見ると、そいつの魂がぶれる……みたいな感じで見えるのよね」
「それは逆に言えば生物の魂が見えるのかい?」
「いやいや、 例えよ、例え。上手くは言えないけど視覚からそういう感覚が伝わってくるのよ」
「へぇー、すげーじゃん。じゃあ生きてる奴以外はどうなるんだ? 例えば誰かが他人の絵をマネして本物そっくりに描いた偽物とかも判断できんのか?」
「あんた難しい質問するわね……。そうね、その偽物が最初から意図して作られこれは"本物"ですよと謳われるように"嘘"をつけば判別できるわ。でも描いた本人が無意識にマネをしてしまった作品ならそれは"本物"になるわね。それは最初から嘘をついていないんだもの。……自分で説明してあれだけど、私の能力って結構曖昧よね……」
「うーん? わかったような、わからんような……」
ティエナは何だか落ち込んでいるが、俺の耳には難しすぎてよく理解がならなかった。
「興味深い……。逸脱はやっぱり謎が多いね。人や物の真贋を見極める能力はこの先もきっと役に立つ。ティエナ、もっと自信を持つべきだよ」
「ありがとう……! やっぱりイケメンが言う事は違うわね」
ティエナは気分よく、パンをむしゃりと食べながら微笑んだ。
「俺もお前みたいな能力があれば、シュバーってすぐ守護者なんかさっさと見つけて、禁断の花園まで超特急で行くんだけどなー」
「そんな能力あったらもう誰かが守護者を倒してるわよ。それにあんたには難しい能力なんか似合わないわね。例えばそうね……『もう少しだけ常人くらいに賢くなる能力』で丁度いいわね」
「──ならお前は『もう少しだけ常人くらいに"胸"がある能力』の方がよかったかもな」
「──やるか?」
「──やれるのか?」
「「…………」」
「「うおおおおおおッッッッ!!」」
──二人の喧嘩を午後の音楽に嗜みながら、ディーノは静かにお茶を飲むのであった。
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