ガーデン・オブ・ガーディアン 〜Forbidden flower garden〜

サムソン・ライトブリッジ

文字の大きさ
24 / 157
~一章 野望の剣士編~

二十三話 隠された根城

しおりを挟む



「しっかし何もねーな」

「同じ景色ばっかりね」

 昼食と喧嘩を終えた俺とティエナは、お互い頬をつねりあったせいか顔が少し腫れていた。

 歩けども、歩けども道行く道は荒れた大地が広がり、空からはギンギンと太陽が熱を発し、遠くを見渡せばレンガ色の岩肌しか見えない山がいくつもそびえるだけだ。

「ほんとにいるのか? 人が住むとこじゃねーぞ、ここ」

「ふむ……。なぜこんな所でオーキュラスは人拐いなどしてたんだろうな」

「そりゃこの荒地の方が奴が有利だからだろ」

「それはあるが、それにしてもさ……。もっと効率の良い場所があったんじゃないかな」

「やっぱりこの辺りに奴の根城があるって言うの? でもディーノ、こんな明け透けな場所にいたら苦労しないわよ?」

 俺とティエナは苦言を呈するが、ディーノは考えるように辺りを注意深く警戒する。

「ま、あったらラッキーって感じだな。実は荒野の片隅に、地下に降りる階段があってそこには奴等の帝国があった! ……って可能性もあるかもな!」

「あほくさ」

「お前にゃ夢がねーのか!」

 俺の妄想は儚くも小馬鹿にされて、ティエナが鼻で一笑した。


 ────迷いし時は剣に聞け──。


「……! そうか、そうだな。こんな時こそブレシア師匠の教えだ──!」

 ふと、ディーノの頭に師匠の教えがよぎった。腰に下がる剣を抜く。愛剣の"幻視ノ剣"は今日もその鏡面の如し剣身を美しく輝かせた。

「いつ見てもキレイな剣ね……。それでどうするの?」

「おっ、"アレ"やんのか? ディーノのは良く当たるんだよなぁ~」

「アレ? 何それ?」

「まあ見てなって」

 ディーノは愛剣の切っ先を地面に軽く置くと、つかの頭を指一本で押さえた。そして指をそっと離すと、剣は斜め右上の方向にカランカランと音をたてて倒れた。

「……あっちだな!」

「あっちか! よし! 行こうぜ」

「えっ、ちょ──待て待て待て」

「あ? なんだよ」

「なに、今のは」

「なにって、倒れた剣の方向に行く願掛けみてえなもんだよ」

「適当っ!!!! 適当すぎ!!!!」

 思わずティエナは叫んだ。

「もっと!! なんか!! あるでしょ!!」

「ないでしょ! お前は知らねえかもしれねーがディーノのこれは良く当たるんだよ! 特に探し物とかしてるときな」

「ははは! 悪いねティエナ。昔からこれ、好きなんだ。ちょっと試してみないかい?」

 ディーノは子供のような無邪気な笑顔を見せながら愛剣を拾う──が、その時、ディーノの全身に衝撃が走った──。

「──バッジョ、ティエナ……。お前達の右手には……何が見える……?」

「えっ、何って……。何もない荒野だけど……」

「? なんもねーぞ? 強いて言えばちょっと小高い山があるくらいか?」

「──ふ、ふふふふふふふふ。ははははははははははは!!」

 突然に笑い出す相棒に俺とティエナは驚きを隠せないでいた。

「どーしたんだよ!?」

「違う! 違うぞ! バッジョ、ティエナ! 道は見えた!! この剣が教えてくれた!!」

 狂ったように笑う相棒は幻視ノ剣は高々と上げる。俺とティエナはその剣を見上げると、その鏡のような剣に写りし風景は──、

「「あ!?」」

 その幻視ノ剣に写った風景は虚無の荒野に在らず! 鏡の剣身は真実を照らすように目には見えない森を写していたのだ!! この摩訶不思議の光景に一同はおのまなこを疑ったッッ!!

「なんで!? 目には映らないのに……! 森が見えるわ!」

「どうなってんだ……! あそこに森があるってのか!?」

「──行こう! おそらくあの森が隠された根城だ……!」


           ・


 勇み足である! 三人は駆けるように近付き、見えぬ森の入口正面に立っていた!


