ガーデン・オブ・ガーディアン 〜Forbidden flower garden〜

サムソン・ライトブリッジ

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~一章 野望の剣士編~

二十八話 蠱惑の魔女アルラネルラ

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あまりにも強大な敵を倒し、精魂せいこんも尽きるほどに力を使い果たした二人は、満身創痍でその場にうなだれていた。

「とんでもねー野郎だったな──」

「……奇跡に近い勝利だ」

 息を切らしながら剣を杖にして、俺達は何とか立ち上がりながら言う。

「二人とも! 大丈夫!? とりあえず一旦、急いでここから出るわよ!」

 そう、油断は出来ないのだ。この館にはジーダ達を操った元凶がいる。今このままボロボロに傷ついた体で戦えば間違いなく終わるだろう。現状で出きる最良の選択はとりあえずこの館から離れる事だ。

 ティエナは俺達に回復効果のある『ミラの花』を原料にした塗り薬を、ダメージの深いところに急ぐよう大雑把おおざっぱに塗ると、出口に向かって俺達の手を引っ張った。

「いてててて! あんま強く引っ張んなよ! こっちは体中痛くて動けねぇんだ」

「我慢しなさい! 敵がきたらどうするのよ!?」

「──ティエナの言う通りだ。あの森からは出られないが、館からはとりあえず離れよう。まずは回復が最優先だ」

 激闘が繰り広げられた大ホールは所々が激しい攻防により、瓦礫に変わってしまっていた。それを横目に何とか足に鞭をいれて、よろよろと俺達は出口に向かおうとした──


「──あら、どこにいくつもり?」


 誰もいない筈の大ホールの奥から、女性の声が聞こえた。

「「誰だ!?」」

 今までまったく感じなかった気配に動揺するように、俺達は剣を構えて振り返る。

 何も無い空間が波紋のような歪みを見せると、虚空から出てくるかのようにその女は姿を現した──。

 スラリとした生足に、ピンクのレースのようなスカートをひらつかせる。細いウエストからは考えられない大きな胸は、紫とピンクの淫靡いんびな水着のような薄手の着衣で肌を露出させている。

 細い白魚のようなキレイな腕と、頭からはくしが引っ掛かる事の無いような美しい銀の髪が長々と垂れ、魔女御用達の少しへたれた三角帽を被った女性──。

 そんな男の理想像のような容姿のこの女性は、顔まで完璧である。俺達とそこまで変わらぬほどの若々しさで美しくもあり、可愛くもあるような最高の美女と言っていいだろう。

「誰だとは失礼ね。私の館をこんなに荒らして……。あなた達どこへ行こうと言うのかしら」

 俺達はその透き通るような声で言う彼女に、ただ呆気を取られ──いや、見惚れていたのかも知れない。

「バッジョ! ディーノ! 何ボーッとしてるのよ!!」

「──お、おう」

「──あ、ああ」

 ティエナが腕を引っ張ると、俺達は正気を取り戻したように気がついた。

「あなたは──『アルラネルラ』か……!?」

 ディーノが恐る恐る口に出す。未だ正体の見えぬこの女性は殺気が無い。それどころか気配すらも無かった。まるで絵画かいがから出てきたような美女──そんな不思議な存在に今まで感じたことの無い不気味さを俺達は感じていた。

「──私を知ってるのね。どこの誰が教えたのかは知らないけど、そうよ。私はアルラネルラ──『蠱惑の魔女』と呼ばれた守護者ガーディアンよ」

 一同は身を構えた──。この世界の誰もが知らない神秘、『禁断の花園』を守る伝説の守護者ガーディアン……! それが目の前にいるのだ。世界中の誰もが求め、その存在の有無すら不確かなものがこのまなこに写っているが信じられなかった。

守護者ガーディアン……! この姉ちゃんが──!」

「この人──嘘を言ってない……! 本当に本物……!」

「あら、あのエメラルドの彼……負けちゃったのね。結構強かったから"長く持つ"と思ったのに」

 驚愕する俺達をよそにアルラネルラは、壊れたオモチャを見るような目で倒れたジーダを一瞥した。

「……あなたがジーダを操っていたのですか」

「ジーダ? ああ、倒れてる彼のこと? そうよ。この館にずかずか入って来て私の下僕ペット達を全部殺すんですもの。だから操って新しい下僕ペットにしてあげたの。広い館だから番犬は必用でしょ? でもまた一からやり直しね。男を拐ってまた集めなきゃいけないわ」

「この人……何を言ってるの」

「まさか館の中で死んでいた人達は──」

「……拐った男を操って館の警護をさせていたんだな。だからジーダ達と戦って死んだ──そういうことか……!」

 この女は『悪』だ──。俺達は言葉と心でそれを理解する。事件解決のために倒さなくてはいけない存在。だが──

「バッジョ、ティエナ」

 ディーノは目で合図する。それは戦う意思ではなく、ここをどうにかして突破すること。現状、いま戦えば敗北は必至であろう。態勢を整えなければこの敵には勝てないことを、不本意ながらも三人は本能で理解していた。

