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~一章 野望の剣士編~
二十四話 帰らずの森
しおりを挟む「おいてめえ! 俺の仲間にこんな事しやがって絶対ぶっ飛ばしてやっからなコラ!!」
俺はぐるぐる巻きに木に縛られたまま、足をバタバタ動かし騒いだ。
「まだ自分の立場がわかってないようだな。お前達は貴重な逸脱を拉致した犯罪者だ。その減らず口を今すぐここで絶ってやろうか?」
縛られた俺達の見張りを頼まれた騎士は、極めて冷たい目で俺達を見下す。
「……あなたも逸脱でしょう? なんであんな奴の味方するのよ!」
「無礼者! 隊長はこの東大陸における最高の騎士だ! 私のようなろくでもない逸脱を拾ってくれた恩人でもある! 私達は決して力や権力の下に屈しているのでは無い! 自らの意志と、皇帝陛下とジーダ隊長の慈悲によって騎士を勤めさせてもらっているのだ!」
「……ふん。お前達は騙されているだけだ。あのセドフ王はお前達のような逸脱を利用して、他国に攻める算段を立ててるだけに過ぎん。何故それがわからぬか、愚か者が」
「……貴様~ッ! ここで死にたいか!?」
エリックが騎士に核心をついた真実を話すも、心の奥まで心酔している者には寝耳に水である。
「おっと、エリックさんもティエナも君達にとっては大事な逸脱なのだろう? 下手なマネをすると隊長殿に怒られるのでは?」
ディーノが正論の軽口をぶつける。
「──ちっ。二度は無いぞ。大人しく黙っているんだな」
騎士は舌打ちすると、少し離れた場所で俺達の見張りと周囲の警戒をこなし始めた。
「くそが!! あのだせえ鎧野郎……! 馬鹿にしやがってえ──ッ!」
「エリックさん。体は大丈夫ですか?」
「ああ、わしは心配するな……。少々殴られた程度だ。これくらい、平気だ……」
エリックはあきらかに辛そうなダメージを隠すように、強がった。
「ひどい……。エリックさんは子供の体なのに……! 許せないわ!」
「エリックさん。あの騎士達が何者かご存知なのですか?」
エリックを中心に木に縛られた四人は、見張りに届かない声で話しを進める。
「──あのエメラルドの鎧を着たあの男は、『雷光のジーダ』と呼ばれる凄腕の剣士だ。奴はセドフ王の甥に当たる存在でな、幼少の頃からその強さを発揮して、普通の人間でありながらこの東大陸にいる逸脱を何体も狩っていたらしい。奴の剣はまさに雷光の如しと言われ、目に見えぬ速さの技の切れと、雷のようにその身を舞わせ戦わせる事から、その二つ名がつけられたらしい。わしの知る限り──この東大陸最強の男と言っても過言では無い……」
「あの男、そんなに強い奴なの……!」
「……なるほど。ただ者ではないと思いましたが、かなりの実力者ですね……」
「けっ! 俺とディーノの方がつええわい!」
「バッジョ、お前も分かった筈だろ。あの男、かなりやばい奴だとな。今まであった逸脱よりも強敵であるのは間違いない。それに奴についている五人の逸脱の騎士も、ものすごい実力者だな、あれは。お前も肌で感じるのがわかるだろ」
「……わかってるぜ。わかってっから悔しいんだろーが……!」
その得体の知れぬ佇まいから、ジーダの隊の連中は全員恐ろしい程の実力者であるのが、剣士の直感でわかってしまった。認めたくないが今、見張りをしているあいつも相当な腕だろう。
「どーすんだ……! こんなとこで終われねーぞ……!」
「焦るなバッジョ。まだ何か方法がある筈だ……。しかし今は我慢だ、我慢するんだ……! 任せろ、俺が必ず皆を助け出す方法を考える──!」
ディーノは頭をフル回転させる。まずはこの縄をどうにかして──そして逃走経路、それをどこで、どうやって、どのタイミングで──。
「(あの男は小一時間で戻ると言ったな……。それまでが勝負か──)」
「──ディーノ、下手な考えはやめておけ。今は大人しくしていろ。わしにも考えがある」
横にいたエリックが、策を練るディーノにぼそりと一声かけた。
「しかし……」
「……まあ、待て。年寄りの言うことは聞くもんだぞ」
何かを悟る目でエリックは言うと、ちらりと服の間から光る物をディーノに見せた。
「! ──そうですね」
・
────遅い。
そんな時の流れを感じる頃、日は沈みかけていた。先のジーダの隊が館に入って軽く三時間は経っただろう。それなのに一向に戻ってくる気配が無いのだ。見張りもあきらかにそわついていて、何かの異常を感じていた。
「おいおいおいおい。おめーらの隊長よお、戻ってこねーじゃねーか」
「……う、うるさいぞ!」
見張りは動揺を隠せない様子でいた。恐らくこんな事は過去に一度も無かったのだろう。
「おい、そこの見張り。このまま夜を迎えるつもりか? こっちには女性もいるんだぞ。騎士として人道に反するとは思わないのか?」
「だまれ! もうすぐに隊は戻ってくる筈だ!」
「そうか──なら、早くしないとな」
ディーノはニヤリと笑いながら言うと、全員を縛り付ける縄をバラバラと解いた。
「な!? 貴様いつの間に!?」
「思ったよりも時間が掛かったから焦ったが、お前達の隊長が戻って来なくてラッキーだったわい」
エリックはどこからか隠し持っていた小型ナイフをギラリと輝かせながら言う。
「あとはてめえをぶっ飛ばすだけだ──礼はたっぷりさせてもらうぜええ!!」
俺とディーノは足元にある剣を取ると気合いを入れ、大きく構えた。
「──犯罪者め! ならばここで斬り捨ててくれる!!」
バンッッ!