「な、なあ。ほんとにここに森があるんだよな? 俺には漠然とした荒野にしか見えねーんだが……」

「間違いない。この剣を見ろ、確かに目の前は森だ。すぐ横に広めな小道もあるじゃないか」

「信じられないわ……。この森はなんなの……?」

「行けばわかるさ。さ、二人は覚悟はいいかな?」

「……ここまで来てガッツ見せねえのは漢じゃあねーぜ……!」

「行きましょう。この先に拐われた人達がいるかも知れないわ!」

「よし! じゃあせーので入るか!」

 三人は横一列に並ぶと、右足を上げながら息を合わせる。

「「「せーの!!!!」」」

 右足が見えぬ森へと入った瞬間──世界が変わった。視界は森の木々に溢れ返り、今まで見ていた荒野はどこを見てもキレイさっぱり無くなっていたのだ。

「どおお!? なんじゃこりゃあ!?」

「森が……現れたわ……」

「何と、面妖な……。二人とも気をつけて行こう。何が起こるか分からないぞ」

 恐る恐る、森の中へと歩を進める俺達はいつになく、恐怖を感じていた。今までの敵とは違うどこか異質な、そして殺気にも似たどこか誘うような"気"がどこからか流れてくる。それは俺達が敵の罠にまんまと入りこんだ、まるで蜘蛛の巣に捕らわれた哀れな蝶のような──そんな気がしてたまらなかった。

「──あれは」

 歩いて十分ほどで、それは以外にもすぐに見えた。森の小道が大きく開けたかと思うと、目の前に大きな『館』が唐突に現れたのだ。

 その館は赤い屋根にレンガ造りのシンプルな城のような外観で、どこか暗く、人気の無いオドロオドロしい雰囲気を出しながら、手招きしてるかのようにその入口は半開きで俺達を迎えていた。

「……やべーな」

「ああ……やばいな」

「この館にいるの……?」

 三人はしばし呆然と立ち尽くす。

 ──俺は平手をパンッと、顔面に打ち付け気合いを入れた。

「行こうぜ! 拐われた奴がいるならよ、さっさと助けねーとな!」

「……ああ! そうだな! 必ず助けるぞ!」

「ちょっと怖いけど……。私、頑張るわ! 行きましょ!」


 俺達は勇気を振り絞り、その入口に手をかけた──が、


「待て」


 ──何者かが、後ろから俺達を呼び止めた。

 バッと、振り返ると、そこには目が痛くなるようなエメラルドの鎧を全身に纏った男と、その後ろには五人の王都の騎士が剣を構えてこちらを威嚇していた。

「なっ、王都の連中か──!? いつの間に!?」

「そんな……! 今まで誰もいなかったのに!」

「……どうやって跡をつけてきたんだ──」

 俺達は疑問を頭で整理するが追いつかない。エメラルドの鎧の騎士はこちらを凝視すると、

「『バッジョ』に『ディーノ』だな。逸脱の者を拉致し、逃亡を図った罪でお前達は指名手配されている。剣を置け、連行させてもらう。無論そこの逸脱もだ。──お前達は王都にて死をもって償ってもらう。五体満足で王都に行きたいなら大人しく連行されるんだな」