「うふふ……。もしかして逃げようとしてるの? 駄目よ──」

「……っ!」

 アルラネルラは全てを見透かしたかのような目で俺達を見てくる。ディーノと俺は残りも無いような力で剣を握り、敵の挙動に注視する。

「あなた達は"私"を知ってしまった。私の館を、下僕ペットを壊してしまった。次はあなた達の番……さあ、"私"を見て。この眼を、胸を、あしを、私の全部を……」

 彼女の柔らかな声が俺達の全身を刺激するかのように、脳髄の奥深くまで届く。

 俺と相棒は彼女の吸い込まれるような瞳に心を揺らされ、その誘うような豊満な胸に癒しを感じ、なまめかしい脚に性的欲求を押さえられぬよう、興奮をしたかと思うと、握る剣を納めてふらりと、蠱惑的な彼女の元へと歩みを進める──。

「ちょっと! バッジョ!! ディーノ!! 何をしてるの!? そいつは敵よ!?」

 ティエナが二人の服を思い切り引くが、その歩みは止まらない。まるで心を失くした幽鬼ゆうきの如く二人は瞳から光を失くし、明かりを探し求める虫のように吸い込まれていくようだ。

「うふふふ。無駄よ。この体を見た男はみんな私のとりこ──。ちょっとやそっとじゃ正気は戻らないわ」

 アルラネルラはみだらに自分の体を撫で回しながら誘惑する。


「……どうやら嘘じゃ無いみたいね──。なら、ちょっとやそっとじゃ無い事ならどう!?」

 魔女の言う言葉の真偽を確かめるように、ティエナは片足を引いて、狙いを定める──


「正気に、戻れ!! 馬鹿!!」


 それはもっとも、最大限の荒療治とも言えよう。背後から振り子のように片足が風を切ると、二人の股間を順に思い切り蹴りあげた──!

 ドグッ


「ぐおおおおおおッッ!!」

「ぐううううううッッ!!」


 鈍い音がする。ティエナの足先が股間の柔らかいモノをえぐると、二人は苦悶の表情を走らせ、その場にバタリと倒れた。


「……酷いことするのね」

「これでどう!? 早く起きなさい!!」

 蠱惑の魔女は口に手を当て、悲しい目で見てきた。もだえるディーノと完全に意識を失った俺をティエナは叱責しっせきする。


「うう……ティエナ、ありがとう……! どうやら奴に意識を操作されてたみたいだ……」


 ディーノはぷるぷると震えながら立ち上がる。

「──! へえ……あなた精神力がかなり強いのね。──気に入ったわ。顔も私の好みだし、あなたを"お気に入り"にしてあげる」

 アルラネルラはどこからか取り出した銀の杖を握り、そのか細い腕を一振りすると、辺りの空間がぐにゃりと歪んだ。

「ティエナ!! バッジョを連れて逃げろ!!」

 ディーノは剣を構えて、ありったけの声で叫んだ。それはこれから起こる敵の攻撃が恐ろしいものだと察するかのように、選択を急ぐ──!

「何言ってるのよ! ディーノはどうするの!?」

「心配するな! 俺も必ずここから脱出してみせる!! 時間を稼ぐから早く逃げるんだ!! 早く!! 手遅れになる前にッ!!」

 ディーノは全力で本心をぶつけてくる。自分を信じ、仲間を信頼する、そんな曇りの無い彼の言葉がティエナの心に刺さる。

「──必ずよ!! 絶対に、絶対に帰ってくるのよ!!」

 ティエナは気絶した俺に肩を貸すと、引きずるように出口へと向かう。

「うふふ……。どうせこの森からは出られないのに──。まあいいわ。あなたを調教してあげる──少しは私を楽しませてね」

「こいっ!! このディーノ、悪に負ける剣は持ち合わせてはいないぞッッ!!」





──────────────────





「お、重い……!」

 華奢な体のティエナが俺を引きずる。装備も相まってか、この体重を運ぶのは一苦労だ。

 大ホールを離れ、館の出口へと向かう。後ろで響く剣が何かを弾く音、戦いの音が耳に嫌でも入ってくる。ティエナは涙を流しながら急いでその場を離れる。非力な自分では何もできない悔しさと、仲間を置いて離れる不甲斐なさからである。

 だが──それでもディーノの決意は無駄には出来ない。この行動は互いを信頼し合うからこその選択。それにあのディーノがやすやすと負ける事は無いと、強く信じる心がティエナの足を動かす。

 長い廊下を渡る──その時、

「嬢ちゃん!! いったいどうした!?」

 出口の方からエリックがあわてて走ってきた。

「エリックさん!! 説明は後!! すぐにここから離れましょう!!」

「わかった! わしも手伝うぞ!!」

 エリックはもう片方の俺の腕に肩を貸し、二人の小さな体が俺を引きずって館の外まで運び出した──。



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