見張りは剣を抜いて、こちらに駆けるようにその刃を振ろうとした刹那──館の扉が勢いよく開かれた。
館の中から出てきたのは、体の半分を透けさせた、透明の能力の持ち主である逸脱──ジーダ隊の騎士の一人であった。彼はよろよろとその身を左右に揺らしながら、命からがらの様子といった感じで、その血塗れの体を引きずるように出てきたのだ。
「──ネスタン!! どうした!? 何があった!」
「カ、カーフ……。隊長を……助けて……やって……く……れ……」
見張りがすぐさま駆け寄ると、その仲間の肩を抱いた。だが、血だらけの騎士はか細い声で最後の遺言を伝えると、がくりと息を引き取った──。
「なっ、ネスタン!! くそ──ッ! ……隊長が危ないだと……!?」
事切れた仲間の亡骸をそっと地面に置くと、見張りは俺達に一瞥もくれずに、館の中へと突撃するように走り去って行った──。
俺達はあ然とそれを見て、顔を見合わせると、
「──何が起こってるのか分からないが今がチャンスだ。バッジョ、ティエナ。急いでこの森を突破してエリックさんを安全な所まで連れて行くぞ」
ディーノは今できる最良の選択を言った。
「よくわかんねーがあいつ苦戦してるみたいだな……。ここで逃げるのもしゃくだぜ。あの野郎に一発かましてやりてえんだが、難しいか?」
「駄目よ! いつあいつらが戻って来るか分からないんだから、今はエリックさんを避難させるのが先よ!」
「安心しろ。奴が生きていれば俺達をまた追ってくるだろうから、その時にやればいいさ。それにこの場所も覚えた事だし、態勢を整えてまた来ればいい。今は一度引くことが優先だ」
「──しゃーねーな。この館も気になるけど、あいつらの援軍が来ても困るしな」
「すまないな……お前達。苦労をかける……」
ディーノはエリックを背負うと、来た道に向かって走り出す。俺とティエナは後方を気にしながらその後に続くように足を急かした。
──夕刻を過ぎようとしている。夜が深まる前にこの森を抜けて、そのまま近くの村へと避難しようかと思案する俺達。だが──走っても、走っても、森の出口が何故か見えて来ない。異常を感じたのか、先頭を走るディーノはその足を一旦止めた。
「……おかしい。森の入口からあの館までは、ほんの十分足らずの距離なのに──」
「行けども行けども同じような道だぜ……。なんだこりゃ、終わりが見えねーぞこの森! 道を間違えたか?」
「道は間違えて無いわ……。だってこの一本道しかないんだもの。間違えようが無いのに、どうして出口が見えないの──!?」
目の前の一本道は遠くを見ても、果てしなく続くような同じ景色で、両脇には木々が連なりを見せ、その変化の無い風景は同じところを行ったり来たりしてるような錯覚さえ憶える。
「これは……逸脱の能力だな。我々はまんまと敵の罠にかかってしまったらしいな」
エリックは呟く。
「──幻術、そういった類いの能力……。多分だがあの館にいる奴の能力だろう。まずいな……そいつを倒さない限り、我々がここから出ることは出来ない……!」
「ティエナ。君の能力でこの森の本当の出入口を見破る事はできないかい?」
「……駄目ね……。この森は間違いなく『本物』なのよ。今私達が走ってるこの道も『本物』であり、『嘘』ではないのよ」
「?? つまりどういう事なんだよ? じゃあ出口に行けるんじゃねーのか?」
「考えられるのは、私達自身が間違っているのよ。体感では真っ直ぐに進んでいる筈なのに、無意識に同じ所をぐるぐると回っている……。簡単に言えば術者の意志じゃなくて、私達自身が"勝手に森を右往左往して間違えてる"だけ──それが一番近い解答だと思う……」
「なんだよそりゃ!? じゃあどうやっても出られねーのか!」
「──出る方法はたった一つ。本体を倒す事だ。だが……」
ディーノは茶を濁すように言う。懸念すべきはあの館にいる何者が、とんでもない奴だということだ。ジーダの連れた逸脱の猛者を殺し、さらにはあの館から出てきた血塗れの逸脱の言葉通りならば、ジーダ本人も今危機的状況にいるのだろう。
このまま闇雲に出入口を探すのは愚策──しかして、敵の腹の中へと挑むのもまた命知らずの行動である。
「おい。ディーノ。迷ったら……だろ?」
俺が言うと、ディーノは迷いの晴れた顔をして剣を握った。
「そうだな、ああそうだったな。もう剣は道を示していたな。──行こう。あの館へと……!」
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