 冷静に、そして冷酷な声で死刑宣告をしてきた。

「野郎……俺達が大人しくするとでも思ってんのか──」

 俺は剣を構えようとする。

「暴れてもいいぞ。ただ──こいつがどうなってもよければだがな」

 後ろにいた騎士の一人が、縄に繋がれた見たことのある逸脱を前に突き出した。

「エリック!!」

「エリックさん!!」

「すまない……。情けないが捕まってしまった……。こいつらは最初からお前達を泳がせてたんだ……。ちくしょうめ……!」

 エリックはボロボロになった体を引きずりながら、声を震わせた。

「てんめえええええええ!!」

「駄目だ! バッジョ!! 抑えろ!! エリックさんがいるんだ! ここは動くな!!」

「そうよ! バッジョ! エリックさんが危険だわ! ここは言うこと聞いて!!」

 ディーノとティエナが力強く一喝する。俺は怒りを震わせながら剣の柄をガタガタといわせた。

「ふっ。どうやらそっちの青髪は幾分か利口なようだな。よし、この犯罪者共を縛り上げろ!」

 エメラルドの騎士が部下に命ずると、俺達はあっという間に縄で固く縛られた。

「くそったれえええ!! てめえ! 卑怯だぞ!! 勝負しやがれ!!」

「……一つ聞きたい。どうやって尾行した」

 怒り狂う俺に対し、相棒は冷静に相手に問いただす。

「お前達が気配感知に優れている剣士だと言うのは『コーリー』が教えてくれたからな。こちらも気配遮断の能力を使わせてもらったまでだ。死に行くお前達に特別サービスだ。おい、見せてやれ」

 エメラルドの騎士が部下の一人をアゴで使うと、そいつは透けるように急に姿を消した。

「!?」

「見たか。私の部下は全員逸脱でな。こいつは自身と触れた物を透明にする能力を持っている。これでお前達をずっと尾行していたんだ。私はお前達がその逸脱の女を連れて城から出るのを見ていたからな。他の逸脱も狩れると思い、ずっと泳がせていたんだ。気づかず旅をしていたお前達は実に滑稽だったぞ」
 
「──くっ……! 不覚……ッ!」

「そんな……。私達、ずっと見られてたなんて……」

 ギリリと歯を食い縛る。全てはこの男の手のひらだったと思うと、ハラワタが煮えくり返るようだ。

「……この森も、貴様らの仕業か」

「ふふふ。残念だが、この森は違う。私も流石に驚いたぞ。こんな所に森があるとはな。しかもここに誰もが探し求めた守護者ガーディアンがいるのかも知れないのだろう? お前達には感謝するぞ。この手柄は大きい……! 私が世界全土に轟く『雷光のジーダ』として高名になる最高の踏み台ではないか……!」

「『雷光のジーダ』!? そうか、お前が王都最強の剣士と言われたあのジーダか──!」

「ほう、嬉しいな。私の名は東大陸では名を馳せているようだな」

 エリックが言うと、ジーダは鎧をカタカタと言わせながら笑う。

「くそがッッ!! 最強ならその座をかけて勝負しやがれクソだせえ鎧野郎ッッ!!!!」

「野蛮だな……。知性の欠片も無い猿とは剣を交わる事は無い。もう一度来世で得を積んでから出直すんだな」

 ジーダは軽くあしらうと、館へと視線を向ける。

「これより我が隊は守護者ガーディアンがいると思われる館の攻略を開始する! ネスタン、テュレム、バレッジ、マテラットは私に続け! カーフ! お前はその犯罪者共を見張っていろ。私はものの小一時間で戻る。周囲の警戒もおこたるな!」

「「「「「は!!」」」」」

 ジーダは部下を引き連れ、ずかずかと館へと入っていった──。






しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした

藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると 土地を蝕む邪気となって現れる。 それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。 派手な奇跡は起こらない。 けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。 ――その役目を、誰一人として理解しないまま。 奇跡が少なくなった。 役に立たない聖女はいらない。 そう言われ、私は静かに国を追放された。 もう、祈る理由はない。 邪気を生み出す原因に目を向けず、 後始末だけを押し付ける国を守る理由も。 聖女がいなくなった国で、 少しずつ異変が起こり始める。 けれど彼らは、最後まで気づかなかった。 私がなぜ祈らなくなったのかを。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

盾の間違った使い方

KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。 まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。 マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。 しかし、当たった次の瞬間。 気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。 周囲は白骨死体だらけ。 慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。 仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。 ここは―― 多分、ボス部屋。 しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。 与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる 【異世界ショッピング】。 一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。 魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、 水一滴すら買えない。 ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。 そんな中、盾だけが違った。 傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。 両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。 盾で殴り 盾で守り 腹が減れば・・・盾で焼く。 フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。 ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。 ――そんなある日。 聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。 盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。 ​【AIの使用について】 本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。 主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。 ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

処理中です...